【シャニマス】中年プロデューサーの華麗なる暗躍 作:黒胡椒サラミ
抱いてくださいと、自分からみっともなく陰平に懇願して、千雪は、己が彼の「女」になってしまったことを自覚した。千雪が抱いていた、伊庭に対する淡い恋心。それは、メスの自覚の前では無意味だった。千雪が心でどうこう思うより先に、千雪の肉体が、陰平と彼のチンポのことを、ご主人様だと認識してしまったのだ。
伊庭のほうが好青年で、見た目も年齢も千雪と釣り合っている。普通なら、伊庭と陰平を並べて、陰平を選ぶ女はいない。これは陰平に対する無礼でもなんでもなく、単なる事実だ。
しかしというか、つまりというか、結局のところ、自分も普通ではないのかもしれないと、諦め混じりに千雪は思った。私がイヤらしい女だから、淫乱だから、陰平さんに抱かれて、こんなに気持ち良くなってしまうのだと。
「どうだ千雪」
二人のセックスシーンを収めた映像を見せながら、陰平は千雪に囁いた。
ベッドの上で四つん這いにされ、堅肥りした中年男のグロテスクな太い肉棒に貫かれて、膣奥をドチュドチュと無遠慮に突かれるたびに、獣のようなヨガり声をあげる若い娘。全身汗だくになりながら、豊満な乳房を激しく前後に揺らし、涎を垂らしてイキ狂うメス犬。
「目を逸らすなよ? あれが、本当のお前だ」
理想的なプロポーション。淫靡な汗でテカる肌と、解けた髪。チンポを挿入される快感で、みっともなく歪んだ表情。どれもこれも、男を魅了してやまない。千雪の魅力を知れば、どんな男でも熱狂するに違いない。
「お前はアイドルになるために生まれて来たんだ。間違いない。お前は、最高のアイドルになれる。俺が、最高のアイドルにしてやるぞ。絶対に、絶対にだ」
狂気的な情熱の籠った、陰平の言葉。それも常人では理解しがたい。しかし、それを聞いた千雪は思う。この人が言うのなら、そうなのかもしれない、と。
――そう思った刹那、映像の中の千雪が絶頂した。
『イ、イク!!♡ イキますっ!!♡ イッグぅううううううっっ!!!!♡♡♡♡』
画面上の千雪は、はしたなく大声で叫び散らかして、全身をわななかせる。AV女優の演技とは違う、100%混じりっ気無しの本気絶頂。千切れそうなくらいシーツを握りしめて、舌をだらしなく垂らして、頭をガクガクと震わせるほどの快楽。
『出すぞっ!! 受け止めろ千雪!! おおおお!!!!』
『~~~~ぉっ♡♡ ~~っっっ♡♡♡♡』
そして、陰平による本気の膣内射精が始まる。彼は千雪の腰を掴み、黒光りする勃起ペニスを最奥までねじ込んで、そうするのが当然のように、千雪の子宮に種付けした。陰平の腰が小刻みに震え、中年男の汚い尻が締まり、金タマが動いて内部のザーメンを活発に送り出している。ぼびゅっ、ぼびゅるるっ、と、重たい射精音が聞こえてくる気がした。
画面の前の千雪は、死にたくなるくらいの羞恥で顔を赤く染めたまま、何も言わない。だが、この映像を撮られたときに胎内に感じていた熱さがリフレインして、彼女はつい、自分の下腹部を手のひらで押さえていた。
この映像の残り時間は、およそ5時間。このときの千雪は、朝まで陰平に犯され、嬲られ、蹂躙され、彼のメスアイドル候補生としての立場を分からされたのだ。
ここは、都内にあるラブホテルの一室だ。二人は今まで、そこのベッドに並んで腰かけ、自分たちの過去のハメ撮り映像を鑑賞していた。
先日の配置換えによって、陰平は、晴れてアルストロメリアの専属プロデューサーになった。そんな彼が、ここで千雪に対して行っているのは、他でもない。プロデューサーとしての、担当アイドルに対する大切な「レッスン《調教》」である。
千雪は既に陰平のモノだが、彼女はまだ、伊庭への想いを捨てきれていない。陰平に抱かれることにも素直になりきれていない。――つまり、陰平のアイドルとしての自覚が足りないのだ。大切なデビューを控えているのに、このままではいけない。だからこそのレッスンだ。
「ふ~っ♡ ふ~っ♡ ふ~っ♡」
この荒い呼吸音は、現実世界の千雪のものだ。彼女は自分が中年男の肉棒にハメられヨガる映像を見せられながら、その中年のゴツゴツした掌で、豊満な胸を弄ばれていた。陰平の指は、焦らすような動きで、千雪のツボを的確に刺激しつつも、決して本気で快感を与えようとはしてくれない。
千雪の胸の奥に、重たい泥のようなもどかしさが溜まっていく。
その気になれば、陰平さんは、私を胸だけでイカせることだって簡単なのに。彼が私をそんな風に躾けたのに、どうして? どうしてイカせてくれないの? ——そんな悶々とした思考と共に、思春期の男子中学生顔負けの性欲が、千雪の身体を熱く熱く火照らせる。
「千雪」
「っ――!!」
おもむろに、陰平が動画を止めた。彼の声に反応し、千雪の身体がビクっと震える。
陰平は、ベッドに腰掛けたままうつむいている千雪の隣で、圧を込めた声で、もう一度彼女の名前を呼ぶ。
「千雪」
「……はい、陰平さん」
千雪は恐る恐る立ち上がり、かと思うと、床の赤いカーペットに膝をつく。そして、日本古来の貞淑な妻が――あるいは高級ソープの風俗嬢がそうするように、三つ指をついて、後頭部が見えるくらい深々と頭を下げた。
「お願いします。いやらしい桑山千雪を、今日も抱いてください。お願い……いたします」
「…………ふぅ~」
「——!!!!」
陰平は、期待を裏切られたとでも言いたげに、大きなため息をついた。
まるで演技がなっていない。台詞もどこか投げやりで、本気の感情が籠っていない。そう言われたような気がして、千雪は大きく震えた。そのとき、彼女の深層意識に芽生えたのは、陰平に失望されたくないという、一種の恐怖心だった。
(な、なんで? 陰平さんに嫌われたくないだなんて……私、どうしちゃったの?)
困惑しつつも、千雪の身体は勝手に動き、ご主人様に対して失礼にならないよう、より深々と頭を下げる。土下座としか表現できない格好をさせられて、恥辱のあまり死にたくなる。しかし同時に千雪の子宮は、甘く切なく疼き、早くおチンポが欲しいと、物欲しそうに涎を垂らし始めていた。
「お願いします。千雪は、陰平さんのおチンチンが忘れられなくて、毎晩一人で発情している、淫乱女です。どうか……どうかセックスしてください。私のアソコを使って、気持ち良くなってください」
「…………ダメだな。大根役者にもほどがある」
ベッドに腰掛け腕組をする陰平は、巨匠と呼ばれる映画監督のように、千雪の演技に無慈悲にダメ出しした。
「男への媚び方が、まるでなってない。ひょっとして、まだお上品に振舞おうと思ってるのか? 仮に伊庭の前でも、お前はそんな風に誘うのか?」
「そ、そんな、酷い——! ——っっ!?」
余りの暴言を投げつけられて、千雪が抗議しようと顔を上げた瞬間、陰平と目が合った。ご主人様は不機嫌だ。私がご機嫌を損ねてしまった。それを悟った彼女は途端に委縮して、口から謝罪の言葉を迸らせる。
「ご、ごめんなさ——」
「いや、謝らなくていい。……俺のほうが言い過ぎたよ。まだ千雪は初心者なのに」
さっきまでの威圧的な空気が嘘のように思える、包み込むような優しい声。これを意図的に使い分けているとしたら、千雪の演技力に問題があるのではなく、陰平のほうが名優なのだと言うべきだろう。
そして、彼はまさしく名優だった。千雪を理想のトップアイドルに育て上げるためなら、どんな振る舞いでも躊躇わない名悪役だ。
「顔を上げてくれ、千雪。これからゆっくり勉強していこう。お前ならできる」
「は、はい、陰平さん」
「怖がらせてすまなかったな」
「いえ、大丈夫……私は大丈夫です」
陰平の低い声は、暖かく、どこか懐かしささえ覚える父性のようなものまで籠っていて、千雪はあっさり騙されてしまう。——もしくは、心の奥で騙されたいと思っている千雪の心理を、的確に利用しているだけなのかもしれないが。
「私がいけないんです。私がちゃんとできないのが。私が——」
どちらにしても、千雪は陰平の手管によって、自らの意思でそんな台詞を口にしてしまう。
陰平さんは、確かに私に酷いことをする。でも、それは私を想ってのことなのは間違いない。陰平さんの私に対する情熱だけは、痛いくらいにわかるから。だから、その期待に応えられない自分が悪い。きっとそうなんだ。
「陰平さんは悪くありません。私が悪いんです」
——あれ? でも、本当にそうなの? 私が悪いの?
「陰平さんが、こんなに私に期待してくださってるのに、ちゃんとできない私が」
——そう、そうよね。私が悪いのよね。
「ごめんなさい陰平さん。……ごめんなさい」
「いいんだ、千雪」
「あっ……」
床の上で謝罪を繰り返す千雪の傍に、陰平が降りてくる。彼に力強く抱きしめられて、千雪の心臓がトクンと高鳴った。こんな冴えないおじさんにときめくなんてどうかしているんじゃないの? ——そういう気持ちは、一瞬だけ湧き出て、あっという間に掻き消えた。
陰平にガッシリと抱き締められ、耳元で肯定の言葉を囁かれるのは、それほどに心地よい。
「陰平さん……」
彼に与えられる感情の起伏が激し過ぎて、千雪は完全に正常な判断能力を失っていた。陰平に言われた手酷い言葉も、千雪が心の中で葛藤していた経緯も消え失せて、残るのは、千雪が胸を高鳴らせながら、彼の胸にしなだれかかっているという事実だけだ。
太って見えるが意外に引き締まった胸の奥から、ドクンドクンという力強い鼓動が聞こえる。千雪は陰平の名前を呟きつつ、恍惚とした表情で、彼の胸板にすりすりと頬を擦り付けた。
「疲れただろうから、今日のレッスンはここまでにしようか」
「はい、陰平さん……」
その陰平の言葉を聞き、彼の許しを得られたと知って、千雪はほっとする。その瞬間に、彼女の心に浮かび上がっていたのは、「これでようやくセックスしてもらえる」「陰平さんにおチンポしてもらえる」という、期待に満ちた喜びだった。
(キス……キスしたい……陰平さんとキスしたいな……。おチンチンも舐めたい……。私の舌でおチンチン硬くしてもらって、アソコの奥まで挿入して欲しい……。ずんずん……ずぼずぼって……なんどもなんども、突き上げて欲しい……)
スイッチが入った千雪の頭が、みるみるうちにチンポ一色に染まっていく。
きっとこれから一晩中犯される。イってもイっても許してもらえず、あのハメ撮り映像を撮影したときのように、激しく乱暴に壊してもらえるに違いない。何も取り繕わずに、自分に正直になって、ケダモノのように泣き叫びながら、気持ち良くなってさえいればいい。
(おチンポ……♡ 陰平さん……♡ 千雪にあなたのおチンポください……♡ 早く、早く……♡ ああ……♡ 凄い匂い……♡)
千雪は鼻の下を伸ばして、陰平が全身から漂わせる、濃すぎる雄臭を嗅ぎながら、心の中でほくそ笑んだ。
そうだ、この人だって、私を抱きたいに決まっている。内心では、私を犯したくて犯したくてしょうがないんだ。——それは、自分の身体がオスの目線でどれほどスケベに映るかを自覚しはじめたメスの、ある意味で傲慢な思考だった。
だが、しょせんは小娘に過ぎない千雪の考えなど、陰平にはお見通しだった。彼は千雪の身体を自分の胸から引きはがすと、優しく微笑みながら言った。
「じゃあ、今日はもう帰るか」
「えっ……」
「あまり遅くなったら、寮の奴らが心配するだろう? 急げばまだ夕飯に間にあうしな」
「あ、えっと、はい、そうですけど……。え……?」
陰平の口から出てきたのは、まるで伊庭が言いそうな台詞だった。千雪が何を期待しているのかを読み取らず、徹底して彼女を失望させてきた、顔と性格だけは良いイケメンの台詞だ。
しかし、陰平は伊庭と違い、的外れな勘違いでその台詞を口にしているのではない。
(あっ……もしかして……)
——もっと上手に、心の底から媚びなければ、自分は彼に抱いてもらえない。
陰平の言葉の裏に隠された意図に気付いた千雪の背中を、何かがゾクゾクと走り抜ける。それは、目の前の男にいいように弄ばれることに対する悪寒のようでいて、甘い被虐の悦びのようでもあった。
「どうした千雪。早く帰ろう」
「は、はい……でも……」
「どうした?」
「な、なんでもありません」
陰平は、この犯されたがりのメスに対する特大の欲望を見事に抑え込んで、紳士的に千雪の手を引き、彼女をラブホテルの外に導いた。
車に乗り込むと、陰平は、まるでそれまでのことが嘘だったかのように、アイドル桑山千雪の献身的なプロデューサーとして、これからのレッスンや仕事の展望について彼女に語り、誠意ある言葉で励ました。
「一緒に頑張ろう。最初のステージは小さいかもしれないが、千雪たちなら、すぐに大きな舞台に立てるさ」
この言葉には、一片の偽りも含まれていない。だからこそ、千雪は陰平の本当の恐ろしさを知った気がした。そんな彼に抱いてもらえなかったことで、物凄く期待を裏切られた気持ちになっている自分のことも怖くなった。
「あ、あの、陰平さん」
すみませんでした。謝りますからもう一度チャンスをください。このまま道路脇に車を停めて——なんならそのあたりの公園のトイレででもいいですから抱いてください。強引にレイプしてください。私の濡れ濡れの卑しいおマンコに、あなたの素敵で逞しいおチンポを恵んでください。何度も何度も、そう口にしかけた。
「どうした? 千雪」
「い、いえ、なんでも——」
しかし、最後の最後、千雪は踏み出せなかった。僅かに残った千雪の理性と尊厳が、陰平という悪魔の奴隷に堕ちることを拒否していたのだ。——堕ちたほうが、ずっと幸せになれるということを知りながら。
そして、そうこうしているうちに、陰平の運転する車は、寮の前に到着した。悶々ともどかしさを抱えた千雪が、チラチラと陰平の胸板や股間のあたりに目をやりながら玄関をくぐると、そこには意外な人物が立っていた。
「あ、千雪さん……」
「え……甜花ちゃん?」
その人物とは、千雪と同じユニットに所属する双子姉妹の姉のほう、大崎甜花だった。ラフな部屋着姿の甜花は、まるで千雪たちの帰りを待っていたかのように、玄関のところに立っていたのだ。
見たところ、甘奈が一緒にいる気配はない。実家暮らしのあなたがどうしてここに、と問いかけて、千雪は気付いた。
「にへへ……お帰りなさい、プロデューサーさん」
「ああ、ただいま、甜花」
甜花が陰平に対して向けた、ふにゃふにゃに蕩けたような笑顔。千雪は気づいた。この少女が待っていて、一番に「おかえりなさい」を言おうとしていた相手が、千雪ではなく、千雪の後ろにいる、プロデューサーの陰平なのだということに。
「プロデューサーさん……荷物、重たくない? 甜花が、持ってあげるよ?」
「お、そうか? じゃあ持ってもらうかな」
「うん……!」
陰平は、千雪の目にはそんなに重そうに見えないブリーフケースを、甜花に手渡した。甜花はそれを大事そうに抱え込むと、何かを期待するようなドヤ顔をする。
「ふう~、重かった。手が千切れるかと思ったぜ。ありがとうな、甜花。甜花は細かいことに気が付いて偉いなぁ」
「にへへ……。うん、甜花、偉い……」
陰平に褒められたことがそんなに嬉しいのか、甜花はくすぐったそうに目を細め、頬を赤らめる。千雪は、甜花の恥じらいの表情の中に込められた感情に心当たりがあったが、にわかにはそれを信じることができなかった。
「あのね、プロデューサーさん……。今日はね……甜花もお夕飯作るの、手伝ったんだよ……?」
「そうだったのか。なら、なおさら早く帰ってきてよかったな。——なあ、千雪?」
「は、はい、そうですね、陰平さん。……えっと、甜花ちゃん?」
「……? なぁに、千雪さん」
甜花は当たり前のような顔をしているが、千雪には、甜花がごく自然な動作で陰平の腕にしがみついたのが、気になって仕方なかった。まるで、幼い子どもが無邪気に父親に甘えるような仕草ではあったけれども、甜花は高校生だし、陰平も彼女の父親ではないのだ。いかに甜花がそういうことに無頓着だとは言え、年頃の少女が、緩い部屋着でいつもより強調された胸の膨らみを、陰平のような「おじさん」の腕に押し付けるような真似をするのは、どう考えても普通ではない。
——そう、私は甜花ちゃんよりもお姉さんなんだから、普通でないことは注意しなきゃ。千雪はそう考えて、口を開いた。
「あのね、陰平さんが困ってるみたいだから、そんな風にくっつくのは——」
「え……プロデューサーさん……甜花にくっつかれて、困ってるの?」
「いや、全然困らないぞ? 俺はお前のプロデューサーだからな。くっつきたいときは、いつでもくっついていいんだ」
「そうだよね……? にへへ……」
「——っ」
——どうして?
「プロデューサーさん……。今日は、ゲーム配信する日だよ……? 甜花、一人でもできるけど、帰ってきたなら……」
「わかってるさ。撮影を手伝えばいいんだろ? 俺に任せとけ」
「うん……!」
——どうして陰平さんは、甜花ちゃんには優しいの?
——甜花ちゃんには、あんなに優しく声をかけて、たくさん褒めてあげるの?
——私には、あんな意地悪に「おあずけ」したくせに……。
「千雪さん……?」
「…………」
「ねえ、千雪さん……?」
「…………え? あ、えっと、ち、違うの甜花ちゃん」
「……? なにが?」
甜花に繰り返し名前を呼ばれて、千雪はようやく我に返った。千雪は、きょとんとした顔で自分を見つめてくる甜花の目を、正面から見ることができなかった。
千雪には、甜花がこれほど無条件に陰平のことを慕っているのが信じられなかったし、そんな甜花のことを、醜い情念の籠った暗い視線で見ている自分のことも信じられなかった。
(……変よ。絶対に変。それじゃあ私、まるで甜花ちゃんに——)
嫉妬でもしているようではないか。そんなことはあり得ない。
「ううん、何も無いの。ほんとよ、甜花ちゃん。それより、もう遅いのに、これからプロデューサーさんとお仕事なのね? 偉いなー」
気付けば、千雪は仮面を被っていた。アルストロメリアのお姉さん、年下アイドルの面倒を見られるしっかり者の桑山千雪。そういう仮面だ。
陰平が、そんな千雪を無言で見つめている。その視線が冷たくて、まるで、正直になれない自分のことを彼に軽蔑されているようで、千雪は取り繕った笑顔を浮かべながら、とても不安になっていた。
その後、仕事で不在の恋鐘と咲耶を除く寮生に、陰平と甜花を交えたささやかな夕食会が営まれた。皆の笑顔に囲まれながら、千雪は自分だけが取り残されているような気持ちを抱えながら、やはりチラチラと陰平の顔や身体を盗み見しつつ、味も何もよくわからない食事をしていた。
「それでは……甜花さん……凛世は、お先に休ませていただきます……」
「うん、杜野さん……お休みなさい」
「じゃあまた明日な、甜花」
「う、うん、西城さんも……」
「オッサンも、あんま甜花を遅くまでこき使うんじゃねーぞ?」
「善処するよ、樹里」
樹里と凛世が自室に引き上げ、甜花と陰平は、二人でゲストルームに消えていった。ネット配信用の設備を整えたそこで、甜花は定期的に、顔売りを兼ねた動画配信を行っているのだ。
(あの人と……甜花ちゃんが……二人で……。あの部屋の中で……二人きりで……)
自分の部屋に戻った千雪の心は、酷くざわついていた。
今ごろ、甜花と陰平は、ゲストルームで動画の配信を始めているはずだ。見ようと思えば、それは千雪にも見ることができる。しかし、甜花が楽しそうにゲームのプレイ動画を配信しながら、陰平に思いっきり褒められているのを想像すると、動画を見る気にはなれなかった。
(どうして……? どうして甜花ちゃんだけ……)
あのときもっと素直になっていれば、今頃は自分が、陰平の大きな身体に抱かれて、女としての悦びを思うさま味わっていたはずなのに。ベッドに独りで座っていると、解消できなかった肉体の疼きが、思い出したようにムラムラと込み上がってくる。陰平の声、陰平の手、陰平の身体、陰平の匂い、そして、陰平の太い肉棒。それらが頭の中を埋め尽くし、居ても立っても居られなくなる。
「…………」
時計の音だけがコチコチと鳴る深夜——もうすでに、甜花の動画配信すら、とっくに終わってしまった時間だ。そんな時刻に、千雪は思いつめた表情で立ち上がった。
部屋を出ると、千雪は足音を立てずに、暗い廊下をゆっくりと歩いた。彼女が目指す先は、甜花と陰平が使用していたゲストルームだ。そこに行けば「何か」があると、女の勘のようなもので、彼女は確信していた。
(——あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ ほっ♡ お~~っ♡ お~~っ♡)
暗闇の中からほんのかすかに聞こえてくるのは、凄まじい快楽にヨガり狂うメスの声だった。
(あっ♡ うゆうう~~~っ♡♡ おっ♡ おっ♡ おっ♡)
千雪はゲストルームの前に立つと、閉じたドアにそっと耳をあてる。
(にへ、にへへ……♡ 甜花、イっちゃった……♡ プロデューサーさん……♡ もっとなでなでして……♡ あうう……♡♡ ま、またイっちゃうかも……♡♡ にへへ……♡ プロデューサーさん、エッチするの気持ちいいね……♡)
——やっぱり、そうだったんだ。
その声を聴いた瞬間、千雪は確信した。中から聞こえてくるのは甜花の声だけで、陰平の声は聞こえない。無論、音声だけで映像などを見ることはできない。しかし、それだけで十分だった。
——陰平さんは、甜花ちゃんとも……。
あの甜花をメスにしている相手が、他ならぬ陰平であることを、千雪は知っていた。甜花が陰平の前で見せていたのは、紛れもなく彼女の「オンナ」の顔だったのだから、それを知ることはたやすかった。
なぜならば、千雪自身もまた、陰平に「オンナ」にされた一人だからだ。
——ずるい。
部屋の中から聞こえてくるのは、とても幸せそうな甜花のイキ声だ。今ごろ彼女は、陰平の肉棒によって膣奥まで串刺しにされて、意識が飛びそうになるくらいの快楽を味わっているのだろう。
——ずるい。甜花ちゃんだけ、ずるい。
陰平が自分以外にも、それもよりによって、千雪も可愛がっている年下の未成年アイドルに手を出していたと知ったとき、千雪は激しく憤った。しかしそれは、陰平の悪行に憤ったのではない。
——その人は、私のものなのに。
——私だって、その人のものなのに。
千雪は、自分の男に手を出した、甜花のほうに憤っていたのだ。
——羨ましい。甜花ちゃんが羨ましい。
扉の向こうからは、中年プロデューサーに激しく犯してもらって、理性を投げ捨てたケダモノのように喘ぐ甜花の声が聞こえてくる。
暗い廊下にへたり込んだ千雪は、ドアに耳を当てたまま、陰平に抱かれたときのことを思い出して、自分の股間を激しくまさぐっていた。