【シャニマス】中年プロデューサーの華麗なる暗躍 作:黒胡椒サラミ
「プロデューサー、これ、うちが作った差し入ればい」
恋鐘がプロデューサーと呼ぶ相手は、一人しかいない。そして彼女が恋をし、頬を染めて手作りの差し入れを手渡そうとする相手も、一人しかいない。
「……いいのか? ありがとう、恋鐘」
伊庭は好青年らしい笑顔を浮かべ、恋鐘の差し出した、可愛らしい布巾に包まれた弁当を受け取った。
恋鐘が伊庭に異性としての好意を抱いていることなど、これだけではっきりと分かりそうなものである。だが樹里によれば、伊庭がそれに気付く様子は全く無いのだという。
――アイツは、ちょっと鈍感だからさ。
と樹里は言っていたが、鈍いにもほどがあろうと言うものだ。恋鐘は抜群の容姿とスタイルを持つ娘だ。普通の男ならば、恋鐘にその気が無くとも、彼女に笑いかけられただけであらぬ勘違いをするに違いない。そんな娘から明らかなラブ光線を浴びせられても気付かないとは、あのイケメンはどれだけ朴念仁なのか。それとも、それほどまでに女に困っていないのだろうか。
しかし案外、伊庭は恋鐘の好意に気付いていて、それでもなお知らぬ振りをしているのかもしれない。プロデューサーとして、社会人として、未成年のアイドルと接する際に、それは通常の対応だ。スキャンダルこそ、アイドルが何よりも恐れるべきものなのだから。
「うん。プロデューサーも知っとーやろうけど、うちの料理は絶品やからね。ほっぺたが落ちんように気を付けて?」
「ははは、そうだな」
その辺の真実は、後で伊庭に直接尋ねれば分かるだろう。それよりもこの茶番はいつ終わるのかと、恋鐘と伊庭、二人だけの空間を見つめる陰平は思った。
彼らがいるのは283プロの会議室だ。今日は陰平、伊庭、恋鐘の三人で週一で行う事に決めた、恋鐘のプロデュースの進捗状況を確認する情報交換会の日である。陰平は恋鐘の臨時プロデューサーになったが、本当のプロデューサーはあくまで伊庭だ。陰平以外は、恋鐘も社長もそう思っているから、そこはその通りにしておかなければならない。
「でも、俺に差し入れなんか作ってていいのか? ……忙しいんだろう?」
「だって、プロデューサーのためやから……」
恋鐘は陰平も会議室にいる事を忘れたように、伊庭の隣に座って伊庭を見つめ、伊庭のほうに体を傾けている。同じ事務所で働いているのだから完全に会えないという訳でもあるまいに、一週間に一度しかこうしてまともに話す機会がないからと、恋鐘はまるで、一年ぶりに彦星に逢う織姫のように張り切って差し入れを用意していた。
「んんっ」
放っておいたら何時までも続きそうなので、陰平は小さく咳ばらいをした。
「あ、す、すいません。それで陰平さん、恋鐘の仕事はどうですか?」
弁当の包みをテーブルに置くと、伊庭は恋鐘から陰平に向き直った。まだ話し足りなかったのか、恋鐘の表情が曇る。
「順調ですよ、伊庭君。先週はイルミネのミニライブにゲスト出演してもらったけど、お陰で歌もMCも盛り上がりました」
「そうですか……ありがとうございます。良かったな、恋鐘。イルミネの子たちとは、仲良くやれたか?」
「う、うん。バッチリ……」
「灯織があがってしまったのを、良くサポートしてくれました。物怖じしないのが、月岡さんの強味ですね」
「そうですか……ありがとうございます」
まるで、学校で保護者を混ぜた三者面談でもやっているようなやり取りだ。いや、この場合、他所の家にもらわれていった子どもと、その様子を聞く若い父親とでも言ったらいいのか。
(ふむ。恋鐘が伊庭にガチ恋しているのは事実のようだが……)
気持ち悪い愛想笑いを浮かべ、伊庭に恋鐘の最近の仕事について説明しながら、陰平はしっかり伊庭と恋鐘を観察している。どうやら、現時点での伊庭の恋鐘に対する感情は、恋愛感情ではなく庇護欲のほうが表に強く表れているように見える。まずはアイドルとしての恋鐘の将来を、何よりも大事に考えているという感じだ。それはそれで、プロデューサーとしては正しい資質だが――
「これからも、恋鐘をよろしくお願いします。陰平さん」
そういう台詞を平気で言ってしまえるのは問題だ。その台詞を聞いて、恋鐘の表情がさらに曇った事にも気付いていない。
アイドル活動が軌道に乗れば、伊庭のプロデュースの下に戻れるというのが、今の恋鐘の大きな原動力になっているのだ。その彼女の前で、そういう事は言ってはならない。しかもそれを言った時、伊庭は本当に嬉しそうな表情をしていた。例え彼が、恋鐘の成功を純粋に喜んでいるだけなのだとしても、恋鐘がそう受け取るかは分からないだろう。
「伊庭君のほうは、どうですか? アンティーカの他のメンバーと、放クラのほうは」
「そっちは、まあまあ順調です。実は……」
「放クラが、結構大きなオーディションに通ったそうですね。社長が言ってました。伊庭君のプロデュースの成果ですね」
「あ、ありがとうございます!」
伊庭は陰平に褒められて喜んでいるが、対照的に、恋鐘は曇りを通り越して、雨が降り出しそうな表情をしている。自分を他のプロデューサーに預けたくせに、他のアイドルのプロデュースがどうこうという話など、彼女にとっては耳をふさぎたい気分だろう。
それを分かっていながら、陰平はその話題を続けた。
「白瀬さんから話を聞きましたが、彼女のソロ活動も、上手くいってるそうじゃないですか」
「咲耶が? ああ、陰平さんは寮監にされちゃったんでしたっけ。お疲れ様です。はづきさんも、相変わらず無茶な事しますよね……。ええ、はい。咲耶はもともと女の子のファンが多いので、そっちのほうで。例えば、女子高の学園祭とか」
「今日はこの後、白瀬さんと?」
「いや、霧子の付き添いです。ラジオ番組の仕事をもらって」
「ああ、幽谷さん。彼女は独特の喋りをしますから、声の仕事は逆に向いているのかな……」
「そうなんですよ」
そんな調子で、陰平は伊庭がプロデュースするアイドルたちの名前を出していき、その現状を確認した。どうやら伊庭の言う通り、そこそこ上手くいっているようだ。あくまで、そこそこではあるが。伊庭自身も、恋鐘についての相談を陰平にしてきた時よりも、ずっと解放された表情をしている。
「…………」
恋鐘は無言でうつむいたままだ。陰平は恋鐘をプロデュースするようになってから、伊庭が今挙げた仕事よりも、ずっと華やかで実になる仕事を彼女に与えてきたつもりだが、与えるのが陰平では駄目だという事だろう。小さな仕事で伊庭に褒められる方が、恋する乙女にとってはずっと嬉しいのだ。
まあ、分かっていた事である。一通り聞きたいことを聞くと、陰平は切り口上になった。
「それじゃあ、伊庭君も忙しいだろうし、そろそろお互いの仕事に戻りましょうか」
「あ、そうですね。じゃあ恋鐘、また」
「う、うん、プロデューサー……」
「差し入れ、ありがとうな」
「あ……、う、うん!」
伊庭の「ありがとう」が、ハイライトの消えていた恋鐘の瞳を、かろうじて蘇らせた。
――――――――――
「幽谷さん」
情報交換会が終わると、今日の現場に向かう前に、恋鐘はトイレに行ってしまった。単純にもよおしたのかもしれないが、案外、誰も居ない場所で泣こうと思ったのかもしれない。
とにかくそれで、恋鐘がくるまで陰平は手持無沙汰になった。事務所の外、入り口の階段の前で恋鐘を待っていると、そこにアンティーカのメンバーである、幽谷霧子が通りかかった。今日の伊庭は、霧子の付き添いがあると言っていた。彼女は今、283プロに出勤してきたようだった。
「…………あ……」
「こんにちは、幽谷さん」
「……こんにちは……」
驚くほどに肌の白い、不思議な雰囲気をまとった美少女が、陰平にほのかな微笑みを見せる。
「幽谷さんは、これからラジオの仕事だそうですね」
「はい……プロデューサーさんと……一緒に……」
「そうですか、頑張って下さい」
「はい……」
霧子はまた微笑む。そよ風でさらりと揺れた前髪の隙間から、額に貼られた白いガーゼが見えた。
「…………」
「…………」
それで会話は終わったはずだが、霧子は立ち止まったまま、その場から動こうとしない。陰平も、特に彼女に言う言葉は持っていなかったので、奇妙な無言の空気が流れた。
(う~む。相変わらず何がしたいんだ? この娘は)
霧子の視線を横顔に感じながら、陰平は困惑した。幽谷霧子は個性派揃いのアンティーカの中でも、群を抜いて特異な存在である。美少女であることに間違いはないが、ふわふわしているというか、気配が微かというか、表現しにくい空気を纏っている少女なのだ。
言動も不可解で、そこらのキャラを演じている不思議ちゃんとは一線を画している。あまりに思考が読めないので、陰平はこの娘の事が少々苦手であった。
(でも伊庭は、この娘とも普通にコミュニケーションできるんだよなぁ……)
その点においては、陰平は伊庭の事を素直に認めていた。
たまに横目で様子をうかがうと、やはり霧子は陰平の顔をじっと見つめている。
「恋鐘ちゃん……」
「ん?」
「恋鐘ちゃんは……元気ですか……?」
「あ、ああ、元気だよ。月岡さんも、これから仕事だ」
「…………」
霧子は微笑みを消した。まだ何か言うのかと思ったが、彼女はそれで、陰平の前を通って事務所の階段を上って行った。
「待たせてごめんたい、陰平さん!」
霧子が去ってからしばらくして、恋鐘が下に降りてきた。彼女の顔に、会議室に居た時のような曇りは残っていない。
「さあ、今日もば~りばり働くけんね!」
だが、胸を張って言ったその台詞が強がりだと分かるくらいには、恋鐘は霧子よりも遥かに分かりやすい。
「皆に負けていられんけん、うちも頑張らんと! 陰平さん、どんなお仕事でもやるけん、何でも言って!」
その空元気は、むしろ痛々しいほどである。陰平は腕を組んで眉をひそめた。精神的な責めが効いているのは好都合だが、アイドルとしての仕事に支障が出るようなら、それについてもやり方を考えなければならない。そんな風に恋鐘を観察していると、陰平は、彼女が右手に何かを握り締めているのに気が付いた。
「月岡さん、それは……?」
「あ、これ? 入口んところで、霧子にもろうたんばい。お守り……だって」
「……ほう。お守り、ねぇ」
恋鐘が陰平に見せたのは、手作りらしい、赤と青の毛糸の小さなぽんぽんだ。
(幽谷霧子か……)
あるいは、警戒するべき人物なのかもしれない。そのお守りを見て、陰平はそう思った。
―――――――――――
『うっ、く、ひぐっ。プロデューサー……、どうして……? どうして……?』
夜、寮監室でヘッドホンから聞こえる泣き声に耳を傾けながら、陰平は、やはりやり過ぎたのかもしれないと、こめかみを押さえていた。
陰平が聞いているのは、寮の恋鐘の室内の音声である。ちゃっかりとしている彼は、既に寮内の主要な場所に盗聴器を仕掛け終わっていた。それはもちろん、ここに住むアイドルたちをメス調教するのに役立てるためだ。その目的に従って、彼は今日の仕事から帰ると、盗聴器の管理ソフトのチャンネルを、今のメインターゲットである恋鐘の部屋に合わせた。そこから聞こえてきたのが、この悲壮なすすり泣きである。
『どうしてうちだけ? うちの、うちの何がダメと? うち、プロデューサーの言う通りに頑張っとーのに』
声がくぐもって聞き取り辛いのは、枕か何かに顔を埋めているからだろうか。
今日の恋鐘は、仕事先ではいつも以上に頑張っていた。午前は前に通行人役をもらったドラマの収録で、一言だけだが台詞を言わせてもらえたと、非常に喜んでいた。午後は地元長崎のアンテナショップで、地元銘菓を宣伝する大使に任命されて、とても張り切っていた。
彼女はアイドルとしての輝きを発揮して、しっかりと仕事をこなしていたかに見えた。だが、帰ってみればこの通りだ。
少々「プロデュース」の方針を間違ったかと、さすがの陰平も気に病んでいた。
『プロデューサーは、うちの事が嫌いなん? うちは、うちはプロデューサーの事を――』
プロデューサーの事を、ばり好いとーのに。
嗚咽交じりのその台詞を聞いて、陰平はため息を漏らした。
「ふぅ……」
陰平は、恋鐘に次々と仕事を与え、煌めく芸能界に自分も属しているのだと思い出させてやれば、恋鐘もすぐに元気になるだろうと考えていた。朴念仁のイケメンプロデューサーよりも、自分に付いてきたほうが得だと思わせれば、すぐに気持ちを切り替えるだろうとも考えていた。
しかしどうやら自分は、恋する乙女というものを甘く見ていたようだ。
一度芽生えた恋心というものは、簡単には捨てられないようだ。恋する少女は美しいというが、それが彼女の輝きを曇らせる原因になるのであれば無意味である。伊庭への執着がある限り、恋鐘は今より飛躍できない。その事は、ここしばらくのあいだ彼女をプロデュースして、よく分かった。
(だが、どうするか……)
伊庭からさらに引き離して、恋鐘が伊庭の事を忘れるのを待つべきか。だが、悠長なことはしていられない。時間というのは、アイドルに限らず、少女にとってすぐに溶けていく宝石のようなものだ。この一瞬一瞬の輝きを、無駄にすることは許されない。
(……やはり)
賭けになるが、荒療治が必要だろうか。
以前に陰平は、樹里に対し、恋鐘が真に立ち直るには「きっかけ」が必要だと言った。そのきっかけを与えてやるのだ。恋鐘は一時的に傷付くことになるだろうが、最終的には、それが彼女のためになる。陰平の肉棒は、ジャージの生地を突き破らんばかりに反り返っていた。
『プロデューサー……、プロデューサー……』
他のアイドルたちは、もう眠っている時間だ。その中で恋鐘だけが起きていて、ベッドの上で悲痛な嘆きを繰り返している。室内でPCのモニターのみを灯りにして、陰平は憮然とした表情で恋鐘の声を聴き続けていた。
『プロデューサー…………んっ』
(……おや?)
それから何十分経っただろうか。陰平は、ヘッドホンから聞こえてくる恋鐘の声が、今までと違った色を帯びている事に気付いた。
『プロデューサー……ぁっ』
恋鐘は相変わらず自分のプロデューサーを呼び続けているが、その単語の響きにも艶がある。どうやら彼女は、愛しい相手に振り向いてもらえない寂しさを堪えかね、ベッドの上で自らを慰め始めたようだ。
『ふっ……』
抑えられた喘ぎと、ささやかな衣擦れの音。それはヘッドホン越しにも分かるほど、とても控え目な自慰であった。
音声だけで、映像は無い。恋鐘がどうやって自分を慰めているのか、それは分からない。己の指でクリトリスを虐めているのか、それとも秘裂に指を差し込み、あの爆乳をまさぐって揉みしだいているのだろうか。
『あっ…………』
恋鐘の喘ぎが熱を帯びはじめる。それを聞いている陰平のチンポは、ギンギンに膨らんで破裂しそうだった。
やはり、恋鐘もメスなのだ。溢れんばかりのメスの素質を持った恋鐘が、自分を支配して安心させてくれるオスに飢えて、一人寂しく己を慰めている。だが、彼女が呼び、彼女の頭の中にあるのは陰平ではない。それは伊庭であり、恋鐘はきっと、王子様のような伊庭に優しく抱かれる事を想像しながら、火照った身体を鎮めようとしているのだ。
『プロデューサー……っ』
恋鐘がまたも、その単語を熱っぽく口にする。怒りに満ち満ちた表情の陰平は、無造作にジャージを脱ぎ捨て、いきり立った己の肉棒を激しくしごき始めた。
(恋鐘、違うぞ。お前のプロデューサーは、俺だ……!)
鬱勃起が止まらない。まるで寝取られ男の気分である。
『プロデューサー……、プロデューサー……っ』
段々と恋鐘の声が、切羽詰まったものになっていく。彼女は達しようとしている。それに合わせ、陰平のチンポにも射精感が昇ってきた。
『プロデュ、んぅっ…………!』
「うっ……!」
そして、恋鐘がささやかな絶頂に達すると共に、陰平も達した。だが、いつもなら大量に噴き出してくるはずのザーメンは、ほんの少し、びゅるりと出ただけで止まった。陰平が自分の意思で止めたのだ。彼のデカマラは、精液を吐き出せないままビクンビクンと震えている。凄まじい欲求不満が、澱となってチンポの底に溜まっていくのが分かる。
「恋鐘……」
陰平はヘッドホンを取ると仁王立ちし、その名を呼んだ。すると、チンポがますます太く硬くなる。
「待ってろよ……、すぐにお前に、こいつをブチ込んでやるからな……!」
これ以上は許されない。早くあのメスを、フニャチンのイケメンから救い出して、自分の種を与えてやらなければならない。陰平はPCモニターの光に照らされた闇の中で、黒い決意を固めた。