※この作品はR-18です。

偽蟲 ニセノムシ   作:淫徳

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第十蟲「母」

第十蟲

 

「隕石?」

 

携帯をセーラー服の内ポケットにしまい込み、小学一年生の風香と手を繋ぐ学校からの帰り道、琴美は首を捻っていた。

親の転勤が決まり、この美土里町を離れる事になってしまった琴美は、思い出の写真を保存しておくべく、まず向かった先の小学校で小さな風香と出会ったのだった。

そして日暮れまでこの付近の場所にいた事を疑問に思った琴美が、自称 超平和的手段、他称 強制的手段を用いて話を聞き出すと、出て来たのは隕石という単語だった。

いや、高校二年生の琴美も流石に隕石という物が何なのか、どこから降ってくる物かは知っている。

問題は、風香が遅くなるまで学校の近くにいたという事と、隕石がどう結び付くのかと言うことだった。

 

「そう、隕石! 昨日あの森に赤い隕石が落ちたって舞姉ちゃんが言ってたの。

だから今日それを取りに行こうって、舞姉ちゃんと雪姉ちゃんと森にいったんだけど。

雪姉ちゃんが危ないから、舞姉ちゃんを連れて来るまで、此処でまっててって…」

 

「はぁ…」

 

 

荒唐無稽な隕石という言葉が飛び出してきた時点で、おおよそ「舞」という存在が風香に絡んでいることを予想していたものの、いざ名前が出てくれば矢張りあいつかという気持ちを拭えない。

夏場は決まって愛用の麦わら帽子を被る、活発という言葉が意志をもった少女舞は、風香より二年学年が上なのだが、生徒数が少なくなった学校の方針で共同で授業が行われ、その一貫で知り合ったらしい。

いや、琴美から思えば出会ってはいけなかった組み合わせだと、頭を抱えて叫びたくなる程だった。

 

決して悪ガキという訳ではない、品行方正ではないが、年下にも年上にも節度を守った対応をし、何時も笑顔な元気な子だ。

同学年や年下には人気があるらしく、たまに見かける彼女はいつも、誰かに囲まれて笑顔を振りまいていた。

 

だが、その元気がいけない。

彼女は言ってしまえば脳筋という奴で、学校の勉強がダメダメな変わりに、運動神経が並外れている。

そしてさらに、後先考えない性格なのだ。

言い出したことには猪突猛進というか、ふと思い付いた楽しそうなことに、周りを巻き込んで進んでいってしまうのだ。

前回、風香と舞の遊び相手になってくれと、風香の母親から仰せつかった時、危険な場所やおかしな場所に、あれこれと一直線で向かっていく彼女を止めるのに丸一日使ってしまった。

一緒になって騒ぐ分には楽しいかもしれないが、琴美は高校生だ。

危険な場所は大体、何がどうだから危険かまで把握している、だからこそ、舞を止めなくてはならない。

 

今回の事も舞が原因だと言うだけに、琴美はため息をつき、少し眉をひそめた。

雪という子も知っている、舞とよく一緒にいて彼女の暴走を防ぐストッパーの役割だった色白の少女だ。

大人や琴美が通う高校の先生でさえ、子供だけでは入ってはいけないと耳にたこができるほど言う森に入るにあたって、風香を外に残したのは正解だっただろう。

もちろん、彼ら二人が森の中に入っていったという時点で、模範解答ではないが。

 

だが、琴美には少し引っかかることがあったのだ。

舞は、みんなに愛されるお姉さんタイプの舞は、小さな子を外に残して放置するような子だったかと。

雪に関してもそうだ、多少自己主張が少ない彼女でも、風香をのこして森の奥へ行ったっきり、帰ってこないと言うことは有り得ない。

 

しかもだ、琴美は高校の宿題で新聞を毎日読むことを義務づけられていたのに、隕石が落ちたというニュースを知らなかった。

見逃してしまったという線はまずない、流石に隕石ほどの物が落ちてきたなら、話題性の少ない美土里町の事だ、さっそく観光資源にしようと園山市の観光協会が押し掛けてくるに違いない。

それがないという事は、彼女達が見た物が隕石ではない可能性、そもそもが作り話という可能性が浮上してくる。

そして、まだ舞と雪が戻ってきていないという現状。

琴美は学校の裏手に広がる広大な森を見て悪寒が背筋を走った。嫌な予感がした。

 

「……何これ、まさか事件って奴?」

「琴美お姉さん、舞姉ちゃんと雪姉ちゃん、大丈夫だよね?」

 

琴美の不安そうな顔を見て、風香も心配になったのか、森と琴美を交互に見つめ今にも泣きそうな顔になってしまう。

それはそうだろう、待っていてくれと言われ待っていたら、全く帰ってくる気配がない。

そして、たまたま現れた歳の離れた、風香にとっては大人も同じ琴美に、事件だと言われたのだ。

震える手で琴美の手を握り替えすと、琴美もはっとした顔になり、笑顔を作った。

 

「大丈夫、まだそうと決まった訳じゃないよ、ちょっとまっててね、今から風香ちゃんのお母さんに電話するから」

 

歩みを止めることなく家へと続く一本道を歩きながら、琴美は携帯を取り出して、さっと何度も使った風香の家の番号を画面に並べる。

母親に言われると思った風香の顔が青くなったが、少女二人が行方不明かもしれない状況で、そんなことも言ってはいられない。

風香は怒られるだろう、だがそれは悪いことをしてしまったからで、ただ風香を虐めている訳ではない。

親は子供の為を思って子を叱り、悪いことを悪いと覚えさせていく、それが教育であり勉強だ。

観念したのか頭を下げた風香の手を優しく握ってやりながら、携帯を耳元に当てる。

 

コールは一回で繋がった、中から慌ただしく雑音が聞こえ、混乱したような風香の母親の声が聞こえてきた。

 

『こ、琴美ちゃん!?

ちょうど良かったわ、ええ…そうね…はい…

琴美ちゃんも協力して…私の、風香が…舞ちゃんと雪ちゃんがまだ家に帰ってきていないの!』

 

誰か男性と会話しながらの電話は、聞き取りづらかったが、どうやら琴美の感じていた嫌な予感が的中していたことだけは伝わってきた。

矢張りというか、当然というか舞と雪は家には帰っておらず、各々の家の家族も探しているとの話らしい。

取り乱した風香の母親に落ち着くように言って、今の現状を細かく伝えていく。

そして風香に代わって欲しいという母親の希望に従い、怒られるのではないかと顔をひきつらせる風香を後ろから抱きしめ、携帯を耳に当てる。

 

『風香!あなた今まで連絡も無しにどこに行っていたの!?

こっちがどれだけ心配したか、わかってるんでしょうね?』

 

「ご、ごめんなさい…お母さん」

 

電話越しにも伝わってくる母親の怒号、だがその中には娘を心配する母親の気持ちが込められていた。

叱られ落ち込んでしまった風香の頭をまた撫で、携帯を返して貰い風香の母親に話しかけると、母親は子供に対する態度とは打って変わり、鼻水の混じった声で琴美に語りかけてきたのだ。

 

『そう、そうなの…琴美ちゃんが…

ありがとう…本当にありがとう。

あなたが風香を見つけてくれなかったら、私…私』

 

その思いもしなかったお礼の言葉に面食らったのは、琴美だった。

そんなに大したことはしていないと慌てるも、母親はありがとうの一点張りで、次第に否定するのも失礼な気がしてきた彼女は、苦笑して母親との通信を終えたのだった。

 

携帯を内ポケットにしまい、風香の手を引いて、後は少女の母親が待つ家に帰るのみだ。

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