偽蟲 ニセノムシ 作:淫徳
第一蟲「森」
第一蟲
園山市、美土里町 文明の時代超高層ビルが所狭しと建ち並ぶ日本には、まだこれほどの緑が残る場所がある。
そよそよと風に揺られて、気も安らぐ音を奏でる木立は、何十年…いや何百年も同じ場所にあるのだろう。
太くたくましく、そして独特な形へと変貌をとげた巨木達は、さながら老獪な先駆者達を見ているようだった。
太陽の光は葉と葉の隙間から、射るように差し込み、地面の草花をも養っている。
古く朽ち果て、折れてしまった木には、動物達や昆虫達、はてはキノコなどの命が生み出される場所と変わる。
多種多様の鳥が互いを呼び合い、音楽を奏で、リスや鹿達が森の種を各地に広げる。
自然とは、この森のためにある言葉だと、ここに立ち寄った者は誰でもそう思うだろう。
それ程までに、この森は一つの生命の箱庭として成立していた。命のサイクルが日々、日常的に行われている証拠である。
さて、この命を育む森、そこにあまり見かけない生物の姿があった。
木が少ない、少し開けた森の中心に一つ一般的なサイズの木と肩を並べられるほどの、大きく歪な塊が存在していたのだ。
一見、卵のようなそれは赤黒く、脈打つようにオレンジ色に発光を繰り返していた。
その塊の上を見上げると、ちょうど塊の上にあった位置にある大木枝が削り取られたように折れているのがわかった。
この異質な塊は空から落ちてきたモノなのだろう。森の動物達はこの塊を警戒してか、遠巻きにそれを見つめるだけで、決して近づこうとはしない。
本能で危険を感じているのか、はたまた不気味な外見ゆえの恐怖だけか。
だが、事態は静観していては何も始まらない。
この塊が一体、何でどういうモノなのかを知らないことには、森はこれを取り除くことも、共存することもできない。
まあ、森の意識と言ってしまえば非科学的だが、森は意識を持つ前に生きていることには間違いない。
だからこそ、何かの手段を用いて、この塊が何なのかを暴いて…いや結果的に暴いてしまうはずだ。
例えば、動物達が。好奇心に打ち勝つことの出来なかった動物達が、塊に近づく時も来るだろう。
もしくは、そうこれが一番可能性が高いのかもしれない。
人間だ。情報を取り込むことに愉悦を感じる生物は、例えどんな場所でも分け入って調べようとするだろう。
そこに自分の知識には無い塊があるのなら、彼らの知識欲はそれを解剖してでも調べ尽くす。
南極も北極も、果ては宇宙、海底へと彼ら人間はその手を伸ばす。
全てはただ、知りたいだけ。たったそれだけの理由でありとあらゆるモノを壊し中身を確認する。
しかしだ、この塊は空から落ちてきたモノは、そう簡単に人間に自らを調べさせるだろうか。
自らの命を犠牲にして、多種族である人間の発展を望むだろうか。
答えは否、同族でもない種族に自らの命を捧げることほど愚かな行いはない。
生物に備わった第一の本能とは、種族の繁栄なのだから。知識ある人間はその有る知識に左右され大切なことに気が付かない。
自分にもある動物の本能が、どれだけ警笛を鳴らそうと、彼らは必ずそれにさわる。
パンドラの箱が開けられたように、知恵の実を食べてしまったように、人間は好奇心には逆らえない。
いくらそれが、自らを殺してしまう結果になったとしても。