※この作品はR-18です。

偽蟲 ニセノムシ   作:淫徳

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第八蟲「闇」

第八蟲

 

三日月の光が怪しげに森に差し込み、森の最奥にある塊を明るく照らす。

あれだけ集まった動物たちの姿はなく、あるのは大きな赤い塊と、過去に生きていた人間だけだった。

梅雨明けのじめじめとした空気が漂う、七月上旬の季節の夜。

昼に差し込んだ暖かな日光が地面にこもり、夜の寒さは冬ほど困るものではない。

だからと言って裸で、外で寝ていれば流石に風邪を引くと思うがそれはもう、外の空気よりも冷たくなっているのだろう。

赤い塊から伸びる蛇のような突起に体を貫かれ、血液を全て吸い出され眠るように逝ってしまった死体。

それにまとわりついていた無数の赤黒い触手が、全て少女から離れ、掃除機のコンセントのように、赤黒い塊の穴へと引き戻されていった。

ひび割れて開いてしまった塊の天辺は、触手が全てそこへ収納されてしまうと、薄い膜を張りながら、何重にも皮が生成され元の殻へと再生してしまった。

目を上に向け呆けたように舌を出す少女の自体は、まだ血を吸われたばかりで、死後硬直も終わっていない温もりあるものだ。

眼を閉じさせ容姿を整えたのなら、遠目には寝ているようにも見える綺麗な死体。

無残にも脇腹に大きな穴を開けられた死体に近付いてくる生物がいた。

肉眼でも見えるが虫眼鏡で見ないと、見逃してしまいかねない小さな生き物。

それは昆虫だった、針の目を通るような消しゴムのカスに似た形状の昆虫が、草の間をぬって少女の元へと向かっていく。

小さい身体の割には移動距離は大きく、あっという間に少女の脇腹の傷口へと辿り着いた昆虫は、今も数滴血が滴る穴へ頭部を槍のように突き入れたのだ。

回転しながら螺旋のように肉の中に入り込み、最後に尻尾をうねらせ血のなくなった死肉の海を泳ぐ。

大きく心臓まで続いたトンネルを通り、胃の中に入り込んだ昆虫は、身体から粘液を分泌させて消化液から身を守った。

胃液を鮭のように登り、食道へと達すると鼻へと続く通路から脳髄へと、脳髄から脳細胞にたどり着いてしまう。

血液が無くなり酸素提供が無くなった脳は数時間も立たず脳死してしまう、だが赤黒い塊にまず粘液を擦り付けられた少女の脳は仮死状態ながら辛うじて生きていた。

脳の神経を発見した昆虫はそれに巻き付くと、自らの身体を真っ二つに引き裂き、中から自分の神経を露出させる。

電子機器の如く昆虫の神経は体よく少女の神経へと入り込み、融合を開始してしまったのだ。

痛みも何も感じないだろう少女の脳は、その異物の侵入に僅かだが反応し、昆虫を除去しようと指令を送ろうとする。

しかし、もう脳細胞の中枢にまで達した昆虫の神経は、脳が出した指令を身体に届けるまででせき止めてしまう

その無理な刺激が身体に伝わり、肉体は条件反射で四肢の各所に痙攣が起こった。

赤黒い塊がまた光り出し、一本の触手が、今度は塊の下の方向から飛び出させると、少女の脇腹の穴へその先端を入れ、勢い良く紫色の液体を吹き出した。

血液とは異なるブドウジュースのような色合いの液体は、彼女の本来血液が流れていた場所に響きわたっていく。

まるで、少女が生き返るとでも言うかのように、赤黒い塊はその無駄にも思える行為を行う。

 

小さな少女の身体に液体がたっぷりと収まると、次に起こったのは肉体の変化だった。

グチュグチュと肉をかき分ける音が、少女の四肢のあちこちから聞こえ、それに比例するように、その箇所の色艶が生前のモノに変わっていった。

突起が刺さり体内へ侵入を遂げた、脇腹の穴はもう、肉眼ではわからないほど新しい皮膚でふさがれてしまっていた。

10分ほど時間が経過すると、切られた心臓から本来有り得ない鼓動が聞こえ始める。そして、ついに…まるで何事もなかったかのように上体を起こし少女は立ち上がったのだ。

身体についた泥や草を手で叩いて払い落とし、地面に落ちていた麦わら帽子を淀みのない動作で拾い上げ頭に乗せる。

 

「こンなmぉのnいsyじぃがしてiた」

 

言葉にならない声を喉から出し、不思議そうに首を捻った少女は、自らの手を首に当て、首の下の方…丁度男なら喉仏がある辺りを強く押し込んだ。

グリと人間ならば誰でも顔をしかめる音が発せられ、少女の口から血の塊がこぼれ落ちた。

だが、この血は今の刺激で血管が切れたものではなく、もともと器官に詰まっていた塊を吐き出したという様子だった。

…彼女には、もう赤い血など流れてはいないのだから。

 

 

手を何度も開いたり閉じたり、自分の顔を触ったり、自分の身体を点検するような動作を行う少女。

その所作一つ一つは、まるで人形を操る人形師が自らのお手製人形を確認している動きにも見える。

 

「あ、ああ…私は、もういない。

私は生まれ変わった、世界のために彼らの繁栄の為に…」

 

口から発せられた言葉はとても小学生には出すことの出来ない、大人のような全てを達観した口調によって繋げられる。

何か別のモノが彼女の口を使って喋っているといった、奇妙な違和感がある。

例えるなら、女の子の声色を使って、何十年も修行をし、煩悩を打ち払った僧が話しているかのような、ギャップというべきものがあった。

ふと何を思ったのか少女は、前にあった大きな赤い塊に近づいて、そっと表面に触れた。

 

「ふふ、ありがとう」

 

労うように、赤黒い体表を撫でると塊は大きく揺れ、卵形の天辺に大きな亀裂が生じ、真っ赤で毒々しい剣のようなものが迫り出してきた。

そして、剣のようなモノの出た割れ目を広げるように、左右から丸い甲殻類の腕のようなモノが割り込んできた。

パキンと塊の天辺が弾け飛び、初めて中にいたおぞましい生物の全容が明らかになった。

剣のような部分は、赤紫色の粘液を身にまとった生物の丁度口に当たる部分。古木のような深い皺が刻まれた口にそって、胴体に近い部分に窪んだ穴に収まるように、赤い目玉が浮かんでいる。トカゲが節を持つ甲殻類になったら、こんな感じになるのだろうか。

金槌の要領で塊…殻を壊しながら、生物は身体を小刻みに揺らして、なんとか殻から抜け出そうと苦心する。

キュルツルル、金属を引っかいたような高い音を恐らく、頑強な甲殻に覆われた胸から発し、生物は呼応するように少女の方に視線をずらした。

生物の顔が鋭く尖っているので、完全に向きを変えると少女を突き飛ばしてしまいかねないからか、生物は首を傾けて、片方の眼だけで少女の姿をとらえていた。

少女は流れ落ちる粘液を生物の体表から、そっと拭い落とし生物本来の固い殻を露出させていく。

空気に触れた甲殻は、色を赤いものから血のように黒い色へと変化する。

大きな節のついて、カマキリや蟹のような片方の前足を器用に使い、少女を抱え込むように肌を密着させた。

ボロボロで血の塊がついたワンピースや、日に焼けた小麦色の少女の肌に粘液が染み込んでいく。

キュルツルル、嬉しそうに鳴く生物を本当に愛おしそうに少女は手を甲殻に這わせ、口づけを交わした。ほのかに桜色に染まった顔で、満面の笑みを浮かべる。

 

 

「おはよう、支配者」

 




どうもスマートです。偽蟲、第九話どうだったでしょうか?
これからは書きだめを踏まえて、一週間一回更新とさせていただきます。
更新時間は、月曜日、午後八時丁度です、今後ともご贔屓下さい。

あと、オリジナル小説は初めてなので、感想ご意見を気軽にご掲示ください、お待ちしています。
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