※この作品はR-18です。

パペットプリンセス   作:伊駒辰葉

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

修正してません!!;;


勘違いとすれ違い

 教室を出てきた優一郎を多輝はじろりと睨みつけた。今の優一郎はどこから見ても優等生に見える。

 

「先輩、こんにちは」

 

 優一郎は笑顔でそう挨拶した。多輝は優一郎を検分し終え、舌打ちをした。

 

 かんっぺきに猫被ってやがんな。胸の中でそう呟く。だが優一郎は不思議そうに首を傾げている。多輝は不機嫌な面持ちのまま、遠巻きにして自分を見ていた下級生を目で追い払った。

 

「おれのこと覚えてんのか」

 

 多輝は鋭い視線で優一郎を睨みながら訊ねた。優一郎はにっこりと笑って頷く。

 

「先輩、有名ですから」

 

 あっさりと返した優一郎に多輝はまた舌打ちをした。そして顎をしゃくる。

 

「ちょっと付き合え。話あんだよ」

「わかりました」

 

 優一郎は素直に頷いた。多輝は黙って身を翻し歩き始めた。後ろから優一郎がついてくる。

 

 夏休みの間に何回か立城を訪ねた。どうしても気になったからだ。だが立城は微笑むだけで一向に知りたいことを教えてくれなかった。そんなに気になるなら斎姫ちゃんのところに行ってみれば。質問するたびに立城はそう言って多輝を追い払ったのだ。

 

 自分で調べて判るなら苦労はしない。多輝は胸の中で不機嫌に呟いた。斎姫のプロフィールは聞いたことはあるが忘れてしまった。優一郎のことについても判らない。結局、多輝は学校が始まるのを苛立ちながら待つしかなかった。

 

 だが立城が教えてくれたこともある。夏休みの間に一度だけ優一郎に会ったというのだ。多輝は目をむいて驚いた。まさか立城が自分から優一郎に会いに行くとは思っていなかったからだ。

 

 彼とはメール友達になったんだ。笑いながら立城はそう言っていた。どこの誰が想像する? 吉良瀬財閥の当主とただの高校生男子がメル友だと? 多輝は唖然としてその言葉を聞いた。

 

 多輝は黙って階段を昇っていた。優一郎も何も言わずについてくる。多輝はちらりと肩越しに優一郎を見た。視線に気づいた優一郎がにっこりと笑う。多輝はそんな優一郎を睨みつけてから前を向いた。

 

 気分が悪い。優一郎が猫を被っているのは判っているのだ。四月のあの日の嗤いは微塵もない。それが余計に腹が立つ。多輝は苛々しながら屋上に続く扉を乱暴に蹴り開けた。その途端に生暖かい風が吹いてくる。

 

 二人は校舎の屋上に出た。日差しを避けて影に入る。そして多輝は振り返った。

 

「お前、斎姫と仲がいいんだって?」

 

 多輝は優一郎を睨みながらそう告げた。ぴくりと眉を動かした後、優一郎がにっこりと笑う。

 

「隣の席ですから」

「姫付の騎士みたいだって誰かが言ってたぞ」

 

 多輝はからかいを込めてそう言いながら笑った。だが優一郎は微笑んだままそうですか、と返してくる。不機嫌になった多輝を真っ直ぐに見つめながら、優一郎は続けた。

 

「それは光栄ですね」

 

 しゃあしゃあと告げる。多輝は思わず引きつった。もしかして優一郎は自分がばかにしていることが判っていないのだろうか。いや、と多輝は自分の考えを否定した。優一郎は判っているからこそわざとそう言い返してきたのだ。その結論に落ち着いた多輝は心底嫌そうな顔になった。

 

 どこかの誰かを思わせる。多輝は渋面になって日陰に腰を下ろした。胡座を組んで優一郎を見上げる。

 

「お前、おれが何者かとかちっとも気になんない訳? そりゃ、悪名は知ってるかもだけどさ」

 

 多輝はうんざりしながら頭をかいた。少しは優一郎が動揺すると思っていたのだ。殆ど口もきいたことのない誰かに呼び出され、斎姫との噂のことを訊ねられる。そしてからかわれる。なのに優一郎は全く動じていない。多輝はため息をついて横を向いた。

 

「別に。先輩とは何の関係もないですから」

 

 優一郎は微笑みを浮かべたままそう応えた。多輝は諦めてまあな、と呟いた。確かに自分と優一郎は何も関係のない間柄だ。四月のあの時以来、会ってもいない。

 

 多輝はため息をついて優一郎を見上げた。優一郎は相変わらず微笑みを浮かべている。

 

「お前、斎姫とつきあってんの?」

 

 面倒になって多輝はストレートにそう訊ねた。二人の裏側を探るといっても手間がかかる。それなら直に本人に訊けばいい。そう思いながら質問した多輝に優一郎は笑顔で首を振った。

 

「いいえ」

「その割に斎姫と仲良くないか?」

 

 すかさず問い掛ける。だがそんな多輝に優一郎は深い微笑みを向けた。途端に多輝の背中に冷たい汗が伝う。

 

「いつも不思議に思ってるんですけど」

 

 そう言いながら優一郎は腰を屈めた。しゃがみこんで多輝を真っ直ぐに見つめる。多輝は反射的にうろたえて視線を逸らした。

 

「異性間の関係って恋愛だけで成り立ってるわけではないと思うんです。僕は」

 

 間近で声がする。多輝は本能的に恐怖を感じ、じりじりと後退した。優一郎は別に攻撃的なことを言っている訳ではない。穏やかな顔つきで静かに喋っているだけだ。だが多輝はそんな優一郎から少し離れた。

 

「わかりました。それとなく、彼女の意思を確認しておきます」

「あ、いや、だから」

 

 そうじゃねえっての。誰も斎姫の本心が知りたいとか言ってるんじゃねえだろう、ばかやろう。

 

 だが心に浮かんだ文句は何故か多輝の口からは出ない。戸惑いを見せないように怒りの表情を作るのがやっとだった。

 

 いつだったかこれと同じようなことがあった気がする。あれは小学生の時だった。多輝の脳裏に痛い思い出がまざまざと蘇る。多輝は額に浮かんできた気持ちの悪い汗を拭った。

 

 幼い頃、クラスにとても可愛らしい女の子がいた。クラスの男子は色んな方法でその女の子の気を惹こうとした。多輝も例外ではなかった。気になる異性をからかったり苛めてしまうのはよくあることだ。多輝は気にして欲しいあまり、女の子の大事にしていたペンケースを隠してしまった。

 

 それだけで済めば良かったのだ。きちんと女の子に詫びればそれで問題なかった。だが多輝の何の気なしの悪戯はクラス内で事件として扱われた。児童たちの保護者にも連絡が入り、大騒ぎになってしまったのだ。

 

 その話は当然、養い親である立城の耳にも入った。多輝は真っ青になった。今更、自分がやりましたなどと言える筈がない。担任は血相を変えて窃盗した子供を割り出そうとしていたし、保護者たちは学校そのものに問題があるのではないかと騒いでいたのだ。

 

 そんな折、多輝の元に立城が現れる。立城は静かな笑みを浮かべて多輝を見つめた。立城はしばらく何も言わなかった。多輝はどうしよう、ちゃんと謝らなきゃと焦っていた。他の誰に白状できなくとも、立城にだけは本当のことを打ち明けようとしたのだ。

 

 多輝が決心して白状しようとしたその時。

 

 下手な方法を選ぶんじゃないよ。欲しいなら欲しいと素直に僕に言えばいいのに。

 

 立城は微笑みを浮かべながらそう告げたのだ。そしてその笑みを見た多輝は思い知った。立城は全てを知っている。多輝がその女の子を好いていたことも、ペンケースを隠してしまったことも、何もかもだ。そして立城はにっこり笑って多輝の頭を撫ぜた。決して怒らずに。その瞬間、多輝の背中には冷たい汗が伝った。

 

 後日、女の子の許にはどこからともなくペンケースが戻された。それだけではない。真新しい文房具のセットが女の子の机に置いてあったのだ。それも、誰にも判らないようにだ。ついでに文房具セットの下には手紙が置いてあったという。だが女の子以外はその手紙を見ていない。

 

 そんであのばかは女の子の両親を買収したんだよっ。多輝は内心でそう喚いた。学校での騒ぎはいつの間にか鎮まり、女の子は何故か多輝に懐くようになり、そして多輝はそんなやり方をした立城に恐怖を感じた。

 

 それからだ。多輝が人の彼女を横取りし始めたのは。

 

「たとえ断られたとしても、逆恨みはなしですよ」

 

 優一郎がにっこりと笑ってそう告げる。多輝は唇をかんでこぶしを震わせた。

 

「お前はぷち立城か!?」

 反射的にそう叫ぶ。だが優一郎は不思議そうな顔をして首を傾げた。多輝は肩で息をしながら優一郎を鋭く睨みつけた。

 

「誰がそんなこと頼んでるよ!? おれはお前らが付き合ってるかどうか」

「明日には結果教えますから。期待しないで待っていてください」

 

 優一郎は多輝の叫びを遮ってそう告げた。あくまでも微笑みを浮かべたままだ。多輝は違うー! と叫んで立ち上がった。顔を上げた優一郎に指を突きつける。

 

「おれは断じてそんなこと頼んでないからな! 絶対!」

 

 多輝は顔を赤くして大声で喚いた。すると優一郎が肩を竦めて苦笑する。その表情を見た瞬間、多輝は反射的に優一郎から飛び離れた。

 

 ゆらりと優一郎が立ち上がる。無意識にファイティングポーズをとっていた多輝に笑みかけながら、優一郎は静かに頷いた。

 

「わかりました。僕の自発的意思によるボランティアということにしときます」

「そうじゃなくて!」

 

 苛々しながら多輝は優一郎を納得させようと口を開きかけた。その瞬間、派手な音を立てて屋上のドアが開く。多輝は口を半開きにしたまま、音の方を見た。

 

「そこにいるのは、雨宮多輝ね!?」

 

 入り口のところで誰かがそう叫ぶ。多輝は顔を引きつらせて硬直した。一人の女子生徒がドアの前で仁王立ちになっている。白衣を着たその生徒を見つつ、多輝は目を細めた。見覚えはない。……ないのだが……。

 

 その女子生徒の背後に並んでいる白衣の集団の中に、一人だけ見知った顔がある。多輝は引きつりながら喚いた。

 

「小河原!? ということは、お前、科学部の変態部長か!」

「誰が変態よ!」

 

 大きな眼鏡をかけた女子生徒が喚き返してくる。続いて女子生徒はびしり、と多輝を指差した。

 

「うちの部員を弄んで捨てたあんたに言われたくないわね!」

 

 弄んだ。言われて多輝は思わず首を捻った。自分が科学部の部員に手を出す訳はない。そうした覚えもない。何しろ、科学部と言えば清陵高校でも有名な怪しい部なのだ。地下にある施設を占有し、莫大な予算がどこかから流れてきている謎の部。それがこの学校の科学部だ。変わった趣味の奴ならいざ知らず、わざわざ自分からそんな部に関わっている奴に手を出す筈がない。多輝は自分の考えにうん、と頷いて顔を上げた。

 

「そんなことしてねーよ」

 

 多輝はそう言ってから何となく優一郎を見た。なあ、と同意を求めてみる。優一郎は苦笑しながらさあ、と応えた。

 

「とにかく! 署まで来てもらう、じゃなかった、部室まで来なさい! 弁解はそこで聞いてあげるから」

「じょっ、冗談じゃねえ!」

 

 誰が変態が集う地下室になど入りたいものか。多輝は慌てて駆け出した。ドアと反対側に向かって駆けて行く。すると後ろから部長の少女を先頭に、科学部員たちが追いかけてきた。

 

「とにかくおれは頼んでないから、余計なことすんじゃねえぞ!」

 

 多輝は振り向いて優一郎にそう喚いてから、屋上の隅に走った。まかせてください、と優一郎が背後で言っている。なんだか意味が違うような気がしたが、多輝は構わず屋上を囲んでいるフェンスに昇り始めた。追っ手の少女がフェンスに取り付き、昇ろうとしている。だが部員たちが部長である少女を必死で止めた。

 

 こんなとこで捕まるのはごめんだ。多輝は舌打ちをしてフェンスの上から地上を見下ろした。アスファルトの張られた地面には幸い、誰もいない。多輝は素早く周囲を見回して他の誰もいないことを確認した。

 

「あなたは完全に包囲されているわ! もう逃げられないわよ!」

 

 フェンスを力任せに揺さぶりながら少女が喚く。多輝はけっ、と喉で笑った。

 

「うっせえんだよ。変態」

 

 そう言って、多輝はフェンスを足で蹴った。途端に数々の悲鳴が上がる。多輝はためらいもなく屋上から飛び降りた。

 

「こらあっ!! 待ちなさい! あたしが変態なら、あんたは超変態よー!!」

 

 校舎の間に少女の声が響く。多輝は口の中でばーか、と呟いて落ちる速度を緩めた。多輝はふわりと地面に降り立ち、四階建ての校舎を見上げた。フェンスに捕まった少女がまだ何事かを喚いている。

 

「ばーか。誰が捕まるかっての」

 

 多輝はそう吐き捨てて何事もなかったように歩き出した。




ちょー能力がでましたw
この話はメカ分だけでなく、厨二設定が結構出てきます。
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