未成年の喫煙は法律で禁じられています。
フィクションとしての表現の一環です。
真似しないでください!!!!
多輝はぼんやりと空を見上げていた。唇の端にぶら下げていた煙草からは煙が風に流れている。空は夕焼けに赤くなり、雲までが日の色に染まっている。多輝は倉庫の壁にもたれ、静かな眼差しで空を見つめていた。
先日、多輝は優一郎と斎姫が一緒にいるところを見た。優一郎を呼び出そうとした多輝は教室内の二人の様子にそれを思い止まった。何やら深刻そうに二人が話していた内容までは判らない。訝りながら多輝は二人に悟られないように教室を覗いていた。そして斎姫が不意に動く。斎姫は優一郎の目の前でスカートをたくし上げたのだ。
付き合っていない、ねえ。多輝はそう呟いて細長く煙を吐いた。校内でもこの辺りには人気はない。日の影で身じろぎし、多輝はちらりと倉庫を見やった。
斎姫は優一郎の目の前に股間を晒した。下着のない斎姫の陰部を優一郎は凝視しているように見えた。多輝はそれを覗きながらため息をついたのだ。斎姫の身体は機械で出来ている。優一郎はそれを思い知ってさぞショックだろう。そう思った。
だが優一郎は多輝が予想したような反応はしなかった。機械仕掛けの女性器を見せられても、目を逸らそうともしない。それを盗み見ていた多輝は首を傾げた。幾ら女が好きな自分でも、斎姫のように機械で出来た身体には一欠けらの興味もない。だが優一郎はじっと斎姫の股間を見つめている。違和感を覚え、多輝は二人の様子を覗きながら眉を寄せた。
斎姫ちゃんは可愛いだろう? 多輝は嫌いなのかな?
幼い頃、立城は写真を多輝に見せながらそう言っていた。だが多輝は同時に写真の女の子の身体の大部分が機械で出来ていると知らされた。そんな斎姫を気持ち悪いと思った。今もその気持ちは変わっていない。どうして生きた人間と同じように笑っていられるのだ。なぜみんなと同じように学校に通うのだ。
だが優一郎にはそんな様子は全くない。それどころか斎姫が自慰を始めるのを見ても、動揺していないように見える。多輝はそんな優一郎を不気味に感じ、同時に確信した。
優一郎は最初から斎姫が機械だと知っていたのだ。だからそうして、ためらいなく口づけできるのだ。そして……だからこそ、斎姫の機能を止められる。多輝はそれを見取って教室から離れた。やがて優一郎が斎姫を抱えて出てくる。多輝は気付かれないように二人の後をつけた。
とぼけた顔して、よく言うよ。多輝は苦笑いしながら煙草を唇に挟んだ。今、多輝の寄りかかっている倉庫の中には二人がいる。中から漏れているのは斎姫の喘ぎ声だ。多輝はその倉庫の入り口の反対側の壁に座っているのだ。
二人が付き合っていることは間違いない。でなければ人目を避けてこんな場所に来る必要がない。そして斎姫がこんな声を上げる筈がないのだ。多輝は薄い笑いを浮かべて壁から身体を引き剥がした。
「そっか。やっぱやってやがったのか」
多輝はそう呟きながら小さく笑った。咥えていた煙草を地面に吐き捨てる。火を踏み消して歩き出す。
今日のところは邪魔しないでやるか。多輝は内心でそう言いながら楽しそうに嗤っていた。倉庫から離れ、学校を出る。多輝の足は自然に立城の会社に向かった。だが受付で追い払われる。仕方なく帰途についたが、それでも多輝の心は躍っていた。
どうやって嵌めてやろう。どうやって奪ってやろうか。もちろん、今でも斎姫に興味はない。出来れば係わり合いになりたくない。だが多輝は二人の仲をぶち壊すことには興味を覚えた。にやにやと嗤いながら斎姫を奪う計画をあれこれと頭の中でめぐらせる。
空では夕暮れと夜の闇が混ざっている。多輝はふと、深い紫色に染まる西の空を見上げた。街はたくさんの人で賑わっている。多輝は人の波に紛れながら歩いていた。今日は歩いて帰ろう。歩きながら考えるのも楽しい。そんなことを思いながら、多輝は意気揚々と歩いていた。
不意に腕をつかまれる。多輝は驚きに息を飲みながら振り返った。
「やっと、見つけたわよ!」
白衣を着た科学部の部長が腕をつかんで息を切らしている。多輝は顔を引きつらせて少女の手を振り払った。
「変態女に用はねえ!」
多輝は街中で全力でそう喚いた。周囲の人々が何事かと振り返る。だが多輝はそんなことは気にしなかった。鋭く少女を睨みつける。だが少女は膝に手をついて屈みながら、まだ息を切らしている。
「ふふん。超変態のあなたに言われても堪えないわっ!」
だがそう言いながら頭を上げた少女は少し顔を歪めていた。どうやら多輝に言われたことが少しは堪えたらしい。多輝は腕組みをしてそんな少女を見下ろした。どうせこんな様子では自分を捕まえることは出来ないだろう。
少女は上がった息を整えるために何度も深呼吸した。ぐっしょりと汗をかいている。多輝は少しだけ少女のことを気の毒に思った。一体、彼女はどこから追いかけてきたのだろう。相当、疲れているようだ。多輝はため息をついて傍にあった自動販売機に近づいた。
「別に義理はねんだけど」
呟きながら自動販売機に小銭を入れる。多輝は自動販売機で買った冷たい茶を少女に差し出した。
「ほい」
訝る表情をしている少女の頬に缶を押し当てる。すると少女が目を見開いた。
「あっ、ありがと」
少女は不思議そうな顔をしながらも素直に缶入りの茶を受け取った。人の波を避けて道端に寄る。多輝も大人しく少女の隣に寄った。駐車場のフェンスにもたれて座り込む。
「今日は機嫌がいんだ、おれ」
多輝は茶を飲んでいる少女に何気なくそう告げた。すると少女は怪訝そうに眉を寄せて唇から缶を離す。
「あたしのこと、嫌ってたんじゃないの?」
「おれ、あんたから逃げようと思えばいつでも逃げられるし……それにあんたの変な噂は知ってるけど、別にあんた自身を知ってる訳じゃないしな」
多輝は道行く人々をぼんやりと眺めながらそう告げた。少女は肩を竦めて黙って茶を飲んでいる。よほど暑いのか、少女は白衣を脱いだ。多輝はそんな少女を横目に見ながら少し笑った。
こいつ、確かあの野郎の姉ちゃんなんだよな。心の中でそう呟き、多輝はにやりと口許を歪めた。丁度いい。ついでに優一郎のことを訊こう。多輝はそう思いながら少女に目をやった。
「なあ、あんたの名前は?」
「あっあの、絵美佳。吉良絵美佳よ」
少女はうろたえながらそう答え、多輝の隣に腰を下ろした。気のせいか視線があちこち動いている。そんな少女に多輝はにっこりと笑いかけた。すると少女が慌てたように視線を逸らす。
「吉良絵美佳先輩、かあ。ふうん」
多輝は笑みを浮かべたまま、絵美佳のスカートを指差した。
「あのさ。そんな座り方してると、パンツが見えちゃうぜ?」
「えっ、うそぉ!」
即座に絵美佳は叫んだ。多輝はくすくすと笑いながら絵美佳の手を取った。すぐに立ち上がらせる。絵美佳は慌てて乱れていたスカートを直し、ずれていた眼鏡を指で押し上げた。
多輝の手はしっかりと絵美佳の手を握ったままだ。絵美佳はそんな自分の手をじっと見下ろしている。
「吉良先輩ってさ。どしておれに声かけてきたの?」
そう訊ねながら多輝はゆっくりと歩き出した。すると絵美佳も大人しくついてくる。
「うちの部員の春日ってコから聞いたのよ。あんたってセックス上手いって」
ぼそぼそと小さな声で絵美佳が答える。多輝はそれを聞いてああ、と納得した。春日といえば随分と前に手を出した女子生徒の名前だ。嫌に素直に男と別れたと思ったら、案の定、男と付き合っていたのは演技だったのだと白状した女だ。多輝は春日のことを思い出してくすくすと笑った。
「吉良先輩が言ってた部員が何とかって、春日のことだったのか。なるほどね」
多輝は笑いながらそう告げ、向かってきた人の波を避けた。多輝の手に引かれ、よろけた絵美佳の肩を反射的に抱き寄せる。絵美佳は一瞬、身体を強張らせた。
「あんた、あたしのこと変態だって言ったくせに」
絵美佳がそう言いながら不服そうに睨んでくる。だが多輝は絵美佳の肩を抱いたままで歩いていた。小さく笑って手に力を込める。絵美佳の肩は細い。無理に力を入れたら折れてしまいそうだ。拘束から逃れられないと知っているのか、絵美佳は抵抗しない。
「噂ではそうなってるからな。まあ、本当の吉良先輩のことはこれから直接、教えてもらうからさ」
深く考えずに多輝はそう言って笑った。だが絵美佳は逆に考え込んでいる。しばらく黙って歩いてから、絵美佳はふと小さく呟いた。
「本当のあたしかー」
多輝はふと腕の中の絵美佳を見た。何となく足を止めると絵美佳も立ち止まる。絵美佳は黙って多輝を見上げた。その顔はどことなく曇っている。多輝は訝りを覚えながらどうした、と声をかけた。
「あたしね、あんたに研究手伝って欲しいの」
研究。その言葉に多輝は片方の眉を上げた。だが絵美佳はそんな多輝に頷いて歩き出してしまう。つられて多輝も歩き出した。
人の波は絶え間ない。信号待ちの間も数多くの人々が多輝と絵美佳の背後を過ぎていく。多輝は自然と地下鉄の改札へと向かっていた。絵美佳も何も言わずについてくる。
「研究ねえ」
多輝はぼんやりと前を向いたままそう呟いた。
「あんたの体力と、テクを見込んでお願いするわ! あたしの研究を手伝って! おねがい!」
そう告げた絵美佳は必死の面持ちになっている。多輝は答えずに絵美佳を見下ろした。黙ったまま、地下鉄の改札に続く階段を降りる。急ぎ足の誰かがそんな二人を押しやるように過ぎていく。自然と絵美佳を庇いながら、多輝は階段を降りた。
この二人は後々も割と出てくるキャラクターです。
キャラが途中でブレブレになりますが……(汗)