怪しいのが出てきます。
研究ねえ。しかもセックスねえ。どうせとんでもない実験に付き合わせようとしてやがるな。多輝はそう内心で呟いた。絵美佳が実験おたくだというのは校内でも有名だ。しかも何の実験なのかが部外の生徒たちには判別できない。まあ、教師たちが止めないのだから、その実験は命に関わるようなものではないのだろう。
「ぜったい、機械人形には負けたくないのよ! だから! あたし!」
それを聞いた多輝は思わず目を見開いた。腕の中の絵美佳を凝視する。階段の踊り場で足を止めた多輝を、絵美佳は真剣な眼差しで見上げていた。
機械人形。その言葉が多輝に斎姫のことを思い出させた。機械人形。機械仕掛けの性器を持つ、人形。
多輝は静かに絵美佳の肩を離した。そして踊り場の壁に絵美佳の身体を押しやる。絵美佳は急に多輝が手を離したことに驚いたのか、目を見張っていた。
「機械人形、か」
疲れ知らずの、人形。命令のままに欲情し、幾らでも淫らに喘ぐ人形。多輝の顔にはいつの間にか嗤いが浮かんでいた。黙って絵美佳の肩を壁に押し付ける。
「そうよ。卑怯なんだもの。機械仕掛けの作りものなら、いくらでも都合よく出来るんだから」
絵美佳の目は憎悪に吊り上がっている。多輝はそんな絵美佳に嗤いを向け、身体を寄せた。絵美佳に身体を密着させる。
「吉良先輩、人形が嫌いなのか? それとも何か恨みでもあんの?」
多輝は声を殺して笑いながらそう訊ねた。絵美佳の様子はどう見ても怒り狂っているように思える。しかも、怒りの対象は機械の人形だ。多輝の胸の内に言いようのない喜びが生まれた。こうして同じものを忌み嫌う誰かがいることが、何よりも嬉しい。しかも相手も本気で怒っているのだ。
「恨みっていうのとはちょっと違うけど……。嫌いよ。なんか、間違ってる気がするの。まさか、あんたは好きなの?」
鋭い眼差しが飛んでくる。だが多輝は嗤いを浮かべて絵美佳の頬に手を伸ばした。指先でそっと頬を撫ぜる。人の波を背後に感じながら、多輝は絵美佳に囁いた。
「冗談じゃない。ま、人形遊びの好きな奴に心当たりはあるけどさ」
そう言いながら多輝は素早く絵美佳の唇を奪った。絵美佳が焦ったように身じろぎをする。だが多輝の腕に押さえつけられ、絵美佳は口づけから逃れることが出来なかった。
「……んっ!」
口の中で絵美佳が呻く。多輝はそっと頭を上げて唇を離した。絵美佳は焦って口許を押さえる。だがすぐに顔を上げて笑いかけてきた。
「ありがと! つまりはオッケーってことね!!」
「条件次第かな」
多輝は嗤いながらそう答えた。すると絵美佳があからさまに顔をしかめる。
「条件? なによ! いくらほしいの! 自慢じゃないけど、あたしは貧乏よ!!」
どうやら金品を請求されていると思ったらしい。多輝は絵美佳の反応の意外さにくすくすと笑い出した。唐突にキスをされ、嫌がっていたのかと思ったらこの反応だ。つくづく、絵美佳という人間は面白いらしい。そう思いながら多輝は首を振った。
「金なんか要らねえよ。吉良先輩の誠意がみたいだけ」
「あれっ? 誠意を見せろってお金を寄越せって意味じゃないの?」
多輝は笑ってそれを否定し、絵美佳の耳元に口を寄せた。耳の中にそっと囁く。すると絵美佳が目を丸くして息を飲んだ。多輝はくすくすと笑いながら頭を上げる。
「それ、ほんとなの!?」
「もちろん。んだからおれもちょっと吉良先輩にお願いしたいことがあるんだよ」
でも、その前に。多輝はそう言いながら再び絵美佳に唇を寄せた。背後を過ぎ去る人々の気配を感じながら絵美佳に口づける。細い身体を抱きしめる。絵美佳は黙って多輝の口づけを受け入れていた。顔をほんのりと赤く染め、うっとりと目を閉じている。
多輝は絵美佳の口を開かせ、舌を入れた。深く口づけると腕の中で絵美佳が小さく震える。口の中をゆっくりと弄ると腕の中で絵美佳がびくりと震えた。感度はいいみたいだな。内心でそう嗤い、多輝はじっくりと絵美佳を弄った。
「人前でキスして感じるなんて、吉良先輩って淫乱だな」
唾液に塗れた唇を離し、多輝は嗤いながらそう告げた。絵美佳がかっと頬を染め、多輝を睨みつける。
「濡れちゃったじゃない!」
声を潜めて絵美佳がそう告げる。多輝は思わず吹き出した。ストレートな反応が面白い。もし、機会があれば絵美佳を誰かから奪ってみたいところだ。だが今はそれが目的ではない。
「そんなに気持ちよかった? じゃ、おれの頼みもきいてくれよな」
そう言って多輝は絵美佳を解放した。急に拘束を解かれた絵美佳が驚いたように見上げてくる。多輝はそんな絵美佳に薄笑いを浮かべた。
「わかったわよ。そのかわりあんたも、実験の手伝いのほう、よろしくね」
唇を袖で拭い、絵美佳は呟くように応える。多輝はにやりと口許に嗤いを浮かべ、絵美佳の耳に口を寄せた。
「吉良先輩の弟君をちょっとからかってみたいんだけどさ」
「いいわよ! あいつ、最近生意気だったから、あたしもそろそろシメないと駄目かな? とか思ってたとこだし」
絵美佳は強く頷きながらそう告げた。多輝はにっこりと笑ってそれは良かったと応える。その後、多輝は絵美佳に優一郎の話を聞かせてもらった。絵美佳の話すことはかなり偏っていた。だが多輝は絵美佳に合鎚を打ちながら話をきいた。
夜が更ける。多輝は絵美佳を家まで送り届け、家路についた。住宅街を縫う夜道に人影はない。静かな空気に多輝の足音が響く。
そうか。あいつ、弟が好きなのか。絵美佳のくれた情報から多輝が知ることが出来たのはそれだけだった。優等生の弟が機械の人形に欲情していると知った絵美佳の怒りは凄まじかった。もしかしたら絵美佳にその情報を与えただけで、あの二人の仲は壊れてしまうのかも知れない。それを思うと少しつまらなかった。
だが、絵美佳が決して優一郎に直接手を下さないことも多輝はよく知っていた。好きだからこそ、言い出さないだろうということも理解できた。何よりそれを物語っていたのは、絵美佳の話す内容だった。絵美佳は散々、優一郎を貶してはいたが、所々でさりげなく庇う発言をした。
変な女だったな。多輝は何気なくそう呟いて足を止めた。振り返ってみる。もう、絵美佳の家は遠い。きっと優一郎も帰宅しているのだろう。あの後、二人の間で何が起こったのかは判らない。だが、もしかしたら何も起こらなかったかも知れない。多輝はぼんやりと考えながら再び歩き出した。
ふと、人影が見えた。多輝は前から歩いてくる影を見止め、つい足を止めた。俯けていた顔を上げる。見知らぬ青年がゆっくりと歩いてくるのが見えた。咥え煙草で青年が歩いてくる。多輝はまた歩き出した。気にするほどのことではない。見知らぬ誰かとすれ違うだけだ。だが、多輝の胸の内に得体の知れない不安が押し寄せてくる。
青年とすれ違う。その瞬間、多輝は腕を無造作につかまれた。
「おい、くそがき。お前、十七になったって本当か」
唐突に青年がそう問い掛けてくる。多輝は目を見開いて本能的に腕を大きく振った。やけにあっさりと青年の手が解ける。
「何だ、あんた。いきなり」
多輝はそう言いながら青年を睨みつけた。のんびりと煙草をふかしつつ、青年は多輝をじっと観察している。青年の顔は嫌に整っている。同じ整っていても立城とは違い、鋭い印象のある面立ちだ。人形の斎姫とも違う。人気者の優一郎とも違う。そして自分とも印象が違う。
多輝はそんな青年に何故か恐怖を覚えていた。逃げなければ。心のどこかがそう叫ぶ。多輝はその声に任せて走り出そうとした。
「随分と純粋培養されたもんだな」
走り出そうとした多輝の襟首を青年が素早くつかむ。多輝はつんのめってその場に膝をついた。焦りながら振り返る。青年は煙草を唇の端に咥え、まじまじと多輝の顔を覗き込んだ。
「これはかなり痛い思いをするだろうなあ。ふうん。まっ、おれには関係のない話か」
一人で勝手にそう喋ってから、青年は屈めていた腰を伸ばした。地面にへたり込んでいる多輝を見ながら嗤う。多輝は冷たい汗を感じながら逃げることもできなくなっていた。
エロ話なのでR-18にしてますが、エロシーンが少ないと感じる方はすみません。
カオスタグをつけている通り、エロといってもアレコレなので……(汗)
ヤバいところは危険タグなどをつけますが、今回の話ではTSとかBLはない……なかったはず……と思います。