直してません!(涙
メールがこない。優一郎は眉を寄せてディスプレイを睨んでいた。斎姫からの報告用のメールは既に見た。優一郎が気にかけているのは別の人物からのメールだった。
吉良瀬立城。財閥の当主がどんな気紛れを起こしてこうなったのかは、優一郎にも実際には判らない。本当にただの気紛れなのか、それとも何か意図があるのか。どのみち、優一郎は立城に勧められるままに斎姫を受け取ったし、斎姫もそれを心得ている。
なのに。優一郎はため息をついてメールの送受信ボタンをクリックした。やはりメールはこない。
立城はあの食事会以来、優一郎にメールをくれなくなった。ぱったりと音沙汰がなくなったのだ。あの食事の時に直に会ったそれが、後のことはよろしくという意味だったのだろうか。
最初、優一郎は気にしていなかった。それまでまめにメールの返事をくれていた立城だったが、元々が忙しい人物だ。メールなど見ている余裕がないのだろう。そう考えていたのだ。
だがあれから二ヶ月だ。季節はもうすぐ冬になろうとしている。もう少ししたら雪もちらつき始めるだろう。清陵高校では秋の行事の大方が終わっている。文化祭、体育祭、総合祭、修学旅行。めまぐるしく時間だけが過ぎている。
斎姫は相変わらず毎日、報告のメールを寄越してくる。学校では優一郎の命令に従って様々な痴態を演じている。その傍らでは真面目に学校の行事もこなしていく。まさに斎姫は優一郎の理想通りの人形だ。そして今もそれは変わりない。
でも不安だ。優一郎は小さく呟いて息をついた。ウィンドーには斎姫の陰部が映っている。優一郎はそれをぼんやりと眺めながら由梨佳の淹れてくれた熱い紅茶を一口ほど飲んだ。
もう一つ、気にかかることがある。優一郎は何気なく振り返った。壁の向こうには絵美佳の部屋がある。この間まで部屋でけっこうな音を立てていた絵美佳は、最近ではすっかり大人しくしているらしい。研究が失敗したりすると、絵美佳は周囲に構わず喚き散らしていたのだ。なのにこの頃はそんなことは全くない。
そして絵美佳は家を空ける日が多くなった。女の子だから心配なのよ、と由梨佳はため息をついていた。だが絵美佳はそんな由梨佳を怒鳴りつけることもなかった。いつものように喧嘩腰にはならず、静かに心配しないでとだけ応えていた。それも優一郎にとっては驚きの種だった。あれほど、由梨佳に食ってかかっていた絵美佳なのに。彼女はまるで人が変わったように大人しくなってしまったのだ。
立城にはもう電話までした。なのにいつかけても留守番電話になっている。絵美佳は校内で出会っても挨拶もろくにしなくなってしまった。優一郎は顔をしかめて背もたれに強く寄りかかった。優一郎の体重を受け止め、椅子が微かに軋む。
自分の知らないところで何かが起こっているのではないだろうか。そうも考えてみた。だが、知らないところというのが具体的にどこなのかが判らない。それに確信がある訳でもない。単なる思い付きで行動するのは、逆にいらぬ墓穴を掘りかねない。
斎姫には何も知らせたくない。優一郎は内心で呟いて紅茶のカップを再び手に取った。斎姫の画像をリピートさせて、画面を眺める。ヘッドホンからは小さな斎姫の声も聞こえている。
大切に大切に育てていく。斎姫を思いながら優一郎はそっと息をついた。何も知らない斎姫に少しずつ痴態を覚えこませ、最高の人形へと作り上げるのだ。そのためには要らない情報を見せられない。少しでも優一郎の不安を感じれば、斎姫は戸惑うだろう。そうでなくても斎姫は優一郎が膣内に挿入しないことを不安に感じているのだ。それは優一郎がわざとしているからいいとしても、それ以外の不安など感じて欲しくない。
フェラチオも随分と上手になったしね。優一郎は小さく笑って囁いた。
綺麗で淫らな人形。求めていたものを手に入れている筈なのに、不安は尽きない。優一郎は斎姫の画像を閉じ、深く息をついた。ヘッドホンを置き、紅茶を飲み干してカップを机に戻す。
清陵高校では優一郎と斎姫の仲が大多数の生徒に認識された。教師までがそれに賛同した。吉良瀬の名を持つ斎姫に下手な虫が寄り付くことを恐れたためだ。公認のカップルとして二人は認められたことになる。
だがあの悪名高かった多輝はひっそりとなりを潜めているようだ。斎姫との仲を認められた優一郎は色んな生徒に忠告されたのだ。雨宮多輝には絶対に彼女を近づけるな。様々な人にそう言われたが、結局今までは何事もなく日々が過ぎている。噂では多輝の悪癖が直ったのだということになってはいるが、優一郎には無視できなかった。それとなく多輝の情報も集めた。だが、優一郎の予想とは裏腹に、多輝は校内、校外でも大人しくしているようだ。
そんな多輝が絵美佳と一緒にいるところを、一度だけ見た。優一郎は自然と顔を伏せてキーボードを見つめた。乗せたままになった手が無意識のうちにぴくりと動く。
廊下の隅で二人は何かの話をしていたようだ。優一郎はそれを見かけた時、思わず廊下の角に身を潜めた。だが二人はすぐに手を上げて別々の方向へと歩き出した。結局、絵美佳と多輝がどんな関係なのかは未だに判らない。もしかしたら些細なやり取りだったのかも知れない。
気になることはいっぱいあるんだけどな。優一郎はそうぼやいて肩越しに絵美佳の部屋がある方を見た。だが変わらず絵美佳の部屋は静まり返っている。余りに静か過ぎて、誰もいないような気がするほどだ。耳を澄ましてみても、物音一つ聞こえてこない。
次の日、朝早い内に優一郎は目を覚ました。今日は休日だ。どうしてのんびり出来る時に限って早く目覚めてしまうのだろう。優一郎はため息をついてベッドから降りた。
この家で一番先に目を覚ますのは由梨佳だ。次が大抵優一郎で、総一郎、絵美佳と続く。今日も早くから由梨佳は起きているらしい。明かりの灯るキッチンに優一郎は目をこすりながら入った。
「ああ、おはよう。優一郎」
だが優一郎に一番に声をかけてきたのは由梨佳ではなかった。仏頂面の絵美佳が目の前に立っている。優一郎は驚きに目を見張り、慌てて挨拶を返した。すると絵美佳は頷いて優一郎の傍から離れた。まだ驚いている優一郎を余所に、さっさと食卓についてしまう。
由梨佳もキッチンにいた。フライパンを手にして振り返り、笑顔で声をかけてくる。優一郎は由梨佳にも挨拶を返してから、ようやくキッチンの奥へ進んだ。隣の席に座る絵美佳に視線を向ける。だが絵美佳は新聞から顔を上げようとはしない。
「どうしたの、姉さん。今日は学校は休みの筈だよね?」
なのに絵美佳は制服を着ているのだ。そのことを指摘すると絵美佳が目だけを上げた。そして再び新聞に目を落とす。
「研究」
それだけを答えた絵美佳は、もう言うべきことがないというように無言で新聞を読み続けた。優一郎はため息をついて由梨佳が差し出したコーヒーを受け取った。由梨佳も不思議そうな顔で絵美佳を見下ろしている。
「絵美佳、研究もいいけど、あんまり根を詰めたら身体に毒よ?」
「大丈夫」
絵美佳はすげなく答えて由梨佳の置いたティカップに手を伸ばした。新聞を見ながら啜っている。由梨佳は困惑した顔で食卓から離れていく。優一郎は眉をひそめてそんな絵美佳を見つめた。
由梨佳が作ってくれた朝食を摂っている間も絵美佳は黙っていた。少し前だったら頼まなくても色々と優一郎に話し掛けていた。ぼんやりと思いながら優一郎はゆっくりと食事を続けた。
「ママ、お弁当は作っておいてくれた?」
ふと絵美佳がそう告げる。優一郎は黙ってちらりと横を見やった。絵美佳の表情に変化はない。今まで、絵美佳が由梨佳の作った弁当を持って行ったことはない。というか、最初から作るなと言っていた。珍しいこともあるものだ、と優一郎は内心で呟いた。
由梨佳がエプロンで手を拭きながら近づいてくる。
「えっ、ええ。ふたつで良かったの?」
それを耳にした優一郎は仰天した。慌てて由梨佳を仰ぎ見る。由梨佳は複雑な表情で優一郎に目配せしてみせた。自分にもどうしてだかは判らない。そんな意味のこもった視線だった。
「ありがと」
そう言いながら絵美佳が立ち上がる。由梨佳が慌てて手にしていた弁当の包みを食卓に乗せた。絵美佳は黙ってそれを鞄にしまう。
「帰りは何時になるの?」
「わからない」
絵美佳は由梨佳に無愛想に告げ、さっさと食卓を離れた。呆然とする優一郎と由梨佳を置き去りにして、キッチンを出て行く。優一郎は思わず由梨佳と顔を見合わせ、慌てて玄関に向かった。
玄関では絵美佳が靴を履いていた。弁当入りの鞄を抱えて立ち上がる。優一郎は戸惑う由梨佳の横に黙って並んでいた。試しに二つの弁当の意味を訊いてみようか。だが優一郎がそう考えている合間に、絵美佳はドアの鍵を開けた。
「いってきます」
絵美佳が肩越しに振り返る。呆然とした優一郎と由梨佳が見送る中、絵美佳は玄関の向こうへと消えた。
その日、絵美佳は帰ってこなかった。次の日も。
そして平日になり、優一郎は登校した。絵美佳が家を空けること自体は珍しくない。研究が大詰めになると今までにも数日間、帰ってこなかったことがある。優一郎はぼんやりと考えながら学校に向かった。
今日は特に寒い。冬の冷たい風を感じながら優一郎は目を細めた。
メールソフトがよく出てくるのは、書いた当時はまだスマホが……なく……て……
あったのかも知れませんが今みたいにフツーにはなくて……
メッセージアプリとかも……
すみません!><