朝、いつものように斎姫は倉庫に赴いた。今日は特に寒い。外にいるだけで息が白く染まる。斎姫は足早に倉庫に向かい、中に入った。既に優一郎が訪れている。斎姫は言われるままに優一郎に点検してもらった。
今日はこれを試そうか。そう言って斎姫の膣の奥に優一郎が入れたのは、新しいストッパーだった。今までのより数段、コンパクトになっているらしい。小指の先ほどのカプセルは、斎姫の膣に入るとサイズに合わせて伸縮する。
授業中、優一郎に言われてこっそり自慰もした。だがストッパーの威力は凄かった。どれだけ斎姫が絶頂に震えても、一滴も愛液を漏らすことはない。快感に頬を染めながら斎姫はただ感心した。やはり優一郎はとても優秀な科学者になれるに違いない。そう感じた。
三時間目の授業は体育だった。膣でストッパーが振動しているのが誰かにばれやしないかと、斎姫はひやひやした。だが、やはりいつもと同じように誰も気付かない。更衣室でみんなと着替えながら、斎姫はほっと胸をなで下ろした。
今日はマラソンです。そう、体育教師が告げるとクラスメイトたちからブーイングが上がった。だが斎姫は嬉しかった。今日は、男子と合同での授業なのだ。男子と女子ではコースが少し違うが、重なっているルートも多い。もしかしたら走っている間に優一郎と会えるかも知れない。みんなが嫌がっている中で、斎姫はそっと頬を手で包んで微笑んでいた。
まずは女子が一斉にスタートする。斎姫は友達と一緒に走り出した。快調な滑り出しです。と、友達の一人がおどけて言う。斎姫もその冗談に笑った。だがじきに一緒に走っていたクラスメイトたちの呼吸が乱れてくる。斎姫は、先に行ってくれえ、と呻く友達を置いて仕方なく一人で走り続けた。
冷たい風が心地いい。何度も冬を体験しているが、こんなに心が躍る冬は初めてだ。少し気が早い感じもあるが、クリスマスのプレゼント用に編物も始めた。優一郎は喜んでくれるだろうか。そう考えるだけで斎姫は自然と赤い顔になった。
学校外のコースには人は殆どいない。どうやら自分は先頭を走っているらしい。そのことに斎姫が気付いた時。
「随分と気合入れて走ってるじゃん。斎姫ちゃん」
不意に背後で声がする。斎姫は驚いて振り返った。いつの間に現れたのだろう。学生服を着た男子生徒が斎姫の真後ろについている。
「あなたは……?」
斎姫は息を弾ませながらそう訊ねた。見覚えのない顔だ。だが男子生徒の方は斎姫が訊ねると意外そうな顔になった。大袈裟に腕で顔を覆って泣く真似をする。斎姫は訝りに眉を寄せながら横に並んだ男子生徒を見た。
「おれは雨宮多輝だよ。ひっでえなあ。ほんとに知らねえの?」
そう言いながら多輝と名乗った男子生徒は軽く首を傾げて斎姫の顔を覗き込んだ。斎姫は慌てて顔を逸らして黙って頷いた。何故だか嫌な感じがする。
斎姫は多輝の悪癖に関する噂を全く知らなかった。優一郎が故意に隠していたからだ。だが斎姫は隠されていたということすら気付いていなかった。横でにやにやと笑っている多輝を見やってから、顎を逸らす。
「ご用件はなんでしょう?」
そう訊くと多輝がくすくすと笑い出した。全くなあ、と呟いている。斎姫は知らん顔で先を急いだ。だが多輝もぴたりと横についてくる。
「そんな、つんけんしなくってもいいじゃん。あんたとおれ、完全に無関係って訳じゃねえんだしさ」
軽い口調で言いながら多輝はにやりと笑った。斎姫は怪訝に思いながら黙っていた。すぐに多輝が続ける。
「斎姫ちゃん、立城の養女だろ? おれもまあ、似たようなもんでさ。立城に養われてるわけ」
すらすらと吐かれた多輝の言葉を聞き、斎姫は慌てて横を向いた。多輝が人の悪い笑みを浮かべているのが見える。
「わたしは、あなたのことなど聞いたことありません」
「そりゃそだろ。斎姫ちゃんはおれと違ってるしな。けど、おれは斎姫ちゃんをよく知ってるぜ?」
即座に言い返してから多輝は無造作に斎姫の肩に手を回した。悲鳴を上げた斎姫を余所に耳に唇を寄せてくる。斎姫は懸命に多輝の腕から逃れようとした。だが、意外にも多輝の腕の力が強く、抜け出せない。
「やめなさい!」
斎姫は厳しい声で告げた。なのに多輝はまるで怯まない。斎姫の耳にそっと囁いてくる。
「機械のお人形さん。みんなに正体、ばらされたくなかったら一つくらいおれの言うこと、きけよな」
斎姫は顔を凍りつかせた。目を見開いて足を止める。
「ど、どうして!?」
どうして知っているの。斎姫の胸の叫びに答えてくれないまま、多輝が腕を解く。今日の放課後、あんたの倉庫で待ってるぜ。そう言い残して去って行く。斎姫は震えながら多輝を見送るしかなかった。
言い回しが古い……いや、文体もかなり古い自覚はあるんですけども><