修正はもちろんしていません!><
いつもと同じ時間に学校にたどり着く。優一郎は絵美佳と分かれて教室へと向かった。入学して二週間。クラスメイトたちはそれぞれに思い思いの友達を作ったようだ。教室内には明るい話し声が充満している。優一郎はクラスメイトたちに挨拶をしながら教室に入った。
席について鞄を下ろす。優一郎はそこで顔を上げた。隣の席の斎姫が登校してきたのだ。斎姫が教室に入る時はすぐに判る。何故なら教室内のざわめきが微妙に変化するからだ。優一郎は何気ない微笑みを浮かべた。
「おはよう、吉良瀬さん」
優一郎の挨拶に斎姫も微笑みながら応える。優一郎は席について鞄の中身を机の中に移した。斎姫もすぐに着席する。
吉良瀬斎姫はちょっとした有名人らしい。入学してすぐに優一郎はその噂を耳にした。どうやらとある財閥とかかわりがあるらしいのだ。だが優一郎にはそんな噂などどうでもよかった。
気になったのは斎姫のその容姿だ。整っている、綺麗、美しい。斎姫を表す言葉には色んな種類があるだろう。だがそんな言葉だけでは斎姫の容姿は表現できない。少なくとも優一郎は初対面の時にそう感じた。
似ているのだ。どこが、という訳ではない。だが斎姫の持つ雰囲気は何故か由梨佳を連想させる。それを理解した時、優一郎は斎姫から目が離せなくなっていた。いい成績で入学してきたという噂通り、斎姫は授業でもその優秀ぶりを発揮した。入試トップで入学してきた優一郎にも決して劣らない。優一郎には斎姫の頭脳が優れていることが誰よりもよく判った。
そして今日もまた斎姫は端麗な容姿で隣に座っている。優一郎は眩しさを感じて目を細めた。今までこんな風に見える異性はいなかった。母や姉を上回る存在感を見せつける女性など、優一郎にとっては初めてだった。気になる女性を観察するのはよくあることだ。優一郎は視線に気づいて首を傾げた斎姫に微笑みを返した。
だから知っている。斎姫には少し変わったところがあるのだ。優一郎は内心でそう呟いた。斎姫は時折、授業中に薄く頬を染める。それがどういう意味なのかを薄々知りながら、優一郎は何食わぬ顔でその度に斎姫に声をかける。大丈夫? 具合でも悪いの? そんな優一郎に斎姫は何事もなかったかのように微笑んで首を横に振る。
その日も斎姫は授業中にうっすらと頬を染めた。古典の授業中だった。優一郎は指示された部分の朗読を終え、着席した。斎姫にいつものように声をかける。だが斎姫はなんでもないと応える。それもいつも通りだ。
優一郎はそ知らぬ顔で時折、横の席に座る斎姫を見た。机の下で微かに揺れるスカートのプリーツをぼんやりと見つめる。斎姫はごく自然な顔で教科書を握っている。だがその指の先が白くなっていることに優一郎は気付いていた。斎姫はかなりの力を込めて教科書を握り締めているのだ。
やがて斎姫が指名され、彼女は古文の朗読をし始めた。
「人なくて、つれづれなれば、夕暮のいたう霞みたるに紛れて、かの小柴垣のほどに立ち出でたまふ。人びとは帰したまひて、惟光朝臣と覗きたまへば、ただこの西面にしも、仏据ゑたてまつりて行ふ、尼なりけり。簾すこし上げて、花たてまつるめり」
そして二人は出会う。優一郎は覚えてしまっている源氏物語の内容を頭の中に描いた。すずめを追う若紫を見た光源氏は、やがて最愛の人となる彼女を手に入れる。優一郎はそれを思いながら隣で朗読する斎姫をちらりと見た。
端正な横顔に薄い紅がさしている。優一郎は斎姫を頭の先から足先までゆっくりと眺めた。ぱっと見には判らないだろう。斎姫の肩や腕には変に力が入っている。胸の膨らみを眺め、続いて腹部に目をやる。優一郎は朗読する斎姫の身体を知らん顔をして眺め回した。
朗読を終えた斎姫が着席する。ほどなく、椅子を引く音が聞こえてきた。優一郎は薄く笑って教科書に目を落とした。ノートを取りながら隣に座る斎姫を意識する。
やがてチャイムが鳴り、昼の休憩になった。近くの席のクラスメイトたちが優一郎に寄ってくる。だが優一郎はクラスメイトたちの誘いを断った。今日は研究のために使える場所を見に行くことにしているのだ。優一郎はクラスメイトたちに詫び、早々に教室を出た。
優一郎はまず鍵をもらいに担任のところに出向いた。担任は科学の教師で総一郎とも懇意にしている男性だ。優一郎が科学室を訪れると、男性教師は笑顔で迎えてくれた。研究はいいが、あまり無茶をするなよ。そう笑って言われる。優一郎は丁寧に礼を述べ、科学室を後にした。
その倉庫は今はもう使わない備品をしまっているらしい。だが、大した物はないので勝手に片付けてもいいと言われた。優一郎は足取りも軽く、その倉庫に向かった。人気のない場所にひっそりと倉庫は建っていた。優一郎は目を輝かせて倉庫のドアノブに鍵を差し込もうとした。
だがそこで手を止める。微かにだが人の声が聞こえてくる。優一郎は眉を寄せ、耳をそばだてた。確かに人の声だ。そう思いながら倉庫のドアに耳を寄せる。聞き覚えのある声がする。
そして優一郎は目を見開いた。手から鍵が落ちる。土の上に落ちた鍵を見つめながら、優一郎は微かに嗤った。倉庫から聞こえている声は斎姫のものだ。たとえ斎姫がいつもと全く違う声を上げていても、優一郎にはそれが判った。そして斎姫が切ない声を上げ、自分の名を呼んだことも。
こういう視点を切り替えて同じシーンを書く、がよく出てきます。
手法としてはよく見られたものですが、今の流行かどうかは……判りません(汗)
時代遅れでしたらすみません。