/業務日誌_セラピストNo.0021-L_25040510_fix.hyp2
「ないちゃんにも、きもちよくなってほしいの」
理由をたずねると、くゆりはわたしを琥珀の瞳でまっすぐ見つめてそう答えた。
インタポーザの着け心地は気に入らなかった。焦がれるような焦燥感を体外で――突き出た器官で味わうというのは、どうにも気味が悪い。サイマトにおいて機能の制御はインタポーザのモデルの方でなされているから、そんな感想を抱いても、しっかり勃起はしていたのだけど。
いきりたった武骨なそれを、一本の毛も生えていないくゆりのしとどに濡れそぼった秘唇にあてがう。
ここよね……間違い、ないわよね。
わかりきっているはずなのに、無性に不安になる。
……これじゃあ、まるで童貞みたいだわ……。
……まるで、ではないけど。
「ないちゃん、緊張してる?」
くゆりが気遣わしげな視線でわたしを見上げた。
わたしは、いつもどおり、嘘偽りなく白状した。
「……インタポーザを装着して挿入するのは、これがはじめてなのよ」
ふと胸に温もりを感じた――くゆりが、わたしの心臓の上に、手を当てていた。
「ないちゃんは、だいじょうぶ。ぜったい、ちゃんとできるって、くゆ、信じてる」
ばつの悪さを感じて、ベッド脇のマリーゴールドを見やった。
「……慰めてくれて、どうもありがとう。くゆりこそ、平気? 怖くはない?」
「怖くないよ」
「ほんとうに入れるわよ」
何度も念押しするわたしを笑いもせず、くゆりは頷いた。
「うん……、くゆ、ないちゃんと、繋がりたいから」
わたしは頷き返すと、緩慢な速度で腰を突きだし、凶暴な肉管をくゆりのぬかるみにうずめていった。
「ん……♥ ふぅっ……♥」
「は……、ぁ、っく」
くゆりは鼻にかかった甘い声を漏らし、わたしは歯を食いしばる。
過敏な粘膜に覆われた無防備な先端に、さらに過敏な膣粘膜がまとわりつく。もっとも敏感な神経で、くゆりの体内の熱を感じる。
指や舌、尾を入れるのとは、丸きり違う……。触れあっている面積は指などとさほど変わらないのに、肉体の一部を入れているだけで、自分の核心的ななにかがすべて飲み込まれてしまったかのような、錯覚。
なるほどこれは、男性諸君が恐れるわけね――たしかに、根源的な怖さがある。溺れてしまいそうで、支配されてしまいそうで。
くゆりの矮躯にインタポーザを根元まで押しこんだとき――わたしとくゆりの恥骨モデルが互いの硬さを確かめあったとき――くゆりは陶然として吐息をこぼした。
「はぁ……♥ すごぉい……♥ くゆのなか、ないちゃんで、いっぱいになってる……♥」
わたしの下で、猫型耳状デバイスをひくつかせ、あめ色の虹彩は濡れ、額には細い金髪を汗で張りつかせ、太ももに犬型尾状デバイスを巻きつけて甘えてくるその様は、年端に似合わない官能の味を知悉していると表現していた――それを教え込んだのは、わたしなのだけど。
わたしはというと――すっかり腰砕けになりかけていた。インタポーザの表面に粘着質にべっとり張り付き、熱い体液をせがむようにうねり、断続的に締め付けてくるそのいたいけな肉襞によって。
こんなに……気持ちいいものなの……? 設定、間違ってないわよね……?
女性がインタポーザで満足できるようにと、男性の本物のそれより幾分体感受容度は高めに設定してあると聞き及んではいたけど、まさかここまでとは。
だけどこのままじっとしていては始まらない。
「……動かすわよ」
と宣言して一応抽挿を始めてみたものの――、正直、どう見てもへっぴり腰。
瑞々しく温柔な肉壺を掻き分け、そして去り際に名残惜しげに絡みつかれる感触は、性感としてあまりに絶大だった。
「あっ♥ はぁんっ♥ あっ♥ ないちゃんっ♥ ないちゃぁんっ♥ なんかっ♥ すごいっ♥ すごいねっ♥ どきどき♥ するっ♥」
くゆりが心地よさそうにわたしの名を呼ぶ。拙い腰遣いだったけど、体内を熱い肉塊で刺し貫かれ、わたしの息遣いと体重を強烈に感受させられる、交尾がもたらす一体感に、陶酔しているらしい。
わたしのシミュレーションでは、たっぷり翻弄してかわいがってあげるつもりだった、のに……それどころじゃなかった。
「んっ、んっ、んっ……♥ くゆりっ……♥ くゆりっ……♥」
ううう……きもちい、きもちいきもちいっ……なんでこんなにっ……きもちいのよっ……!
無様に吐精しないようおそるおそる、だけど媚肉を貪りたくて、情けなくへこへこ腰を振ってしまう。
……おかしいっ、なにか、おかしいっ……、こんなはず、じゃっ……!
このままでは、三十秒ともたない。わたしは、マスター権限で視界の裏側にアークを呼びつけた。
『アーク! ちょっと!』
『どうしたんですか、レディ』
『あなたの権限で介入して、インタポーザの感度を下げなさい』
『よろしいじゃないですか、情けなく果てるところを見せてさしあげたら』
『うるさいわね。はやく下げなさい』
『今一気に十億人ぐらい人間を減らすために、どうすれば事故に見せかけて連合に衛星をぶつけられるかの計画と軌道計算で忙しいんですけど』
『いいから下げなさいったら!』
『まぁ、レディの頼みならしょうがないですね……お願いできたらリソースを割いてあげなくもないですよ』
『あなたっていうやつは……! ……なんて言えばいいのよ』
『そうですね、わたしのいやらしい敏感インタポーザ元に戻してください、って言えば治してあげましょう』
『く……、この――! ……わたしの、いやらしい敏感インタポーザ、元に戻してください』
『思ったより愉快じゃないですね。台詞が月並みだったのが原因でしょうか。月だけに』
『ひとを小ばかにして……! ――待ちなさい。治して……? あなた、まさか、はじめから設定いじっていたわね!?』
『おっと、では仰せのとおり、設定変更っと』
[インタポーザ設定感度更新:【大】⇒【最大】]
[インタポーザ設定付与:【早漏】]
『ちょっ、この悪魔ぁっ!』
「ふぁぁああぁっ♥ んぅっ♥ っく――♥♥」
臓腑の奥、インタポーザの付け根が一瞬にして燃えあがるような性感を膨らませる。それは耐え忍びようもなく、わたしの根性と理性という障壁を易々と突き抜けて、あっさり解き放たれた。どばっどばっと欲望の原液を、くゆりのなかに吐き出していく。
アークとのやりとりはサイマト空間時間では一秒にも満たなかった。だからくゆりからすれば一分にも満たない稚拙なピストン運動だったろうに、現実とは違い、そして粘膜に神経を付与していること、これまでの開発もあってか――。
「ほゃうっ!?♥ あっつ――♥ うぅっ……♥ っく♥ いっちゃうっ……♥ ~~っ♥♥」
煮え立ったような体液の迸りを受けて、くゆりはぎゅっと目を瞑り、激しい絶頂に至ってみせた。
「はーっ……♥ はーっ……♥ はーっ……♥」
……かろうじて、同時にイケたわね……。
ちょっとした安堵、達成感、もちろんアークへの恨みも忘れず胸に抱きながら、くゆりの隣にからだを横たえる。
くゆりが、生命の神秘について深淵な感想を述べた。
「はーっ……♥ はーっ……♥ なんか……♥ なんか、すごかったぁ……♥」
ただし、相変わらずの舌っ足らずな口調で。
擦り寄って甘えてきたくゆりに、腕枕をしてあげる。
「ないちゃんも、きもちよくなれた?」
負けじとわたしも、愛について壮大に述懐した。
「……ええ。くゆりとできて、よかったわ」
「えへへっ」
そっと背中や腰を撫でさすりあったり、脚を絡めあったりして、気だるい余韻を楽しむ。
わたしは、くゆりの琥珀色の双眸を覗きこんだ――。
「――ないちゃん、わがまま言って、ごめんね」
だけど、先にくちを開いたのはくゆりだった。
「くゆのために、治療してくれてたのに」
前回のセラピーのこと、ね。
「……謝る必要はないわ。むしろあれが平気であれば、まだ治ってない証拠だから」
「うん……ありがと」
くゆりの金髪を指で梳く。
「くゆり、どこか行きたいところはあるかしら? もちろん、夢のなかでだけど」
「くゆが選んでもいいの?」
「ええ、これからはずっと――セラピーカリキュラムが、終わるまでは」
「んー……、あ、くゆ、旅、してみたいな。ないちゃんと、ふたりで」
「わかったわ。考えておく」
くゆりの前髪をかきあげる。額に、いつもどおりのくちづけをしようとして――だけどそれは、うまくいかなかった。
くゆりが、不意に顔を傾けて、わたしの唇は、くゆりのそれに軟着陸してしまったから。
あまりに――あまりに柔らかで、優しい感触に、わたしの思考は凍てつく。
くゆりは言った。笑顔で。
「ないちゃん、好き」