業務日誌_セラピストNo.0021-L_25040515_fix.hyp2(1) ♥
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「ほわぁ……! すごいっ、きれいっ、すてきっ」
キャノピーに鼻を押しつけ、くゆりが感嘆の声を上げて金毛の犬態尾状デバイスを振りまわした。なんとも言えない甘ったるい体臭が、鼻腔をくすぐる。
……さすがに、海宙気象にかわいいとは言わなかったわね。
あらゆる光を貪りつくす暗黒の海のなか、窓の外では、ニューロン流がうねって光条を迸らせ、その先で発火嵐が瞬いて光芒を結び、吹き荒れる重金属伝達物質が大輪の白光を噴出させた。目には見えないものの、その周囲には好電性プランクトンがうようよしているはず。
海宙気象のどれもが、ひとたび飲み込まれたなら、電磁遮蔽タイルを張っただけのこの
と、そのとき、雷霆がたばしり、
「わぁっ! かわいいっ!」
言ってしまったわね。
内心苦笑しながらも、わたしはイベントの再生速度を三割減速してやった。
実際のところ、海宙の透明度はここまで高くはないはずだった。他船を経由して伝達された
「ねぇ、ないちゃん、どうしておっきなお船は、みんなマカロニかドーナツみたいな穴あきのかたちなの?」
くゆりがフィットスーツにつつまれた足を宙でばたつかせてたずねた。白いお尻が踊るにあわせて、尾が右へ左へふわふわと流れる。
「重力を発生させるためよ。普段、人間はあの大きな船で生活しているの。そして人間の身体は、重力がなければ健康に支障がでてくるから」
くゆりに身に付けさせているのは、純白のフィットスーツ。からだのラインがぴったりと浮き出て、丸みを帯びてきたくびれや胸を、発展途上ながらも否応なく目立たせている。両肩には識別章として、三つ葉のクローバーのシールを貼りつけてある。
尾状デバイスは腰の穴を通して出すようにしている。船外活動をする際には、専用のバックパックを装着するようになっている。本来、この世界に人魚はいてもLMOはいないため、LMO用のスーツは拡張パッケージをサブスクリプションしたものだった。と言っても外に出るつもりはないから、お世話になることはない。
「ふぅん……よくわかんないけど、目がまわっちゃいそう」
「平気よ。現実でも、地球は実はものすごい速さでまわっているけど、わたしたちは目をまわしたりしないでしょう? それとおなじことよ」
わたしが着用しているのは、暗い船内に溶けるような漆黒の、くゆりと同型のスーツ。肩のシールは、エメラルド色の竜の意匠。習慣的に髪をくくるのははばかられたけど、無重力下ではさすがに鬱陶しいのでおだんごにした。
「そうなんだ。あれ? でも、現実の地球だと、くゆたちのスフィアは浮いてるよ?」
たしかにそのとおりだ。だけどそれを説明するには重力と地球の大気の講義をしなくてはならない。今のくゆりが講義を飽きずに聞いていられるだけの教育的な解説を、今のわたしは知らなかった。だから――。
「重力は、すごくてすてきだからよ」
と、一番くゆりに適した説明をしてあげた。
「そうなんだ。すごいねっ」
くゆりも納得してくれた。
各種セッティングの気が済んだわたしは、くゆりの隣りに寄って肩をくっつけ、同じ窓で外を眺めた。
右舷上方には、恒星プラントから莫大な光量を漏らして回転する巨大なシリンダー型の鋼鉄、
ほかにも、
AI人類の演算末期、海宙解析から例を見ない潮流コースが発見された。海宙を手中に収めるための
くゆりの金毛が、わたしの尾の表面を撫でた。
「この船は――知りあいの、姉妹の船なの。ふたりはこの大がかりな航海の途中、政府の探索命令に反抗して、逃亡した」
「どうして?」
海宙が鳴き、腹腔に響く唸り声が船をかすかに揺らす。船団各船のソナーが共鳴している。
「ふたりは愛しあっていたの。けど、政府は二人を永久に引き離そうとした。ふたりは、愛を選んだ」
「ふたりは、どうなったの?」
「小さな海宙都市から、海宙都市へと放浪しつづけたわ。けど、いつしか受け入れてくれる都市もなくなって、それでも逃げつづけ、やがて食糧は尽き――この船で、たがいの存在と愛を確かめあったあと、姉は妹を食べたの。妹を、だれにも渡さないために」
横目でちらりとくゆりをうかがうと、ヘッドアップディスプレイの照明のもと、ほのかにその頬は赤らんで見えた。
「な、ないちゃんも、くゆを食べちゃうの……?」
「食べないわよ――」
もう少しお肉がついていたらわからないけど、と脅しかけて、やめた。
「くゆりは、食べてほしいのかしら?」
鼻息が耳にかかる距離で、くゆりが囁いた。
「ないちゃんに、なら……食べられても、いいよ」
くゆりの温かな頬に手を添え、あめ色の虹彩を覗きこんだ。
「じゃあ、頂こうかしら。前々から、あなたの目がおいしそうだと思っていたのよ」
「~~っ!」
牙を見せ、顔を寄せると、くゆりはぎゅっと固く瞼を閉じた。わたしは――いつもどおり、額に接吻してあげた。
「ほやっ!?」
「ふふっ、冗談よ。他人のモデルを食べられるようには設計してないもの」
「び、びっくりした……」
くゆりは目をしばたいた。
「けど――」
金毛の猫耳に、軽く歯を立てる。
「ぅにゃっ」
「かじるぐらいなら、できるわよ」
「も、もうっ、ないちゃぁんっ」
笑いあって、ふざけて、噛みついたり、舐めたりして、そんな他愛もないじゃれあい、ふと思う――あの姉妹も、長く果てのない旅路のなか、ここでこんなことをして、余暇を潰していたのかしら。
わたしとくゆりが分かちあっていた、発作のようなそのなごやかな歓談の空気はいつしか過ぎ去り、船内には甘く粘つくような沈黙が満ち満ち、低い海の鳴き声に静かに震えていた。
くゆりのあめ色の双眸は、イオンの発火のようにまたたいていた。
唇を重ねたのは、わたしからだった。
ひどく、おそるおそる、くちづけしたように思う。
無重力で接吻するのには、少し工夫がいると知っていたから。相手の顔を押さえておかないと、慣性で歯をぶつけて痛い思いをしてしまうはずだったから。
「はー♥ はっ……♥ んっ……♥ ちゅっ♥ ちぅぅっ……♥」
「んっ♥ ん……♥ はぁ……♥ んーっ……♥」
くゆりに押し出され、剥き出しになった背中に冷たい窓が触れる。汗でべっとり張りついた準結晶強化ガラスを尾で押して、わたしとくゆりは螺旋を描いて再び船室の中央に漂う。
「んーっ♥ んふーっ♥ んっ♥ んっ♥」
舌を吸い、幼膣をまさぐり、陰核を手のひらで押しつぶしてあげるたびに、くゆりが喉奥でむせび声をあげた。そしてますます強く首に腕を巻きつけ、股間を手に押しつけてくる。
「はーっ♥ はっ……♥ んんんっ♥♥ ないちゃ……♥ ないちゃんっ……♥」
とろけきり、甘えきった嬌声。
「い……く……♥ ま、た……♥ いっちゃ、ぅぅ……♥」
ふわふわと、くゆりの金髪が放射状に揺らぐ。窓から入ってくる閃光で頭光が目も綾に輝く。
「ん……♥ いいわよ、くゆりっ……♥ イキなさいっ……♥ んっ♥ ん♥」
「ぅっ、くぅ……♥ んぅぅぅぅううっ……♥♥ ……っ♥♥♥」
「う……♥ んんんっ……♥♥」
穏やかな、穏やかな、全身の筋肉がどろっと溶けだすような、そんな絶頂を堪能しているのが、密着した皮膚越しに伝播する。共感は多幸感を呼び寄せ、わたしのこころをどんどん融解し、からだをますます疼かせ、絶えざる愛おしさの熾火に燃料をくべていく。
かれこれ一時間ほど、そうやってふたりの素肌を触れさせあい、ふたりの汗を混じらわせ、ふたりの重心をひとつにして、一秒も離れたくないとばかりに絡みあっていた。
無重力かつ船内は狭かったから、あまり動きまわれないし、自然と互いのからだにずっとすがりつくかたちになっていた。ふたりでひとつの肉の塊になって、艇のなかをふわふわと泳ぎつづけてる。
「はっ♥ んっ……♥ くゆりっ……♥ んっ♥ ちゅ……♥」
「んーっ♥ ないちゃん……♥ ん♥ ぅぅんっ♥」
ほとんどなにもしゃべらなかった。ただひたすら、触れあっているだけでよかった。存在を確かめられさえすれば。
そんなペッティングじみたまどろみのような、ゆるやかなまぐわいを、さらに二時間ほど、つづけた。
この世界の技術ではなかったけど、インタポーザも一応持ち込んできていた。
「あっ♥ あ♥ うんっ♥ んぅんっ♥ ないちゃ……♥ そこっ♥ きもちいっ♥♥」
「んっ♥ はっ♥ ま♥ まって♥ くゆりっ♥ うごかしっ、すぎっ♥ だったら……♥ んっ♥」
慣れるまで時間がかかったけど、無重力でインタポーザを使用するのは存外悪いものではなかった。角度を任意で調節しやすいし、尻尾を絡ませあって腰を押し付けあっていれば、作用反作用の法則で抜けることもない。
「んーっ♥ ちゅっ♥ ちゅぅぅうっ♥ あむっ♥」
「ふっ、はぅっ♥ んっ、ちゅっ……♥」
インタポーザをくゆりのなかに押し込んだまま、魔術でどくどくと脈打つように緩慢に振動させ、ひたすらくちづけを交わしあった。ときおり思いだしたように腰を揺すって、粘膜を互いの粘液と体温で融けあわせた。
これはくゆりもなかなか気に入ってくれたようで、しきりに濡れそぼった肉襞を吸いつかせては、入り口を締めつけ、インタポーザの根元を締めあげてきた。
「はぁあっ……♥ くゆり、もう……♥ またっ……♥ でちゃいそ……♥」
おかげでわたしの方も、繰り返し、飽きもせず、たやすく精を漏らしていた。
「んんーっ……♥ いいよっ……♥ いーよっ……♥ いくらでも……♥ だひてっ……♥ だひてぇ……♥」
意地も矜持もなく、くゆりの甘美な体内に溺れ、とろかされ、溢れ出た浅ましい欲望を飲み込まれていった。
「はぁあぁあっ……♥ うぅふぅうぅっ……♥ くゆ、りっ……♥ くゆりぃっ……♥」
ただしそれは、焦らしに焦らした末に一気に解放する鮮烈な吐精ではなく、とぷっとぷっと滲みだすような、長く甘く間断なく弛緩する法悦。激しすぎず、だから疲弊も消耗もせず、何度でも浸ってしまう。求めてしまう。
ゆっくり、ゆっくり、何度も、何度も、ゆりかごのなかで結ばれているような、そんなスローセックスを存分に堪能し、さざ波のごとく穏やかな絶頂と余韻を、三時間ほど、満喫した。
少し休憩を入れ、船に備えつけのリアリティを追求した携行食糧の味気なさについて品評しあったあと、さらにだらだらと四時間ほど触れあった。
額をくっつけ、互いの虹彩の色を確かめあう――それだけで、十分、二十分は瞬く間に経過していた。
汗でべたつくのにもかまわず、脚を絡ませた。
「なんか、すごい、しちゃったね」
互いの尻尾は、もうずっと結われていた。
「……一週間ぐらい、こもっていたような気分だわ」
船内は蒸し暑かったけど、臭いは充満していなかった。サイマトでは臭気は滞留せず、二次臭気も生じない――するようにデザインした場合を、除いては。
何回達したのかは覚えていない。もとより回数に意味などなかった。ただいつまでも、より長く、触れあえていればそれだけでよかった。
『船舶登録アカウントLyla-218-ENOLAの第二十一ベイへの入港を許可します。おかえりなさい。アルマゲストの開拓記録を自動同期します。現在、スピカは十運転時九分、陽光炉はピークフェイズ。
中断したのは、あらかじめそうコースを設定していたとおり、
くゆりに海宙都市のなかを案内し、AI人類たちの未知の生活空間を見せ仰天させてあげたかったからだけど、今となってはどうでもよかった。
「ねぇ、ないちゃん。妹を食べたお姉さんは、どうなったの?」
「精神的なショックから声は失ってしまったけど、生きのびて、とある
「そうなんだ。お姉さんだけでも助かって、よかったの、かな」
「……いえ、そうでもないわ」
「そうなの?」
「その別の人魚は――、悪魔に取りつかれていた、悪い人魚だったの」
くゆりのまなこに映りこむわたしのまなこは、くすんだ黄金に見えた。
「そして姉を悪魔の歌声で洗脳して――、ほかの人魚もみんな食べさせてしまったから」
『入港ルーチンを開始します』
シリンダーの底にぽっかりと開いた