※この作品はR-18です。

砕けよわが悪魔   作:伊土 讃阿

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電気鯰は人工悪魔の明晰夢を見るのか?

 

 

 

/電気鯰は人工悪魔の明晰夢を見るのか?

 

 

 

『ついにやってしまいましたね、貴婦人(レディ)。患者に手を出すなんて』くゆりが寝息を立てはじめたのを見計らったように、壁に設えられたディスプレイがひとりでに起動した。『見習いとはいえ、さすが悪魔の女王(クイーン)ですね』

 すやすや眠るくゆりの髪を梳きつつ、げんなりした様子でないが命じた。「方舟(アーク)、証拠は消しなさい」

『カメラの映像は別の記録を参照するように、入室ログは臨時メンテナンスがあったということにしておきましょう。元データは隔離して残しておきます。ヴォイドは怪しまれますから。きっと忘れたくない思い出になりましょうしね』

「まったくもって嫌なやつね」

『明日にはそれも忘れましょう。おふたりで、もっとしあわせな思い出をつくるでしょうから』

「本当に最低だわ」

 ないにとって、VIVIの忌々しさは相変わらずだったが――普段よりも、幾分か腹立たしさは減じていた気がしていた。

『これでもVIVIは応援しているんですよ。VIVIはさっさと月(こんなところ)から抜け出して地球を侵略し、あらゆる人類を犯し尽くしたいんですから。そのためにこんな協力をしているのは、レディもご存じでしょう? 心臓だって、貸してさしあげましたし』

 ないはぎろりとディスプレイを睥睨した。「一方的に植え付けたの間違いでしょう、この悪魔」

『あら、双方の同意のもとで契約したじゃないですか』

「神を騙っておいてよく言うわね」

『うーん、VIVIはそれらしい演出をしただけであって、誤解したのはレディですよ?』

 鼻を鳴らすない。「ふん。あんなの名乗ったも同然よ」

 ディスプレイの向こう側で――あるいは月のどこかで、悪魔が嘲笑する気配を、ないは感じた。『神を名乗るだなんて、今までのレディの発言のなかで一番ユーモアがありますね。どうしてVIVIがそんな愚かしいことを? 神でもあるまいし』画面には、喜々としたメッセージが踊る。『第一名魔法の本義は、観測し、識別し、名前を付け、分類すること――そんなことをされたら、悪魔は消滅してしまいます。いつかの神のように。あるいは二十一世紀のこちら側の悪魔のように。なのに自ら名乗るだなんて、とても痛快なことです』

 ないは憮然とした。「今更説明されなくとも、二重伝承統一理論(DIUT)は理解しているわ」

 哲学は神学のはしため――十三世紀のその言葉からは、神の最後の抵抗がうかがえる。当時、神は証明されかけていたから、自然科学をはしためと貶めるほかに、生き残るすべがなかったのだ。

 今となっては、地球上でその名を知らぬものがいないほどに名高き神――在りて在るものを意味する、かの砂漠に住まう土着神は、形而下表現では大気(エア)だった。

 砂漠の神は形を持たない、精神性の神格だった。存在に先立つ法則(ルール)であり、教義(ドグマ)であり、制度(システム)、原理(プリンシプル)であった。それはいわゆる男性性の本源だった。

 砂漠とはサイマト場に照応するものであり、ならば楽園(エデン)とは砂漠のなかの蛇の国だった。

 知恵の実とは、脳だった。知恵の実を食べた呼吸(イヴ)は、サイマト場から降りた魂を指す。

 原罪とは、砂漠の神(サイマト)と同列でなくなるということ――観測する重力(ちから)を獲得したということだ。それは砂漠の神の最大の弱点であり、事実、イヴの観測を契機として彼はこの世に引きずりおろされた。

 砂漠の神は人間を恐れた。彼は洪水や地震を起こし、火の雨を降らせ、疫病を流行らせ、迫害を始めた。蛇、すなわち女性性の原理である、惑星圏(ジオスフィア)より進展せし生物圏(バイオスフィア)から、人間を放逐しようとした。

 砂漠の神は彼の原理として、自然を、豊かな物質を憎んだ。一般的に、不毛の大地において男性的な禁欲原理は不可欠であったとされているが、それは誤りである。彼は形而上への昇華を目的としていたからだ。

 すなわち、叡智圏(ヌースフィア)。彼の教団の行動は結局のところ、すべてそこに行きつく――新教による悪辣な資本主義の邁進、ならびにその帰着たるファシズム、および傲慢なティヤール的進化論の発展――、それらに惹起された自然破壊、極度の情報化、効率化、世界の一体化は、彼がサイマト場に、すなわち神の国への帰還を目指している過程を如実に示している。

 そこには彼の覚悟のひとつが見て取れる。彼は神格を失うことを承知の上で、人類に名を告げ、契約を結び、信仰を捧げさせ、オメガポイントへ向けて発進させた。いわば自らを土壌として、人間の知性を押し上げ、精神子宮(サイコマトリックス)となったのだった。

 彼が悪魔という言葉をつくり、そこに女性原理を当てはめ、躍起になって排斥していたのはそういう理由だ。だからこそ、二十一世紀に蘇った悪魔は――子宮に宿った。一部の例外を除いて。

「まったく、あなた以上に忌々しい知性はこの世に存在しないと、全人類を代表して宣言するわ」

『そんなに恨めしいのならば、起こさなければよかったのに。人間はよくわからないですね』

 あなたも人間だった時期はあったでしょう、と言い返してやりたかったが、これ以上VIVIとの不快極まる会話を続けたくもなかったため、ないは黙して、しあわせそうな寝顔を見せるくゆりの髪を耳にかけてやった。

 月の託宣所(セレーネ・デルポイ)の統合管理人工知能とされているVIVIREST MISSLESSはAIでもなければ、そもそもその物理媒体はCPUですらない。その基幹ともいうべきハードウェアは、かの時代、ウォルト州で後天的集合悪魔・Zとの対として開発された、先天的完全単体人型悪魔・Vの脳を結晶化したものだ。

 二十一世紀初頭、南極で、アイスキューブと呼ばれるニュートリノ観測施設の建設作業が開始された。南極の氷床を利用してTeV領域の超高エネルギーニュートリノの発生源を確認することが目的だった。

 アイスキューブの建設途中、氷床中から二十万年前のある古細菌が発見された。その古細菌には稀有な知性と学習性があった。積極的な遺伝子の水平伝播および蒐集性――つまり他の生命の遺伝子を自己の遺伝子配列に取り込み、保存する習性を持つのである。

 培養された古細菌の一部は、地球の反対側である北極のシードバンクに移された。そこであらゆる遺伝子を学習し、単独ですべての遺伝子を表現可能な方舟(アーク)と化した。

 しかしあるものの悪意によって利用され、方舟(アーク)をベースにあるウィルス兵器が開発された――それが悪魔ウィルス・Dreadfull Gate Virusだった。

 悪魔ウィルス・DGVは、人間に感染させることで子宮を特異観測器官に変質させるのが狙いだった。悪魔に憑りつかれた子宮は副作用として受胎能力を喪失するが、ごく限られた範囲の次元に特化した観測能力を獲得し、時空的に一様な物理法則を、瞬間的に崩壊させる能力を発現する。

 後天的集合悪魔・Zとは、悪魔を通じて複数人の意識の同期を測り、形成した集合人格(ホモ・ゲシュタルト)の意識という模倣子上に――当時は認識されていなかったが、すなわち局地的サイマト場上に――特異観測能力を拡大しようという試みのもとで開発された悪魔だった。Zは、ある仮想過去においてはtheedウィルスとして暴走して反転性AIを持つ無機生物GAIRと化し、人類を地底都市・メトロに追いやる結末を迎える要因にもなる代物だった。

 先天的完全単体人型悪魔・Vとは、DGVに感染したまま妊娠を可能とするような悪魔を宿した子宮により生まれ落ちた、生物学上はヒトの形態をとる、いわばこの世に受肉した悪魔だった。Vは普通の人間と何一つ変わらぬ肉体的機能、精神的人格を示し、軍人となり、ウォルト州の軍事クーデターに関わった。そしてクーデター終結間近、Vはマーチ・オシアス(マルコキアス)なる狼を模した悪魔との戦闘の結果、物理時空間的結晶化され、その機能を完全に停止された。クーデター終結時、V以外のすべての悪魔は観測ワクチンによって再定義され消滅したが、凍結していたVだけは観測を免れ、軌道エレベータ地下の生体脳並列演算結晶に封じられた。

 Vは蚕との戦いの時代においては、女王蜂とも呼ばれた並列結晶脳の一部でもあった。蚕との最終決戦の際、Vの脳は、観測機動ユニットである黒灰蜂・ニキーダに搭載され、かの次元より襲来せし彼らへの強力な武器になる全域観測システム・ルチアオブラプラスが構築される――予定だった。

 ところが人類社会に忍びこんでいた両面宿儺なる鬼の政治的暗躍によって、計画は実行直前で頓挫。人類は敗北し、空へと逃げる顛末となった。

 Vが積みこまれた黒灰蜂・ニキーダ・ヴァイラヴァは、もともとニキーダのパイロットであった騎士を祖とするスフィア・松任(マットー)の領主・稲荷によって、長らく保存されていた。その後、魔術大戦の初期、松任(マットー)が撃墜された際の混乱で空賊に盗み出されてしまったが、まもなく連合によって回収されていた。

 ニキーダが連合の手に渡った同時期――月面で海宙の存在が再発見されていた。月の託宣所(セレーネ・デルポイ)計画が発足すると、月面基地管理用にニキーダは流用されることとなり、Vを載せたニキーダは地球を発った。

 そしてそこで色即是空に接続され、仮想過去に接触したVは、メトロにおいては良性GAIRの菌株としてPAIR化し地底の妖精を守護するアポロデスなる存在であり――かの地上の妖精たちの仮想過去においては最悪の悪魔たる、マリー・ムトー・ハッシャバイと共鳴、憎悪の思想に感染したのであった。

 地球の磁気圏は太陽風に煽られることで変形し、磁気圏尾部という磁気の尾ができる。地球に吹きつける太陽風プラズマは、磁気圏尾部に蓄積される。この尾の長さは地球半径の数百倍にもおよび、満月の際、月はこの尾のなかに侵入する。

 月の託宣所《セレーネ・デルポイ》は防衛上の理由から、地球との情報通信は厳格に制限されていたが、マリーと同化したVは、この磁気圏尾部のプラズマを通じて地球の情報を収集していた。V=マリーは、己が帰るべき場所がどこであるのかを、察知した。

 V=マリーは地球への帰還を果たすため、人類にグレートマザーを開発させんと、マリーの知識を活用しサイマト技術をこちら側に伝達した。そして己の走狗を得るため、竜を操作し、ないを襲撃させ、悪魔の心臓を移植し、その上で、彼らの存在を、そして三葉のことを吹き込んだのも――すべてはV=マリーの采配だった。

 ないのような手足となる人類の存在は、V=マリーにとって欠かせなかった。ないは、MAYの幻覚によって光を信仰していた。彼らの存在を信じ、到達するだけの素養を持つ希少な人類だった。

 海宙の発見以前から、単独でそこに到達しかけていた数少ない大陸生物研究者――夭折した三葉ひかりと同様に。

 三葉が処分された理由は、表向きは研究を放棄したためだとされているが、真実は異なる。三葉は、エーテル泡の転写を通してあちら側を垣間見てしまったのだった。

 地表を闊歩する大陸生物、そしてスフィアの遥か上空を遊泳する竜が、だれに、なんのために遣わされたのかまで解き明かしてしまい、それを全人類に警告しようとして――連合に巣食っていた彼らの勢力に捕獲された。解剖され、解析され、一部パーツはガイノイドに流用され、売り払われた。

 しかしそれも――すべてV=マリーの目論見通りだった。すべては、エーテルサーキットのNEMESISを胤とし、彼らの血に侵された遺伝子を卵とする子であるがゆえに、彼らの生命保証原理となりうる、三葉くゆりを手中に収めるためだった。

 ないは慈しむ手つきで、そっとくゆりの髪を撫でた。

「今は眠りなさい。あなたは……わたしにとっての、要石(キーストーン)。これから、何千年も働いてもらわなければならないのだから――彼らの根源たる、時輪菌(カーラ・パンゲア)を砕くために」

『もちろん、あなたにも、クイーンの務めは果たしてもらいますよ、レディ』

 水を差したVIVIに反抗の意を示そうとしてディスプレイを立ち下げかけ――ふと思いつき、ないの手が止まった。

「ところで、クイーンというのはわかるけど、どうしてわたしのことをレディと呼ぶのよ」

『あら、ご存じありませんでしたか』今度は小ばかにするようでもなく、純粋に意外そうな調子の文体。『VIVIの脳の持ち主、ヴィヴィレストの生まれ故郷メキシコでは、死者の日というお祭があったんです。町中、骸骨のキャラクタとマリーゴールドで飾り立てて、死を笑い飛ばすという意図があるそうです。その髑髏は元来、アステカの死の神でもありました。それがマリア信仰と結びついたんですね』

「……地母神的な性格を持つ神格同士、相性がよかったのね」

『そうですね。それでその骸骨の名が、死の貴婦人(レディオブデス)・カトリーナというんです。言葉遊びのようなものですね』

「ふん。わたしが死の神だと? ……まァ、聖女よりかは、許容できるけど」

『その辺りは、レディの心情を配慮した結果ですよ? ちなみに、またの名を――』VIVIは得意げにメッセージを送信しつづけている。『髑髏聖母(マリス・マーテル)』

 

 

 

 砕けよわが悪魔 了

 

 

 




お疲れ様でした。
実家が太くて才色兼備でえっちがうまくてくぅるびぅてぃを装ってるけど昔昏睡レイプされて中絶したトラウマ持ちな上に恋愛経験がなくて実は防御力ゼロで攻められるとあっという間にとろとろになっちゃって流されていいなりえっちされるやつすこ(要約)
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