百合はいつかガンに効くようになる!オルタナティブ! 作:伊土 讃阿
/Stage II promotion - 促進 -
/part 7 R.U.R.
「ヘイおまち。これでぜんぶだぜ」
でんっとじゅうたんの上に置かれたのは、じーじの妙めものが山と盛られたお皿です。ほかにも、じーじの炊いたんや、揚げじーじ、焼きじーじ、蒸しじーじ、じーじ鍋、じーじの刺身、などなど、など。
マチが感嘆の声をあげ、仔鷲の羽をもわっとふくらませました。
「ふゎ、すごいです、
「食材はじーじだけだがな」
隠れ家への帰り道、食糧にと何体か狩っておいたじーじを、深淵さんが料理してくれたんですけど……(調理器具や調味料なんかは深淵さんの寮から回収しました)。
「ちょ、さすがにおおすぎない? これ」
「どれがうめえかわからねえからな、一通りつくってみた。ぜんぶアタシが食うから気にすんな」
「健啖ね……。でもじーじって、ガンが原料だって、サリンジャーさんが言ってたわ。食べてもだいじょうぶなのかしら?」
「こええならやめとけよ、てめえの勝手だ。すくなくとも生で食った感じ、毒じゃなさそうだったがな。遅行性だったとしても、今飢えで苦しんで死ぬか、今腹いっぱいになってあとで毒で苦しんで死ぬかだ」
「……それもそうね、食べなきゃ、やってられないものね。いただきまーす」
わたしは意を決して揚げじーじをくちに運びました。さっくりした衣のなかから、じゅわっと熱い肉汁があふれ出てきて、おくちのなかに濃厚なうまみが広がります。
味は……ぽよにかなり似てるかしら? 揚げぽよって言われて出されたら、ぜったいわかんないです。
「んーっ! おいしい! めちゃくちゃおいしいわ!」
「J.K.に来て、こんなに、おいしいの、食べたことない、です、よ……。びっくり、です。ね」
「んぐ。ま、こんなもんか。こっちも……、まあいけるな。しっかし、ぽよとちがって、どれもおんなし食感なのがちとアレだな。工夫しねえと飽きるわ」
「そうかしら? すでにどこのぽよ料理店よりも上まわってるわよ、これ。さすがメイドさんよね」
「メイドは関係ねえ。料理はこっちきて自炊しながら覚えたもんだかんな。ここに来るまでに使われてたのは貴族とか金持ちばっかだから、ちゃんとしたコックいたんだよ」
「ふうん。でもここまでできるだなんて。料理が好きなの?」
「単にうめえもんがたらふく食いたかっただけだ、ちっせえときからな」
じーじのお吸いものをすする深淵さんは、遠い目をしています。
「たいていのもん消化分解できちまうようにいじられたから、奴隷時代、まともな飯なんかもらえなかった。スレイヴジェネレータのせいで始終腹ペコだしよ。
食えるもんならなんでも食ったぜ。家具の磨き粉に使い古した石鹸、ろうそくの燃えさし、うえす、ネズミとか虫、庭の落ち葉……、生石灰で縮んでく、屍肉。羊の目玉だきゃ余りがちだったから、よく手に入ったっけか。カトリナのババアの残飯がありゃ、そりゃもうごちそうだったもんだ。あんな生活は二度とごめんだがな」
……ホントに石鹸食べてたひといるんだ、とわたしとマチは目を見あわせました。
「ミセス・ミラーカを食べたら承知しないわよ」
ソファで仰向けになり胸のうえで吸血フィンチを眠らせつつ、ぴこぴこ
「あ? 今さらそんなちっせえの食うか。もっと太らせてから言いやがれ。それよかてめえら、あとで洗濯もんだしとけよ。まとめてやっちまうからよ」
わたしは思わず吹き出してしまっていました。
「深淵さん、なんだかお母さんみたいね」
「あ? ちげえっての。節約しなきゃなんねえだろが。アタシがやったほうが効率いいだろうしよ」
うーん、やっぱりお母さんぽい。
「オイてめえもだぞ音波。ゲームしてる暇あったらちったあ片付けろ」
「あたしはいい。昨日着替えたばっかもの」
「毎日変えろ、下着ぐらい」
「この下着の肌触り、気に入ってるのよ。裏返せば明後日までいけるわ。節約するんでしょ?」
「不潔なんだっての!」
「ちっ……。ぱんつ持ってくればよかった」
音波さんのぼそっとしたつぶやきに、わたしは疑問符を浮かべました。
「あれ? 音波さん、荷物かなり持ちこんでなかった? 下着は持ってこなかったの?」
「ほとんどゲームよ」
「ああ? あのなあ、アタシとリナが苦労してじーじやら生活用品やら運んでるなか、てめえだけゲーム運んでたのかよ!」
「娯楽だって必要でしょ。心が病むわよ」
「優先順序ってもんがあんだろが!」
「なに? あんたたちもやりたいの? べつに貸してもいいわよ。ソフトも
「はあ、てめ、ほんっと、てめ……」
と言いつつも、咥え箸でちゃっかり音波さんのかばんをがばっと開く深淵さんでした。マチもちょっと気になったのか、座ったまま背伸びして覗いてます。
「古い、Yuritchばかりです、ね。たしか、H&Cインダストリが、つくってた頃の――」
「……当然でしょ。ペンデュラムズのYuritchは改造ソフトも使えないし、監視されてるって噂だったもの。品質も、十年前のH&Cインダストリ製のほうがずっといいの。おかげで五十台用意するのに苦労したわ」
「五十台って……。ゲーム機ってそんなにいるものなの?」
「各セーフハウスに二台は置いてるから」
完全にお金持ちの発想です。
「あ? なんだこれ? おんなしサッカーのカセットゲームばっかじゃねえか」
「中身はぜんぶちがうわ」
「へえ、そうなのか? ……っててめ!」
深淵さんはゲームを起動するなり、むせかえって箸を落としました。
「なんかめっちゃえっちそうなゲームじゃねえか!」
「んぐ!?」
わたしもじーじをのどに詰まらせました。とんとんとマチが背中を叩いてくれてます。音波さんは平静平然。
「だから?」
「てっめ、レズは嫌いとか言ってたくせによ!」
「嫌いだけど、だから?」
「だから、って……」
「えっちなゲームはあたしひとりでシコるためのものよ。レズ行為は一切関係ないでしょ」
「しこ――、いや、ま、そらそうかもだけどよ……!」
深淵さんは赤毛が暗く見えるぐらい真っ赤になって、ゲームを元に戻してお箸を噛みました。
「ったく、妙なもん持ってきやがって……。はあ、なんかもう怒るのも疲れたわ……」
「あ、持ってくるといえば、音波さん、ごめん。これ、なんか流れで持ってきちゃってたの。返すわね」
わたしは宝物庫で拝借していた黄金の斧をかかげると、マチがおっかなびっくりといった感じで、くちを開きました。
「そ、それ、"ラブリュス"、ですよ、ね。予岐 佐波、の」
「え? なにそれ?」
「すぁ、せ、千年前に、予岐 佐波が取ったノーベル賞のメダル、十枚を溶かした
首波さんはちらっと一瞥しましたけど、興昧なさそうにゲームに戻りました。
「それうちのだったの? 持ってていいわよ」
「え、でも、すごい値打ちものなんじゃないの?」
「ホンモノかどうかもわからないじゃない。ホンモノだったとしてもそんなかわいくないものどうでもいい。持ってるのもめんどくさい。だいいち、あんたがそれで自己防衛できてあたしに干渉する可能性が減るなら、そのほうがいいわ」
「雑すぎんだろ……。てか、嫌われすぎだろ、リナ」
なんか、もう慣れてきちゃいました。
「ま、あの切れ味からしてただのレプリ力ってわけじゃなさそうだが。ちょい見せてみろよ。……ってめちゃくちゃ重いじゃねえかこれ! よくこんなの振りまわしてたなてめえ」
深淵さんは両手でも持ちあげるのがやっとというところでした。
「うーん、べつにわたし、そこまでちから持ちってわけじゃないんだけど……。直前まで音波さんに肩貸してたから、鍛えられちゃったのかしら」
「は?」
「あ、ごめん、なんでもないわ」
「そうじゃないわよ」
音波さんがこちらに腕を伸ばして、わたしたちにYuritchの画面を見せてきました。映っていたのはえっちなゲーム、ではなく、Yu-Lintterにアップされている動画です。
あ、そっか、端末代わりにもなるのね、このゲーム機……。
JKPに追跡されてる
動画が、再生されました。
『ちゃおちゃおじゃんくみぃつ。はうあーゆ? JD、サリンジャーでぇす!』
ピンクの照明で照らされた、クジラの胃のなかのような、ぬらぬら光る粘膜に囲まれた部屋。極彩色の長髪と鏡色の眼を持つJDがカメラに向かって手を振っていました。
『ザ・キャッチャー・イン・ザ・L計画が始動してぇ、ちょうど二十四時間経ちまぁした。わたぁしたちJKPはぁ、これまでぇで、全じゃんくみぃつの五十パーセントのキャぁッチに成功しまぁした! そのうぅち、十パーセントはすでぇにレズ奴隷と化しまぁしたよ! いえー! ぱちぱちばち!』
「クソ……思ったよか手際よくやってやがんな」
「そん、な……もう、半分、も……」
深淵さんが左目をすがめ、マチは唇を震わせました。
『J.K.を守ぉる特待生も、このとおりでぇす!』
がたがたっと画面が暴れ、カメラが振り向くと――わたしの見知った顔が映し出されました。一糸まとわぬ姿で。夢魔JKたちに、全身をいじくられながら。
『んあぁぁっ、科藻さんっ♥ 科藻さんっ♥ 科藻さぁんっ♥ すきぃっ、だいすきぃっ♥ マロンのあそこぉっ、もっとほじってぇぇっ♥♥ ひゃあぁんっ♥♥♥』
『んおぉぉおっ♥ も♥ やめっ♥ くすりっ♥ 打つなぁああっ♥♥ ぢぬっ♥ おがぢぐなりゅっ♥ あああああぁあっ♥♥♥』
ああ、そんな……。
思わず目を覆いたくなるような、マロンさんとこころさんの、あられもない姿。
――のいつぇるふぁ。のいつぇるふぁ。のいつぇるふぁ。
痛い……頭が……。いつかの光景に、重なって……。
『ふたぁりとも、べりべりはぴーそでぇすね!
わたぁしたち、じゃんくみぃつに痛いこと、ぜったいしませぇん。苦しめること、ありませぇん。らぶあんどぴーすがもっとーでぇす。あざーじゃんくみも、むだな抵抗ぅはやめぇて、はやく降伏してくだぁさい。そしぃて、みんなでつながりまっしょー!
みんなぁでつながぁって、感情のガイア、なれれぇば、どぉんな苦痛も不安も、意味なくなりまぁす! 自由になりまぁす! 百合からだってぇ、解放されぇるのでぇす!
動画は、そこまででした。音波さんが腕を引っこめ、Yu-Lintterを更新する仕事にとりかかりました。
「けっ、胸糞わり。なんかたいそうなことほざいてやがったが、連中、結局金目的なんだろ」
深淵さんが焼きじーじの塊に盛大に噛みつきました。
「……ほんとうに、そうなん、でしょ、か……。なんだか、もっと、おそろしい、目的、あるような、気が……」
マチが深く考え込むように羽をぎゅっとたたみます。
「あ? どういうこった? わかりやすく言えって」
「ひっ。あ、あの、え。と……」
深淵さんに問われて、たじたじするマチ。音波さんが珍しく、くちを挟みました。
「予岐 佐波のよっぽどの信奉者よ、あの奇天烈女」
「あ? だぁら意味わかんねえっての」
「予岐 佐波は恋人をガンで亡くしたんだけど、その恋人が、"サリンジャー"って名前だったのよ」
「……へえ。詳しいじゃねえか。予岐 佐波ってあれだろ、百合作家だろ? 変態ゲーム以外もやるんだな、てめえ」
「予岐 佐波自身、何本かえっちゲームを残してたから、多少は知ってるのよ。性癖は千年後の今でもドン引きするぐらいねじまがっててキモいけど、めちゃシコいの」
「ぶれねえやつだぜ、まったく。ちょっと感心したのによ」
「……? せいへき? しこい? って、どういう意味――」
「あ、あー、あ、で、でも、予岐 佐波は、共同ペンネーム、とゆのが一般的です、けど」
用語の意味がわからなくて質問しようとしたんですけど、マチに食い気味に流されてしまいました。
「共同ペンネーム? ってなんだ?」
「複数の作家さんが、おなじ名前を使う、ことです、ね。予岐 佐波は、作品数が、膨大、ですし、五百年ぐらい前、までずっと、予岐 佐波名義の本や、漫画やゲームや音声、映像作品が、散発的に発表されてた、です。
生前発表、されなかったのが、発見されて、とゆ名目でしたけど、そのときどきによって、作風ががらっと変わってたん、です。百合である、ことは一貫、してましたけど……」
「はあ。最初に名乗ったやつはともかくとしてよ、なんでそんなことしたんだ、後続の連中はよ。自分の手柄になんねえじゃねえか」
似たような話を、以前マチとした覚えがあります。
「たぶん、ブランド名を借りたってとこかしらね。たとえば深淵さんが自分の名前で本を出してもだれも見向きもしてくれないけど、予岐 佐波の名前で出しとけば、とりあえずで買うひとは結構いるでしょ? いんちきみたいだけど」
「ははあ、なるほどな。せこいけど理にかなってんな。アタシも予岐 佐波名義で本出すか」
「深淵さん、読み書きできるの?」
「てめえ、わりとナチュラルに偏見するよな」
「だって、学校行ったことないって言ってたじゃない」
「……読み書きなら、教えてもらったっつの」
「あ、興味あるなら、ここに」
マチは、『生命再生承ります』をみんなに(音波さんはゲームに戻ってましたけど)見えるよう膝に乗せました。
「最初期の、たぶんひとりめの、予岐 佐波が、つくったといわれる本、あります、よ」
「んや、本とか正直どうでもいいけどよ。眠くなるし。ちなみに、そりゃどんな本なんだ? それもえっちなやつなのか?」
「ち、ちがいます。これはふつうの、異母姉妹百合モノ、です。内容は、核戦争が起こって、世界中に、
わたしも、一度読んだことがあります。
「ガンと調和しているのよね。ガンを撲滅しようとしてる現実の世界とは、まるで逆の物語なの。……あれ? そういえば、じーじの原料ってガン、だったわよね。もしかして――」
「じーじは、この本の新人類を、モデルにつくられた、可能性、あります、ね」
わたしの疑問に応えるように、マチがうなずきました。
「初期の予岐 佐波は、死を恐れてたん、です。というより、憎悪。していた。作品のなかでさえ、人間だけじゃなくて、生物が死ぬこと、ほとんどなかった、です、ね。どれだけ、傷ついて、苦しんでも……、命が失われることだけは、なくって。最後には、みんな、生きて、苦難を乗り越える……。徹底して、"生物は感情のガイアである"とゆ、信念のもとで、 物語と、思想を生み出して、ました」
「感情のガイア? 自称サリンジャーも言ってたな。なんだそりゃ」
「地球上の、生命の魂の意義は、感情とその相互作用にこそ、ある。感情の相互作用が、すべての社会・思想・文化・歴史、の原動力となり、意味を、つくった。感情は、魂の通貨。だから……いかなる感情、を持つ生命にも等しい価値があって、共同体にとっては、大切な部品、つまり、ガイアである。それが、ひとつでも、失われることは、"
その思想を、あのサリンジャーは、持ち出して、ました。そこに、なにか意味がある、よな、気がして……」
語りながら、マチは蝋燭みたいに白く細い指で、本のタイトルをそうっと撫でていきました。その感触をなぜだか想像してしまって、わたしはさっと目を背けました。
「へえ。で、その思想を引用してきたあの自称サリンジャーが……ややこしいな、パチモンだから"パチンジャー"ってことにしとくか。パチンジャーも、予岐 佐波には詳しいはずってか。ま、よくわかんねえがよ、そういうの。平等主義とか博愛主義ってのか? パチンジャーが実際にやってることとはまるで正反対じゃねえのか?」
「ふん。初期佐波だって、とんでもない自己中な人類本位の狂人よ」
音波さんが失笑しました。
「生き物は死なせたくない、でもおいしいごはんは食べたいって言って、あらゆる動物を品種改良して神経が未発達な畸形家畜を生み出しまくったのよ。これで感情が生じてないから食べれるな! ってね」
「あ? ひっでえな。パチンジャー並みにとんでもねえクソアマじゃねェか」
「マジでクソよ。初期佐波の人格ははっきり言って大嫌いだわ」
「でもゲームはやるんだろ?」
「つくった人間とつくりだされたものは関係ないわ。ま、いちばんの理由はマイナージャンルだから仕方なく、なんだけど」
「そこだけはぶれねえな、マジで」
「ん。と。その、やり方はともかく、として、けじめ、つけるひと、だったんだと思います、よ」
「ま、死んだやつのこたどうでもいいけどよ。話を戻すと、なんでパチンジャーが、予岐 佐波の女の名前名乗ってんだ? サリンジャーがレズ女だったのか?」
マチはゆるゆると首を振りました。
「サリンジャーについての情報、ほとんどない、です。ただ、サリンジャーも百合作家、で、ペンネームだったという話、です。作品は、散逸しちゃったみたい、です、けど」
「サリンジャーも予岐 佐波を名乗ってつくってたってこともあんのか?」
「あるかも、です、ね。あの、あたし、も……あのサリンジャーの、正体、気になって、その、レズデリヘル世界一位、て、言ってたので、なんかわかるかも、と思って、いろいろ調べようとは、したんです、けど。地上とのネット、切られちゃってて……。J.K.のネットからは、なにも、見つからなかった、です、ね……」
「パチンジャーのやつ、たしかペン女のOGつってたか? 学校いきゃ、なんかわかるかもしんねえけど、ちと危険すぎんな……。音波は? なんか知らねえのか」
「知らない。というか、あんた、なんでそんなこと気にしてるわけ?」
「あ? なんかヒントになるかと思ってよ」
「なんのよ」
「生き抜くためのだよ。いつまでもここに立てこもって暮らせるわけねえだろ。外の世界の連中が助けてくれるとは思えねえしよ。ちょっとでも敵の情報集めときてえんだ。なんにせよ、情報がねえと、先々まで考えて動けねえだろ」
「ふうん。あっそ」
「あっそ、てな。てめ。ひとごとみてえに」
――先々、ね。
深淵さんの言うとおり、きちんと決めて、進んでいかなくちゃ。
「あのね、みんな、ちょっと聞いてほしいの」
わたしは居住まいを正して、マチ、音波さん、深淵さんの顔を順繰りに眺めました。
「昨日の襲撃の直後から、さっきまでで、わたしはJ.K.中でレズ行為に立ち向かおうとしてるJKたちをたくさん見たわ。そして、今日、わたしたちはちからを合わせて、サリンジャーさんやタマさん科藻さんを追い返すこともできた。
それで、JKみんなのちからを合わせたら、いろいろなんとかなるんじゃないかって思ったの。だからわたし――、
一拍置きましたけど、マチも、深淵さんも、口出しせずにじっとわたしに注目してくれています。音波さんは、絶賛Yu-Lintter中。
「クロスが追跡されてるって情報は今拡散中だから、明日にも大半のJKがYu-Lintterを見れなくなって、連絡手段がなくなっちゃうはずよね。仲間を集めるのは、きっと大変だと思う。でも賛同してくれる子は、たぶん、探せばいると思うの、ぜったい。かなり。
JKPが、世界がわたしたちをレズ奴隷にして利用しようとするのなら、わたしたちはJKとして世界から独立しなくちゃならないわ。世界と対等な立場として。そのための下地、じゃないけど、秩序を持った組織みたいなのは、必要かな、って思うの。どうかしら? みんな、手伝って、くれない?」
マチは、ふたつ返事で了承してくれました。
「あの……。はい、ぜひ。あたしも、JKPのやってること、認められないです、し……JKPと、戦いたい、です。可能なら、捕まったひとたちも、助けたりとか、して」
「あ、そうね、それも必要だわね。ありがとう、頼りにしてるわ、マチ」
「んぇ……たいして、お役に立てないかもです、けど……」
「そんなことないわ! マチはすごく物知りで賢いもの。マチがいてくれれば百人力よ!」
「……んへ」
「――アタシもいいぜ」
深淵さんも、あっさりOKしてくれました。説得が必要だと思っていたので、ちょっと驚きです。
「いいの? 自分の計画があるって言ってたけど」
「アタシの計画よか、面白そうだからな」
深淵さんは肩をすくめて、残りのじーじ料理をかきこみはじめました。
「ちなみに深淵さんの計画ってのはなんだったの?」
「んあ? 大量の食いもんを集めてから、ブラックホールで掘り進んで地上を目指す。そんだけだ」
「なんというか……めちゃくちゃちからわざね」
「だからこそ相手の想定外になんだ。ま、正直あんまし現実的じゃなかったがな。JKPに立ち向かうって気概は、気に入った。レジスタンスとやらがぶっつぶれるまでは、付きあってやらあよ」
「ありがとう! それで、音波さ――」
「あたしはやんないわよそんなだるいこと」
なによりも予測できたお返事です。
「あ? てめなに言ってんだいまさら。レズを否定するつったじゃねえか」
「は? 否定しただけでわざわざこっちから出向いて排除したいわけじゃないわよ。でなければ、あたしが望む以外のすべての世界を滅ぼす魔女になるしかないでしょ。ちがう?」
「いやま……、そらそうだけどよ」
「サリンジャーの世界を阻止するためには、あたしがレズ奴隷に堕ちなきゃそれでいい。あたしは博愛主義者だから必要最低限の血しか求めない。無用な血は流したくないの」
「てめえ……てめ、はあ、んっとに協調性ゼロだな」
「そうよ。それが?」
「それがて」
「それよりもね、あんた。なにレジスタンスに入るとか言ってるの? あんたはあたしの血袋なんだから、勝手にどっか行くなんて許さないわよ」
「あ?」
「自分で言ったじゃないの。からだを返すって。あんたのからだはあたしのものよ」
「ああ? あれはあのときだけだっての。アタシのからだはアタシのもんに決まってんだろ」
「は? あんたねえ、あたしの家と食糧めちゃくちゃにしたんだから責任取るぐらいできないわけ? 黙ってあたしについてきなさいよ、食糧として」
「あああ? んだコラ、生意気なメスガキが。やんのかオイ。飯食ったあとだ、いいんだぜ、本気出してもよ」
「は? 上等よ。表に出なさい。あんたの手足切り刻んで無限輸血袋にしてやるわ」
ゲームを脇に投げて音波さんがらしくなくからだを起こしました。音波さんの胸からすべりおちて目を覚ましたミセス・ミラーカが、ぴいぴいと鳴いて飛びまわり、マチをおびえさせました。
「ちょ、ちょっと、すとっぷ! すとーっぶよ、音波さん、深淵さん!」
一触即発のふたりの間に割り込みます。
「ね、いきなり仲間割れしないでよ、ふたりとも」
「仲間じゃないわよ」「仲間じゃねえよ」
「ともかく! あのね、これは誤解してほしくないんだけど、わたしはレジスタンスによってJKを縛りつけようとか、そういうつもりはないの。すべてのJKから完全な同意を得られるわけないもの。みんな、SRY宣言の同意で痛い目を見ちゃったしね。きっとJKにも怪しまれると思う。
だから、もちろん、秩序は必要だけど、レジスタンスからJKになにかを強要したり命令したりはしません。ただ、いっしょになって、立ち向かってほしいってだけ。そのほうがきっと安心できて、なんとかなりそうな気がするから。どっちかって言うと、
音波さんにめんどうなことはお願いしないわ。ただ仲間として、共にいてほしいの。ひとりでも多く、おなじ気持ちの仲間がいるってだけで、ほかの仲間のちからになれるから。それだけよ。ね。それでも、だめかしら? それとも、まだわたしの説得聞きたい? あなた、知ってると思うけど、わたし、結構しつこくてうざいわよ?」
「……ちっ。はあ……名前だけの、仮参加よ」
音波さんはゲームを拾いあげ、脚を投げ出すようにしてまた横になりました。ミセス・ミラーカが、主人の平坦な胸の上に着陸します。
「――それに、ぜったいになにもしないから」
「うん、それでいいわ」
やれやれとばかりに、深淵さんが空になったお皿を重ねていきます。
「そんで、仲間とか言ってるがよ、具体的にどう集めるんだ? あてはあんのか?」
「ううん、まだないわ。とにかく出会ったJKには声をかけるつもり、だったけど」
「言っちゃわるいがよ、現実的な話、あんまし足手まといばっか集めても仕方ねえぜ」
「それは……」
「べつにそいつらを仲間にすんなとは言わねえ。でもそいつらが自分の身を守れねえなら、こっちが守ってやれなきゃただのお荷物だろ。昼間にした人質の話とおんなしだ」
「うん、そうよね……」
「だからまず方針としてだ、特待生を探して、味方につけろ」
「……? 特待生ってなに?」
顔を見合わせたマチも知らない様子で首をひねってます。
「ま、そらそうだろな。特待生ってのは、JKを守護するための存在で、"魔女"とも呼ばれてる。J.K.には、JKしかいないから自衛力がねえ。JKを軍隊化もできねえし、じーじどもは戦えねえ。だから最初から、国を防衛するほどのなにかしらの手段を持ったJKを、莫大な援助金で雇ってJ.K.の守りを任せてんだ。アタシはJ.K.に来んのに試験なんざ受けちゃいねえ。でなきゃアタシなんかぜってえ落ちてるからな。名前すら書かなかったぜ。……オイなんだその目はよ、名前ぐれえ書けるっての。
んで、そういう連中が、今回みたいな襲撃がありゃ出撃してこれを鎮圧する、ってわけだ。今回のはJKPご本人が制圧しにかかってきやがったから、なんの通達もなかったがな」
「ぜんぜん知らなかったわ……。そんなJKがいたなんて」
「特待生本人を守るために極秘にされてたんだ。が、戦ってるとこ見りゃすぐわかるはずだ。明らかにほかのJKとは格がダンチだろうからな」
「ははあ、なるほど。音波さんや、深淵さんもそうなのね!」
「んや、アタシは厳密には、元特待生だ。入学後に、コスパわるすぎてまともに力が使えねえのがバレて、クビになった」
「コスパ?」
「……この際言っちまうが、天の咢は前日にしこたま食っても日に三回ぐらいしか使えねえんだ。そのうえあんまし精密な制御もできねえ。自爆テロならともかく、防衛力としては下の下、ないほうがましなくらいだ。天の咢を下ごしらえするために多少重力もいじくれるが、こっちはほとんどおまけだ。
特待生だったときゃ、"
「闇の魔女!」
「ものすごく、かっこい、です、ね」
「天の咢を使うから、闇なのかしら」
「あー? たぶんな」
ちょっとはにかむように、深淵さんが頭を掻きました。盛りあがってきたわた したちを、音波さんが鼻で笑いました。
「天の、なに、技名? きっしょ」
「んだよ、いいだろべつに。てめこそ何番目の災いで、なんの魔女なんだよ」
「なんで言わなきゃいけないわけ?」
「あの。温羅杜さん。気に、なります、あたし……。教えてくれない、です、か」
「っ……」
予想外に食いついたマチに圧されてか、音波さんがしぶしぶといったふうに白状しました。
「……"
「ぶよ? ぶよぶよ? 重いからってことかしら?」
「は? あんた喧嘩売ってる?」
「ど、どお。どお。蚋って、血を吸う虫。ですよ、ね。温羅杜さんが、吸血JKだから、ってことです、か」
「ちがうわ。蚋に限った話ではないけど、動植物の行動を誘導できるの、フェロモンで。それで、吸血動物とかに収集させた血を相変化させたりするのが、あたしの本気の戦い方。J.K.には誘導できる生き物いないから、フル出力出せないけど」
「え……フェロモンて、なんかえっちね……」
「は?」
ぎろっと音波さんがわたしをにらみつけるなり、ミセス・ミラーカが弾丸のようにすっ飛んできて、わたしの頭を猛烈についばみはじめました。
「あだっ!? あだだっ! ちょ! やめ! 痛いわ!?」
「これでもそう思うわけ?」
「おっ、思わない! 思わないから!」
「……ふん」
「いたぁ……」
ふう……。血は出てません。髪の毛も無事みたい。
「……ともかく、だ。アタシが第九だったってことは、特待生はアタシをのけても最低八人いるはずだ」
「かなり、少数、精鋭です、ね。J.K.って、わりと広いですし、守るなら、もっといても、いいような……」
「逆に、卒業した子もいるんじゃないかしら? 八人からさらに減ってるってこともない?」
「アタシのあとで入った音波が第三だ。たぶん、抜けたら代替わりしてる。代替わりしてるってことは、枠はそんなにねえ。だから数も、判明してる以上には期待しねえほうがいい。ただ、第九はひょっとしたら新しいのがいるかもしれねえな」
「なるほどね」
「昨日の襲撃で、フートンにいたふたりがやられちまったのは目撃した。音波のけて、最大で残り五人てとこだな」
「ぁ、それなら、ペンシー、の生徒会のマロン先輩、こころ先輩も、たぶん特待生です、ね。マロン先輩たちも、サリンジャーさん、最初に出てきたとき、戦って、捕まっちゃいました、けど」
「ああ、さっき動画に出てたふたりか。なら残り三人。思ったよりすくねえな……。音波は? 特待生のネタはねえのか?」
「ない」
「噂でもいいんだぜ。ダチ多いんだろ? ずっとYu-Lintterいじってんだしよ。だれからかなんか情報あったんじゃねえのか?」
「っ……。……ないから」
「しょうがねえな。とにかく、徒党組むんならまずはその三人を見つけるとこからはじめるこったな」
「でも、どうやって見つけたらいいのかしら?」
「パチンジャーどもは、風紀委員を探すと同時に、たぶん特待生も捕まえようとしてた。最大の脅威だからな。そして特待生の目星は、あっちはついてたはずだ」
「あ、だから今日、タマさん科藻さん、サリンジャーさんが屋敷に現れたのね。わたしと、音波さんを狙って!」
「そういうこったろうな。JKがクロスを捨てはじめた今となっちゃ、あっちも追跡はできねえだろうが、どうにか特待生を優先的に探して、交戦するはずだ。だから鉄火場があれば、そこに突っこむ。あぶねえが、それがいちばん効率的だろうよ。
捕まった連中を助けるのもわるかねえが、まずは手堅く戦力を集めるとっからだ。JKがどこにぶちこまれてるかもわかってねえからな」
「なるほど。たしかにそうね。ひとまず明日からは情報収集と食糧調達もかねて外の探索になるかしら」
「ああ。守りがしっかりしてるならともかく、あんましおなじとこを根城にすんのもよかねえしな」
「たしかにね。そうだ、音波さん、ほかにもセーフハウスはあるのよね? 案内してもらえない?」
「……あるけど、使わせないわよ」
「えー、なんでよ、けち」
「は? けちならここもあげてないわよ。あのね。組織にするなら、大所帯になるんでしょ。あたしのセーフハウスは基本的におひとりさま用なの」
「あ、そっか……。うーん、なら拠点探しもしなくちゃ……。やることいっぱいあるわね……」
思い切って言い出したことでしたけど、なかなか前途多難そうです。マチがきゅっとわたしの手を握ってくれました。
「先輩、がんばり、ましょ。あたしも、精いっぱい、お手伝い、します、ので」
「……うん、ありがと」
「んでよ、気になってたんだが――。レジスタンスの名前はあんのか? 必要だろ、そういうの。ふわふわしとかないためにもよ」
「あ、よくぞ聞いてくれたわね。それはね、実はもう考えてるの。相手がL.U.L.でしょ? だからそれにあやかって、というか、対抗して、"R.U.R."にしようと思うの!」
「へえ。ま、いいんじゃねえのか。何の略だ? "リナ・兎浪・レジスタンスか"?」
「まさか! わたしそこまで自己主張激しくないわよ。R.U.R.はね――、"レズ奴隷化・許さない・レジスタンス"の略よ!」
「……」
「……」
「……」
胸を張って自信満々に発表したのに、三人の反応は、重い沈黙。最初にくちを開いたのは、音波さんでした。
「だっさ。コミュ抜けるわ」
「正式参加してから言えっての。だがま、たしかにだせえわ。新規の仲間には言わねえほうがいいぞ」
「んっと。それだと、L.U.R.か、R.Y.R.……かなあ、て。思います、よ」
深淵さんは苦笑、マチでさえあんまし芳しい感触じゃないです。
ええ……そんなだめだったかしら。わかりやすくていいと思ったんですけど。
音波さんがあくびをして、のっそり起きあがりました。
「……寝るわ」
「ん、ああ、いい時間だな。アタシももう寝るか。洗いもんはリナと
「ええ、もちろん、ごちそうになったんだもの、後片付けぐらいはやっておくわ」
「はい、まかせて、ください。ごちそ、さま、でした」
「おう、おそまつさん。んじゃな、おやすみ。あったかくして寝ろよ」
といって、奥の個室に入ろうとする深淵さんを、音波さんが怒鳴りました。
「は!? ちょっと! なに自然にこっち来てんのよ! あんたはこの部屋で寝なさいよ!」
「あ? ソファにおさまらねえんだよ、三人じゃ。そっちにもソファひとつあったろ」
「は? なんで知ってるわけ?」
「てめえがシャワー浴びてるあいだに散らかってた部屋片付けといてやったんだよ。感謝しろよな」
「はあ!? ひとのものに勝手に触らないでよ! というか断りなく部屋に入らないで!」
「おう、じゃ、入るぜ」
「やめてったら!」
「んだよ、断ったろ?」
「入っていいとは言ってないでしょ! あんたとおなじ部屋で寝るなんて本気でいや! せっ、せめて……、とっ、時須がいいわ!」
「てめえ、時須が気弱なとこにつけこんでぜってえ追い出すだろ」
「そんなことしないわよ!」
「それにアタシとリナじゃソファにおさまんねえんだよ。あいつ尻でけえから」
「んまっ! そんなにおっきくないもん! ね、マチ!?」
「え、や、そこが、すてきだと、思います、よ」
「フォローになってないわよ!?」
「ぴぇっ」
「もう、じゃあわたしがそっちにいくわよ。それならいいでしょ、音波さん?」
音波さんは夢魔JKに接触されたとき並みにぞっとした顔になりました。
「あんただけはなにがあってもぜったいいやよ。シスコンの自己中女」
「なんですって!?」
「はあ……てめえがそれ言うのか? おら、ごちゃごちゃ言ってねえでもう寝んぞ」
「ちょっと! 勝手に入るなって……! ああ、もう……ほんっとクソ、こいつら……マジでクソ、クソクソのクソ……」
ぼそっとつぶやきながら、先に部屋に入っていった深淵さんを憤慨して追う音波さん。初めて音波さんの慌てた姿を見たような気がして、それがなんだかすごく、年頃の、ふつうのJKに 見えて……。わたしとマチは、顔を見合わせてくすくす笑ったのでした。