百合はいつかガンに効くようになる!オルタナティブ! 作:伊土 讃阿
/Stage III progression - 進行 -
/part 3 フレッシュウォール
Yu-Lintterで連絡を取り、音波さんえるふさんと落ちあうと、廃屋となった温羅杜邸の地下に降りました。がす子さんが掘ってくれた長い長い地下道を通り、門番JKが守ってくれている鉄扉をくぐると、じーじの遺骸を全面に敷き詰めた地下施設に到着。R.U.R.の拠点、"
収穫物を預けるため厨房へ直行してみれば、そこは――食欲をそそるじゅうじゅうお肉が焼ける音と、調理器具がぶつかりあい打ち鳴らされる音、それに深淵さんのドスの利いた怒号が止まない、相変わらずの戦場でした。
「だぁらその持ち方だとあぶねって……じゃなくて、じーじのほうを動かすんだよ! あーも! ぶきっちょなやつだな! 貸しやがれって! いいか、目ん玉見開いてよく見てろ! こうやんだよ!」
「ご、ごめんなさい、ぶっちーママ……」
「だれがママだコラ。もういい、てめえは今日はあっちの鍋見てろ。ってそっちなんか焦げてねえか!? ばっきゃろ、強火の遠火つったろ! 油で炎あがっちまってんじゃねえか! それじゃ火あぶりだっての!」
「えー、そうだっけー? ごめーん、真っ黒になっちゃった。捨てちゃっていい? ぶっちーママ?」
「ママじゃねえっての! 捨てんなアホンダラ! 表面そいどけ! オイこのソースつくったのどこの脳タリンだ!? 献立になかったろ!?」
「あ、それあたしだよ、ぶっちーママ。急に閃いたからつくってみたの」
「ああ? てめえはまた勝手なことしやが……っざけんな、めちゃくちゃうめえじゃねえか! これは力エルの黄金焼きにもあう! 今日出すからもっとつくれ! あとでレシピ共有しとけよな! それからアタシはママじゃねえ!」
拠点には常に特待生と、暫定的に意思決定・組織を統率できるものがひとりはいたほうがいい、という意見があり、狩猟には向かない深淵さんにR.U.R.副長兼"暮らす委員"厨房係を務めてもらっていました。結果的に、これは大正解。
三日前に四人組のグループと合流したことで今や五十人を超す集団となったR.U.R.です。食べ盛りのJKたちの胃袋を満足させねばならない厨房は、毎日大わらわ。深淵さんでなければ切り盛りできなかったはずです(最初は外出したくないという理由で音波さんが立候補しましたけど、全会一致で却下されました)。
それに、言い方はぶっきらぼうですけど、面倒見がいい深淵さんはなにかとみんなに慕われているようでした。たぶん、わたしなんかよりしっかりリーダーしてるんじゃないかしら。
じーじ肉を保管庫に収めていると、深淵さんがわたしたちを見とがめました。
「おう、帰ってきたか、ハンターども。手ぇ洗ったか? ケガぁしてねえだろうな?」
「ええ、狩猟のほうはつつがなく万事順調でしたね。今までで最大の個体でしたので、壷満杯のじーじ肉を入手しました。存分に腕を振るってくださいね、ぶっちーママ」
「だぁってろ。てめえみてえなクソデカトカゲ産んだ覚えねえし、一生産まねっつの」
がす子さんに向かって、オレンジ色のソースが付いた中指を立てる深淵さん。
「それよかてめえんとこのでけえカエル、追加で十五匹ばかしよこしやがれ。十秒前にメニューが変わった」
「ふむん。五匹ならすぐに熟したのが出せますけどね」
がす子さんはおもむろに、厨房の天井から電球をくわえてぶら下がっていた力エルを取り外しました。
「ちょうどここの五匹もそろそろ電池切れになるので使えそうです。あと五匹はすこし調整が必要ですかね。明日以降の献立表を見せてもらえますか? あ、えるふさんもいてください。飼育環境の相談もしたいので」
「ん。えるふ、りょ。あ、ぶっちー、あとで、むげんじーじにく、あじつけ、かんがえる、いいか?」
「あ? んだそりゃ? 無限になくならねえ肉だあ? んなもんあるわけねえだろ。あとで詳しく聞かせやがれ」
込み入った話になりそうなので、がす子さんえるふさんとはその場でわかれました。
ねぎらいのことばをかけてくれる"図書委員"や暮らす委員とすれちがい、シャワー室へ移動していると、図書室の前で見慣れたJKにばったり出くわしました。
「ねー、伊井んちょ、いくらなんでも明後日までにこの量は調べきれなくないかなぁ? 図書委員、楽そうでいいかと思ったのに、まぢでハードすぎるぢょ……」
「ん。と。そ、です、ね……、効率的に進めるには、まず二次資料、読んだほうが、いいです、ね。概要と要点、把握してると、読みながら、自分で整理しなくて、いいです。それに、ほかのひと、が、どんな角度から切り込んでるのか、知ってれば――ぁ」
新入りの図書委員になにやらアドバイスをしながら歩いていたマチは、わたしたちを目に留めると、ちいさく会釈をしました。
「お帰り、なさい。先輩」
「ぁ、うん……ただいま」
ずき。どき。
忘れよう意識しないようにしようと、ずっと思ってたのに……。いざ会ってしまうと、視線が、引っぱられて……あつく。声を聞いてしまうと……心臓が早鐘を打ち。
……ううん、これはきっと貯水池で感染したレズド雨のせいだから……。はやく、洗い流さないと。
マチも連れがいたので、そのまま通り過ぎようと思ったんですけど。
「ちょっと
音波さんが立ち止まってマチに絡みはじめました。
「あ、ごめん、音波ちゃん。まだEエンドまで、しか見れてない……。時間できたら、ちゃんとやる、ね」
「はやくコンプしなさいよ。まともに語れそうなの、ここじゃあんたぐらいしかいないんだから」
「えるふ先輩と、がす子先輩にも、勧めてた、よね……?」
「えるふはだめ。まるでストーリー理解してないもの。あげくプレイヤーが死に過ぎて弱い、自分のほうが強い、やる意味ないとか言い出す始末なんだから。がす子はわかってるくせに素っ頓狂なことしか言わないからめんどうなのよ。こっちは真剣に考察してるのに……」
「くふっ、ふたりとも、らしい、ね。ん、あ、でも裏ルート入ったとこまでは、やった、よ。あと、あのステータス値、なんとなくわかった、気がする。前作と意味が、逆っぽい……?」
「……! そうよ! そうなのよ!」
音波さんがらんらんと目を輝かせて鼻息を荒げました。音波さんのテンションがここまで高くなるなんてめったにないので、新入りの子は仰天してました。
「ああもう、歯がゆいわね! 仕事が忙しいなら、暇そうにしてるほかの子にやらせなさいよ」
「ん……、音波ちゃんとか?」
「はあ? あたしは今GエンドRTAで猛烈に忙しいの。するわけないでしょ」
「く、ふふっ、だよ、ね」
くすくすと自然な感じでこぼれたマチの笑みが、わたしの心臓を握りつぶしました。
「……音波さん、そっち忙しそうだし、呼び止めてちゃわるいわよ。シャワー室、行きましょ?」
「ちっ、しょうがないわね」
「あ、こっちこそ、ごめ、なさい、先輩……。お外から帰ってきた、ばっかりなのに……」
「ううん、気にしないで。じゃあ、またごはんのときにね」
マチの顔もまともに見れないまま、わたしはいかにもはやくからだを清めなくちゃ、というふうに先を急ぎました。
シャワーを終えて斧の手入れをしていると、ちょうどおタ飯どきになりました。手狭になってきた食堂じゅうに笑い声がはじけます。いつも賑やかなフレッシュウォールがいちばん騒々しく、そしていちばん楽しくなる時間です。
相変わらずとってもおいしい深淵さんのじーじとカエルの料理に舌つづみを打ちます。
「んー! このカエル肉の揚げもの、めちゃくちゃおいしいわよ、深淵さん!」
「あ? ああ、イケんだろ。そいつぁ自信作でな。命名、"カエルフライ"だ」
「ふむん。まんまですね。というか、カエルは
「うっせえな、ごちゃごちゃと。てめえが名付けた"茹でガエル"こそまんまじゃねえかよ」
「あれはがす子的風刺のつもりだったんですがね。まあ、カエルフライの味が美味なのは認めましょう。さすが黒暗淵さんです」
「ね。わたしのお母ちゃんがよくつくってくれたフライドチキンにそっくりの味だわ。懐かしいわね」
「リナのおふくろの味なんざ知らねっての。つか、チキンとか上等なモン食ったことねえよ。鶏肉ってどんな味すんだよ?」
「ふむん。カエルみたいな味ですかね」
「へえ。んじゃ、うまそうだな」
最初はカエルみたいなかわいい生き物を食べるなんて……、とみんな躊躇しますけど、食感がどれもおなじじーじ肉だけでは(ときどきごく少量なら、ぽよやお菓子が入手できました)飽きが来るというもの。今ではすっかり力エルの飼育が追っつかないほどの人気食材になってました(カエル肉はほとんど無害ですけど、じーじ肉はいまだ安全性が不明という実情もあります)。とくに茄でガエルは、いちばんの人気メニューです。
ストローで輸血袋の血を吸っていた音波さんはゲームから目を離さないまま、おえっという顔をしました。
「あんたたち、そんなものよく食べられるわね。正気じゃないわよ」
「
「はあ? 意味不明。吸収されたら別物でしょ。でなきゃここのJKは今頃みんなカエルになってるわ」
「そこはおおむね温羅杜さんの説が正しいにしても、やはり血を飲みながら言うセリフじゃないと思いますがね」
「えるふ、血、きょうみある。JKの血、うまいか?」
「うまかねーよ。なまぐせえし喉に引っかかる。それにふつうは腹壊すもんだ。ま、その点えるふはだいじょぶそうか」
「そうなのか、おとは?」
「……さあ。味の好みはひとそれぞれでしょ」
音波さんはすこしためらって、めんどくさそうに流そうとしました。
「そういえば音波さん、以前、力ップルの血はおいしくないって言ってたわよね。ひとによって味も変わったりするのかしら? 深淵さんのはおいしいの?」
「……ちっ」
音波さんはものすごくうざそうに、ミセス・ミラーカに威嚇させました。原因は不明ですけど、関わるなモードに入っちゃったみたいです。
「ぶっちーの血、うまいか? えるふ、のみたい」
「あー? 本気かよ? まあべつにアタシはいいけ――」
「は? だめよ。あんたなに勝手なこと言ってるわけ?」
「あ? アタシの血なんだからアタシがだれにやろうと勝手だろ。つかなにキレてんだ?」
「はあ!? キレてない!」
「いやキレてんじゃねえか。っでえ!? ああ? てめえまたやらせやがったな! いい度胸だ、クソ鳥、てめえも同罪だ! "フィンチフライ"にしてやんよ!」
「フィンチは飛びますね」
「だぁってろ!」「うっさいわね!」
例のごとくぎゃんぎゃんやりはじめる音波さんと深淵さん(と、隙あらば油を注ぐがす子さん)。ほかのバディならちょっと気になるところですけど、このふたりに限ってはもはや日常茶飯事なので放置安定です。
ひとしきり食事で盛りあがった後で、そのまま日報会に移りました。
がす子さんがYuritchに表示したレポートを説明してくれます。
「では暮らす委員から報告しますね。まず、電力用カエルの飼育状況ですが、今週は問題なく成長してくれています。えるふさんの栄養豊富な藻のおかげでオタマジャクシの成長はすこぶる順調。藻類燃料で、飼育槽の温度調整にさらに多くのエネルギーを分配できるようになったのもおおきな要因ですかね。ただ、今後、食用カエルを増産するならば飼育室の拡張は必須ですので、検討していただきたいです」
がす子さんは狩猟にも加わってもらっているかたわら、暮らす委員の委員長も務めてもらっていました。R.U.R.副長の深淵さんの強い推薦があったというのも理由ですけど、フレッシュウォールでの生活全般担当の暮らす委員が孵化・飼育し、今や食事と電力の基盤となっている様々なカエルは、もともとがす子さんがエルクトンヒルズ女学院の飼育部で育てていた力エルだからです。
というのも、がす子さんはナチュラルキラーサイボーグドラゴニュートJKで、あまりに大量の電力を消費するため、世界最古の電池にして容易に繁殖可能なカエル電池を飼育する必要があるからでした。ゆえに、特待生としてのニつ名は"
がす子さんが"
なにせ、この地下空間をドリルで掘ってくれたのもそうだし、じーじはじーじを攻撃しないから壁にじーじ肉を張ると見つからないって教えてくれたのもそう。J.K.のネットワークをそのまま使うのは危険だからってザ・ウォッチャーをハッキングして経由することでR.U.R.独自の通信網を整えたり、音波さんのYuritch(各セーフハウスにあった使用可能な計四十二台(すべて旧型のH&Cインダストリ製で追跡されてないそうです))をクロス並みの多機能端末に改造してくれたりも、ぜんぶぜんぶ、がす子さんがやってくれました。がす子さん、万能すぎます。
"元軍人ですのでこれぐらい朝
「ん。と。それ、では、図書委員から報告、です。サリンジャーの定期配信、ありました。それによると――」
周囲に配慮してYuritchをミュートにして、マチがサリンジャーさんの配信を再生しました。繁華街のスクリーンなどで二日おきに放送されている動画です。画面には例によって、演説するサリンジャーさんと、その背後、けばけばしい色合いの道具と染みだらけのベッドのうえで裸体をもつれあわせているJKたちが映っています。
今日の時点で、全JKのうち九十五パーセントが捕獲されたそうです。ザ・キャッチャー・イン・ザ・L計画が始動してそろそろ三週間。八十五パーセントまではあっという間だったんですけど、それからの侵攻は遅々としていて、逃げ延びたJKたちはかなり抵抗しているみたいでした。
R.U.R.のほかにも抵抗勢力はあって、いくつかのグループとは合流、合併できました。ただ、ほとんどはいまだ接触すらかなっていません。R.U.R.は奇跡的に特待生にも恵まれ(九人中四人も!)、大所帯なので表立って動いている一方、ほかの勢力はずっと隠れてるしかないんです。その子たちと合流するのも、R.U.R.の重要な目標のひとつ。
マチ率いる図書委員は、サリンジャーさんの配信やJKの地図、都市の構造を整理して読み解き、JKたちが隠れていそうなところの調査指示、作戦立案をしてくれてます。いわば情報処理全般を担っているR.U.R.のブレインというわけです。
「それ、で……」
喉が渇いてきたらしく、マチがデザートのぽよ入りミルクティーをじゃごぼごっとすすりました。
「今回の配信でわかったこと、は、サリンジャーさんは、初期の予岐 佐波、だけでなく、おそらく、すべての予岐 佐波作品に遺漏なく、精通してるらしい、ことです。重要なのは、そのすべての予岐 佐波の思想を、尊重しようとしてること、です、ね。そのせいで、破綻が生じてます。最近とくに、主張の内容が、かなり、支離滅裂になってます、ね」
「へえ。しょせんパチンジャーはパチモンってことか?」
「いえ。むしろ、逆で。ぜんぶの思想を統一する、なんて、はじめから絶対に不可能、なんです。だから破綻してること自体は、おかしくない。でも、まず、前提として、そもそも予岐 佐波の全作品、把握すること自体が困難、です。あまりに、作品数が膨大すぎます、ので。図書委員でそれぞれの年代ごとに、分担して、ものすごい量の文献を検証して、やっと傾向の裏付けができた、ぐらいです。ぜったいに、たったひとりのひとが、ましてやJDが、網羅できる量じゃ、ないんです。――予岐 佐波、本人でもなければ」
「ふむん。予岐 佐波というのは共同ペンネーム、ということでがす子のなかで話題になっているんですが」
「はい。とゆのが、一般的な説です、ね。でも。もし――実は一人だったとしたら。そしてそれが、JD、プレザンス・サリンジャー。さん、だったと、したら」
「ああ? いやいやいや、ちょ待てよ。ありえねえだろ。千年前のやつなんだろ? 生きてるわけねえじゃねえか」
「ドラゴンには五百年生存した長命者もいました。そう奇怪な説ではない、と言いたいところですが、あのサリンジャー氏は見たとこただの人間っぽですからね」
「はい。ご長寿さん説は、ちょと、きびしいです、ね。ほかに考えられるのは――」
「えるふ、わかった。よきさなみ、よみがえり。はっしゅたぐ、死者蘇生」
「え……。まさか死んだひとが生き返ったってこと? うーん、それこそありえるのかしら?」
「ダークエルフの秘薬、ある。しせるにく、うごかし、しんけいつなぐ、びせいぶつ、つかったもの。びせいぶつ、"
ぎしっと椅子がきしむ音がしました。隣のがす子さんからです。がす子さん重いから、椅子が弱ってきちゃったのかしら。がす子さんはなに食わぬ顔をしてます。
「わぁった。仮にパチンジャーが予岐 佐波としてよ、その目的はなんなんだ? なんでJKPのパシリになってやがる? 予岐 佐波がJ.K.をつくったようなものなんだろ?」
「予岐 佐波がつくった、わけではなくて、予岐 佐波のY-レポートが、参考にされただけ、です。ただ、はい、深淵先輩の言うとおり、予岐 佐波がなぜJKPに協力してるのかは、わからない、です、ね……。ぁ、でも、その。サリンジャー=予岐 佐波説は、まだ推測の、推測のひとつに、すぎないんです、けど。これ以上は、もっと、情報、いります、ね……。やっぱり、外の情報、ほしい、です」
「うーん、結局はそこに行きついちゃうわね……」
全員の視線が、壁に貼られたJ.K.の地図の中心――
R.U.R.結成当初から、サリンジャーさんを倒すにはどうすればいいのかは、盛んに議論されてきました。現状としては、外部と連絡を取ってJ.K.の惨状を伝え、レズ奴隷化を望まないJKの亡命を図る、という方向で固まっています。
サリンジャーさんはSRY宣言に同意した以上、JKが世界のためにレズ奴隷になるのは拒否できないと訴えていましたけど(最初は深淵さんも同意見でした)、図書委員に過去のいろんな裁判の判例を調査してもらった結果、たとえ契約に同意していても、契約の段階ですべての情報を知りえない場合や、契約内容がフェアではない場合、同意を無効にできることが判明したのでした。
それに、JKP運営委員会に正当な理由と契約上の権利があったとしても、ザ,キャンチャー・イン・ザ・L計画自体が非人道的な行いはだれが見ても明らかです。救援を求めるJKのなまの声を外の世界に届ければ、必ずやどこかのスフィアが動いてくれるはずなのです。
でも、肝心の通信はすべてシャットアウトされてます。地上と通信するには、連絡塔に行くしかありません。連絡塔攻略の重要度が、またあがりました。
「ちょうど連絡塔の話になったから、狩猟委員から報告するわ。まず、えるふさんが見つけた、貯水池の超大型じーじについてなんだけど――」
狩猟委員の役割は、食料の確保と、現地調査です。今回わたしは、超大型じーじの存在と、その弱点、そこからがす子さんが突き止めたじーじの生態、性質について、みんなに発表しました。
深淵さんは渋い顔をしました。
「かんばしくねえな。向こうが超大型じーじをつくってるってこたぁよ、あきらかこっちの動向を意識してんだろ。ふつうのJK相手に超大型じーじなんて無用の長物だかんな」
「そうですね。あちらもJ.K.の大半を制圧し、こちらの拠点の位置や勢力規模の目星をおおよそつけはじめた頃合いだと想定してよいでしょう。こちらは物量作戦を取られると圧倒的に不利です。がす子的シミュレーションによると、十三体以上の超大型じーじに殺到され、包囲された場合、壊滅必至ですかね。超大型じーじの製造にどれほどの時間を要するのかは、採取したサンプルから計算しているところですが、まあ、のほほんとできるデータは得られないでしょうね」
「けっ、いつ襲われてもおかしくねえってことかよ」
「えるふ、戦争のぞむところ。いつでもかかってこい。かえりうちにしてくれる」
「てめえはそうでもほかの連中はそうもいかねえっての。こっちからちくちく攻めて、数を減らせねえのか? コアとやらを、音波の血弾で貫通するとかしてよ」
「は? なんであたしが? てかコアの位置がわからないからむり」
「ふむん。X線で探査してみましょうか」
「え、がす子先輩、そんなこと、できるんです、か。かっこいい……」
「すみません、できません。一度言ってみたかっただけです」
「意外です、ね。できそ、なのに……」
ぽつりとわたしはつぶやきました。
「……そろそろ、連絡塔に攻めこむべきかしら」
「……! しんりゃく、さいこう。戦争のなかでも、いちばんいい戦争とされている。えるふにまかせろ。あんびりかるたわー、はでなたきびにしてやる。かの塔が、そのままきゃつらのほのおのぼひょうとなるのだ」
「ええ……。わたしたちだって利用するんだから、燃やしちゃだめよ? それに塔が焼け落ちたら、みんな地上に帰れなくなっちゃうわよ」
身を乗り出したえるふさんとは対照的に、音波さんは難色を示しました。
「まだ早すぎるでしょ。もっとバックアップ要員増やすべきよ。でないとあたしの負担が大きすぎるわ」
「てめえが楽したいだけだろが。……だがま、まだ不安はあんな。連絡塔の情報が少なすぎる。こっちから攻めようってのにぶっつけ本番てのは、さすがにリスク高すぎだぜ」
「みんな、J.K.に来たとき、通ってきました、けど……。エレべーターとゲート、通っただけ、ですから、ね……。連絡塔に関する、本、どこかに落ちてれば、いいんです、けど……」
深淵さんとマチも、乗り気ではありません。がす子さんが付け加えました。
「それに、セキュリティを突破する手段を考える必要がありますかね。ハッキングできればいいのですが、望み薄でしょうね」
「あ、それは解決できるかも。わたし、タマさんと科藻さんのぱんつ持ってるから」
しん……。とテーブルが沈黙に包まれました。
「えっ、あ!? 偶然よ偶然! 落とし物を拾っただけよ!」
「いやまあ、わかってたけどな、リナのことだしよ」
「ふむん。今のは話の前置きを考えたほうがよさそうでしたかね」
「う……、ごめんね」
などとわいわいやっていやっていると、ずごごごごごっとぽよ入りミルクティーを吸いあげたえるふさんが、唐突にむせかえり、ぽよを吐き出しました。
「ぅげっ、ぇほ、に、にがい……ぽよ、くさってる。こういう、りょうりか、ぶっちー? げてものぐいにも、あきれもの……う゛え゛ぇ゛」
「ああ? んなわけねーだろ。っかしーな。鮮度はちゃんと確かめたはずなんだが――」
深淵さんが慌ててカップを覗きこみ、吼えました。
「ってオイこれカエルの卵じゃねーか! てめえのだろがす子! んなとこに置きやがってまぎらわしいことすんじゃねえボケ!」
「おっと、これは失敬」
いつかやると思ったわ……。カエルの卵って、ミルクティーに入ってるぽよにそっくりなのよね。しかもがす子さんったら、ミルクティーとおなじカップに入れて、律儀にストローまで差してるもんですから、まちがって飲んじゃっても不思議じゃありません。
がす子さんは神妙に言いました。
「危ないところでしたね。このカエルは卵にも毒があるので、えるふさん黒暗淵さん以外なら即死でした」
「んなあ!? なんてもの繁殖させてるの!? よく見たら、この前わたしの部屋にその卵産んでるカエルいたわよ!?」
「ぇ、と。シャワー室にも、いました、よ……」
「おえっ、きっしょ。あんたねえ、自分の食べ物の管理ぐらいちゃんとしときなさいよ」
「てめえに言えたことか?」
「は? あたしはちゃんとあんたの管理してるわよ」
「ああ? アタシがてめえに? はっ、寝言は寝て言えってんだ」
「すみません、みなさん、多大なご迷惑を」
顔を真っ赤にしてせきこむえるふさんの背をさすりながら、平に謝るがす子さん。
「まことにすみません、えるふさん。いちおう吸い出したほうがいいですね。部屋に戻りましょう――」
がす子さんえるふさんが席を立ってしまって、もう会という雰囲気でもなくなってました。ちょうどみんなの報告も終わったことなので、流れで解散です。
集中が切れたとたん、熱いめまいが、くらっときました。レズド雨のウィルスが増殖してきたみたいです。異様に喉が渇いて、じんわり汗がにじんできました。ミルクティーを一気にずぼぼっと飲み干します。
……雨抜き、しなくちゃ、よね――。
自然と、そっちに、視線が吸い寄せられていきます。
びっちりまつ毛――、ちいさい耳に――、髪をかける、細い指――、冷たい鼻――、あったかい、唇。ちらっと見えた、真珠の首飾りみたいな、ちっちゃな歯並び。
ぅ、だめ、だ……。
なにもしてないとき――、無理やり頭にほかのことを詰めこんでないとき。
マチのことで、すぐいっぱいになる――考えちゃう。いっぱいに、しちゃう……。
ああ、もう――ぐちゃぐちゃになる……。いっぱいに、なっちゃう。
まるで。そのことが。
そこに。
頭のなかに。
わたしのなにかのなかに――。あるのが。ふつうなみたいに。
頭のなかの、重力が。
引き寄せてるみたいに。
会議が終わったのを見計らったかのように、暮らす委員の子ふたりが深淵さんに話しかけてきました。
「ねーねー ぶっちーママ。ちょっといーい?」
「あ? んだよ」
「……あの、さっきはうまくいかなくてごめんなさい……」
「ごめんなさーい」
「最初はあんなもんだろ。最終的にちゃんとまわせたから問題ねーよ。つかママじゃねえ」
「えっと、そのう、このあと忙しくなかったら、えっと、その……、あの……」
「お料理のこと、もっと教えてほしいんだよねー。強火の弱火とか超絶意味不だし」
「遠火だっつの。べつにそんな急がなくてもいいって。すぐ慣れるからよ。ま、やる気あんならヤブサカじゃねえけどな。さきキッチン行って手ぇ洗って――」
「……深淵。部屋戻るわよ」
「あー、アタシはちょっとこいつらに仕事教えてくわ」
「そんなの明日でもいいでしょ。いいから来るの」
「ああ? ったく、しょうがねえな……。わり、てめえら、明日早起きしろ」
「あ、うん。ありがとう、ぶっちーママ。それと……ごめんね、音波さん」
「じゃましたねー、音波っちー」
「……ふん」
「ママじゃねえっつの」
音波さん深淵さんもお部屋に帰ってしまいました。
「……リナ、先輩」
「っ……。なあに?」
「あたしたちも、行きましょ、か……」
「ん……、うん……そう、ね……」