百合はいつかガンに効くようになる!オルタナティブ! 作:伊土 讃阿
/Stage III progression - 進行 -
/part 6 荒天
ひとつ上階で、状況を整理します。
「魔零さん、メッセージと動画は、送れてないのよね?」
「うー、ごめんなさーい。寸前で送信ボタン押したんですけどどうなったかはわかんないです……。でも動画のサイズ結構あったんで、たぶん間に合ってないー……」
「いいの、こっちの段取りもわるかったわ。えるふさん、Yuritch貸しといてもらえる? ありがとう。魔零さん、先に文章つくっておいて」
「え!? せっかく逃げおおせたのにまだ諦めてない系です!? チオ、わりとガチで死ぬかと思って怖くて死にそうだったんですけど!?」
「魔零さんは文章をつくるだけでいいわ。それをYu-Lintterのメッセージで送ってくれれば、わたしが送信する。だから、がす子さんえるふさんと撤退をはじめて」
「正気ですか、リーナー。通信室にはもう戻れませんよ」
「通信室のほかにも、地上に連絡する設備はあると思うの。それを探すわ」
「……なくはないでしょうがね。しかし逃走しながらその設備を探し当てるなど、不可能に近い。帰還確率が大幅に減少します。まったくすこれない判断です、それは」
「でも、行くしかないわ。たぶん、もう二度と連絡塔には入れないから、ぜったい。ふたりも来てくれるとありがたいんだけど、魔零さんを送り届けるひとも必要だわ。戻って報告するのも、重要な任務なわけだし」
「リーナー、しかし……!」
「えるふ、りーなーについてく。えるふ、じーおうがと、戦争できてない」
「わかったわ。じゃあがす子さん、魔零さんを護衛してくれる?」
「あのー、先輩ちゃんがた、お話豚切ってわるいんですけど、ちょっといいです? 実はいいネタとわるいネタがあるんですけど、リナちゃん先輩はどっちから聞く派?」
「え? うーん、いいネタから聞く派かしら?」
「お、気が合いますねー! チオもです! んじゃあ、いいネタから発表しまーす。地上に連絡できげなとこ、チオ知ってげなんですよね」
「それホント!?」
「"
「エゴサ室……ありました。ここから十階上です。行けなくは、ないですね」
「やるじゃない、魔零さん!」
「えっへへ。もっと褒めて褒めて!」
「それで、わるいネタというのはなんなんですかね」
「あー、っとですね。リナちゃん先輩がメッセージ送るって案、だめっぽなんですよねー……。いとこさんの"
「う、そうだったのね……」
「ふつうのポストに送ってもいいですけど、したらここの端末から送ったデータ、ふつーにJKPに見えちゃうんで、まあやばたんですね。……どします?」
「わかったわ、じゃあ今のなしで。魔零さん、わるいけどいっしょに来てもらえるかしら」
「う゛……、そうなっちゃいますよねー……」
かたかたとかすかに震える魔零さんの両肩をがしっとつかみ、約束しました。
「あなたのことは、わたしが、ぜったいに守り抜いてみせるから」
「っ……。はあ、リナちゃん先輩、思ったよかタラシィですよね。わかりました。そこまで言われちゃチオもやるっきゃないです。ぜっっったいに守ってくださいね!」
「ということになっちゃったけど、がす子さん――」
「……わかりました。なんにせよ時間は惜しい。議論はやめましょう。同行します。疑念は晴れましたからね」
Yuritchに文章を打ちこんでる魔零さんを一瞥しました。タマさん科藻さんがわたしたちを待ち受けていなくて、襲撃に対して対応がもまったく万全でもなかった以上、魔零さんはほぼ確実にシロです。つまり地上と交信するには、今こそ最大にして唯一のチャンス。
「作戦はどうしますかね?」
「二手にわかれましょう。がす子さんとえるふさんは、手当たり次第に暴れて施設を壊して、注意をひきつけておいて。ただし、わたしたちが帰るのに困らない程度に」
「えるふ、はかいこうさく、すきくない……」
「えっ!? どうしたの、えるふさん!? なにか拾い食いでもした?」
「もの、こわすだけ、戦争ではない……。戦争、いのちのやりとり。魂の、会話。はかいこうさく、ただのじいこういにすぎない」
「あ、そう」
「ふむん。示威行為だけに、ってことですかね」
「ん? どういうこと?」
「いえ、なんでもありません。それよりも作戦行動に移ります。どうかご無事で、リーナー」
「そっちもね」
さらに十階ほど登ったエゴサ室に到着します。通信室とちがって、サーバーはそんなにありません。端末も机にはめこまれてるようなやつじゃなくって、学校にあるようなパソコンです。Yu-Lintterにダイレクトメッセージが入りました。
ジーオウガ、がす子さん、科藻さんが映りこんだえるふさんのセルフィー画像に、ハッシュタグ戦争開始。
急いで端末にアップロード準備ををはじめます。データアップロード率五十パーセントというところで、またメッセージ。
『竜胆さん逃した、
十分頑張ってくれたわよ、がす子さん。と、脳内レスポンス。耳をそばだたせて斧を構えます。
残り三十パーセント。ひたひたと独特の足音を伴って、獣のじーじが五体、エゴサ室に尖った鼻面をのぞかせました。
「きゃー! リナちゃん先輩、またあのワンちゃんぽいじーじ来ましたよ!」
顔を青ざめさせた魔零さんを背中に隠すように、じーじたちの前に立ちふさがります。
タマさんの気配は――ありません。妙ね……? でも、今はじーじから魔零さんを守るしかありません。
わたしは椅子やらモニターやらを手当たり次第に獣のじーじに投げつけます。三体は倒しましたけど、二体は投擲物をかいくぐり、ばちばちしながら駆け寄ってきました。一体は仕方なくラブリュスをぶん投げて撃破。もう一体には相打ち覚悟でドロップキックをかますつもりだったのですが――。
「ぎょあ! リナちゃん先輩! こっち来てますって!」
なんとわたしの脇を抜けて、端末のもとへ一直線! まずったわ、そっちが狙いだったのね……! わたしじゃ、追いつけない……!
絶望的かと思われたその矢先――。
「……! こんのぉー! 邪魔すんなーっ!」
魔零さんが怯えながらも、獣のじーじの鼻先で椅子を懸命に振りまわしはじめました。
あてずっぽうな攻撃はかすりもしませんでしたけど、動きが読めなさすぎたのか、獣のじーじはひるんだように足を止めました。それで、じゅうぶん。
魔零さんも頑張ってくれたのよ、腹ぁ決めて、やるしかないわ……!
わたし獣のじーじの背後から組みつくと、ばぢぢぢぢっと感電、目がくらむような激痛に気絶しそうになり――根気でバックドロップ! 獣のじーじを昏倒させることに成功しました……!
そのままどうっと床にぶっ倒れたわたしのもとに、魔零さんが駆けつけてくれました。
「リナちゃん先輩!? 生きてます!?」
「な、なんとかね……。づっ……! 腕、痺れて持ちあがらないわ……」
「うわぁん! チオ、先輩が死んじゃうかと思いましたよぉ……!」
びいびい泣きながら抱き着いてくる魔零さん。
「って先輩、なんか胸のとこ焦げくさ!?」
「ん……ホントね。なにかしら……?」
わたしのジャージの胸元に、真っ黒こげになった円盤が張り付いてました。これは……鱗――がす子シール! ひょっとすると電撃の身代わりになって受け身を取ってくれたのかしら。ホントに役立つときが来るとは……。さすががす子さんね、ここまで見越してたなんて。
「もお、せんぱい! なんてむちゃしたんですかあ!」
「あの一瞬で、素手で、確実に仕留めるには、あれしかなかったのよ……。魔零さんこそ、だいじょうぶ? よく頑張ってくれたわね」
「チオは……、はい、ぐすっ。ぜんぜんへっちゃらですけど。ずびっ」
「ならよかったわ。ありがとう、魔零さん。勇気を振り絞って立ち向かってくれて。おかげで端末を守れたわ」
「そんな、チオは……リナちゃん先輩ががんばってるとこ見て、なんかエモっちゃって、わけわかんなくなっちゃってただけです。あ、そだ、メッセージ送んなきゃですね! そこで休んでてください! 秒で送っちゃいますんで!」
涙を拭いて、魔零さんが端末に座ったのと同時でした。ふっ……とエゴサ室が闇に包まれたのは。
え? あれ? 安堵しすぎて意識失っちゃった? と思うのもつかの間、ぱちっと音がしてオレンジの非常灯が灯されました。
「んな……ひょっとして電源落ちたの!?」
「そんな……先輩、端末起動しないですよ!?」
慌てふためくわたしたちをあざ笑うかのように。
「にゃふにゃふにゃふ……♡ おつかれさまでぇ~す、兎浪先輩♡ 地上にぃ、メッセージはぁ~、送れましたかぁ~?♡」
タマさんが尻尾をくねくねさせながら、エゴサ室に入ってきたのでした。
「く……! 電源を落としたのは、あなたの仕業ね……!」
わたしはなんとかよろよろと立ちあがり、魔零さんを背中に