百合はいつかガンに効くようになる!オルタナティブ! 作:伊土 讃阿
part 1 フレッシュウォールの反乱
/Stage IV End-of-world care - 世界終末医療 -
/part 1 フレッシュウォールの反乱
3019/7/19
サリンジャーさんたちのアジトに突入するため、ペンシー女子高に向かっている途中のことでした。
「……しかしよ。ここまで来て締まらねえな、てめえらは」
振り向くと、メイド服の上から消防士コートを羽織った深淵さんが、ひっくり返した金ぴか壷をかぶったのっぽさんとおちびさんに胡乱げなまなざしを向けていました。
のっぽの壷から篭もった声が返ってきます。
「これはすみません。ユリガンの信号を遮蔽できるのはこの装備しかなかったのです。不恰好は容赦くださいね」
「せるふぃーできない、つらい。でも、つぼのあたたかみ、かんじる。このやみすらも、母のなかにいるかのような、ここちよいやみにかんじる。ぶっちーもかぶるか? おだやかな夜に身をまかせろ」
「かぶんねっての。つかなんだよ温かみって。それクソみてえなやつに騙されて買わされたやつだろがよ」
「そうだった。くそみてえなやみにかんじてきた。えるふ、怒りを得た」
「こらっ、深淵さん、えるふさんに汚い言葉教えないでよ!」
「るっせえな。勝手にまねしやがんだよ。アタシのせいじゃねえ」
「でもでもっちゃけ、コラかってぐらいおもしろ絵面ですよねーこれ。"R.U.R.出陣、一足早いハロウィンか"的な? ぜったいバズる記事になる予感! ほらほら、深淵ちゃん先輩もうちょっと寄って寄って! 見切れちゃってますんで!」
「オイコラざけんな、アタシを入れんな。遠足じゃねえんだぞ。はしゃいでねえで列に戻りやがれ」
魔零さんに写真を撮られて毒づく深淵さんは、でもちょっびり浮かれてる感じです。久しぶりの外出だからかしら?
いつもならお留守番役の深淵さんにも、今回は出動してもらっていました。なにせ敵の根城は地底の地下です。脱出するときに天の咢は有用かもしれません。
「……ちっ。うるさ」
わたしのすぐ後ろを歩いていた音波さんが舌打ちしました。
「リナ、なんで
「ああ、ええと、それは……傷つけた埋めあわせ、かな」
魔零さんが突入作戦に参加したいって申し出てきたとき、最初はもちろん断ったんですけど、わたしとの約束まで持ち出して、どうしても行くって聞いてくれなかったんです。
音波さんはちくちく小言で刺してきます。
「あんたの個人的な事情でしょ? なんでこれに持ちこんでるわけ?」
「ごめんね。でも、わたしがちゃんと守るから、音波さんは作戦に集中してて」
「ちっ……。守らなきゃいけないのはほかにあるでしょ」
「うん。わかってるわ」
わたしがぎゅっと左手を握ると、しっとりした右手がきゅっと握り返してきました。マチはすこし緊張した面持ちで、仔鷲羽をちぢこめて、ユリガンを胸のうえで握りしめています。
わたしはできるだけ余裕感を装った声を出しました。
「さすががす子さんね。ユリガンのダブルJKデリンジャー現象、しっかり機能してるみたい」
「あ……、はい。そ、です、ね……」
マチはこくっとうなずき、唾を飲みました。
「でも、止まってる、とはいえ、ちょと、こわいです、ね……」
マチがこわごわ視線をあっちへこっちへ振り向けます。わたしはすぐに慣れちゃいましたけど、寸前まで大暴れしていたのに、わたしたちが接近するなりびくんびくんと痙攣するだけのオブジェと化した魑魅魍魎の種々のじーじたちの合間を縫って歩くのは、ちょっとしたホラーアトラクションよね。
「へいきよ、マチ、ほら」
ラブリュスで手近のじーじをつついて、安全なことを示してあげます。
「こ……ろ……し……て……」「た……す……け……て……」
「わたしとマチがこうしていっしょにいるかぎりは、ぜったいに襲ってこないから」
「っ、はい、先輩。ぜったい、離れないで、ください、ね」
「ええ、ぜったいよ」
わたしの指に絡まってくる、細い指。ぴったりくっつく手のひら同士。汗で、指の合間の皮膚の薄いとこ同士がくっついて、血の温度と振動が交換されます。
「……しかしマジで襲ってこねえな。えらい拍子抜けだぜ、こりゃ」
えるふさんは至極残念そうな声を反響させました。
「戦争はかわった。えるふ、かなしい」
「でも、ほかの隠れてるJKたちはこんないろんなじーじにはたぶん、対応できないわよね、ぜったい。そういう子たちにこそ、ユリガンを持たせてあげられればいいんだけど」
「敵のアジトにユリクロスさえあればがす子が朝
「ええ、そうね。ぜったいに成功させるわよ、みんな!」
ペンシー女子高に近づくにつれ、空気濃度がみるみる下がっていきました。学校の敷地内に入る前には、
最初の襲撃のときにマロンさんたちが戦ったあと、そのまま放置されていたのでしょう。グラウンドは穴ぼこと結晶の柱だらけでひどいありさまでした。じーじ穴に落ちこまないよう、注意しながら、廃棄物処理場へと直行していると、にわかにすさまじい冷気がすぅーっと降りてきて、マスクから出る空気が凍りつきました。
校舎の向こう側で始動する、きぃぃぃんという、わずかな大気もずたずたに引き裂くような耳をつんざくモーター音。
「……! 上からくるわ!」
わたしの警告で全員が頭上を見上げた直後、燃える氷柱の雨が降り注いできました! わたしはマチと魔零さんを引っ張って結晶柱の陰に隠れてやり過ごします。ほかの子たちも、各々防御か回避。降りしきる炎の氷で、地面がはじけ、焼け焦げていきました。
結晶からはみ出たがす子さんの壷の金メッキがどんどんはがれていきます。
「挨拶代わりに焼夷弾の雨とは。サリンジャー氏の振る舞いが非常に淑女的に思えてきましたね」
「この攻撃、それにあの
しばらくして射撃がいったん止んだので柱から顔を出してみると、上空、ゴキブリじみたバイクにまたがる黒狐JKの姿が確認できました。ほとんど紐みたいな黒い水着を着せられ、首にはメタリックな紅い首輪。胴や、手足を覆うのはなまめかしいタトゥー。焦点のあってない目。ぽけーっと開かれたおくちからは、唾液がたばたぱ。
「はれー……?♡ ばい菌さんたち、ろこいったんれふかー……?♡ こころひゃん、おうちにもろって、おくひゅりれじゅえっち、しなくひゃなのれー……♡ とっととれてきてくらはーい……♡ いひ♡ いひひぇ……♡」
酔っぱらったみたいに呂律はまわってません。
「えー、こわ! なんかあの子めっちゃラリラリしてないです!? ジャンキーJKかなんか?」
「うぅ……こころ、先輩……なんて、ひどい……」
「薬漬けにされて完全に人形にされたくちだな、ありゃ。どうすんだ、リナ。説得はできそうにねえぞ」
「仲間になってもらうのがベストだったけど、しょうがない、交戦して無力化させてもらいましょう。音波さん、なんとかブリちゃんを撃墜して――」
「いえ、リーナー、ここはえるふさんとがす子でなんとかしましょう」
「え、でもあなたたちは壷をかぶったままじゃないと――」
「だからこそです。ここはわれわれが食い止めますので、リーナーたちは先に行ってください」
「でも、全員で協力したほうが確実よ」
「われわれはユリガンの近くでは戦えません。ならばここで足止めに徹し、リーナーたちが地下に突入できたほうがより確実です」
「ゆみや、地下ではきっと、つかいづらい。ここなら、ぞんぶんに戦争、できる」
「……そう、わかったわ。なら、ふたりに任せていいのね」
「ええ。最後ぐらい、まじめにやりますよ」
「さすががす子さん、頼もしいわ。……って今までまじめにやってなかったの!?」
「おっと、これは失言でした。でも冗談ではありませんので赦してくださいね」
「冗談のほうがよかったわよ!」
ふたつの金壷が飛び出していきます。上空からの猛攻が再開、集中砲火にさらされた壷は一瞬にして粉々になり、激しく白煙を噴き出しました。爆発的に広がる煙幕に潜んで、廃棄物処理場に移動。音波さんに鍵を壊してもらってなかに入り、窓からグラウンドの様子をうかがいました。
すさまじい
「く……! 単独でスーパーセルを引き起こしますか……! この出力でこの攻撃範囲、おなじ特待生といえど圧倒されてしまいますね……! しかもこちらの手足に付着した氷片が急速に成長して機動力を奪ってきている……。うんざりするぐらい理にかなった広域殲滅戦略です」
バニーガール姿のがす子さんが、ハイヒールにかじりついてくる霜を払い落としました。
「矢、はねかえってくる。そのみわざ、いにしえの風神の化身のごとし。あいてにとってふそくなし」
「はらー……?♡ こりぇはしぶといばい菌さんれふー……♡ しかたないれふ……"
こころさんのからだがぱきぱきぱきと黒く禍々しい氷に侵食されていきます。それはさながら、漆黒の甲胃。氷はこころさんを黒き騎士に仕立てるだけにとどまらず、拡大しつづけて瞬く間にブリちゃんを覆いつくし、さらに成長。にょきにょき手足まで生えてきて、五メートルほどの巨大な人型の氷像と化しました。
がす子さんがらしからぬ唖然とした表情を見せました。
「氷でできたロボットですか。……機械化枠として、完全敗北した気分ですね」
「あれ、かっこいい! かならず、ろかくして、えるふのものにする」
「まずは生き延びることを優先しましょう!」
竜巻が炎をまとって火災旋風となり、水晶が帯電して大地を雷電がはいずりまわり、校舎が砂と化していきます。グラウンドはまさにこの世の終わりのような様相を呈してきました。
がす子さん、えるふさんといえども、天候を自在に操り巨大ロボまで持ち出したこころさんにかなうのでしょうか……。不安は募りますけど、総合的な戦闘能力で言えばR.U.R.最強の組み合わせのふたり。信じるしかありません。
廃棄物処理場の奥に進むと、活動停止したじーじのむくろがベルトコンベヤで運ばれて仕分けされ、廃棄口へと落とされている作業場に入りました。
作業場の奥に行くと、地下への通用口はあっさり見つかりました。三、四階分ぐらい階段で降りたところで、とんでもなく巨大なドーム状の部屋に出てきました。広すぎて部屋の反対側の扉がおぼろげにしか見えません。薄暗い天井には穴が開いていて、廃棄されたじーじが重力に導かれ、ドームの底のピンク色の液体で満たされた培養槽にぼちゃぽちゃ落ちてきてます。
培養槽の中央は島になっていました。島の下から伸びるプロペラの羽根が、培養液を撹拌しています。培養液のなかには、おびただしい数の未成熟じーじが浮かんでいて、ダブルJKデリンジャー現象の影響でぐねぐね身をよじっていました。
「げー! きも! これは写真でも記事に載せらんないですよー!」
「プラント……、みたいです、ね」
「ああ、がす子の予想が当たったな。ここでじーじどもをつくってるにちがいねえ」
「これもどうにかするだなんて言いださないでしょうね、リナ?」
「そうね、えるふさんがいればお願いしたところだけど、今は先を急ぎましょう」
通路は壁沿いのほかに、島を経由して培養槽のうえに渡された橋がありました。橋を通れば培養槽を突っ切って反対側の扉まで一直線にたどり着けるようでしたので、そのルートを選んだんですけど――。
島に近づいた段になって、端末を操作している人物がいたことを発見しました。すらっとした長身、滑らかな褐色の肌によく似合う白いランジェリーを身に着けたJKです。その周囲にはふわふわ浮かんで虹色にきらめく、結晶の小粒。
「……マロンさん」
マロンさんもわたしたちの一団に気づいて作業の手を止め、顔を上げました。いつもきりりとしていたアイスブルーの虹彩は、どんよりと曇っています。
「……だぁれ?」
「マロンさん、わたしのこと、憶えてない?」
マロンさんは幼い少女のしぐさで首をかしげ、金髪をしゃらりと肩からこぼれさせました。
「おねえさんたち、"マロンたち"のこと知ってるの?」
「ええ、知っているわ。マロン・チャーチさん。わたしは兎浪リナ、あなたのクラスメイトだったのよ」
「……りな、さん? んー……マロン、わかんないや。みんなも、わかんないって」
「っ……」
「こいつがじーじを結晶化させるっつー特待生か?」
「ええ。まずは懐柔を試みるわ。それじゃあ、マロンさん、わたしと改めてお友達になりましょう?」
「おねえさんたち、マロンたちと、遊んでくれるの?」
「今は先を急いでいるからむつかしいけど、あとでいっしょに遊びましょう。ここ、通ってもいいかしら?」
マロンさんはしゅんと肩を落としました。周囲の結晶は、青く。
「やっぱり……だれも、マロンと遊んでくれないんだ……。マロンが病気だから……。マロンがわるいこだから……。おねえさんたち、マロンたちをお仕置きしに来たんだ……」
「そんなことないわよ! マロンさんにひどいことなんてぜったいしないわ! うーん、そうね、じゃあ、ほんの少しだけ遊びましょ。そしたらここを通してくれる?」
結晶が黄色に変化。マロンさんはぱっと顔を輝かせました。
「やったあ! なにしてあそぶ? そっちの"黒いおねえさん"、ばそこんげーむ好き? げーむする?」
突然指名されてちょっと動転する音波さん。
「……なんでわかったのよ」
「だって、おねえさんのゆりっち、ぱそこんのげーむのでーたたくさん入ってるもん」
「だからどうしてそれがわかるのって聞いてるの」
「"えっくすせん"でみればわかるよ? ねえ、おねえさん、げーむ得意? マロンたちもげーむ得意なの。げーむして遊ぶ? ここにもおもしろいぱそこんげーむあるよ!」
「……ま、いいんじゃねえか。それで無事に先に進めるならよ。音波、ちょっと遊んでやれよ。戦うよりましだろ?」
「……ちっ、しょうがないわね。いいわ、見せなさい、そのゲームとやら」
「えへへ! じゃあぱそこん出すね!」
嬉々として無邪気にはしゃぐマロンさんの背中から、粉雪のようにきらめく結晶片を散らしつつ、ばしゃっと巨大な結晶塊が迸りました。マロンさんから放射状に左右六対、十二の結晶塊が。それは、鳥の翼にも似ていました。しゃきしゃきたおやかな結晶の羽ばたきでふわ……と浮かび上がりはじめたマロンさんは、天使そのものです。
わたしたちはみんな、呆気にとられていました。
「……あ? いやいや……あ? オイ、なんだそれ」
「マロンの
「いやいやそんなパソコンあるか!」
「あるよ? マロンたちがつくったの」
――まさかあれが、未来を予知するとかいう超やばいコンピュータ……? たしかに超やばそうね……。
マロンさんは天使の笑みを浮かべて、結晶羽を震わせました。きらめきがプラント内に充満して、培養槽の水面を透き通った睡蓮が咲き満たします。やがて大気がちかちか瞬きはじめ――。
「じゃあ、げーむはじめよっか。マロンたちの攻撃、ひとつでも当たったら、マロンたちの勝ち。ぜんぶ避けれたら、おねえさんたちの勝ちね!」
いち早く、音波さんが反応しました。瞬時に展開された血が盾となって、わたしたちの視界を覆いました。が、一瞬後に閃光とともにはじけて、すさまじい熱波と熱い飛沫が襲いかかってきました。
音波さんが深淵さんに怒鳴りました。
「ばかみぶち! なにが戦うよりましよ! 思いっきりレーザー撃たれたじゃないの!」
「アタシに言うなよ! くそっ、いきなし即死攻撃かよ! 当たったら勝ちも負けもねえじゃねえか!」
「おねえさんすごい! じゃあこういうのはどう?」
マロンさんが翼をざわめかせ、一層強く発光させると、羽の先から無数の光線が周囲に発射されました。その光線は空中に漂う結晶の欠片でさらに分散して枝分かれ、屈折、乱反射、収束――光の豪雨となってわたしたちの四方ハ方から殺到……!
音波さんが今度はドーム状に血の盾を繰り出し、全員を包みこみました。先ほどよりさらに分厚い盾のようでしたので、なんとかしのげていますけど、内部の温度がどんどん上昇しています。
「あつっあっつ! どうすんです!? これじゃ蒸し焼きになっちゃうくないです!?」
「ならあんただけ外に出なさいよ」
「えー、 音波ちゃんひど! あんなの食らったらサイコロステーキみたいになっちゃうじゃん!」
「ちっ……。うっさ。耳元で叫ばないで。それで、どうするの。長くはもたないわよ」
「防戦一方じゃまずいわよね。こっちからもなんとか仕掛けられれば……」
深淵さんが空気ボンベを下ろして、消防士コートを脱ぎました。
「音波に牽制させて、アタシが時間を稼ぐ。その隙にてめえら三人、先に行け」
「え、でも――」
「ここは足場がわるくてやつに近づけねえ。リナもお荷物だ」
「う、たしかに……。わかったわ。音波さん、深淵さん、頼むわね」
「……攻撃、止んだわ。いやな予感する。防御、解除するわよ」
ぱしゃっと血の盾が液体に戻り、床を打ちました。鼻につく焼け焦げた血の匂い。が、ずごごごごご……と低くうなって。頭上。プラントの天井を覆いつくすような水晶の塊が、落下してきていました。あまりにおおきすぎて、ゆっくりに見えるぐらい。
「ちょ……!? なによあれ! 避けられるわけないじゃない! いんちきだわ!?」
「いいから走れってんだ!」
重力操作を使って深淵さんが飛翔、巨大水晶へと一直線に向かいます。その右腕の周囲の空間は、強力すぎる重力で歪みはじめています。わたしはマチの手を引き、走って、渡りかけていた橋を引き返します。島を経由せず、壁伝いの道を遠回りに通るルートです。
マロンさんが深淵さんの動きに気づき、撃墜しかけましたけど、音波さんが血棘の射撃で注意を惹きました。
マロンさんはほっぺたをぷくーっとおもちみたいに膨らませました。
「もう! 今はマロンたちの番なのに! おねえさんはマロンたちに攻撃しちゃいけないんだよ! ルール違反するなら、こうなんだから!」
マロンさんが翼から結晶の杭を数本撃ちだしました。音波さんはそれらを血刀で難なく切り伏せていきます。ところが床に突き刺さった結晶杭は淡く発光、帯電、振動――。音波さんの血刀はどろっと溶けはじめました。音波さんは舌打ちして結晶杭から距離を置き、常に脚を動かすことを強いられました。
そして、がおん! と大気を割る轟音。頭上の水晶塊が、天の咢におおきく食い破られていました。ひび割れ、砕け散りながら、ゾウほどの大きさの水晶片が激しく飛沫をはね上げて培養槽にばちゃばちゃ降り注ぎます。
マロンさんが歓声をあげました。
「おねえさんすごーい! じゃあマロンたちもそろそろ――、
マロンさんのまわりに浮いていた結晶粒が、おどろおどろしい赤色に変わりました。途端に、培養液がみるみるうちに凍結、隆起、結晶の森が形成されていくではありませんか。それはまるで天地創造のシミュレーションのよう。
深淵さんが降りてきて――というより、ほとんど叩きつけられるように着地して、結晶のうえに這いつくばりました。
「うお!? なんだこれ空気が……!? おっも……!? 音波より重え……!」
「っ……! あんたねえ、こんなときぐらい……、ぐ……!」
音波さんも膝をつき、額にびっしり汗を浮かべています。わたしたち三人は、なんとか反対側の扉に到着していましたけど、仲間の苦しむ姿を見て、わたしは思わずそちらに駆け寄りそうになっていました。
「深淵さん! 音波さん! だいじょうぶ!?」
「ばっかやろ……、はやく行け……!」
「で、でも……!」
「こいつは、やべえ……! あんのいんちきぱそこん、実力がダンチすぎる……どの特待生よりも……! "最強の魔女"なんてのがいるとしたら、きっとこいつだろうよ……! なによりあんな"でけえ痛み"、視たことねえ……! だからてめえがいてもどうにもならねえ! さっさと行きやがれ、アホ……!」
深淵さんが、渾身の重力でおおきな結晶をこっちに投げ飛ばしてきました。
「ちょ!? あぶな!」
すんでのところで後退したのでよかったものの、危うく押しつぶされてしまうところでした。ただ、扉に蓋がされてしまって、戻るに戻れなくなってしまいました。
「そんな……! 音波さん! 深淵さん!」
必死に扉ごと結晶を押しのけられないか奮闘するわたしの肩に、そっとマチの手が置かれました。
「リナ先輩、さきに、行きましょ……。ここは、深淵先輩の、言うとおりだと、思います、よ」
「ぐう……、わかった、わ……」
後ろ髪を引かれる思いで、わたしたちは先を急ぎました。
さらに地下へと下っていくと、居住区らしき区画に到着しました。通路には中型のじーじとザ・ウォッチャーが巡廻しているだけで、ひとけはありません。じーじも少ないためでしょうか、空気が濃くなっていました。空気ボンベを置いて、周囲を探索します。
この区画には、個室らしき小部屋がたくさんあって、なかから複数のきゃんきゃんとJKが騒ぐ声が聞こえていました。ただし鍵がかけられていたので、小部屋には入れず、窓もないので室内の様子はうかがえません。
魔零さんがぱしゃぱしゃシャッターを切ります。
「みーんなここに捕まってたんですねー。てか、みんなしてしっぽりとっぷりぬぷぬぷやりまくっちゃってますね。レズ奴隷堕ちした子の保管庫っぽです」
「え、なんでわかるの?」
「なんでって。ふつうに声聞いたらわかるくない? ねー? マチちゃん」
「え……、あの……。ん。と。……はい、そです、ね……」
マチが赤くなってうつむきました。
「すごいわね、あなたたち。わたしなんて、見ても判定がむつかしいときがあるのに」
「リナちゃん先輩、耳めちゃいいのに、宝の持ち腐れにもほどがありますよね。ひょっとして、風紀委員向いてないんじゃないです?」
「んまっ! なんてこと言うの! そんなことないわよね、マチ!?」
「ぇ。と。……そゆとこも、かわいいと、思います、よ」
「フォローになってないわよ!」
「ぴぇっ」
「あーハイハイ話振ったのチオですけど突発的にイチャるのやめてくださーい。エモが無になりそうでーす。それで、どうすんです? ここかなり広いめですよ?」
居住区はぱっと見渡しただけでも相当な面積がありそうです。JKの九十五パーセントが収容されている……かどうかまではわかりませんけど、連絡塔数十フロア分の広大さはまちがいなしです。通りに名前があるわけでもなく、入り組んでいるので、すぐに道に迷ってしまいそうでした。
「あ! 先輩先輩! なんか見っけちゃいましたよ!」
魔零さんが指さす壁には、張り紙がありました。丸文字ででかでかと――。
『ようこそ♪ R.U.R.ご一行 ☆大かん迎☆ こっち⇒
(ワナじゃないですよぉ~)』
なんて書いてます。これはたぶん、タマさんの字ね。ていうかぜったい罠ね。
「どします? なんか歓迎されちゃってますけど」
「まあ、結局はそっちに行ってみるしかないわね。そっちにタマさん科藻さんがいるのはほぼ確定で、あの子たちならサリンジャーさんの居場所を確実に知ってるわ。急だったから、向こうだって大した罠をしかける暇はなかったはず。ここは居住区でもあるしね。罠があっても、それはこちらを足止めして侵入を妨害するための仕掛けだと思う。十分に警戒して、進みましょう」
かなり注意しつつ張り紙の案内に従っていくと、でもとくに待ち受ける罠もなく、VIPルームという表札が掲げられた扉にたどり着いちゃいました。ラブリュスの柄で軽くノックすると、扉の向こうからから、"開いてますよぉ~"なんて声。ふたりに目で合図して、思い切って扉を開けました。なかは――豪勢な内装の個室でした。
キングサイズのベッドに、バラの花びらが浮かんだジャグジー付きの浴槽。シャンデリア。音波さんならともかく、わたしなんかは場違いなゴージャス感ね。
バスローブ姿の科藻さんタマさんが、高そうな肘かけ椅子に座って優雅にぽよ入りミルクティーを飲んでました。偽物……ではありません。ユリガンの影響も受けておらず、心音もあります。
「にゃっほー☆ 兎浪せんぱぁい♡ お待ちしてましたぁ~」
「やー、まさかアジトまで押しかけてくるとはネ。兎浪さんのわれわれへのラブっぷりにも呆れたもんですナ」
「あなたたちに会いに来たわけじゃないわ。わたしたちは、サリンジャーさんに用があってきたの。最近見かけてなかったけど、ここにいるんでしょ? 案内してもらえるかしら?」
「つれないナー。われわれと遊んでくれたら連れてったげるってのじゃだめですかい?」
「あいにく、こっちはそんな余裕ないの。仲間が、今まさに、戦ってくれてるところだから」
「でもタマたちもぉ、ここのこと任されちゃってるんでぇ~。ただじゃ通せないですよねぇ~。にゃふ♡」
カップを置き、ゆっくり立ち上がるふたり。部屋の空気が一気に張りつめます。わたしはマチを下がらせ、斧を構えなおそうとして――。ふいに、背後からひょいとその斧を奪われてしまいました。犯人は……、魔零さん。
「う゛、おっ、も!? 先輩、こんなんぶんぶんしちゃってたとか脳筋にもほどがあるくないー?」
魔零さんはふらふらしながらわたしたちの前に出ました。
「魔零さん!? 戦うのはわたしの仕事よ!」
魔零さんは……そのまま、科藻さんタマさんに近づいて、その間に立って、こっちに向かってにこって笑って。
「え、なに言ってんです? もう負けですよ――、先輩たち」
「……え」
「やだうっそ、まだ気づいてない? あはは、先輩にぶちん! そんなだから罠にかかっちゃうんですよーだ! ぷーくすくす♡」
「くししっ、おっつおっつ、魔零ちゃん。うまいこと誘導してくれたナ」
「にゃふっ♡ まんまとハマってくれましたねぇ~♡」
「そ、そんな……うそよ……!」
「えっへへ、そうです、先輩に言ったこと、ぜーんぶうそなんです♡ チオ、実は最初っからJKP側で、R.U.R.を誘い出して分断してそれぞれ捕まらせるために潜りこんでた
「な、なんてことなの……!」
「にゃははっ♡ 兎浪先輩、ひっかかった顔ぉ~♡」
わたしは目の前が真っ暗になって、膝から下のちからが抜けるのを感じました。
「で、でもどうして、そんなことが……がす子さんのうそ発見器には引っかからなかったじゃない!」
「あー、それ? チオってば悪魔だから、全生物の遺伝子持ってて部分的にも再現できるんで、そゆのいくらでも誤魔化せるんですよねー。いわばマロンちゃん先輩のウルトラ完全上位互換? だからレズド雨も効きませーん。いえい」
「なにもかも、うそだったっていうの……? 單ちゃんも……?」
「そですねー、あれも実在しませんよ。チオの声真似です。てか声しかわかんないのによく信じましたよね、先輩ちゃんたち。ちょいびびりです。あ、ついでにこれもガチバナですけど、J.K.をめぐる陰謀や、ガンコロシン、
ダブルJKデリンジャー現象もですよ! そんなの最初から対策してるっての! 先輩ちゃんたち、じーじなんかの迫真の演技にころっと騙されちゃって、単細胞生物かな? チオ、笑いこらえるのに大変だったんですよ?
おっかしいですよねー、R.U.R.のひとら、百合でレズ行為をつぶすとかガンをなくすとかごちゃごちゃ言ってましたけど……ぜんぶうそっぱちだったんです! 百合なんて、結局なかったんですよ! きゃははっ!♡ ひゃー、ま、チオもまさかここまでころっと騙されてくれるなんて思ってなかったですけどねー。チオはさしずめJKコロシンかなー、なんつて♡ えへっ。あ、ちょうど今、あっちも終わったみたいですねー。ほら」
魔零さんはラブリュスを重そうにほっぽってユリクロスをブラジャーのなかから取り出すと、立体ホロを呼び出しました。フレッシュウォールが、多数のじーじとレズ奴隷と化したJKたちに襲撃されている映像を。
「みんな……!」
「こ、こんなこと、って……。ひどすぎ、ます……。ううぅ……」
マチが泣き崩れるようにして、その場にへたり込みました。
くちのなかに石灰をいっぱいに詰めこまれたかのごとき、乾き。絶望感。
「っ……! どうして、こんなことを……! あなたたち、L.U.L.なんかが、本気でいいと思ってるの!?」
「えー、当たり前じゃないですか。だってレズランドですよ? 最高に
ぺろっと舌なめずりして、悪魔めいたグリーンアップルのおめめをにんまりすぼめる魔零さん。
「チオねえ、かわいいのが好きなんです。だからセカイチかわいい自分大好きだし、自分の
JKってほんっといいですよねー。ちょっと指でいじくってあげたら、イキまくってひんひん泣いて、かわいいったらないの! 一回寝ただけでことあるごとにすりよってくるようになって、チオにえっちしてほしくてたまんないーって顔で誘ってくるんです。チオの匂い嗅いだけでとろとろになっちゃうのとか、もうたまんなくエモくって。チオの靴箱、毎日JKのお誘いぱんつだらけでしたからね。マジで草。
レズランドとか実現したら、チオの才能があれば一国を支配することだってできると思うんですよね。そんなの、この世界にほかになくない? 夢の国そのものじゃない? 一生レズえっちしてるだけで権力者になれるとか、最高じゃないですか。
とゆわけで、タマちん先輩、科藻ちゃん先輩、あとはよろしくでーす! チオはカメラの準備しとくんで!」
と言って、一眼レフをいじくりながら下がりかけた魔零さんは、両腕を、夢魔JKたちにがしっと掴まれました。
「……はえ?」
そしてなんと、ベッドにむりやり引っ張りこまれていくではありませんか。
「え、ちょ、なにしてんです!? なんの冗談!? あっちでしょ!?」
タマさんが大笑いしつつ、魔零さんの太ももを撫でました。
「にゃはははははは! あぁ~、おっかしぃ~! やっぱ最高ですねぇ~、相手を騙せたと思いこんでる腹黒ちゃんがえらげにネタバレしてんのぉ! ホントは……自分がいちばん騙されてたのにぃ! にゃっはぁ♡」
「は? いや、は? え? あ……?」
部屋のそこかしこから触手じーじを呼び出して、魔零さんの服のなかに忍び込ませはじめる科藻さん。
「くししっ。魔零ちゃん、騙され慣れてないのネ、テンパって頭んなか真っ白かー? ま、すぐにきもちいので頭真っ白にしちゃうんだケド♡」
ようやく状況を飲みこみはじめたらしい魔零さんが、じたばたと暴れました。
「え、うっそ、まぢ……? ちょっと! おい! え!? なんで!? こんな"脚本"だったか!? ちょ、おい、まじでこんなの聞いてな……おい! ねえ! あの! これも"芝居"なんだろ!?」
「にゃははっ♡ 芝居とか、なんの話ですかぁ~?」
「ハイハイ、ねんころねんころー♪」
「ふきゃっ!? し、びぇえ……?」
びかびかびかっと強い光を浴びせかけられ、ぐったりする魔零さん。の、スカートのなかにタマさんの指と触手じーじが潜りこんでいきます。
「うりうり♥ うにゃぁ♡ もうどろどろぉ♥」
「あ゛に゛ゃあ゛あ゛!? ぉ゛げっ!? ま゛っ、ま゛っでっ! いぎな゛り゛いれるのはっ! む゛り゛ぃい゛っ! チオ゛っ、バリ゛タチ な゛ん゛ですげどぉ!? オ゛イ゛ィ゛!?」
「とかいって、きったないサカり声でよがっちゃって、入口のほうまですんごいあつあつふわふわになってんゾ♥ ネコのほうが向いてんじゃないかー?♥」
「んひいぃ!? お゛お゛お゛……!? ちょ……も……にゃんれすか、この肉体っ!? よわすぎゆっ……! なにか仕込んで――お! おっ♥ おっ♥ おっ♥ おおおっ♥ いや、ちょ、やだっ♥ ほんと……♥ も……♥ おねが……♥ まぢ……♥ なんでも、しまひゅから……やめて、ほしいな♥ なんつて……あー!♥ やっぱりらめれひたっ♥ ま゛っで、ほん゛っど、む゛り゛!♥ むりだからぁ!♥♥ この゛……!♥ かっ……下等魔の゛ぐぜに゛ぃ゛ぃ゛……!♥♥♥」
なんだかよくわからないけど、夢魔たちは唐突に魔零さんをレズレイプしはじめちゃいました。どうしたらいいの、これ……。あなたたち仲間じゃなかったの……?
困惑してるわたしたちに、科藻さんが濡れた親指を立てました。
「われわれはわれわれであとはうまいことやっとくんで、おふたりさんは奥のエレべーターで最下層まで降りてくださいナ。サリンジャーさん、そこで待ってんで」
「ええ……、どういうこと?」
「それはサリンジャーさまに直接聞いてくださぁい。タマたちには理系なむつかしぃ話は難易度高すぎなんでぇ~」
「またなにかの罠、なんじゃないでしょうね?」
「ユリガンが効かないってばれてんのに、今さらそんなまどろっこしいことしないゾ?」
「タマたち、これから魔零ちゃんと仲良くするんでぇ、さっさとどっか行っちゃってくださぁい」
「あー、いっぐっ!♥ ころす♥ これいっぐ♥ こんなやつっ♥ ごろ゛ぢでや゛る゛っ!♥ い゛くい゛くっ♥♥ ぜったい♥ いぐ♥ あ゛-だめだめいぐいぐいぐいぐ!♥♥♥」
まだ全然事態についていけないですけど、とにかく先に進むしかないようです。わたしはラブリュスを拾いあげると、マチの手をとり、鳥かごみたいな工レべーターに乗りました。
ごうん、ごうん、ごうん……と鼓膜がごわごわするおおきな機械音を立てて、さらに地下深くまで降りていくエレベーター。ついにふたりきりになってしまった心細さか、マチが強く握ってくる手は、震えていました。
まさかユリガンが機能していなかったなんて。もう、マチを守るものはわたしの身ひとつしかありません。それに、魔零さんの話が事実なら、サリンジャーさんを説得する論拠が根底から崩壊してしまったことを意味しています。
サリンジャーさんはわたしたちを待っていた、とのことですけど……。わたしたちは、いったいどう出ればいいのか……。最悪、なにもできないまま、捕らえられてしまう可能性だってあるかもしれません。
どんなことになろうとも、何に代えても、マチだけは守らなければ……。でも、ほんとうにできるのかしら……?
……だめ、なのに。わたしが、こんな不安がってちゃ。でも。こわい。
だからこそ。――ことばに、しよう。
わたしは深呼吸をして、マチをきつく抱擁しました。
「ん、ゎ……」
「……マチ、このさき、なにがあるかわからないわ。守り切れるかどうかは、正直わからない……。でも、約束する。あなたを守るために、全力を尽くすわ。だからわたしを、信じててほしいの」
じ……と見上げてくる、ふたつの満月。
「ぁ……。ん。はい。あたし、は……いつだって、先輩のこと、信じてます、よ。先輩のこと……すき、です、ので」
「……ありがとう。わたしも、すきよ、マチ」
わたしは自然と頬が緩むのを感じながら、胸のなかのマチの髪をすくいました。
……まあ、なんてことでしょう。あんなに怖くて仕方なかったのに。たったひとこと、そのことばを聞いて、くちにしただけで、なんだかぜんぶ吹き飛んじゃいました。
まるで魔法ね。ことばの魔法。気持ちの魔法。
エレベーターが広大な空間の階層に出ました。筒状の水槽を縦に積みまくった柱がそこかしこに乱立していて、照明で照らされ、ピンクの燐光を放っています。水槽の中身はじーじ……では、なく。
「ひ……! こ、これぜんぶ――、JK。じゃ、ないです、か……?」
頭に機械のヘルメットかなにかをかぶせられた、すっぽんぽんのJKが、収められていました。すべての水槽に、です。おぞましすぎる光景に、わたしは吐きそうになっちゃいました。
死んでいるのか眠っているのか、JKは全員、みじろぎする気配もありません。よく観察してみたら、手足がないJKや、尻尾や羽が欠けたJKたちがいます。
「この子たち……ケガしてるのかしら?」
「……ひょっとして、治してるん、でしょ、か」
「捕まえるときに、傷つけちゃった、とか? 傷跡が残るとレズ奴隷としての価値がなくなっちゃうものね」
「……あれ。ん、と、でも、こんな治療施設、地下深くにあるの、おかしくないです、か? ここに来るまでに、間に合わなかったり、したら……」
「あ、たしかに。これじゃあまるで、ここの存在を隠してるみたいよね――」
ふたりして首をひねっていると、エレベーターはさらに地下の階層に。ねっとりして重い空気と、赤黒い闇をたたえた、これまた広い階層です。ただ、内壁はフレッシュウォールのように肉のような物体で一様に敷き詰めらていて、距離感が狂うというか、圧迫感があります。
層の底はすり鉢状のようになっていて、全面から伸びる白い肉の筋が中央の円形台座に集まっていました。象牙のように白い台座は緩やかな階段状。頂上には立派な玉座が設えられています。玉座におわすのは、虹色の人影。
エレベーターが止まりました。ここが、最下層のようです。降りると、籠はひとりでに上昇していき、わたしたちは置き去りにされてしまいました。床下の肉は、どくんどくんとかすかに脈動しています。
わたしは右手で斧を構え、マチを背後に隠し気味に、ゆっくりと台座に歩み寄りました。
「――ここは、頭蓋なんだ」
あの奇天烈なことば遣いもテンションも微塵も感じさせない、落ち着き払った知的な口調。一瞬、サリンジャーさんではない、第三者が喋ったのかと疑ったぐらいです。
「ここに満ちるのは空間コンピュータでね。座標のひとつひとつが演算素子だ。この空間内部で起きた事象すべてが、"STERRA"の演算過程になる」
玉座に深く腰掛けたそのJDは――百日間砂漠をさまよってたみたいに干からび、ひどく衰弱している様子でした。首や腕、腹部に管が刺さっていて、それらは玉座の裏側の機械に繋がっています。
「え、あなたどうしたの? 病気?」
「というより、寿命、かな。これまで強引に魂をつぎはぎして生命限界を伸ばしていたが、それらも尽きてしまった。今ここにいるのは、融合していた人格がそぎ落とされ、むき出しになった最初期の予岐 佐波で、ただの千年前の亡者にすぎないのだ。
……さて、兎浪 リナ、伊井 時須。ふたりとも、よく来てくれた。ずっと、話をしたかった……。でもそれは、この空間でしか許されなかった。どこもかしこも、JKPの監視の目と耳があったから。だからご足労頂いた。ほんとうに、よく、来てくれた。ようやく、真実を語れる」
「真実ってなに? 話がしたかったのなら、ええ、しましょう。わたしたちもそのつもりできたもの。でも、先にマロンさんとこころさんを止めて! わたしたちの仲間が、今まさに戦ってるところなの!」
「ああ、それはもう終わっている」
サリンジャーさんが手を振ると、台座の上にホロ映像がぱっと出現しました。ぼろぼろになって……地面に横たわり、気を失っているらしい、R.U.R.みんなの姿が。
「な……!? みんな負けちゃったの!?」
「必然の敗北だね。一方は最極の虚空、真空を支配する遠つ神
そしてかのスーパー・スプレッダーたる結晶使いがつくりあげるのは、超高密度結晶による"時空展延迷宮"。未来・過去・歪曲された現在から迫りくる攻撃は、悪魔でさえ見切ることなどできまいよ。
the Limit-Exceeded of SubStitute、すなわち"
こころさん、マロンさんが、仲間たちにくちづけを施していくのを見て、わたしは声を荒げました。
「でもあの子たちもレズ奴隷にしようとしているじゃない! あの子たちは、そんなこと望んでないの! お願いだからもうやめて!」
「ああ、あれは唾液を交換して接続を図っているだけだ。あれ以上の行為はしまいよ。もうJ.K.でのレズ行為に意味がなくなったから。
全JKの接続は、彼女たちで99.9999パーセント完了した。"R.U.R.& L.U.L.
「ど、どういうこと!? 意味がわからないわ! ちゃんと説明しなさい!」
「もちろん。そのために招いた。まずは――、ある真実を、受け止めてもらわなければならない。すべての大前提、すべての動機の原因、わたしがR.U.R.& L.U.L.計画を立案した理由を。
J.K.に存在するものは――、すべて、ガンを原料としてつくられているんだ。じーじも、
あなたたちは、人類ではない。人類から切り落とされたガン細胞、不要だった肉の寄せ集めだ。
地上では、"