7月に入ったものの未だ梅雨明けは遠く、ぐずついた天気が続いている。
今日は午前中だけが雨で帰りがけには止んでいた。閉じた傘を片手に雨上がりの蒸し暑い空気の中を家路につく。
自転車に慣れて来たせいかはたまた湿気のせいか、徒歩三十分の道のりがいつもより遠く感じた。
ようやっと家に帰りついたら家の前で作業着のおっちゃんたちがアスファルトを掘り返していた。
「お、ここんちの人?」
「そっすけど」
「水道管の入れ替えやってたんだけど、トラブルがあって断水が伸びてんですわ。すみませんけどもう少しかかります」
「まじすか」
そう言えば、お知らせの紙が郵便受けに入っていたのを思い出した。昼間に断水するものだから帰ってくる頃には終わってるだろうと流していたが、予想外の展開だった。
「トイレはお風呂の残り湯とかをタンクに入れたらなんとかなるんでそれでお願いします」
「……あったかなぁ」
「もし駄目ならコンビニででも借りてください。ここの区画だけなんで」
災難ではあったが、この蒸し暑い中仕事が延びた作業員の方々の方がもっと災難だろうし文句も言えず、俺はひとまずカップ麺の予定だった夕飯を変更すべく自転車に跨ってコンビニに向かった。
「おかえりー」
「おう、断水だってよ。参った参った。ちょっと風呂入って来る」
「いってらっしゃーい」
荷物を置いて再び家を出る。実は、家のすぐ近くに銭湯がある。いつか行こうと思いつつも家に風呂があるとわざわざ行く気になれず今まで行かずじまいだった。区画が違うらしく普通に開いていたのでちょうど良い機会とばかりに下足箱に靴を入れて扉をくぐる。
「あれ、お兄ちゃん早くね?」
「……銭湯って石鹼とかシャンプーとか別売りなのか」
「知らなかったの?」
恥ずかしながら、こちとら今年の春まで田舎住まいで銭湯自体が地元に全くなかったのだ。たまに家族で車で健康ランドに行った程度で、そこは着替えだけ持って行けば良かったので何か持って行くとかが頭になく、扉を開けてシャンプーを売っているのを見てすぐ引き返してしまったのだ。
まあ、入ってしまってからシャンプーも無ければタオルも無いとなるよりはかなりマシだったのが不幸中の幸いと言えた。
「歌でもあるじゃん。赤い手拭とか小さい石鹸を持ってくって」
「なんだそりゃ」
ミュナはたまにこういうわけのわからないことを言う。ほったらかして俺は洗面器やらシャンプーやら着替えやらを纏めて家を出た。
番台の婆さんに金を払って改めて入る。四百五十円と言うのはなかなかどうして貧乏学生には手痛い。普段の風呂がどれほどありがたいか身に染みる。光熱費が親持ちだからというのもあるが、それはそれとして四百五十円は毎日の出費としては大きいだろう。その分せめて家にはない広い風呂を満喫しようと端から端まで一周してみる。
中は思ったより奥行きがあり、普通の風呂だけではなくジャグジーや電気風呂、露天風呂まであったのは意外だった。サウナもあったが別料金だったのでパスした。薬風呂とあったが、入浴剤の名前が書いていたのは堂々としすぎだろう。
とりあえず身体を洗って一通り入ってみる。他の客はたいていがお年寄りばかりだが、たまに子供連れがいたりもする。女湯との仕切りは天井まで届いておらず、隣にいるであろう家族に大声で呼びかける子供なんかも居て微笑ましい。何やら条例できっちり決められているらしく、健康ランドのように女の子が居て気まずくなることもない。
「……ふぅ」
ジャグジーに身を委ねて息を吐く。結局全部の風呂を回ってみたが、寝そべることができるこれに帰ってきてしまった。手足を思い切り伸ばして入れるのは家の風呂にはない大きな利点ではある。たまに入る分には良いのかもしれない。でも、それは家から目と鼻の先だからというのが大きいからだろうし、蛇口やシャワーの使い勝手が悪いことを考えたらわざわざ金を払うかどうか、払うとしてもそれなら自転車を出せばもう少し離れたところのスーパー銭湯に行った方が良いんじゃないか、でもそっちは帰りが辛いから暑い日は困るなとか、どうでも良いことが延々と頭に浮かんでは消える。
「そろそろ出るぞー」
「待ってー、お兄ちゃん」
小学生ぐらいの男の子が女湯に向かって叫ぶと女の子の声が返ってくる。兄妹だろう。お兄ちゃん、という単語から家で待っているミュナの姿が脳裏に浮かんだ。
ミュナとはたまに風呂に入るが、うちの風呂は狭いので二人で湯船に入ると必然的にくっつきあうことになる。そうなるとこっちも我慢できなくなってなんやかんやで搾られてしまうし、狭いから終わってから腰に来たりすることもある。
隣の無人のジャグジーが視界に入る。家から出られないミュナがこの銭湯に来られはしないのはわかってはいるが、もし来たとしたら―――
「んんー、広いお風呂もいいねー!」
「だな。たまに来てみるか」
隣のジャグジーでめいっぱい手足を伸ばして寛ぐミュナ。のんびり寝そべる俺の身体を何かがつんつんとつつく。
「おい、何してんだ」
「さぁ、なんのことかなー?」
ミュナは目を逸らしてすっとぼける。その間にもまたつんつんと攻撃が続く。ミュナの尻尾が伸びてきているのだ。
「やめろって。公共の場所だぞ」
「だいじょぶ。泡があるからばれないよ」
そのまま尻尾がぱっくりと口を開けて俺のモノにむしゃぶりつき―――
足裏にジャグジーの刺激を受けて俺は我に返った。適温の湯に浸かって他愛ない妄想をしているうちにいつの間にか微睡んでしまっていたようだ。夢の中でミュナの尻尾にくわえられたせいでガチガチに勃起してしまっている。
長く湯船にいたせいか少し身体も火照ってきているのでとりあえず洗面器で隠して鎮めるべく水風呂へと移動する。水面に恐る恐る手を伸ばして……
「うわ、冷たッ!これ無理!!」
手を入れる間際ですら冷気を感じられるぐらいだったのが、実際に手を入れると想像以上の冷たさに思わず後ずさりをする。幸いと言うか何と言うか、その衝撃で勃起は収まってくれはした。
慌てて湯船からお湯を汲んで冷えた手を温めなおしていると、サウナから爺さんが一人出て来て水風呂に直行し、冷え切った水で汗を流したかと思うとそのまま頭まで水風呂に浸かった。謎の敗北感を抱きつつ、俺は浴場を後にした。
服を着て銭湯を出ようとしたところで、俺は番台横の冷蔵庫に気がついた。今時珍しい瓶のジュースやラムネや紙パックの牛乳類、更にはビールまで置いている。
「すんません、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳一本ずつ」
「はいよ、二百二十円ね」
瓶のジュースはその場で飲まないといけなさそうだったので、紙パックをミュナの分まで購入して足早に家へと戻る。まだ水道工事は続いていた。
「おかえりー。お風呂気持ち良かった?」
「おう。でもけっこう高いから毎日はきついな。あ、コーヒーとフルーツどっちが良い?」
「わ、お土産だー!えっと、じゃあ……『つうごのみ』のフルーツ牛乳で」
「なんのこっちゃ」
ミュナにパックを渡して俺は残ったコーヒー牛乳をすする。風呂上りの火照った体に甘みとほんの少しの苦みがしみわたる。ついでにコンビニで買ってきたおにぎりも食べてしまう。コーヒー牛乳とはあまり合わないがまあ仕方ない。
「でも、今は瓶じゃないんだねー」
「瓶のコーラとかもあったぞ。ってかなんで知ってんだ」
「眉毛の繋がったお巡りさんが言ってた」
あのお巡りさんが言ってたのなら仕方ない。
「ん-、甘くておいしー!あ、そうだ、お兄ちゃん、あれやったのあれ」
「あれってなんだよ」
「湯船の縁でポーズとっておちんちんぐるぐるーって」
「やってないです」
やっぱり仕方なくなかった。
おにぎりを食べ終えてコーヒー牛乳と一緒に袋に纏めているとミュナもフルーツ牛乳を飲み終えてパックを袋に放り込んできた。
「ごちそーさま。ご飯も食べたしお風呂も入ったから、これはもう、あ・た・し?」
「…………」
わざとらしく腰をくねらせてミュナは挑発をしかけてくる。ぷらぷらと揺れる尻尾に目が行って、先ほどの湯船の中での一瞬の夢が頭に浮かんでしまう。
「……えっと、お兄ちゃん?」
「……頼む」
「たまってる、ってやつなのかな?しょうがないにゃあ」
「……うっせえわ」
流石に銭湯で妄想するうちにミュナの夢を見てしまったとは言えなかった。
「じゃあ、どうする?お口?お手手?アソコ?尻尾?」
ミュナはいちいち指で環を作ったり舌をちろちろさせたりと淫猥なジェスチャーをして俺を挑発する。
「……尻尾で。水止まってるしあんまり大掛かりにはしたくない」
「はいはーい。すっかりハマったみたいで嬉しいな♪」
銭湯で見た夢が冷めやらないのが一番の理由だったが、言い訳で誤魔化されてくれているならわざわざ訂正する理由もなかった。ズボンを下ろしてミュナの尻尾が近づいてくるに任せる。
「えへへー。はーい、ぱっくん」
「ぬおっ……」
尻尾が大きく口を開けて俺のモノを根元まで咥える。風呂に入っているぐらいの暖かさと内部の粒粒の感触が全域に広がり、思わず声が出る。ミュナは俺の背後に回って耳元に口を寄せた。
「じゃあ……ぐちゅぐちゅ、するね?」
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっっっ!!
「うああああっ……!!」
尻尾の内部がうがいをするかのようにぐちゅぐちゅと音を立てて蠢く。上下左右にこね回されて快感に声が漏れる。ミュナの尻尾は根元まで俺のモノを咥え込んだままだが、外からでも内部の蠕動が見て取れるように蠢いていてそれだけでいやらしい。
「いつでも出していいからねー。はーい、ぐちゅぐちゅー、おまけにこりこりー」
「うぐぅっ……」
ミュナは尻尾で俺を嬲りながら俺の乳首に手を這わせてくりくりと捏ね回す。既に負けを認めて睾丸から尿道へと精が漏れそうになり……
ピンポーン
「えっ」
どく、どく、どく
インターホンが鳴り、そちらに気を取られて途端に出してしまった。ミュナの尻尾は俺が出しても止まらなず、射精直後の敏感な竿を責め立てる。
「は、はい。どなたですか?」
ミュナが尻尾を離してくれないのでミュナごとインターホンまで歩いて応答ボタンを押す。
「あ、すんませーん。水道工事終わりましたー」
「そ、そうですか」
ミュナは応答する俺の後ろにぴったりくっついて相変わらず俺の乳首を弄る。
「それとですねー」
「ひゃいっ!」
必死で平静を装っていたが、尻尾の動きが激しくなって変な声が上がってしまう。ミュナを肘でつついてやめろと睨みつけるがミュナは淫靡な笑みを浮かべて俺の抗議を流す。
「最初は水道管の錆が混じった濁った水が出るかも知れませんので、飲んだりお風呂に入ったりしないでしばらく蛇口を開けっぱなしにしててください。五分か十分ぐらいですかねー」
「わかり、ましたっ……」
「遅くまですみませんでしたー」
ぷつりとインターホンが切れると同時に再び精が尻尾の中へ迸る。中途半端に出た一度目の残りか新たにもう一度搾られたのかは自分でもわからない。きゅぽん、と音を立てて尻尾が俺の股間から外される。
「ミュナ、お前な……」
「気持ち良かったっしょ?」
悪びれないミュナを後によろよろと台所に歩いて蛇口を開けると確かにいつもと違う色の水が出て来るとともにどっと疲れと眠気が来てぺたんと座り込んでしまう。
「悪い、ミュナ。5分したら起こして……くれ……」
「はーい。がってん」
ミュナの声を最後に俺の意識は溶けていった。
目が覚めたら朝だった。台所で座ったまま寝ていたはずが、いつの間にか畳の上に移動しており毛布が掛けられていた。
「あ、おはよー」
「おい、ミュナ。5分したら起こせって」
「お兄ちゃん起こしても起きなかったからミュナが蛇口閉めたんだよ。そんで夜中にふらふらって起きたから布団に誘導したんだけど途中で力尽きちゃったから毛布かけたの」
思い返せばそう言えば夢うつつの中で台所から移動したような気がしなくもない。
「ミュナが居て良かったね。あのまま寝てたら7月でも風邪ひいちゃったかも知れないよー?」
ミュナに搾られたから寝落ちたのだと文句を言いたくもなったが、そもそも望んだのは自分である以上あまりきつくも言いにくい。俺は無言のまま洗面所に行って顔を洗った。普段通りの水が出て来たのが心底ありがたかった。
ちょっと間が空いてしまいました。スマホのバッテリーが背面部を突き破って出てきたり新しいスマホを慌てて買ったもののデータ移行ができなかったり手動でデータ復旧したり手投げ弾みたいになったバッテリーを処分するためあちこち駆けずり回ったりトレーナー業に就いたりマヤノトップガンちゃんの厳選をしたりと色々ありましたがなんとか一話終わらせられました。
どうでも良い話ですが、「俺」とミュナの住んでいる家にはモデルがあり、今回の銭湯にもモデルがあります。なんと脱衣所にレトロゲーム筐体が置いているのですが、今回の話に入れても何もないのでオミットしました。
この小説に求めるものは何ですか?
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