山だ。右も左も山、山、山。高速バスの車内は苛立ちと落胆の空気で満ち満ちていた。
『お兄ちゃん、今どこー?』
『さっきからほとんど動いてない』
『むぇー』
俺はため息をついて残り少なくなったペットボトルの紅茶を一口飲んで天を仰いだ。
バイト先も盆休みになったので、進学以来一度も帰っていなかった実家に帰ることにした。ミュナを置いて家を空けるのも少し気が引けたがお盆の墓参りとそれに伴う墓掃除を俺一人だけスルーするのもこれまた気が引けたのでミュナと相談して、お土産を買ってきてミュナが見たことのないものの写真を送ることで話がついた。
最寄り駅の今にも崩れそうな駅舎や実家の遠景、色々作っている最中の畑なんかの写真を送る度にミュナはコメントやスタンプを返してくれたし、お互いの近況を報告しあったりして二泊三日の里帰りは特にトラブルなく過ぎて行った。強いて挙げればミュナが相変わらずガチャで豪運を発揮して煽りスクショを送ってきたぐらいか。問題は、帰路についた今だった。
お盆最終日だと間違いなく混むだろうからと一日遅らせたにもかかわらず、まさかの事故渋滞でほぼ立ち往生という惨状である。バスは数分止まってはのろのろと進んでを繰り返している。
『動いた?』
『数百メートルぐらい』
『今日中に帰れるの?』
『わからん……』
こんなことになるのなら少し高くて不便でもそこまで遅れない鉄道ルートで帰るべきだったと思っても後の祭りだ。唯一の救いは出る前にモバイルバッテリーを充電しきっておいたことか。繋ぎながらの操作はスマホのバッテリーを痛めるがそうも言ってはいられない。ミュナは心配してメッセージを連投しているし俺は俺でミュナとやりとりでもしないと時間を持て余しすぎてしまう。だが、バスがのろのろと進むうちにそれすらも怪しくなってきた。
『ミュナ、そろそろトンネル入るから電波届かんくなるかも』
『ありゃりゃ、仕方ないからレベリングでもしとくね』
『すまん』
トンネルの近くで予想通りスマホは圏外になり、またバスの歩みは鈍化する。最初は通信をしないアプリで時間を潰していたが、気がついたらすっかり寝落ちてしまっていた。
次に目を覚ました時には渋滞はすっかり解消していた。ダイヤ通りならば日が暮れる前には到着していた予定だったが実際はとっくに日は沈んでいる。敢えて良かった探しをするのならば実家では見られない都会の夜景が見れたことだろうか。スマホを取り出してメッセージを確認したが、ミュナからは何も来ていなかった。
『もうちょいしたらバスは終点だわ』
メッセージを送るが既読はつかない。流石に夜も更けているので待ちくたびれて寝てしまったのだろうか。俺はすっかりぬるくなった紅茶を飲み干してバスターミナルの駅からの終電を検索した。
「ぐええ、重い……しんどい……遠い……」
バスを降りるまではすっかり忘れていた大荷物を抱えながら最寄駅を降りて、愚痴りながら家へと向かう。大荷物の中身は実家の畑で穫れたあれやこれやにお菓子やら何やらまで持たされたのと、サークルとバイト先とミュナへのお土産の地元の銘菓だ。
ぎりぎりで終電に滑り込めたのは幸いだったが、大荷物を抱えて家までの三十分ばかりの道のりはかなりきつい。いっそ終電を逃したつもりでタクシーでもと思ったがそういう時に限って全く走っていない。
高速道路から見えた夜景も陸の孤島たるこの辺りは範囲外らしく、うすぼんやりした街灯の灯りぐらいしか頼れるものがない。実家周りとは全然違う夏の夜の蒸し暑さがどんどん体力を奪っていく。
静まり返った街の中で聞こえる音は大通りを通るわずかな自動車とエアコンの室外機ぐらいのもので、月明かりと蛙や虫の鳴き声に囲まれた実家とは全然違うのだと実感させられる。
ようやっと家の近くの商店街まで辿り着いた。ここからは街灯が増えて一気に安心感が増す。スマホを開いてメッセージを確認したが、やはりミュナからの既読はついていないままだった。せめてエアコンをつけておいてくれたら、ミュナの気遣いに期待して重い荷物を背負い直して家へと向かった。
「ただいまー……」
家の引き戸を開けながら小声で呟く。ミュナは寝ているのだろうが、つい言ってしまうのだ。玄関に入ると上からふわりと涼しい空気が下りてきた。
「よーしよしよし、ミュナ、偉いぞ」
最後の力を振り絞って大荷物を抱えて階段を上がる。この、一歩一歩上がるごとに涼しくなっていく瞬間は本当にたまらない。
「……あれ?」
階段を上がって荷物を置いて一息ついたところで違和感を覚える。電気が全くついていない。昼間でも防犯を兼ねて一部屋は電気をつけているはずが、家中真っ暗だった。ミュナが退屈を持て余して寝落ちているにしても電気はつけっぱなしになっていないとおかしい。
異常はそれだけではなかった。階段を上がるとやけに寒い。普段はエアコンの設定は二十五℃を下限に状況を見つつ二十八℃までを推移させていたのだが、身震いするほどの冷気が廊下に満たされている。エアコンの風が直接来るわけでもない廊下が何故こんなにも寒いのか。
「おーい、ミュナ、どうなってんだこれ」
呼びかけても返事はない。とりあえずリビングに入って人心地つこうとした俺だが、更なる異常が待ち受けていた。
「あれ……?」
リビングのスイッチを入れても灯りがつかない。何度かちかちやっても無反応だ。
「おいおいおいおい」
慌ててスマホのライトをつけて辺りを確認する。だが、それは逆効果だった。
「な……なんで、エアコン……」
壁面のエアコンは起動していなかった。ランプは全て消灯し、羽根は全て閉じて完全に眠りに就いている。冷気の出所はこのエアコンではないのだ。
「嘘だろ……何してんだ……ミュナ……」
寒さなのか恐怖なのか、その両方か。がちがちと歯が鳴る。俺の声に相変わらず返事はない。
ぴちゃ、ぺちゃ
ふと、俺の耳に水音が飛び込んできた。
「ひっ……!?」
思わず悲鳴が上がるがそれで何も状況は変わらない。きょろきょろと辺りを見渡して水音の発生源を探る。普段は使っていない奥の部屋。ミュナがこの間水着を着て夏気分になっていた部屋だ。そう言えば、あの部屋には普段は使っていないもののもう一台のエアコンが設置されていた。
「そ、そうだよな。たまには向こうの動作確認をしてくれてるんだよな……」
脳がお気楽に辻褄を合わせる。そうであってくれと都合の良い願望が頭をもたげてくる。震える足で一歩、また一歩と廊下の向こうの奥の部屋へと向かう。
ぴちゃり、ぺちゃり、じゅるり
近づくごとに水音がはっきりと聞こえてきて、体感温度も連動しているかのように下がる。エアコンが水漏れしていたら大家さんに言わなきゃな、などと現実的な感想が出てくるが、心のどこかでそんなオチなどではないだろうという直感があった。奥の部屋の扉はしっかりと閉ざされているのだから。きっとこの状況での正解は、家を飛び出して自転車でもってどこかネットカフェ辺りに逃げて一夜を過ごすことなのだろう。だが、ミュナがいるはずの状況で自分一人逃げるわけにはいかない。その意地がとんでもないミスだった。
「ミュナ、居るのか?」
扉に手をかける。凍りつきそうなほどのドアノブの冷たさに声が上がりそうになるも、押し殺してノブを捻る。がちゃり、と鍵の開く音がする。普段は一切使わないのですっかり失念していたが、奥の部屋のドアノブは外側にのみ鍵がついているタイプのもので、鍵がかかると中からは開けられない。外からならば俺が今やってしまったようにドアノブを捻るだけで鍵が開くのだが。ぎい、と扉が開き中から異様な冷気が吹き付ける。
「な、何だよ……これ……」
ぴちゃ、ぺちゃ、じゅる、ぷちゅ
部屋の中では生まれたままの姿の少女と言う年齢ですらない幼女が二人、お互いの局部をしゃぶり合っていた。灯りがついていないにもかかわらず、二人の裸身はぼうっと白く浮かんでいて魅入られたように目が離せない。二人の姿はまるで生き写しのようにそっくりだった。長い髪が白い裸身に絡みついていて美しくもおぞましく思えて、下半身に血が集まる。
反射的にスマホのライトを向けてしまった。部屋の中は、俺の知っているものではなかった。いつのものかわからない古びた玩具が乱雑に散らばっている。メタルラックが並んだ物置ではない。床も敷いた覚えのない絨毯が敷き詰められている。カーテンも全く違う。それでも窓の配置だけが全く同じなので、ここはまさしくあの物置なのだと朧気に理解できた。
この玩具をどこかで見たような気がするが思い出せない。それよりも、お互いを慰め続ける二人の幼女から目が離せない。
ぺちゃ、ぴちゃ
んっ、んんっ
この年齢でも感じるのか、二人は声を漏らす。
「ひ、ひぃっ…」
がたり。スマホが手から滑り落ちてフローリングにぶつかり音を上げる。俺の声か、スマホの音か、どちらに反応したのかは定かでないが、二人の幼女がくるりとこちらを振り向いた。
「く、来るな……」
後ずさろうとしたものの足が縺れてしこたま転んでしまう。二人は裸のまま、滑るように俺に近づいてきた。起き上がろうとしても足が言うことを聞いてくれない。
くすくす……くすくす……
「ひいいいいいいい!」
耳ではなく脳に直接笑い声が響き、頭の中で反響を繰り返す。二人は動けない俺に悠々と近づいてくる。冷気の出所は彼女たちだったと理解した。身体が震えるのは恐怖ゆえか、寒さゆえか。
「うっ、ぐ、あああああ……」
ぴとりと幼女の小さな手が俺の爪先に触れた瞬間、熱さと錯覚するほどの冷気が浴びせかけられ熱が奪い取られていく。爪先から膝、腰へと幼女が這い寄ってきて身体が芯から冷えていく。いつの間にか俺も彼女たち同様一糸纏わぬ姿になっていた。
「やめろ……触るな……っ」
くすくす……くすくす……
極限での生存本能か、ズボンの軛を解かれた俺のモノは俺に残された熱を孕んでそそり立つ。だが、そこにも幼女の手が伸び―――
「―――――――っ!?」
くすくす……くすくす……
叫び声は上がらなかった。もう一人の幼女が俺の胸にのしかかり、引き倒した挙句に冷え切った秘部を俺の顔面に押し当ててきたからだ。暗闇の中で粘液に光るぴっちりと閉じた筋が視界を覆う。
くすくす……くすくす……
俺の身体は俺のコントロールを離れ、幼女の無毛の割れ目を舐めしゃぶっていた。ひと舐めごとに舌が冷え、身体から力が抜けていくが止められない。時折幼女は快感にびくびくと腰を震わせて俺の顔全体に冷気を浴びせる。その度に笑い声が脳内を響き回る。
くすくす……くすくす……
俺のモノが冷え切った口に収められる。苛烈な冷気に晒されながらも俺のモノは縮むことなくびくびくと震える。それは蠟燭が燃え尽きる直前の如き最後の灯火か。垂れた髪が俺の身体に触れ、それも体温を奪っていく。
くすくす……くすくす……良いよ……出して……ちょうだい……
頭の中で声がまた声が響く。残された熱が全て精子に変換されて睾丸から飛び出して尿道を通り、幼魔に奪われるために吸い上げられていく。
びゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるっ!!
いくら叫ぼうとしても顔面はもう一人の幼女の割れ目にしっかりと塞がれてしまっていて抵抗などできない。俺の命が全て溶けだして流れて啜られていく感覚。何もかも奪われて冷え切った俺にもはやできることなど何もなくそのまま奈落の底に落ちていき……
―――ゃん
―――兄ちゃん
「お兄ちゃんってば!!」
聞き慣れた声に意識を取り戻す。頭が割れそうに痛くて考えが纏まらない。ゆっくりと目を開けた俺の視界に飛び込んできたのは泣きそうになっているミュナだった。
「お兄ちゃん、起きた!!大丈夫!?」
「だいじょば……ねえ……」
何か恐ろしい夢を見ていた気がするが思い出せない。起きるどころか指を動かすのすら億劫なほどに身体が消耗していて頭がずきずきと痛み、視界が歪む。やっとのことで手を少し動かすとぴちゃり、と水の感触がした。
「なんだ……この水……」
「お兄ちゃんの汗だよ!!なんで廊下で寝てたの!?」
見回すと確かに家の廊下だ。エアコンから離れており特に朝は気温が上がる場所だ。そこで寝ていた俺は廊下が水浸しになるほどの汗をかいていてしまっていたのだ。
「ミュナ……悪い……冷蔵庫で何か飲み物……」
「わかった!!」
ぱたぱたとミュナは駆け出していく。俺も必死で力を振り絞ってエアコンの届く部屋まで移動しようとのろのろと這いずろうとするが、ほとんど動かないうちにミュナが帰ってきてしまった。
「お兄ちゃん、スポーツドリンクとお茶とコーヒーだったらどれ!?」
「スポドリで頼む……それ以外は水のがマシだ……」
「はーい」
ミュナは二リットル入りのスポーツドリンクのキャップを外しておもむろにラッパ飲みする。
「んー。んんー」
「お、おう」
ミュナの意図を一瞬遅れてから理解した俺はそのまま仰向けに寝そべる。ミュナは俺の頭を抱いて口移しでスポーツドリンクを口内に流し込む。ミュナの唇の柔らかさよりも水分と塩分が身体中に染み渡っていく。
「ん?」
「ん。」
お互い目で合図しあって少しずつ適量を注いでくれる。この状況下だとコップやボトルからのラッパ飲みよりもベストな対応だったかも知れない。
「ぷぁっ!もう一杯行く?」
「サンキュ、人心地付いたから後は自分でも大丈夫だ……」
頭痛やだるさはまだまだ残っているものの、上体を起こすぐらいは容易にできる程度には楽になった。やはりさっきまでは水分が足りなさすぎたのだろう。
「ミュナ、もうちょい飲むからボトルを……むぐっ!?」
スポーツドリンクをもう少し飲もうとしたら問答無用とばかりにミュナは再び口移しで飲ませにかかる。気恥ずかしくはあったが、ミュナが俺を本気で心配しているようなのでされるがままになってしまった。
「お兄ちゃん、ほんとに大丈夫?」
「さっきよりは全然大丈夫……っとと」
立ち上がろうとしたものの足が縺れてまたぺたりと床に座り込んでしまう。
「大丈夫じゃないじゃん!もう……!」
「面目ない、心配かけて悪いな」
立つのが怪しいのでずりずりと尻で這ってどうにか廊下からエアコンが効いた和室へと移動する。
「ミュナ、エアコンちょい強くしてきてくれ」
「はいはーい」
涼しい部屋の中で畳に転がっているとほんの少しずつだが頭痛やふらつきがマシになってくる気がする。
「なんであんなとこで寝てたの?」
「わからん……」
重い荷物を抱えてえっちらおっちら歩いて帰ってきたのを最後に家に着いてからの記憶が曖昧で、思い出そうとすると酷く頭が痛む。
「メッセージとか全然来なかったけどミュナは寝てたのか?」
俺の質問にミュナは泣きそうな顔をした。
「えっとね、ゲームしてたんだけど夜になったから飽きてゴロゴロしてるうちに寝ちゃってて……お兄ちゃんが帰ってくるのにエアコンつけれてなかったの。起きたらお兄ちゃんが廊下で倒れてて……ミュナが、エアコンつけてたら……」
少し無理して起き上がってミュナの頭をぽんぽんと撫ぜて言葉を途切れさせる。
「ミュナのせいじゃねーって。俺が帰ってすぐエアコンつけたら良かっただけなんだから。……ってかなんでわざわざあんなとこで寝てたんだろうな俺」
「結局何時ぐらいになったの?」
「終電ギリギリだわ。駅から大荷物抱えて歩いたのがきつかった。あ、そうだ。ミュナにお土産があるから食べるか?」
「お兄ちゃんが元気になったら食べる」
責任の一端を未だ感じているのかミュナは頑固に首を振る。ふとスマホを取り出そうとポケットを探ってみたが、ポケットは空だった。
「ミュナ、俺のスマホは?」
「あー……お兄ちゃんが寝てた横に置きっぱなしだった」
とてとてとミュナは廊下まで走ってスマホを拾い俺に差し出す。受け取ろうとしたものの指に力が入らず畳の上に取り落としてしまった。
「ちょっとお兄ちゃん、大丈夫なの?」
「本格的に良くねえな……」
「病院行った方が良くない?下、さっきシャッター開く音がしてたよ?」
ミュナに言われて一階の診療所の存在を思い出す。確かにここまで体調が悪い上に記憶まで飛んでいる始末となるとやむを得ないかもしれない。タクシーを使わなかったばかりにもっと余計な出費になるが致し方ない。ふらつく身体をどうにか引きずるようにして、ミュナの心配顔に見送られて階段を下りて家を出た。
「お兄ちゃんおかえりなさーい。遅かったけど大丈夫だった?」
「おう、やっぱり熱中症だってさ」
なんとか手すりで身体を引っ張りながら階段を昇れるぐらいにまでは回復してきた。診療所のお爺ちゃん先生の見立てでは、バスの中でずっと同じ体勢でいたせいで身体に負担がかかったところに暑い中大荷物を抱えて歩いたのが追い打ちになり、そのまま寝落ちたせいでさほど暑くない夜でも熱中症になったのだろう……とのことだった。いわゆるエコノミークラス症候群の症状の一つに失神があるから寝落ちじゃなくてそれかも知れないが、まあ命に別状はないだろう、ということであっさりと返された。
親切なことに家にスポーツドリンク以外の備えがないことを伝えると看護師さんが薬局まで走って必要なものを買い揃えてくれた。その間奥のベッドで休ませてもらっていたので帰るのが遅くなってミュナを心配させてしまっていた。
「水分と塩分をしっかり取って涼しいところで休むしかないってさ。首とか腋とかを冷やして休んで、明日になっても熱が続いてたらまた来てくれ、だって」
「うーん、お薬とかが要らなくて良かったのかな?お布団敷いといたからどうぞ」
「お、サンキュ」
冷却シートを言われた場所に貼って布団に寝転がる。ミュナは冷却シートのゴミを集めて俺の枕元に座り込んだ。
「後はもう休んで元気出たら栄養摂ってまた休むしかないからミュナは俺に構わず好きなことしといてくれていいぞ」
「これがミュナの好きなことだもん」
ミュナは頑として動かない。まあ、心苦しくはあるがミュナが居てくれて安心感はあるのは事実なので、好きにさせることにした。
「ねえお兄ちゃん、お医者さんは結局なんだったって?」
タブレットを片手にミュナが聞いてくる。
「熱中症だってさ」
症状でも検索して何かあった時に備えてくれるのだろうか。そう思って何の気なしに答える。
「えっと、何て?」
「熱中症」
次の瞬間唇に柔らかい感触が広がる。ミュナがおもむろに俺にキスしてきたのだ。無理矢理舌が引きまわされミュナの口内の温かさを感じさせられる。
「ぷぁっ!何すんだよ……」
「お兄ちゃん、言ったじゃん。ねっ、チュウしよって」
あまりにベタすぎてため息が出てしまう。だが、ミュナの温かい感触がとても心地よく感じた。
「ほら、ミュナはここに居るから心配しないで。何かして欲しいことがあったら遠慮なく言ってね。おっぱい揉む?」
「いや、それは良いや」
「ざんねーん」
ミュナのため息を聞き流しながら俺は目を閉じた。このまま寝転がっていればそのうち眠れるだろう。そう思って目を閉じたままじっとするも、冷却シートの感触の刺激のせいかうつらうつらしながらもすぐに意識を引き戻されてしまう。どれぐらいこうしていたのだろうか。
「ミュナ、起きてるか?」
「はいはい、ここに居ますよ」
「なんだそりゃ」
わざわざ婆さんのような口調で返されて思わず噴き出してしまう。
「悪い、ちょっと手ぇ握ってくれないか?」
「いいよ。はい」
ミュナの小さい手が俺の右手にそっと触れる。ミュナの体温と柔らかさを感じてすっと心が軽くなる。
「熱中症ってあっためて大丈夫なの?」
「首とか腋みたいにでかい血管が通ってるところは冷やした方が良いみたいなんだけどな。なんか、身体が冷えてくると心細くなってきて」
「そっか。じゃあミュナがぎゅってしてあげるね」
手がぎゅっと握られてミュナの体温をはっきりと感じる。俺が熱中症で発熱しているせいかひんやりとした感触ではあるが、決して不快ではない。
「どう、あったかい?」
「んー、俺が熱出てるからかあったかくはないかな。気持ちいいしほっとするから問題ないぞ」
「じゃあ、これならどう?」
「ん?」
ごそごそとミュナが動く気配を感じたかと思うと指先がぬちゅりと柔らかく湿った感触に襲われた。続いて、温かく柔らかい締め付け。
「おいこら、何やってんだ」
「やん、乱暴にかき混ぜないでぇ。お兄ちゃんのエッチ♡」
「あのなあ……」
あろうことか、ミュナは俺の指を自らの肉壺に迎え入れやがった。確かに今までよりも温かいしぎゅっとされて気持ち良いしほっとするのだが正直どうリアクションしていいものか困惑する。
「どう、あったかい?」
「……まあ、あったかくはあるが」
だが、どうしたことかミュナの粘膜の温かさがやけに心地いい。発熱とは違うぽかぽかした感覚に身体が包まれて、気になっていた冷却シートの感触がどこか遠くに感じられていく。ここ数日でのあれこれが頭の中をぐるぐる回りだす。実家の畑、高速バスの内装、周囲の山々、トンネル、終電の放送、家までの道のり、ミュナに似た幼女、診療所の内装、ベッドから見上げた天井。そのまま俺は心地よいまどろみの中へと落ちていった。
アンケートでイチャイチャが最上位なのに相変わらずこんなん書いて貴重な読者の声を聞いてないのかとお叱りの声もあるかとは存じますが、これに関しては完全に固定イベントなので諦めていただければ……次回はちゃんとイチャイチャします。ほんとですってば
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