ある日の昼下がり、夕飯はどうしようかと考えながらゴロゴロしていたら、スマホから通知音が聞こえてきた。
「ミュナ、雨来るって」
「お兄ちゃん、今日はお出かけ予定あるの?」
「買い物行こうかと思ってたけど諦めてレトルトカレーでも食べるかな」
「ってめっちゃ暗くなってない?」
暢気にミュナと喋っているうちに雲が一気に出てきたようで慌てて立ち上がる。次の瞬間、天井を叩く雨音が響いた。それもどんどん強くなる。
「わ、やっべ!ミュナ、風呂の窓頼む。俺はトイレ閉めるから」
「はいはーい!」
うちは築六十年幼女付きという物件なので、トイレや風呂に換気扇という気の利いたものなどなく、窓を開け閉めしてなんとかするしかない。覗いてくるような建物が周囲には一切ないのは救いではあるが。
トイレに駆け込んで窓をしっかり閉める。刹那、窓の外に稲光が閃いた。続いて、数秒後に轟音。
「ぴゃあああああ!」
悲鳴が聞こえて慌ててトイレを飛び出すと、洗面所からミュナが飛び出してきて部屋に逃げ込んでいた。
「ごめ、お兄ちゃん、無理!!」
「無理っておい」
仕方なく風呂場に向かうとすりガラス越しでもわかるほどくっきりした稲光が閃いて、またも轟音。雨音もどんどん強まってきている。確かに俺でも少しびびった。だが、だからと言って窓を開けっぱなしというわけにもいかないのでしっかりと窓を閉じて鍵をかけて部屋に戻った。
「終わったぞー。あれ、ミュナ?」
部屋に居るはずのミュナの姿がなかった。きょろきょろと辺りを見回すと、押し入れが少し開いていて隙間からワンピースの裾が出ているのが見えた。
「大丈夫だって。そんな怖がらんでも」
「だってぇ……怖いものは怖いもん」
襖を開くとミュナが押し入れの下段で震えていた。物置代わりに使おうと思いつつも襖四枚分の押し入れは男子学生の一人暮らしだと持て余してしまっていて半分ぐらいは空きスペースになっている。ミュナ一人が入ったところで何も支障はない。
「ってか暗くて狭い押し入れに引っ込んでる方が怖くないか?」
「何も見たくないし聞きたくないもん」
ぴしゃんごろごろと外からは相変わらず雷が荒れ狂う音が聞こえ、バケツをひっくり返したような雨音も確かに気を滅入らせる。
「ほら、不安なら俺がぎゅっとしてやるから」
「うゅぅ……」
手を広げて招くとミュナは俺の胸に飛び込んできた。ミュナをぎゅっと抱き締めると柔らかく温かい感触が広がる。だが、やはり怖いのかその身体は小刻みに震えている。
「ほーら、大丈夫大丈夫」
「大丈夫かなぁ……」
不安そうなミュナの頭を撫でるとミュナは目を細めて気持ちよさそうに受け入れる。
「雷がこう光ってから音がするじゃんよ。あれって光と音ではスピードが違うからなんだよ。光はほぼ一瞬で来るからゼロとして、今光って……うん、八秒ぐらいかな。音は一秒で三百四十メートルぐらい進むからだいたい三キロ弱ぐらい離れてんだよ。そんな近くじゃないから平気平気」
「三キロってどれぐらい?」
「そうだな……俺が毎日遠い遠いって言ってる大学より―――」
俺の言葉を轟音と閃光と衝撃がかき消した。
「ぴゃあああああああああああああああ!」
「うおっ!?」
ごろごろ、でもばりばり、でもない。光った直後にかちり、と背筋が凍るような音がして次の瞬間には爆発音。こんな近くでの落雷は初めてで思考が止まる。ミュナが奇声を上げて俺に抱きつきそのまま押し倒した。
「もうやだぁ!」
「お、落ち着けミュナ!?」
言いつつも俺も衝撃で身体の震えが止まらずミュナに押し倒されてなすがままになってしまっている。ミュナはごろごろと押し入れに転がり込んで俺の腕を引いた。
「お兄ちゃんも!こっち!!」
「お、おう!?」
中からぐいぐいと手を引かれわけがわからないままに押し入れにお邪魔する。頭を上げると上の段にぶつかりかねないのでほぼ這いずるような体勢だ。俺が入るとミュナはぴしゃりと襖を閉めた。
「おい、狭いし暗いぞ。何すんだ」
「やだもん。光るの見たくないもん!!」
「せめてスマホでライトぐらいつけて……」
「やーだー!光るのもや!そんなことよりミュナをぎゅっとしてよ!!」
ミュナは俺の背中にしがみついてぶるぶると震えている。外からまたも轟音が響いて襖ががたつく。
「わかった。ちょっと体勢変えるから待ってくれ……っと」
「ん。ありがと……」
ごろりと転がって仰向けになる。ミュナが俺に抱きついてきて再びぴっちりと密着する体勢になった。
「ほら、ぎゅっとするぞ。大丈夫か?」
「うん、お兄ちゃんがいるから……きゃあ!?」
落ち着いたかと思いきやまたも襖が揺れてミュナの腕の力が強まる。
「雷、落ちたらどうしよう……」
「まあそれはないと思うぞ」
まだ震えが収まらないミュナの髪を手でなでながら解説する。
「雷ってのは高いところに落ちやすい傾向があるんだ。うちは二階建てだけど近くに五階建てのアパートもあるし小学校だってあるだろ。だから落ちるとしたらそっちだよ。避雷針だってあるしな」
「避雷針ってなに?」
「俺もそこまで詳しくはないけど、屋根から長い棒みたいなのを伸ばすんだよ。さっきも言ったけど雷は高いところに落ちるから、避雷針に当たる。で、避雷針に落ちた雷のエネルギーは建物の中に行かないように逃げ道を別に作ってるんだ」
「うーん、よくわかんない」
俺の知識ではこれが限界だった。スマホやタブレットで画像を交えて解説しようにもミュナが襖を開けさせてくれないのでこのままミュナの気が済むまで押し入れに籠もる他ない。お互い無言のまま暫く時が経過する。
押し入れに入ってどれだけ経ったのだろうか。今更ながら、押し入れの中が部屋よりも暑いことに気がついた。エアコンの冷気が届かないのだから当然である。じっとりと身体が汗ばんでミュナの肌との間にぬるりとした感触をもたらす。
「ミュナ、暑くね?そろそろ出ないか?」
「でも、まだ雷うるさいし……」
ミュナの言葉を中断するかのようにまたも雷の音が響く。稲光が見えないので正確な距離は定かではないが、振動も感じるのでまだ遠くには行っていないようだ。そして、実は俺は俺で困ったことになっている。
「ミュナは汗かかないのか?」
「その辺は大丈夫なんだよー」
「なあ、ちょっとスマホ取りに出て良いか?」
「やだー、開けちゃ駄目」
「喉渇いてないか?」
「ぜんぜーん」
どうあっても出してくれる気はないらしい。ミュナの体重を、体温を、感触を密着して感じ続けたせいか、押し入れの中の暑さにあてられたせいか、はたまた両方か。俺のモノはズボンの中で限界まで猛りを見せていた。ミュナに悟られる前になんとか出たいところではあるのだが―――
「ねえ、お兄ちゃん。さっきの避雷針の話だけど」
「お、おう、何か聞きたいことがあるのか?」
「わかったよ、お兄ちゃん。言葉でなくて心で理解できたんだ」
「おい、何の話だ」
いきなりどこかで聞いたようなセリフを吐くミュナに嫌な予感がする。その予感は次の瞬間現実になった。ミュナは俺に密着したまま器用にズボンのジッパーを下ろし、パンツのボタンも外してギンギンになっている俺のモノを外に露出させる。
「こら、やめろ、ふざけんなら暑いし出るぞ!」
「高いところにめがけて雷が来るんだね……こんな風に、がらがらどっしゃーん!」
ミュナの尻尾が暗闇をものともせず俺のモノをぱっくりと咥え込む。そして、次の瞬間―――二度と聞きたくなかったかちり、という音とともに先刻よりも更に苛烈な爆発音。
「「ぎゃああああああああ!」」
どぷどぷどぷどぷどぷっ……
悲鳴が重なり、反射的にミュナの尻尾がきゅっと窄まる。その衝撃に俺は尻尾の中に暴発してしまっていた。
「もうやーだー!お願いだから早くどっか行ってよぉ!!!」
「いいから尻尾を離せ!」
泣きわめくミュナと関係なく尻尾はもぐもぐと竿全体を咀嚼するように動き、残りを搾り出しにかかる。力ずくで取り外そうとしても内部の肉襞が抵抗するかのようにわやわやと蠢き、力が抜けてしまう。
「ミュナ……尻尾放せ……」
「やだ。お兄ちゃん、怖いから雷収まるまでぎゅっとしててよ」
ミュナが俺にぎゅっとしがみつく。連動するように尻尾がぎゅっと窄まり射精後の敏感なところに刺激を与えてきて声が漏れてしまう。だが、ミュナが雷を怖がっているのもまた事実なのであまり強く出られない。
「えへへ、ぎゅっとする場所が増えたからちょっと安心してきた」
「そりゃよかった。安心してきたなら放せとは言わんから刺激するのやめれ」
俺に甘えるように頬ずりするミュナは愛おしいが、尻尾の容赦ない動きはその限りではない。
「だってこうしてると落ち着くもん」
「おっぱいに吸い付く赤ん坊かよ……」
「お兄ちゃんだってミュナのおっぱいに吸い付いたら落ち着くでしょ?」
「ノーコメント」
尻尾の吸精に耐えながら雑談しているうちに少しずつ雷の音が遠くなっている気がしてきた。一気に動くと二度目の暴発をしてしまいかねないのでゆっくりと隙を見て襖に手をかける。
「ミュナ、ちょっと襖開けるぞ。停電してたら色々やばいからな」
「あっ、駄目ー!」
ミュナに構わず襖を一気に開く。その瞬間、窓越しに雷光が閃いた。
「ぎゃあああああ!!」
「おふぅ……あっ……」
どぷっ……どぷ……どぷ……
ミュナの尻尾が一気に俺のモノを噛み潰すように圧迫し、その感触にあっさり二度目を漏らしてしまう。ミュナはぴしゃりと襖を閉めて、轟音が―――
「……あれ、音、しないね」
「今遠くでしたぞ」
「離れてった?」
「だいぶ」
闇に包まれた押し入れの中、いたたまれない空気が広がっていた。相変わらずミュナの尻尾は俺に食いついたままで、もぎゅもぎゅと竿を刺激してきている。
「停電もしてないしもう大丈夫だと思うから離してくれ」
「あ、雨音も全然してないや」
尻尾がきゅぽんと音を立てて離れる。今度はあっさり襖を開けられた。二度搾られて疲労感が酷いので寝転がったままずりずりと押し入れから脱出する。部屋に出ると待ち望んだエアコンの冷気が心地良い。
「ふぃー。ま、何事もなくてよかったわ。汗ひでえし夕飯の前に風呂入るか」
「ミュナも入るー!」
ミュナはおもむろにワンピースを脱ぎ散らかしてすっぽんぽんになる。かなり豪快な脱ぎ方で目のやり場に困るやら呆れるやらだ。
「いきなり脱ぐなよ……」
「だってお兄ちゃんの汗で凄いことになってるもん。お風呂入って服はお洗濯!」
「なんで汗かくことになったかわかってんのか……」
愚痴は出たが、停電しなかっただけマシだと思うことにして疲れた体に鞭打って風呂の準備に取り掛かる。風呂ではさっきまで雷に怯えて震えていたのが嘘みたいにミュナははしゃぎ回ったが、ところがどっこい二回搾られたのは現実だったので風呂で寝落ちてミュナに叩き起こされたのだった。
一万UAありがとうございます!
半年ちょっとコツコツやってきてこれだけの方に見ていただいて望外の喜びでございます。
頑張って完結させるつもりですので今後も応援やコメントいただければありがたく存じます!
ちなみに本当は雷が鳴ったらまず部屋の真ん中にいた方が良いそうです。押し入れに引き篭もると壁面から電気が来る可能性があるので危ないとか。
雷が近所の公園の木に落ちるのを目の前で見たことがあります。やばかったです
この小説に求めるものは何ですか?
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