駄菓子屋をやったのと隣がチキンラーメンでラーメンババアが売れたのとうまい棒買占めが出たのは実体験です。コロナ禍で中止になったりして寂しいものですね。
「焼き鳥いかーっすかー」
「たこ焼き美味しいよー」
「釣り部、本日はあら汁しかできませーん!!」
大学構内はいつも以上の喧騒に包まれていた。ついに学祭当日がやってきたのだ。普段はまばらに学生が歩いている道にも人が溢れそうで圧倒されそうだ。
「初日と祝日が被ったらここまで行くんだなー。これならうちも売り上げ出せそうだから頑張ろうな」
見透かしたように先輩が俺の背中を平手で叩く。
「見たいステージとかがあるなら調整するから言ってくれ。ただ、店番と部室待機は持ち回りで入ってもらうからな」
「うっす。特に今日は見たいものとかないんでうろうろするつもりっす。何かあったら呼んで貰っても」
「うん。初めてだし楽しんできてくれ」
先輩に送り出されて俺は大学構内をうろつくことにした。
胸ポケットにスマホを入れて、パンフレットに目を通す。このパンフレットもつやつやした紙に綺麗な印刷がされていて、まるでプロの作品のようだ。
「お、漫研のステージがあるな……」
いくつかの出し物に当たりをつけて、回る算段をする。四日もの間この祭りが続くというのは当日であってもあまり実感が湧かなかった。平日もお構いなしに講義を全て休みにしてしまうのは本当にいいのかとすら思ってしまう。
昨日の夕方の前夜祭はバイトと被ったので出られなかったのだが、バイト先にもハイテンションな学生が雪崩れ込んできて大忙しだった。確かに屋台がずらりと並んでいるのも本格的なステージがしつらえられているのも壮観で、彼らのテンションが高くなるのもわかる気がした。
とりあえずステージの時間までは屋台を巡ってみることにした。
「焼き鳥一本どうよ。うちの焼き鳥は他のとこと違うぞ。なんたってワンゲル部の焼き鳥なんだから」
「ワンゲルってなんすか」
ふらふら歩いていたらいきなり屋台の一つから声をかけられた。会話があった方が助かるのでこっちも乗っかってみる。
「ワンダーフォーゲル部」
「ワンダー……フォーゲル……?」
ひょっとしたら入学時に勧誘されたのかも知れないが、記憶からはすっかり消えてしまっていた。
「土日に山歩きとかしてんの。ドイツ語で渡り鳥って意味よ」
「二本貰います」
あまりにもあんまりなメニューのチョイスだったのでついつい買ってしまった。白いいかにもな舟皿に盛られて出てくる。
「興味があったらまた覗いてみてくれ。君けっこうガタイ良いから向いてるぞ」
「考えときます」
勧誘をさらりとかわして次の店を物色しながら焼き鳥を頬張る。うん、普通だ。縁日などよりは遥かに安いのは魅力だが、味よりも雰囲気重視といったところだろう。
「学内でいちばんうまいたこ焼き部のたこ焼きだよー」
「中国人留学生会の点心、美味しいノコトヨー」
「文芸部のチヂミ、食べて行きませんかー。今なら部誌とセット販売もしてますよー」
色々な屋台が出ている中を人混みをかき分けながらなんとか進んでいく。普段ものを入れない胸ポケットにスマホを入れているので落とさないか少し不安だ。しかし、屋台をあれこれ見てはいるが、どれもこの場で食べることを想定していて持ち帰りには不向きそうだ。ミュナに土産を持って帰るためには容器を調達する必要があるだろう。
どうにか漫研のステージに辿り着いた俺はスマホの電池を確認する。いつもよりも減りは早いがまだ問題はない。幸い最前列が空いていたのでそこに陣取ってステージが始まるのを待つ。
『ミュナ、どうだ?聞こえてるか?』
『うん。ばっちり』
ステージが始まるまでの時間にスマホを開いてミュナにメッセージを送る。通話機能を使えば音質はイマイチではあるものの、ミュナのタブレットに音声が届けられる。ミュナの声は電子機器越しには聞こえないのでいちいち通話を切ってメッセージを送らないといけないのが面倒ではあるが、部屋から出られないミュナに学祭の雰囲気を伝えるための苦肉の策だった。
『そろそろ漫才始まるから通話繋ぎ直すぞ』
ミュナの返事はスタンプだった。通話機能を再開して、怪しまれないように胸ポケットにスマホを入れてステージに向き直った。
「お疲れ様っす。時間なんで店番代わります」
「ありがとー、はい、これ値段表。何かあったら部のメッセージに送ってね。緊急なら通話で」
「うっす」
漫才は粗削りながら楽しめた。残念ながらスマホ越しのミュナにはわからなかったネタも多々あったのだが、それなりに気に入ったようでミュナから今度テレビで漫才を見たいとメッセージが届いた。
『今から一時間は店番だから何も面白いことないぞ』
『いーよ。そういうの聞きたいから繋いでー』
隣にばれないように机の下でこっそりスマホを操作して、ミュナに請われるままに通話を繋ぎ直して胸ポケットにしまう。
「えーっと……これと……これと……これと……これー」
「はーい。えっと、うまい棒が十円が二本のチョコチップクッキーが二十円の麦チョコが三十円で……七十円ね……百円だから三十円のお返しで。ありがとー」
小学生とおぼしき女の子が駄菓子を買いに来た。ミュナよりも少し小さいぐらいか。どれにしようか目移りしているのが可愛らしい。うちの屋台はどこよりも単価が安くてどこよりも種類が多いので子供には迷うのも込みでいちばん楽しいのだろう。設営で綺麗に並べるのは少し厄介だったがその甲斐はあった。
「このラーメン一個」
「五十円です」
「ほい五十円。あ、兄ちゃん。この丼に入れてくれんか」
「あ、なるほど。賢いすね」
隣のバスケ部の屋台で売っていたチキンラーメンを食べていたおっさんがうちの屋台のラーメン菓子を替え玉代わりに買って行った。素直にその思い付きには感心する。
「あれ賢いよなー」
「なー。あ、オカルトさん、こっちにもラーメン二個売って」
「はーい」
バスケ部の人も気になっていたのか売り物に手を付けて試し始めた。
「並び順が奏功したねえ」
「ラッキーだったなあ」
隣に座る同級生と暢気に会話を交わしながら人が通れば呼び込みをかける。子供が一人来ると後から後から興味を持った子供が湧いてきて更に追いかけてきた親も……となったりしてなかなかどうして忙しい。
「うまい棒全種ちょうだい」
「はーい、百五十円です」
「お釣り貰うの面倒だからあと五十円分買うわ」
所謂ここからここまで全部、をやっても懐がほとんど痛まないのは駄菓子の強みだ。忙しいながらも色々な客が来るのが楽しく、あっという間にもうすぐ交代の時間……というところに厄介ごとが飛び込んできた。
「兄ちゃん、ワシこの納豆味好きやねん。あるだけ全部くれや」
「でえええええっ!?」
今までそこまで出ていないキワモノと思っていた商品が思わぬ形で全部売れたのはいいが、買い占められるとさっきのような全種類欲しがるお客さんの分までなくなってしまうし、パンフレットにも“うまい棒全種揃えました!”と書いたのが嘘になってしまう。
「後ろの箱にもあらへんのか?」
「あ、は、はい」
目ざとく在庫の方まで咎められた。仕方なく袋ごと引っ張り出して手渡す。
「えっと……五百二十円です……」
「あいよ、ちょうどあるわ。ほなな」
納豆味を絶滅させて爺さんは意気揚々と去って行った。後に残された俺たちは顔を見合わせる。
「……どうするよ、これ」
「先輩に連絡してくれ。俺のスマホあんまり余裕なくって」
ミュナとの通話を切らないようにとつい取り繕ってしまう。連絡に使う余裕がないという意味では正しいのだが。ほどなくして先輩が駆けつけてきた。
「すまん、想定してなかった。とりあえず汚くて悪いが同一商品は五点までと注意書きを作ったから掲示しといてくれ。後でもっと字が綺麗な奴に清書してもらうから」
「うっす」
「今見たら全体的にけっこう売れてるから納豆味の補充も兼ねて問屋さんに連絡するわ」
先輩はてきぱきと在庫を確認して電話をかけ始めた。その間にもお客が訪れるのでそちらの対応にも追われることとなる。
「よし、問屋さんと話がついた。今から北門まで追加を届けてくれることになった。物が多いから一人ついてきてくれ」
「あ、じゃあ俺が行きます」
「助かる」
立ち上がって先輩について小走りで人混みを縫うように北門へと向かう。スマホを落とさないか心配しつつもぴったり押さえるとスピーカーが塞がってこちらの喧騒がミュナに伝わらなくなりそうなのが悩ましい。結果、胸ポケットの前を手でふんわり軽く覆うようにしながら走ることになってしまった。
「よし、助かったわ。サンキュ。そろそろ交代の時間だったな」
「はい。この後は部室待機の番っす」
「今日はバイト入ってるんだっけ?」
「そっすね。なんでラストまでは居れないんで、すみませんけど……」
「良いって。今も助けられたしな」
荷物運びを終えて先輩と別れ部室に入る。さっきのようなトラブルや急な尿意などの時の交代要員として最低一人は部室で待機することになっていた。それとは関係なく何人かが思い思いに本を読んだりスマホを弄っていたりしていた。軽く挨拶をして自分もスマホを開く。
『通話繋ぎっぱなしで電池減ってきたし室内で面白そうなこともないから一度切るぞ』
『はいはーい。今日もバイトだっけ?』
『おう。先に寝といて良いぞ』
ミュナとのメッセージのやり取りを終えてスマホを充電器に繋いで適当に備品の漫画を手に取る。待機が終わったら適当にあちらこちらを見て回ってから早めに出て明日以降にミュナにお土産を持って帰るための容器を調達しようと決めたのだった。
「ただいまー……」
「おかえりなさーい。ありゃ、お疲れー?」
ふらつくように階段を上がって荷物とともに床に倒れ込む。今日のバイトは昨日に引き続いて大忙しだった。昨日以上に学祭のテンションにアテられた学生が次々と雪崩れ込み、一気飲みをするわ酔ってグラスをひっくり返すわと大騒ぎだった。あまりの乱痴気ぶりに同じ大学に通っているのが恥ずかしくなるぐらいだ。客が切れないので賄いを食べる暇さえなく、昼に屋台で軽く食べたっきりで空腹を抱えたままの帰宅となった。
「ミュナ、起きてたのか。悪いな、あんまり学祭の様子伝えれなくって」
「全然いーよ。ミュナの我儘聞いてくれてありがとうね、お兄ちゃん」
「明日は何か買って帰るからな」
「えへへ、楽しみー」
屈託のないミュナの笑顔を見ると、今日はしんどかったが明日も学祭を頑張ろうという気になってくる。いつまでも床に転がっていられないので気合を入れて起き上がった。
「シャワー浴びてくるわ」
「ミュナも一緒に入ろっか?」
「汗流すだけだから一人で入るわ」
纏わりついてくるミュナを適当にあしらいながら俺は風呂場へと向かった。
「……やっぱりバレてるよな」
洗面所で服を脱ぐ。空腹と疲労が重なったせいか、無意味に勃起したモノがパンツの下から現れる。どうにかシャワーを浴びているうちに収まってくれるといいのだが。わずかな期待を胸に俺は蛇口を捻った。
「ふいー……」
「おっつかれー」
結局、シャワーを浴びても勃起は解消されなかった。バスタオルで辛うじて誤魔化しながら風呂場を出てこそこそと部屋着に着替える。ミュナが何かちょっかいをかけてくるかと思いきや、彼女は和室でテレビにかじりついていた。
「何見てんだ?」
「ネットで漫才見てるよー。お兄ちゃんが教えてくれたからすっかりハマっちゃって。色々あって面白いね!」
どうやらゲーム機を使ってネット接続しているようだった。ミュナに股間の膨らみを悟られないように身体の角度を調整して、リュックの中に入っているタッパーを取り出した。中身は特製の焼き鳥丼だ。大将が注文キャンセルされた焼き鳥盛り合わせを丼にアレンジしてくれて持たせてくれたのだが、このキャンセルもやはり同じ大学の学生の仕業で、恥ずかしさと申し訳なさでなんと言っていいやら。キャンセルの間際に『カラオケ行きたいな』『じゃあいいや、キャンセルしちゃえ』と軽く言っていたのがまた腹立たしい。とは言え空腹の今となっては食べないという選択肢もなく、そのままタッパーをレンジに入れて軽く温める。
「およ、良い匂いが……」
「焼き鳥丼だけど食べるか?」
「たべるー」
温められるにつれてタレの香りが広がり、ミュナにも伝わったようだ。ミュナは動画を一時停止してとてとてとキッチンまでやってきた。
「ふわぁ……」
温め終わって蓋を開けると湯気とともに広がる芳香は先ほどの比ではなく、ミュナは感嘆の声を上げる。特製のタレが肉のみならずご飯をも彩り、その上に刻み海苔でワンクッション、そして身肉を中心とした肉が一面に広がっている。普段出る焼き鳥丼は身肉だけだが、今回はキャンセルが出た盛り合わせで作っているのでレバーやつくねまでもが乗せられている。キャンセルは腹立たしいがこればかりは店員の特権とも言える。
「すごいすごーい、美味しそうだね!」
「ほいスプーン」
「ありがとー」
スプーンを手渡すもミュナは手を付けようとせず、何か言いたげに俺を見つめている。
「……ほい、あーん」
「あーん♪」
肉を一片とご飯を適量箸でつまんでミュナの口元まで運んでやるとミュナは嬉しそうに目を細めて食いついてきた。
「ん……すっごい美味しい……!」
「だろ。大将は料理めちゃくちゃ上手いからな。使わんのならスプーンしまうから返してくれ」
「今から使うよー。はい、あーん♪」
「……さいか」
まあ、箸を使われるよりはよっぽど安全なので、諦めてミュナの思うままにさせる。スプーンにご飯と肉を載せてミュナは一口分を俺に差し出す。
「どう、美味しい?美味しい?」
「……まあ、うまいよ」
甘味があって香ばしいタレのうま味と最高の焼き加減で肉汁を閉じ込めた肉の味わいが口の中で弾ける。そこに海苔の風味が加わって後味をすっきりとさせてくる。申し訳ないが、ワンゲル部の焼き鳥とは肉も焼き加減もタレの風味も次元が違う。
「もー!そこは『可愛いミュナにあーんしてもらってるから倍美味しいよ』とか言うところじゃない?」
「歯が浮くわ」
「ふーんだ!はい、あーん!」
口を尖らせながら乱暴にミュナはもう一口を差し出す。今度は身肉ではなくレバーだった。正直なところご飯には合わないがタレの味で誤魔化しが効く。まあ、とは言え肉なしで海苔とご飯とタレだけだと厳しいので合わないなら合わないなりにでも肉がある方が良いのかもしれない。
「ミュナ、つくねとか食べるか?」
「ミュナは一口貰ったからもういいよ。お兄ちゃん、お腹空いてるんでしょ。はい、つくねどーぞ」
「……サンキュ」
ミュナはつくねをスプーンで食べやすい大きさに切って俺に差し出した。身肉よりも柔らかいつくねはご飯と一緒に口の中で解れて他とは違う感触が広がる。
「ってか腹減ってるって言ったっけ」
「上がってきたときにお腹鳴ったの聞こえてたよー。次は何が良い?」
「……えーと、じゃあ、端っこのささみで」
「はーい♪」
ミュナは俺の言うがままにご飯と肉を掬って差し出してきてくれる。それは良いのだが、回数を重ねるうちに少しずつミュナが俺ににじり寄ってきている。そして帰宅してからずっと勃起したままの俺のモノは相変わらずだ。だぼっとしたズボンで誤魔化してはいるが、ミュナはそれを知ってか知らずか無邪気な顔で俺に焼き鳥丼を一口ずつ差し出し、距離を徐々に詰めてくる。
「そういやさー、お兄ちゃんのバイト先、『かいせんいざかや』なんでしょ?焼き鳥もあるんだ?」
「まあ、居酒屋だし焼き鳥ぐらいないとな」
「そんなもんなんだー」
実際、メインは海鮮だ。大将は市場で毎日手ずから選んだ魚を仕入れてきて本日のおすすめとしてメニューに出す。とは言え海鮮一本だと近隣の学生の肉欲を満たせないのもあり、信頼できる肉屋に一任して使う分だけ確保して貰っているそうだ。焼き鳥はもう串に刺しているものを焼くだけの状態にして仕入れている。それでも素人の学生の模擬店などとは比べ物にならない一品になるのはひとえにプロの技だ。大将の長年の経験に裏打ちされた絶妙な焼き加減と味をしっかり決めてくれるタレ、それに丸投げできる肉屋を選べるコネクション。それら全てがこの丼に敷き詰められている。
「お兄ちゃん、明日はこんな遅くならないんだっけ?」
「おう。後は学祭終わるまではバイトは休み。まあ、学祭は夜までやるから普段ぐらいの時間に帰れるかは怪しいけどな」
とは言えバイトもないので明日以降は自由時間を有効活用するつもりではいる。
「ね、お兄ちゃん。今日は本当にありがとね」
「な、何だよ改まって」
スプーンを差し出しながらもミュナが真剣な声色で俺に向き直るので少し戸惑ってしまった。
「お兄ちゃんがね、いつもミュナの世界を広げてくれる。部屋から出られないミュナのために外の音を聞かせてくれて、お話もしてくれて。ミュナはお兄ちゃんのおかげで独りぼっちじゃなくなったんだよ」
「――――――」
「お兄ちゃんが聞かせてくれた漫才だってそう。あれがなかったらミュナにとって漫才ってのはそういうのがあるな、って知識だけだったもん。お兄ちゃんが、生の声を届けてくれたから、ミュナは漫才に興味を持てた。ネットで調べようって気になった。それで、お昼から今までいろんな漫才見てめちゃくちゃ笑って、またミュナの世界が広がったの」
「俺も、ミュナがいてくれて毎日の張りができてるさ。お互い様だって」
急に言われたので気の利いたことは返せなかったが、これは嘘偽りのない本心だった。
「えへへ、お兄ちゃん。これからもよろしくね」
「おう。まだ学祭の日程はあるし、明日は何か買ってくるから」
言いながらも合間合間にミュナに差し出されるまま、焼き鳥丼を食べ終えてしまった。
「ご馳走様でしたー。えへへ、美味しかったね」
「おう、後片付けするからさっき止めてた漫才の続き見てたらどうだ?」
未だ収まらない勃起を悟られまいとミュナを和室に追いやるべく提案してみる。しかし、ミュナは俺の隣に座ったまま動かなかった。
「いやー、すっごいね。こう、匂いだけでもすっごく美味しそうだったけど、食べたらもっと美味しくって」
「持ってく直前にやっぱ要らないって言ったアホのせいで余った焼き鳥を大将がちゃちゃっとリメイクしてくれたんだ」
「そうなんだー。でもミュナからしたら美味しいご飯食べられたからラッキーだったね」
「まあ、そりゃそうだな」
確かに身勝手なキャンセルは腹立たしかったが、ミュナが美味しいものを食べた時のリアクションが愛おしいのもまた事実で、その一助になったのならば溜飲も下がる気がした。単に空腹が解消されたから気が落ち着いただけなのかもしれないが。
「ほんとに、いい匂いだったよね。あれあれー?」
ミュナの口調が悪戯っぽいものに変わったのに気が付いた時には手遅れだった。
「焼き鳥丼を完食したのにまだ美味しそうな匂いがするぞー?」
「ちょ、やめろ!」
ミュナのすらりとした指が俺の股間に伸びてズボン越しにいきり立った俺のモノにそっと触れた。不意打ちに腰がびくりと跳ねる。
「えっへへー。ここか、ここがええのんか~」
「さ、さっきまで真剣な話してたのは何だったんだ!」
「それはそれ、これはこれー」
ミュナがすりすりと身体を寄せてくる。甘い香りこそ出してはいないものの、体温とさらさらした黒髪の感触が俺の五感をくすぐり、甘い刺激に吐息が漏れる。
「帰った時からずーっとこの状態でしんどくなかった?」
「気づいてたのか……」
「わかるよー。サキュバスだもん」
ミュナの触り方はズボン越しにあくまでそっと触れているだけで、もどかしい刺激が広がるものの射精を導くわけではなかった。ミュナは舌なめずりして俺を見上げる。
「でもね、疲れてたら意識してなくてもおっきくしちゃうって聞いてたしお兄ちゃんお疲れだったから知らんぷりしてたんだよー」
「だったらそのままほっといてくれたら……っ」
「お風呂入ってご飯食べて人心地ついたでしょ?ミュナが気持ちよく出させたげるよー?」
ミュナの指が艶めかしく蠢き俺のモノをズボン越しに刺激する。ミュナを引き剥がそうと手を伸ばすがミュナの肌に手が触れた感触で力が抜けてしまい、単にミュナに触れただけで終わってしまう。
「お兄ちゃんがやめてって言う理由もわかるよ。明日も朝からだもんね、でも、このままじゃ収まらなくって寝れないんじゃない?」
「だからと言って……」
「なのでー、せっちゅーあんを出しちゃいまーす!」
「折衷案?」
耳を傾けてしまった時点でミュナの術中に嵌ったような気がするのだが、とは言えこのまま好き放題やられていたら身が持ちそうにないのも事実だった。
「お兄ちゃんは、ミュナに搾られすぎるのが怖いんでしょ?だから今日はミュナの手でしたげるよ。一回出してそのまま寝ちゃえば明日に響かないよ、ね?」
「……そうか?」
「ミュナも明日が楽しみだもん。一回出したらもう追い打ちとかかけないし、どうかな?」
「……まぁ……それなら……」
あっさりと陥落してしまった。実際こうも意に反して勃起し続けているとどうにかしないといけないとは思っていたので口や尻尾、膣などの粘膜の接触がないならなんとかなるかなあと希望的観測を抱いてミュナに委ねることになった。
「はいけってーい!ささ、おふとん敷いていつでも寝れるようにしよっか♪こっちこっち」
「やめろ、掴んで引っ張るな!」
「お兄ちゃんか?」
「やめろっての!」
わちゃわちゃしながら和室に引っ張り込まれる。ミュナはいそいそと服を脱ぎながら二人分の布団を敷き始めた。春に夜ごと消えていた時から比べたら変われば変わるものだと益体もない感想が浮かんだ。
「はい、準備できたよ。じゃあ、おふとんの横に立って」
「ん……」
言われるがままにミュナに向かって立つとミュナは俺のズボンに手をかけ一気に引きずりおろした。
「わぁ♡」
ぶるん、と音がするかのように勢いよく飛び出た俺のモノにミュナは歓声を上げる。
「えへへ、ほんとならぱくっとしたいけど今日は手だけだもんね」
「くっ……」
ミュナが竿にそっと手を添えてくる。初めて直接触れられ声が出てしまった。
「うふふ、しーこ、しーこ♡」
ゆっくりと手が前後に往復する。ミュナの小さく柔らかい指が竿全体を優しく包み絶妙な力加減で圧力をかけてくる。ひょっとしたら自分の手でするよりも気持ちいいかも知れないぐらいだ。
「ねえお兄ちゃん、気持ちいい?」
「お、おう……」
ともすれば腰や膝が砕けそうになるのを腹に力を入れて耐えながらなんとか返す。ミュナの手の動きが少しずつ加速し始めた。
「明日もあるからスパートかけよっか♪ほら、しーこ、しーこ、しーこ、しーこ」
「ん……」
加速しながらも力加減は絶妙なままで、少しずつ限界が近づいてきている実感が湧いてくる。
「あは、おつゆ出ちゃってるね。じゃあこれも手にまぶして……しーこしこしこしこしこしこ♪」
「その歌い方、やめろ……」
「えー、ずきゅんばきゅん出そうなのにー」
「やめろっての……」
反射的にツッコんでしまったが、潤滑を得て加速したミュナの指技で分水嶺を越えてしまったという感覚が下腹部に走る。このまま手を止められても精は止められず漏れてしまうという確信があった。となればもう後は限界まで耐えて出すしかない。
「ねえねえお兄ちゃん、ミュナのこと、見て?」
手の動きは止めずにミュナは艶っぽい声とともに俺を見上げる。俺のモノのすぐ前にミュナが大口を開けて淫靡に舌を垂らしていた。
「えへへ、もう出そうだね。じゃあ……出して♡」
ふう、と尖端に温かい吐息が浴びせられた。
「ああああああああっ!!」
びゅるびゅるびゅるびゅるびゅるびゅるっ!!!
ミュナの吐息で俺の我慢は決壊した。ミュナは俺の竿をきっちりホールドし、精の行方を巧みにコントロールしていた。勢いよく飛び出した精は一滴余さずミュナの口内へと着弾し、勢いを減じた二の矢、三の矢も零すことなく器用にミュナの舌がキャッチして口内へと収められる。
「あは、いっぱいぃ……」
全て出し終えたところでミュナは俺のモノから手を離す。射精の快楽にぺたりと尻餅をついた俺の前でミュナは口を開けて白濁塗れの口内を見せつける。
「んん……一回で飲み切れなぁい……」
こくり、こくりとミュナの喉が動く。これも俺に見せつけているのだろう。幾度かの嚥下の後に、ミュナは再び俺に向き直って口を開けた。
「えへへ、ご馳走様」
てらてらとぬるつく舌には直前に大量に出した精の痕跡すら残っていなかった。
「どうする?やっぱり続きしちゃう?」
「しません。ふぁ……」
ミュナの誘いをきっぱりと断る。疲れからか大あくびが出て、それを追いかけるように睡魔が襲ってきた。
「じゃ、寝よっか」
「おう……」
あっさりとミュナは引き下がり、脱ぎ捨てた服を掴んで布団に飛び込んだ。俺も布団に入って横たわるといつの間にか服を着ていたミュナが俺にぴったりとくっついてくる。
「おやすみ、お兄ちゃん。また明日ね」
「おう、おやすみ、ミュナ」
日中はまだ温かい日もあるが、夜ともなれば少し冷える。ただでさえ一発出して身体が冷えたところにミュナの体温がぴったりと寄り添ってきて、その心地よさにあっという間に意識が溶けていった。
「いってらっしゃーい。今日は何時になるかわかんないんだっけ?」
「おう。ラストまで居るから夕飯食べてくるかもだし。ただ、欲しいものとか聞きたいステージとかあったらメッセージくれたら善処する」
「分厚いし綺麗だねぇー」
ミュナはパンフレットを目を輝かせながらぱらぱらとめくっている。これなら通話をずっと繋ぎっぱなしにするよりもスマホのバッテリーにも優しいだろう。
「気を付けてねー」
ミュナに見送られて自転車で大学へと向かう。平日と言えどもライブなどもやるので普段は静かな通りでも遠くから楽し気な音楽が聞こえてきて心が弾む。トラブルがなければ昼に自由な時間が数時間取れることになっているので、そこでミュナが欲しがったものを持ち帰って二人で食べようと企んでいる。そのために昨日のうちに使い捨て容器も調達しておいたのだ。ミュナの喜ぶ顔を想像するとさらに心が弾んだのだった。
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