誰もいない部屋、使い古された流行りを過ぎたおもちゃ
そんなものでも他にないから遊ぶしかない
でも、本当はおもちゃよりも欲しいものがあった
だけど、それは言えない。言っても叶わない
隣に誰かがいるけれど、顔が黒く塗りつぶされていて誰だかわからない
階段を降りて足音が遠ざかっていく
待って、■■
追いかけようとするのに何か重いものが乗っていて足が動かない
玄関の扉が閉まる音。続いて鍵がかかる音
顔のない誰かと顔を見合わせて、使い古しのおもちゃに手を伸ばした
「ふわあああああ……」
大きく伸びをして眠気を覚ます。何やら変な夢を見ていたような気がするがよく覚えていない。重い何かに乗っかられていたような……?
「ぐーてんもるげん、お兄ちゃん」
「重いかと思ったらミュナのせいかよ!Guten Morgenはドイツ語でお兄ちゃんは日本語だ」
乗っかられていたような、ではなくリアルタイムでミュナに乗られていた。いくらミュナがちっこいとは言え全体重をかけられていたらそりゃ布団よりは重い。
「じゃあ早速大学行く前にイっとく?」
「いかねえよ。洗面所行くからどいてくれ」
「いーじゃない。お兄ちゃんすぐ出しちゃうんだから。カップ麺作るより早く終わるよ?」
布団の上でミュナは足を開いて幼い割れ目を開いてこちらに見せつける。てらてらとした粘液が食虫花めいて妖しくきらめいて、つい生唾を飲み込んでしまう。
「早くて悪かったな。大学生ってのもこれで大変なんだから朝から消耗してらんないんだよ」
「むー。ま、ミュナはいつでもウェルカムだから気が向いたらどうぞ♪」
なんとか理性をフル稼働してミュナの誘惑を払いのける。たぶんだが朝起きてミュナに一回抜かれたぐらいでもそのまま大学に行こうと思えば行けるだろう。徒歩三十分の道のりは確かに面倒くさいがそこも問題ではない。ただ、のべつ幕なしにミュナの身体に溺れてしまうことが怖かった。それに一回で済む保証もないわけで。
「そういやさ」
「ほへ?」
「ミュナっていつも裸だけど寒くねーの?」
朝食に半額シールの貼られたおにぎりを齧りながらふと思った疑問を口にする。一ヶ月近く毎日見ていてもやはりコンディションによってはあれやこれやが目に入って面倒くさいことになるのだ。
「んー、寒いとか暑いは感じるけどそれで調子が悪くなったりはしないかなー」
「ふーん。まあとりあえず支障がなさそうだからこれ着とけ」
箪笥代わりのプラスチックケースを漁って一番大きなTシャツを発掘してミュナに投げ渡す。これならば小柄なミュナなら一枚で下半身まで覆い隠せるだろう。
「えー、裸でも大丈夫なのになんでー?」
「俺が気にする。良いから着てくれ」
「そっかー、お兄ちゃんは着てする方が良かったんだねー」
「違うから」
にやにやと笑いながらミュナはTシャツに頭を突っ込む。予想通りミュナが着たら腰まで全部隠れてくれた。だが、予想外の部分もあった。
「あはは、肩ぶかぶかー」
「こら、あんまり傾けるな」
「なんで傾けちゃだめなのー?こうなるからー?」
「わー!」
ミュナはにやついたままシャツの首元を引っ張る。隙間から桜色の突起が顔を出す。ある意味いつもの全裸よりも背徳的な光景に思わず目を逸らしてしまう。
「やっぱお兄ちゃん、こういうの好きなんじゃない。こっちもどうかなー、ちらっ」
「やめろぉ!」
今度は裾を摘まみ上げてちらりと割れ目を見せつける。サキュバス故か男を惑わす引き出しが多すぎてこの分野ではどうも勝てそうになかった。
「ほーら、素直になって着衣えっち、しよー?」
「そうじゃないっての!服着ずにうろつかれてっと落ち着かないんだよ!」
「しょうがないなぁ。そういうことにしといてあげる。でも、着衣えっちするなら言ってね」
「考えとくけどそれは今じゃないから!行ってきます!」
大慌てでおにぎりを咀嚼して嚥下する。そのまま俺は逃げるように鞄を引っ掴んで階段を駆け下りた。
「いってらっしゃーい」
ミュナの声に送り出されて大学に向かう。道中で一度布の陰から見えたあれやこれやを思い出して、鎮まるまで座って誤魔化す羽目になってしまった。
「ただいまー」
「おかえり、お兄ちゃん。えっちにする?セックスにする?それとも、あ・た・し?」
「シャワー浴びてくる」
「ボケ殺し!?」
ミュナが何か言っていたようだが生返事で返して風呂場に入る。大学でサークルの先輩に今のバイト先は早々に辞めてしまえと言われたのだ。なんでも、試験期間を予告していても嫌がらせでシフトをどんどん入れてくるどころか夜勤まで無理矢理入れて来たから学生の本分を考えたら絶対に辞めるべき、他の学生が誰もいないのは皆すぐ辞めるから、とのことだ。
親父の言葉は間違いなく正論ではあるのだが、先輩の生の経験談には重みがある。しかも、先輩は大学の近所に長く住んでいるだけあってそこかしこに顔が効くので次が見つからないならどこか見繕ってくれるとまで言ってくれた。
俺はどうするのが正解なのだろうか。大学からの帰り道をずっと考えながら歩いてきて、今もシャワーを浴びながら悩んでいる。
親父に電話で聞いてみようか、それとももう子供じゃないんだから自分で決めてしまうべきか、いや先輩にアドバイス貰ったりしているし未成年だし聞くべきか。考えがぐるぐる回り頭が纏まらない。結局、シャワーを浴びたものの結論は出なかった。
「お兄ちゃん、お着換え置いといたからねー」
「お、サンキュ」
考え事に気を取られすぎていて、ミュナが今まで一度も風呂上りの着替えなんて用意したことがなかったことすら失念していた。何も考えずにシャツに頭を通した瞬間、甘い匂いが鼻腔から侵入する。
「ぐっ、な、なんだこりゃ」
「あれあれー、お兄ちゃんすっごく苦しそうですなぁー」
目の前にいるミュナは一糸纏わぬ姿だった。ここに来てようやっと俺は自分の状況を理解した。ミュナは、着替えと称して一日着て自分の匂いをつけたシャツを俺に渡したのだ。
「こんな簡単に引っかかるなんてお兄ちゃんちょろすぎない?よもやよもやだよ」
「くっそ、考え事してるとこに……」
「なんか悩んでそうだなーって思ったからさ、一度抜いて『けんじゃもーど』にしてあげるよ」
ミュナはぺろりと舌なめずりをして俺の股間にむしゃぶりついた。ミュナの匂いではち切れそうになっている俺のモノに長い舌が絡みつく。思わず声が上がって床にへたり込んでしまう。ミュナは器用に咥えたまま俺の動きについてくる。
「ん……んん……っ……」
「くぁぁっ……舌、ヤバ……」
ミュナの舌が長く伸びて俺の舌に絡みつく。そのままミュナは頭を前後させた。人間には不可能な魔性の責め。舌のぬめる感触と口内でしごき上げられる感触が同時に襲い掛かる。
「駄目だ、出る……っ!」
どくどくどくどくどくどくどくっ!!
朝からの挑発で溜め込みに溜め込んだ精がついに行き場を得てミュナの口内へと堰を切ったかのように雪崩れ込む。長い射精が終わって脱力する俺にミュナは口を開き中の白濁を見せつけ、嚥下した。
「うまい!うまい!うまい!」
「……昼間、何読んだかわかったわ」
別の意味で脱力した俺は夕飯の準備に取り掛かった。
「今日は何食べるのー?」
「弁当屋のミックスフライ弁当とおまけの味噌汁」
「そっかー。コロッケ一口ちょーだい」
「お前お菓子以外も食べれたのか」
「なんでも食べるよー。今日は揚げ物気分だから」
「ほんとかよ」
普段はお菓子しか食べないミュナがいつになく纏わりついてあれやこれやと構ってくる。とりあえずさっきのTシャツをもう一度着せておいたが、どうにも今日はやたらと距離が近い。味噌汁をポットのお湯で作ってちゃぶ台の前に座ったらミュナは当然のように俺の膝の上に座り込んだ。
「えっへへー。これこれ、このコロッケが良い!」
「なあ、今日めっちゃ距離近いけどどうしたんだ?」
「えーそっかなー?」
思い切って直球を投げてみるもとぼけられる。コロッケを箸で切ろうとしたらミュナが腕を押さえて邪魔してきた。
「別に切らなくていいじゃーん。間接キスどころか直接キスしまくってる仲でしょ。はい、あーん」
「……まぁ、確かにそれはそうだが」
釈然としないままに夕食を終えて大学の課題をやったりゲームをしたりしている間もミュナはやはり俺に妙にべたべたと絡みついてくる。妙なことに普段ならばミュナに近づかれたり触られたりしたら匂いや感触でそういう気分になるものだが、今日はそれすらない。
「なあ、ミュナ」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「いや、まじで今日はおかしくないか?めちゃくちゃべたべたしてくるくせにミュナに引っ付かれても全然エロい気分にならないし」
「えっ、どうしよう、お兄ちゃん搾りすぎて枯れちゃった!?元気出して、ちらっちらっ」
シャツを上下させる姿もわざとらしくて無理があった。
「ミュナ、本当に何があったんだ。前に言ってたよな。俺が悲しいならミュナも悲しいって。俺だってミュナの様子がおかしいなら心配になるんだよ」
「お兄ちゃん……うっ、うぐっ、ミ、ミュナね……」
「おっとと」
俺の言葉にミュナは一瞬真顔になったかと思うとぽろぽろと涙を流しだし、俺の胸に倒れ込んできた。
「ミュナね、怖い夢を見たの。怖くて、怖くて、忘れたいから、お兄ちゃんに甘えたくて、でも、お兄ちゃんは大学行かなきゃだから、あんまり引き止めちゃ駄目でね、一人でいたらまた夢思い出してね。うええええええん!」
「ミュナ……」
俺は前にミュナにされたようにぎゅっとミュナを抱きしめた。涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながらミュナが俺を見上げる。
「こないだ俺がバイトで酷い目に遭って泣いてた時こうしてくれたよな。俺はそれですごい楽になった。ミュナがしんどいなら俺がぎゅっとしてやる。それで怖い夢、どっかに行かないか」
腕の中で震えるミュナはどう見ても年相応の幼女で、俺をことあるごとに誘惑する淫魔とはとても思えなかった。
「お兄ちゃん……ほんとは、ミュナ、お兄ちゃんにこうして欲しかったのかも……」
「そっか。怖い夢、どっか行きそうか?」
「えっと、えっとね、お兄ちゃんが5回ぐらい吸わせてくれたらどっか行くかも」
「調子乗んな。いくら明日が休みでも無理だ」
普段の調子に戻りつつあったミュナにデコピンの一発でもくれてやろうかと手を持ち上げて、思い直して頭をわしゃわしゃと撫ぜた。
「ま、いいや。今日は一緒に寝るか」
「うん、お兄ちゃんと一緒なら大丈夫。たぶん」
寝るには少し早かったが布団を準備して俺たちは一緒に布団に入った。
「えへへー。ぎゅっとしてたら落ち着くね」
「サキュバスなのに夢はどうこうできないのな」
「むー。現実ではいっぱいいっぱいお兄ちゃんを気持ちよくできるもん」
ミュナはんべ、と舌を伸ばしてみせる。一気に倍ほどの長さに伸びた舌にミュナが人外の存在だと思い知らされる。
「で、お兄ちゃんは何を悩んでたの?」
「そうだ、思い出したわ。実はな……」
俺はミュナにバイトのこと、先輩の助言のこと、親父の言い分のことを話した。これから俺はどうすべきなのか、何が最善なのか、ミュナの意見も参考にしてみたかった。
「ミュナは辞めた方が良いと思うよ」
即答だった。
「別に、しんどい思いをしてたら偉いってわけじゃないし、悪い環境から変われる選択肢があるんならそれが良いんじゃない?」
「お、おう」
正直ここまではっきりとした意見が返ってくるとは思っていなかったのでかなり驚いた。
「それに、お兄ちゃん、バイトあるって言ってる日は朝から元気ないしね。ミュナともしてくれないし」
「……そうか」
そこまでしっかり観察されていたのならばお手上げだった。ミュナとしないのは体力温存が一番の理由だったが、確かにそういう気分になれなかったというのはあった。バイトがあるだけで少し憂鬱に思っていたのだ。
「だから、もうちょっと違うところに行っていっぱいミュナとイこう!」
「上手くまとめやがったつもりか」
えへへー、と笑ってミュナは俺に引っ付いてくる。
「しかし、今日はアレだな。こないだみたいに俺が参ってるわけでもないのにミュナと一緒に寝てて何にもないな」
「何かして欲しいの?良いよ?何する?」
「いや、して欲しいわけじゃないから。単純に疑問だ。匂いの染みついたシャツだけでああなるってのに今は全然何ともないよな」
「えっとね、ミュナのこれってミュナが消えたり出たりするのと同じようにオンオフができるの。」
「まじか、すげーな、サキュバス」
「でもね、いつでもどんな時でも効くわけじゃないんだ。こないだのお兄ちゃんみたいにすっごく落ち込んでたりしてたら効かないし、効かないなってなんとなくわかるの」
サキュバスの能力は想像以上に凄かった。いや、本来の意味のサキュバスではないのだが。夢魔が悪夢に魘されるなんて笑い話にもならない。
「で、今は効く状態みたいだから、ほら、こんな風に」
「わ、こら!?」
いきなりむわっとミュナの香りが布団の中に立ち昇る。次の瞬間俺のモノははち切れそうなぐらいにパンツの中で怒張した。
「実演しないで良い……!」
「あはは、いーこいーこ。お兄ちゃんあったかいね」
ミュナは布団に潜り込んで俺のモノに手をやって緩やかに上下させる。
「こら、やめろ、大人しく寝ろ!」
「でもお兄ちゃんのおちんちんは起きてるじゃーん」
「それはミュナが……ううっ」
緩やかに上下にしごかれ柔らかな刺激に先端からは先走りが漏れる。ミュナの手はそれを潤滑油として速度が少しずつ上がる。
「しーこ、しーこ。お兄ちゃん、気持ちいい?」
「駄目だっての、止めろ!んん……っ!」
限界が来るのを必死でこらえる。びくんびくんと腰が震えるが、腹に力を入れて射精をこらえる。よし、波は過ぎた。そう思った次の瞬間
どく、どく、どく、どく
「ああぁぁぁぁぁぁーーーーー……」
「わわっ!?危ない!」
さしものミュナも想定外だったらしく慌てて両手を鈴口に当てた。
「うわっ……なんだ、これ……」
「もー、普通に出せば問題なかったのにー」
「違う、お前が悪い……ううっ……」
精液が出したそばからミュナの手のひらに吸収されていくのは未知の感覚だった。だが、快感もさることながら零れた精液でパンツの中がどうなってるのかという不安が大きくて快楽に身を任せるわけにもいかなかった。
「た、たぶん大丈夫だよ、お兄ちゃん。ごめんね、ちゃんと口かアソコに挿れてたら良かったね」
「そういう問題じゃないから。二度とやるなよ……」
ミュナを布団に残して慌てて風呂場に行ってパンツを脱いで中を確認する。幸いどこにも問題はなさそうではあったが、念のためにシャワーを浴びて戻るとミュナは布団のど真ん中を占領して安らかな寝息を立てていた。
「こいつ……まぁいいか、おやすみ、ミュナ」
ミュナを押しのけて自分の空間を確保する。
「お兄ちゃん……だいすき……だよ……」
平和そうに寝言を呟くミュナを抱き枕代わりにしているうちに、俺の意識も闇に落ちて行った。
朝、目が覚めた時もミュナは俺の横で気持ちよさそうに寝息を立てていた。起こさないようにそっと布団を抜け出して洗面所に向かう。
「おはよー、お兄ちゃん」
「おう、おはようミュナ。珍しくお寝坊さんだな」
朝食のカップ焼きそばのソースの匂いに釣られたのかミュナがごそごそと目を擦りながら起きてきた。
「どうだ、怖い夢は見なかったか?」
「見なかった……見なかったけど……」
ミュナは悲しそうに俯いた。
「朝から元気ないな。どしたんだ、言ってみ」
「目の前にね、美味しそうなご馳走があったから食べようと思ったら目が覚めちゃったの」
深刻そうな表情とは裏腹に割とくだらない夢の話だった。
「あー、まあ昨日の夢より怖くなかったんならいいじゃんよ。焼きそばの匂いでそんな夢見たんじゃね?ちょうどできたところだからこっち来て食べな」
「本当!良いの!」
ぱあっと花が咲いたようにミュナは笑顔を浮かべる。
「俺もミュナが笑顔の方が嬉しいからな。ほれ、冷める前に来いよ」
「やったぁ!いただきまーす!」
ミュナはちゃぶ台まで小走りでやってきて、俺の横に座っていきなりズボンのチャックを下ろし始めた。
「おい、待てこら。美味しそうなご馳走って」
「勿論お兄ちゃんだけど?あはっ、これこれ」
「やめろ、出すな!せめて俺が食い終わるまで……おふぅ、やめ、おおぅ……」
ミュナから立ち昇る甘い匂いに抵抗を封じられ、そのまま俺はミュナの「朝ごはん」になってしまったのだった。
これにて4月終わりです。なんかちょいちょい不穏なあれこれが出て来てますがまあミュナの設定に関しては最初から不穏なものが決まっていますので……
コソコソ話的な設定
先輩
「俺」の所属するオカルト同好会の先輩。男。地元民で安い店やアルバイト情報に詳しい話を組み立てるのに便利な存在。
実は大家さんみたいな会話シーンがあったけど要らなくね?とカットされた。
大学まで徒歩五分で希望の学部があったからという理由だけで志望して普通に合格する無駄に高スペックの持ち主だが本編で語られるかは未定。またカットしちゃいそう
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