“児童虐待”“胸糞要素”が含まれます。前々から読んでくださってる方には読み飛ばしてとは言いづらいので、心の準備をしてから読んでいただけると幸いでございます。
あ、あと今回書いてるうちに分量が増えて来たので前後編にしました。前編のエロはありません。一応あるけどエロと言うより、その……
「やっ……べえええええええええええええええ!」
ふと目が覚めて時計を見た瞬間に絶叫が口を衝く。今日は一限から講義だというのに今は既に開講十五分前。いつもならばとっくに家を出てなんなら大学に着いていることすらある時間である。やはり昨日誘惑に乗ってミュナに搾られまくったのが災いしたか。
「にゃー?何……?」
布団を跳ね飛ばした拍子に巻き込んでしまったミュナが寝ぼけた声を上げる。
「と、悪い!寝坊した!着替えてすぐ出るから布団はそのままにしとく!」
「わわ、たいへーん!」
慌てて着替えている俺の横でミュナはがさごそと冷蔵庫周りを漁っている。
「すぐ食べれる朝ごはんないよー」
「良い!なんとかする!」
ミュナなりに俺を気遣ってくれているのはわかったが、正直それどころではない。昼まで我慢するかどうしても駄目なら一限と二限の間に生協のコンビニでカロリーだけ見ればコスパ最強のチョコチップメロンパンでも流し込めばいいやと割り切って着替えを済ませて荷物を纏める。
「じゃ、行ってくる!」
取る物も取り敢えず荷物を引っ掴んで階段を駆け下りる。
「あー!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」
「あぁん?」
後ろからミュナが大声で呼びかけてくるので少し苛立ち紛れに返事の声が大きくなってしまう。
「お兄ちゃん、上!?」
「上……?ど、どええええええっ!?」
ミュナに言われて上を向くと、玄関の天井が無惨に剥がれ落ち、照明と配線がぶらりと垂れ下がっていた。
「こ、これは……」
「ど、どーしよ」
あまりに酷い状況に二人で言葉を失ってしまう。とりあえず、一度深呼吸して思考を纏める。賃貸である以上大家さんに現状報告して指示を仰ぐのが正しいだろう。目下の問題の講義に関してはこの際二の次だ。スマホを取り出して天井の写真を撮ってメッセージソフトを開く。宛先は午前の講義を一緒している友人。
『部屋の天井がこの有様なので欠席します。プリントよろしく』
すぐに既読がついた。講義直前で暇をしていたのだろう。今まで一度も欠席はしていないし午前の講義は課題の提出も今週はない。事情を説明して貰えれば温情があるかもしれないと算段しつつ荷物を置いて大家さんの家に向かった。
「あらあらおはよう。どうしたの?」
「玄関の天井が剥がれてきて。とりあえず見てください」
「そりゃ大事ね。ちょっと待ってて」
大家さんを先導して家に戻って玄関先に招き入れる。
「朝出ようとしたらこんなんなってて」
「あーらら、これは酷いわ……ね……」
大家さんの言葉がぴたりと止まる。惨状に言葉を失ったのかと思いきや、大家さんの視線が天井に向いていなかった。口はぽかんと開き、人差し指はわなわなと震えている。その視線と指の先には、階上で様子を窺っていたミュナの姿があった。
「あ……こ、これは……」
視界がぐにゃりと歪み、足元は立っているのかどうかすら定かでないほどにおぼつかなくなる。ミュナの存在を俺だけが認知できると思っていたのはあまりにも愚かな勘違いだったのか。だが、大家さんが震えながら次に口にした言葉は俺の予想からは外れていた。
「もしかして……みゆ……ちゃん……?それとも……」
「えっと、あいつは、その……」
どう言えば良いものかしばし逡巡する。大家さんはミュナのことが見えるようだが、だからと言って俺のことを幼女をかどわかした変態と勘違いされて通報されたところで俺と大家さんが狂人呼ばわりされて終わりだろう。何せ今まで見てきた中ではミュナが見えない人間の方が圧倒的に多いのだから。
「その……引っ越して一週間ぐらいして押し入れから出て来たんすけど……俺以外に見えないみたいで誰にも言えなくって……」
つっかえながら正直に告白する。大家さんの反応を見るに、この人も何か知っているような気がする。ミュナは指差されて自分のこととは思わなかったようで後ろを振り向いてぽかんとしていたが、少し遅れて事態に気づいたようだった。だが、ミュナは階段を下りられないので階上でわたわたしているだけにとどまった。
「……そう、ちょっと場所を変えましょうか」
「は、はい?」
大家さんは玄関を出てそのままつかつかと歩いて行く。慌てて後を追いながらミュナに『大人しくしといてくれ』とだけメッセージを送った。
「あらいらっしゃい。どしたのその子。彼氏?」
「何言ってんのよ。ウチの店子くんよ。内緒話するから奥のテーブル席行くわね。隣に誰も来させないで」
「はいはい」
大家さんに連れられて来たのは家の近くの古い喫茶店だった。顔見知りらしい店主と親し気に話を交わすと、奥まった席に案内された。
「朝ごはんは食べた?」
「いえ、寝坊したんで食べてないっす」
「そう、だったらおばちゃんが奢るから好きなもん食べて良いわよ」
「えっ」
いきなりのことに頭が回らず呆けた声が出てしまった。
「えーと、じゃあモーニングセットAを……」
「若いんだから遠慮しないの。チーズとか嫌い?」
「い、いえ」
「じゃあモーニングセットCとあたしはアイスコーヒー」
いちばん安いメニューを選んだが、大家さんに強引に訂正させられてしまった。注文したものが来るまで大家さんはスマホを取り出し何やらやっている。俺も間が持たないので仕方なくスマホを開く。欠席の伝言を頼んだ友人からプリントを代わりに回収したと返事が来ていた。あと、ミュナからはクエスチョンマークをあしらったスタンプも。
「屋根の方は旦那に大工さん呼ばせたから午後には来てくれると思うわ。勝手に天井が剥がれたってことだったらあたしらに直す義務があるんでお金のことは考えないで大丈夫よ」
「どうもっす。そんで、あの……」
「その話は食べてからにしましょ」
ミュナの件を切り出そうとするもぴしゃりと止められた。大家さんの雰囲気は有無を言わせぬといったもので仕方なく注文の品が来るのを待つことにした。
「はい、モーニングセットCとアイスコーヒーお待ち」
「ありがと、じゃあ内緒話だから聞いちゃ駄目よぉ」
「はいはい」
「さ、食べて食べて」
「うす」
メニューには単にピザトーストとしか書いていなかったが、コーヒーとピザトーストだけではなく、サラダにゆで卵、デザートにヨーグルトとバナナまでついて予想外に豪華な代物だった。未だに大家さんの真意を測りかねてはいるものの、食べてからでないと話が進まなさそうでもあったのでとりあえずピザトーストに手を伸ばした。
少し焼き目のついたチーズの表面をケチャップとピーマンが彩っている。引っ越してきてからはトースターもレンジもグリルもないのでパンを焼けず、パンを焼いて食べるのは久々だった。みっちりと端まで覆ったチーズを零さないように気をつけながら口に運ぶと、チーズの焦げた香りが鼻腔をくすぐり、食欲が湧いてきてしまう。ミュナの件をしばし忘れてかぶりつくとチーズの下に隠れていた玉葱が不意打ち気味に現れ、しゃくしゃくと小気味良い歯ごたえで存在を主張する。食パンそのものもかなり分厚く切られていて、これ一枚だけで朝食としては十分と言えるほどのボリュームがあった。
サラダは刻みキャベツとコーンがメインだが、一つだけ添えられたプチトマトのが良いアクセントになっていて、分量も多すぎず少なすぎずと申し分のない副菜と言える。
ヨーグルトには何故かきな粉がかかっていて、一口目は驚かされたが、食べ進むうちに気にならなくなってきた。今度自分でも試してみてミュナを驚かせてみようと思ってしまう。ミュナと俺の今後がどうなるかというのはすっかり頭から飛んでいたが。
最後に残ったバナナは真ん中の部分が皮ごと置かれていて、手で食べるのかフォークで剥いて食べるのか、どちらが正しいのか迷った挙句、フォークで剥こうとしてみたもののうまくいかず結局は手づかみになってしまった。でもやはり朝にあると嬉しい。
コーヒーはこだわりがないので正直なところコンビニのものとは味の違いがあまりわからなかったが、それでもちゃんとしたソーサーに乗ったカップに入れられて出てくると雰囲気は変わってくる。途中から砂糖やミルクを足してのんびり飲めるのは良いかもしれない。最初は大家さんが払ってくれるとはいえ値段を見て腰が引けていたが、いざ食べてみるとむしろ安いぐらいだと思ってしまった。
「落ち着いた?」
「はい。ご馳走様です」
俺が食べ終わるまで大家さんはアイスコーヒーにもほとんど手をつけていなかった。
「それで、結局あの子は?」
「えっと……」
観念して、ミュナと出会ってから今までに至るまでのことや、他の人には見えなかったことの例をかいつまんで話す。流石にミュナとの性生活や、夏に起きた怪事件に関しては口には出せなかったが。大家さんは荒唐無稽としか思えない俺の話を真剣な表情で聞いていた。話しているうちに大事なことを隠している罪悪感からか心臓がばくばくと震える一方で、アイスコーヒーの氷が解けコップには結露が溜まっているのをどこか冷静に見ている自分がいた。
「で、まあ。飯代とかはかかってるっすけど話相手になってくれたり家事も手伝ってくれてるんで、今んところは困ったりはしてないっすかね。むしろ学生のたまり場にならなくなったんで良いぐらいで……」
大家さんは頷きながら、時折迷うように視線が泳ぐ。俺が話を終えると大家さんは黙り込み、沈黙が場を包む。
「えっと……」
「……んー、仕方ない。おばちゃんのわかる範囲で話すわ」
沈黙に耐えかねて切り出そうとした俺の言葉を遮って大家さんは意を決したように口を開き、今までほとんど手つかずだったアイスコーヒーを一気に呷り解けかけの氷をばりぼりと噛み砕いた。
「覚悟して聞いて頂戴ね。楽しい話ではないから。あれは二十年ぐらい前だったかしら、まだおばちゃんが激マブのイケイケギャルだった頃……」
この状況でもこの人はふざけずにはいられないのか。心の底でため息をつく。だが、大家さんは冗談を吐きながらもその表情は苦いままだった。
「その当時、あの家にシングルマザーに双子の女の子って家族が住んでてね」
双子、というワードに夏に起きた事件を思い出して背筋がぞわりと粟立つ。あの双子には確かにミュナの面影があった。そして、ミュナが幾度かこの近くの店や駅の記憶があったことについて得心が行った。やはりミュナは元は人間だったのか。
「素直で可愛らしいいい子だったのよ。みゆちゃんとゆなちゃんって言って。さっきの子、あの子たちに顔がそっくりだったのよ」
「みゆ……?ゆな……、だから……ミュナ……?」
「二人は良い子だったんだけど、お母さんの方はちょっと……困った人でね。水商売をしてたみたいなんだけど、いや、水商売が悪いわけじゃないのよ。でも、仕事のために男の人と仲良くする必要があるじゃない。で、ことあるごとに違う男の人を家に連れ込んで……」
不穏なワードが続き、脳内で男衆が「嫌な予感がするのう」と嘯きだす。
「最初は深夜保育に預けてたのよ。でも、あれってけっこういい値段するし人数いっぱいだと断られるし、そこまで連れて行かないといけないしで面倒だったらしくって。結局ウチに預かってくれないかって。今じゃ考えられないわよねえ」
「え、ええ、まあ」
田舎育ちでそもそも隣近所に預かるような子供がいなかったので曖昧な返事で誤魔化すが、まあ確かに時勢的にはその通りなのだろう。
「最初は食費と一緒に菓子折りを持ってきてはいたんだけど、そのうちどんどん厚かましくなってきてお菓子の詰め合わせとかだけ持たせてこれ食べさせて余ったら食べちゃってくださいとか言うようになってねえ。それでもみゆちゃんとゆなちゃんは可愛らしいしほっとくわけにはいかないからうちでちゃんとご飯作って食べさせたりして……。でも、それを聞いてタダで作ってくれると勘違いさせちゃったのかも知れないわねえ……」
大家さんはため息をつきながらぬるくなったであろう水を一気に呷る。確かに俺も聞いていて良い気分にはなれるはずもない。
「でもまあ、子供には罪がないからってずるずる続けちゃってたんだけど……法事で預かれない日があって、断ったらそこから頼まれなくなったのよ」
「それは……良かったんすか?」
聞き返した俺に大家さんは苦々しい顔をしてかぶりを振った。
「あの家、一番奥の部屋に鍵がついてるの、知ってる?」
「あ、はい。変だなとは思ってたんすけど……もしかして……」
そう、一番奥の部屋は廊下と和室の二か所に扉がある変わったつくりなのだが、そのどちらにも外側からのみかけられる鍵がついているのだ。和室の方は引き戸になっているにもかかわらず、金属片を引っかける簡素な鍵がついていて悪目立ちしていたのが印象的だった。
「そこに、二人を押し込んで鍵をかけて和室でしてたみたいなのよ。鍵かけたらトイレにも行けないから、おまるまで用意して」
「うげ……」
脳裏に幾度か見た不思議な夢が浮かぶ。夢の大半は確かにあの部屋のものだったし、兄貴やサークルのメンバーが見た夢というのも奥の部屋のものだった。あそこは姉妹にとっては牢獄にも等しかったのだろうか。
「それで……あれは確か暑かったから夏のことだったかしらねえ……外まで聞こえるぐらい大きな泣き声と暴れるような音と絶叫がしたから旦那と一緒に合鍵使って踏み込んだのよ」
夏と聞いて再びあの事件を思い出す。あれと何かしらの繋がりがあるのだろうか。
「そしたらねえ……母親が、喚き散らしながらみゆちゃんとゆなちゃん二人の首を締めてたのよ。旦那がなんとか引き剥がしたんだけどそれでも暴れるわ騒ぐわで……結局警察と救急車を呼んで引き取って貰うことになっちゃってもうご近所さんも巻き込んで大騒ぎよぉ」
「その……無理心中か何かで?」
「そうじゃないんだけどね……」
大家さんは席を立ち、勝手知ったるとばかりにキッチンに入って二人分の水を入れてきた。
「ごめんね、中断しちゃって。頭冷やしたかったから。それで……なんであんなことしたのか、って聞いたら……そのね、見てて、真似してたから頭に来て……って」
「え……?それってどういう……」
「男を連れ込んだ時にしてたことを真似して、みゆちゃんとゆなちゃんが……その……お互い舐めて遊んでて……」
「───!!」
はっきりと話が繋がってしまった。あの夜に見たあれは、在りし日の幻影だったのか。
「たぶんね、あの子たちはそれがどういう行為かわかってないでやってたとおばちゃんは思ってるのよ」
俺が言葉に詰まったのをあまりの凄惨な事情に絶句したと思ったのか、大家さんは慌てたように続けた。
「お母さんに奥の部屋に閉じ込められて、知らない人とお母さんが何かして遊んでるから同じようにしたら遊んでくれると思ってやったんだと思うの。まだ、五歳ぐらいだったはずだし……でも、それが逆効果になって……。結局、それから男のところに引っ越して、荷物だけ業者に引き取らせてそれっきりよ」
確かに、面白い話とは言えなかった。ただ、ミュナの過去や不思議な夢に対して答えが出たのだけは大きな収穫だったと思いたい。
「みゆちゃんとゆなちゃんは遠縁の親戚に引き取られて、何度か写真付きの手紙が来たけどそこからもう連絡が途絶えちゃってねえ……」
「ちょ、ちょっと待ってください。生きてたんすか」
思わず大声が出てしまった。
「え、ええ。酷く殴られて首を絞められてたけど後遺症もなかったみたいで……」
「じゃあ、ウチにいるアレはなんなんすか」
「なんなのかしらねえ……でも、顔はそっくりなのよ」
答えが出たかと思ったがますます謎が深まってくる。顔がそっくりらしいので関係はあるのだろうが、何故一人になったのか、何故俺が来るまで誰にも見えなかったのか。
「ずーっとあの部屋に居て誰にも気づかれなかったとは言ってたんすけど」
「うーん、わかんないわねぇ。ねえ、後でゆっくりみゆなちゃんとお話させてもらって良いかしら?」
「あ、はい」
思わず請け合ってしまったが、これは帰ったらすぐにでもミュナと作戦会議をしないといけないだろう。ミュナが口を滑らせてしまったらとてもまずい。
「あ、大工さん午後イチで来てくれるって。大学はどうする?行かなきゃいけないならおばちゃんが合鍵で開けて立ち会うけど」
「ちょっと待ってくださいね……大丈夫、代返してくれるみたいなんで俺が立ち会います」
スマホを開いてメッセージを確認する振りをして少しでも時間を稼ぐ。一応、見えている範囲での返信は『ワロス』『ウケるwww』だったが、プリントの回収とノートのコピーぐらいはさせてもらえると信じたい。
「じゃ、出ましょっか」
「うす、ご馳走様でした」
大家さんと喫茶店を出て家へと戻る。大家さんが自宅の方に戻ってくれたのでこれ幸いと慌てて家に入って階段を駆け上がった。
「ただいま。昼イチで大工さん来てくれるって。……ミュナ?」
返事はなかった。寝てるのか消えてるのかと部屋に入ってみると、ミュナは和室の畳の上でぺたりと座り込み虚空を見つめていた。俺が帰ってきたのにも気づいていない様子だ。
「お、おいミュナ!」
駆け寄ってミュナの肩を両手で掴む。確かに温もりも実体もあった。そのままゆさゆさと揺するとミュナは目をぱちぱちとしばたたかせて俺の方に向き直った。
「あ、あれ、お兄ちゃん……?」
「何があったんだ?ぼーっとしてると言うには様子が変だったぞ」
俺の問いかけにミュナは一瞬固まり、ぽろぽろと涙を流しだした。
「ミュナ?」
「お兄ちゃん、あたし、あたしね……」
「おう、どうした」
ぎゅっとミュナを抱きしめる。こうしていないとミュナが腕の中から消えてしまいそうだったから。
「あたし、思い出しちゃったの。思い出しちゃいけないこと……まだ、ミュナじゃなかった時のこと、あたしが、あたしたちが、汚い子だった時のこと……っ!」
「ミュナは汚くなんかない!」
思わず反射的にミュナの顎を引き寄せ唇を奪ってしまう。ミュナは最初はじたばたしていたものの俺の腕の中でだらりと脱力し、されるに任せ始めた。ミュナの口内に舌を侵入させ小さな舌と歯列をなぞる。
「……ぷあっ!俺はミュナが汚いなんて思わないし、ミュナのことが大事だ」
「お兄ちゃん……」
「泣くな、抱え込むな。言って楽になることなら俺にいくらでも言ってくれ。言いたくないこと、聞かれたくないことはちゃんと言ってくれたら聞かないから」
どこにも行かないようにミュナの小さな身体を強く抱き止める。ミュナは俺を見上げて目を潤ませている。
「お兄ちゃんは……どこまで聞いたの……?」
「ミュナが双子の姉妹だったってことと、家族がばらばらになることが起きたってこと、その原因も大家さんに聞いた」
「そっか……お兄ちゃんが知ったからミュナも思い出したのかも……」
「なあ、ミュナ。そこから何があったのか、わかることを教えてくれないか?」
「……わかった。思い出せる範囲で良いなら言うね」
ミュナは少し落ち着いたようで洟をすすってはいるものの涙は止まったようだった。髪をそっと梳くとミュナははにかむように笑ってくれた。
「みゆとゆながいなくなって、ママも出て行って、誰も居なくなったけど、ここにあたしは、あたし達は残されたの」
「ん?んん?いや、その、みゆ……さんとゆなさんは親戚の家に引き取られたって聞いたぞ」
「うん。でも、なんでかあたし達はここにいたの」
「うーん……?」
どういうことかよくわからないが、人間のみゆとゆなは親戚に引き取られたが、何故かここに残された存在がミュナの根幹となったのだろうか。
「で、ここからが思い出せないんだけど、気づいたらミュナはミュナになってたの。少しおっきい身体に、羽根と尻尾」
「確か大家さんは事件が起きた時に二人が五歳ぐらいだって言ってたな……」
思い起こせば確かに夏に遭遇したあの二人も五歳ぐらいと言われればそれっぽい。となると……
「ああ、そっか。五歳の二人が合わさって十歳になったのか」
「たぶんね。なんでそうなったかはほんとにわかんないの。ごめんね」
「まあ、だいぶと謎は解けたけど」
稀に見ていた不思議な夢はみゆとゆなの姉妹の記憶、夏に起きた事件はきっと当時の再現だったのだろう。元は人間だった時の記憶の欠片がコロッケ屋や駅のことを思い出させたのか。
「やっぱ、わかんないままってのが一番もやっとするからな。なんで俺と大家さん以外に見えないんだ?」
「えっと、これはたぶんなんだけど、この家に縁がある人、だからかな。だから、遊びに来ただけの人にはミュナのことがわかんないんじゃない?」
確かにそれは理屈としては正しい。だが、それでは説明できないことがまだ残っていた。
「じゃあさ、今までに住んでた人もいたんだろ?その人達はどうだったんだ?」
「…………」
俺の問いにミュナは黙り込む。何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのか。
「だいたい二十年ぐらい前だって聞いたぞ。誰か一人ぐらいは見える人いたんじゃないのか?」
「────の」
「なんて?」
消え入りそうな声でミュナは搾り出したが、聞き取れなかったので今一度聞き返す。
「怖かったのっ!男の人はお爺さんかおじさんばっかりで、女の人はママを思い出すしっ!」
「ああ……そうか……悪かった」
「お兄ちゃんが来て、優しそうだしあたしと一緒で初めてっぽかったし、とりあえず誘惑して押し倒して犯したらなんとかなっちゃいそうだったし……」
「おいこら」
初めてなのは当たっていたわけだし実際誘惑されて押し倒されて犯されてそこからずるずる今に至っているとは言え聞き捨てならなかった。
「なあ、ミュナ、過去のこと思わせぶりだったけど、もしかして……」
「え、えへへ。思い出せないことと思い出したら駄目なこともあったし、ね?」
「実は自分も初めてだけどマウント取ってなし崩しにしたら優位に立てるからって黙ってたなおめー」
「う、うっせえわ!サキュバスなんだから知識はたっぷり溜め込んでたんだもんね!」
「そんなもん俺だってそうだわ。男子の妄想力なめんな!」
一気にレベルの低い争いになってしまった。やはり争いは同じレベルでしか発生しないのか。
「じ、じゃあここで今さっきのキスの続きして白黒はっきりつけようよ!」
おもむろにミュナは服を全部脱ぎ捨て貴族の手袋よろしくこちらに投げつけてきた。
「あのな、昼イチに大工さんが来るんだわ。それと、大家さんが会って話したいって言ってたから服を着てくれ。それと、作戦会議もしなきゃだから全部終わってからだ」
「やってやろうじゃねえか!また明日も寝坊したって知らないんだからね!」
やけくそなのか口調すら変わるミュナにため息をつきながら服を放り返す。服の中に下着は入っていなかった。大家さんが来るまでに履かせないといけないと思ったところで玄関のチャイムが来客を告げた。
この小説に求めるものは何ですか?
-
いちゃいちゃ
-
逆レイプ
-
日常
-
料理