お盆ぐらいから睡眠が安定しなかったり、治ったと思ったら今度はすぐ寝落ちるようになったりとあれこれ体調に振り回されておりました。
それに加えて筆が進まないこと進まないこと。
一度停滞すると後から書いたところが前と矛盾して負のスパイラルになりますよね。
ともあれなんとかもう少し加速して行こうかと思います……と言いつつまさかの前中後編に
ミュナと大家さんにどう説明するか協議する暇もなくインターホンの音が響く。出てみると案の定大工さんだった。後ろに大家さんも伴っている。
「ミュナ、とりあえず和室に引っ込んでてくれ。あとパンツ穿け」
「ふぇーい」
不承不承返すミュナを尻目に階段を下りて大工さんに挨拶をする。大工さんは早速脚立を立てて天井の状態を確認し始めた。
「あー、こら経年劣化だねえ。応急処置はするけどほんとは大規模修繕か建て替えの方が良いと思いますよ」
「ダメよぉ。診療所もけっこう患者さん来るんだしこの子も今年大学に入ったばっかりなんだから」
「そりゃそうだけど造作も古いから夏も冬もきついでしょ」
「皆出てってからなら考えるんだけどねえ」
大家さんの言う皆、には恐らくミュナも入っているのだろう。ここから出られないミュナはもし建て替えとなったらどうなってしまうのか。
「じゃ、終わったら見積もり持ってきてちょうだい」
「はいよー」
言うだけ言って大家さんは玄関先から出て行った。俺にいくらかかったかを聞かせないための配慮だろうか。
狭い階段に脚立を立てて大工さんはあれやこれや作業に取り掛かっている。
「俺、ここにいて邪魔じゃないすか」
「上がっとってくれてええよ。終わったら呼ぶんで」
暗に邪魔だと言われたのでこれ幸いと階段を上がって和室に戻り、ミュナと作戦会議をすることにした。
「ただいま。とりあえず、パンツは穿いたか?」
「えへへ、どうかな~?」
思わせぶりにミュナは裾をつまんでほんの少し上げてみせる。
「ほら、お兄ちゃんが確かめてみて……きゃあ」
「穿いてるな、よし」
「ちょっとー。もう少しジョーチョとかないのー?」
「今はそれどころじゃねえんだわ」
頬を膨らませて抗議するミュナをさておいて大学用のルーズリーフを取り出し時系列を書き出していく。
「で、とりあえずミュナはみゆとゆなだった頃の記憶はないんだな?」
「んんー、ゼロではない……けど、ってレベルかなあ」
「えーと、その、でかい転機というか、なんだろ。離れ離れになるきっかけと言うか」
流石に当人を前に首を絞められたことを聞くのが憚られ、婉曲な言い方になってしまう。
「二人で舐めっこしたのと首を絞められたのは覚えてるよ。どっちの記憶かはわかんないけど。その後は、家から誰もいなくなった……ってぐらいしか覚えてないけど」
俺の逡巡何するものぞと言うかのようにあっけらかんとミュナは軽く口にする。
「ってかお兄ちゃん、これ聞いてどーするの?」
「いやな、これは俺の想像だが大家さんはたぶんみゆとゆながこうなった原因が自分にあるんじゃないかって思ってる気がするんだ」
「ふむふむ?」
「自分が預かれなかったから二人が奥の部屋に閉じ込められて、その結果があの事件に……ってな」
喫茶店で見た大家さんの苦々しげな表情を思い出す。
「ずっと悩んでたのかなぁ」
「いや、きっと忘れてたとは思うんだ。ただ、ミュナを見て一気に思い出したんじゃないかな」
「そっかー」
「で、だ」
ここまでは前振りにすぎない。それよりも大事なのはここからだ。
「とりあえず、大家さん相手に昔だろうが今だろうがエロい話は全部言わないでおこう」
「ええっ、お兄ちゃんとの馴れ初めとかお兄ちゃんの弱いところとか今までお兄ちゃんから何回搾ったかとか言っちゃ駄目なの!?」
「駄目に決まってんだろ!てか回数数えてたのか!?」
「聞きたいかね、昨日までできゅうまん……」
「死ぬわ!!」
どうにもミュナにはことの重大さがわかっていないようだ。ミュナの肩をがしっと掴み、しっかり目を合わせる。
「あのな、まず世間的にはミュナの年齢の子としてたら思いっきりアウトだ。しかも大家さんにとってミュナは五歳児のままって認識かも知れん。となると猶更アウトだ」
「わかってるわかってる。“てぃーぴーぴー”を大事にってことでしょ?」
「本当にわかってんのか……?」
「修繕終わったよー」
ミュナがわかっているかどうかは甚だ不安だったが、天井の修繕が終わってしまったので大工さんに言われるままに現状を確認して問題もなさそうなのでお帰りいただいた。
「まーじでミュナ、頼むぞ。俺、ここに卒業まで住みたいんだよ。不便だけど家賃安いし広いし」
「その上可愛い座敷サキュバスつきだもんね」
「それが今問題になってんだよなぁ」
とりあえずまずはこの自称座敷サキュバスをどういう存在だと大家さんに紹介するかが目下の課題だ。確かに羽根と尻尾、それに今までやってきたことの数々を考えるとサキュバスと言って差し支えはないのだが、大家さんにそれを堂々と言うわけにもいかない。
「なあ、ミュナはどういう風に自分が座敷サキュバスだって自覚したんだ?」
「んー、わかんない。ミュナになった時からかなあ」
「うーむむむ」
本人がこれである以上俺が考えても仕方ない気はする。とは言え正直に名乗るのだけは避けさせたかった。
「よし、エロい話に加えてサキュバスってのもなしだ」
「そんな、ミュナのアイデンティティがクライシスだみゅなぁ!?」
「取って付けたような語尾を出すな。とりあえず大家さんには幽霊か妖怪の類じゃないかって言うからな」
「カテゴリーが雑ぅ」
「うっせ、吸血鬼もサキュバスも半魚人も猫娘もフランケンシュタインの怪物も宇宙人も全部妖怪なんだよ」
蝙蝠めいた羽根と伸縮する尻尾に関してはどうしようもないのでもう「そういうもの」と押し切るほかなさそうだった。ミュナの意志はさておき、大まかな方向性が決まったところで玄関のチャイムが来客を告げた。
「よっこいしょ、年食うとこの階段は洒落になんないわねえ。昔はここに住んでたんだけど」
愚痴をこぼしながら階段を上がった大家さんを部屋に招き入れる。大家さんが差し出したレジ袋の中には様々な種類のジュースが詰まっていた。
「みゆなちゃんが好きなもんがわかんないから適当に家じゅうのかき集めてきたのよぉ」
「あざっす。おーい、ミュナー」
「こんにちは。久しぶり、かしら。それとも初めまして?おばちゃんのことわかる?」
「あ……こ、こんにちは」
ミュナは俺との無遠慮な初対面が嘘のように俺の背中に隠れておずおずと顔だけ半分出した状態で大家さんと対面した。
「まあまあ、ホントにみゆちゃんとゆなちゃんがそのままおっきくなったみたいねえ」
「そ、そうなの……?」
俺の後ろでミュナはびくびくしながら俺の裾をきゅっと掴んでいる。
「ミュナ、そんなに怖がらんでも。俺の時と全然対応が違うぞ」
「だって……お兄ちゃんとはお互い何も知らなかったんだもん。大家さんは……あたしの覚えてない昔のこと、知ってるかもだし……」
「あー……」
「まあ、おばちゃんも歳だしあんまり覚えてないのよ。それよりも大事なのは今のこととこれからのことよ」
あっけらかんと言い放ちながら大家さんはミュナの前にレジ袋のジュースを押しやった。中身を見てミュナは小さく歓声を上げる。
「好きなの飲んじゃって良いからね」
「えっと、じゃあこれ、いただきます……」
ミュナが手にしたのは俺が買ってきたことのない乳酸菌飲料だった。目新しかったから取ったのか、それとも元々の好物だったのだろうか。
「こうして見ると普通の子に見えるわよねえ。もっと早く言ってくれたらよかったのに」
「や、そうも行かなかったっつーか……」
ミュナに犯されてなし崩し的に居座られたからとは口が裂けても言えないので、慌てて言い訳を考える。
「ミュナ、ちょっと一瞬消えてみてくれ」
「うにゅ?いいよ?」
「えええええっ!?」
すっと空気に溶けるようにミュナの姿が消える。今の今まで口にしていた乳酸菌飲料だけが食卓の上に残された。
「よっこいしょ」
「ええええええっ!?」
数秒後に和室の押し入れからミュナが姿を現す。初見の大家さんは目を白黒させて部屋の中をきょろきょろと見回している。
「……こんな風に常識通用しなかったんで、言うに言えなかったんすよ。大家さんが来た時に消えられたら頭おかしくなったと思われちゃいそうだし」
「びっくりしたわぁ。寿命が五十年ぐらい縮まったかと思ったわ」
ミュナは戻ってきて何事もなかったかのように乳酸菌飲料を再び飲み始める。
「で、みゆなちゃんはいつからここに居たのかしら」
「大事なのは今のこととこれからのことじゃねえんすか」
「それはそれ、これはこれよ。思い出せる範囲でいいからね」
「う、うん……」
ミュナはしばらくの間押し黙っていたが、乳酸菌飲料を一口飲んでぽつりぽつりと話し始めた。
「えっと、思い出せるのは一人になってからかな。最初は誰もいなくて空気が澱んでたってのは覚えてる」
「あれから暫くは誰も入らなかったからねえ……」
「外に出られないし、やることもなかったからずーっと寝てた……かな。起きたら誰かが住んでたこともあったけど」
家族がばらばらになり、自分自身にも置いていかれてずっと一人でいたミュナの孤独はいかばかりだったのか、想像すらつかない。
「どんな人だったか覚えてるかしら?」
「えーっと、いっつも銭湯に行っててお風呂全然使わなかったおじさんとか」
「ああ、いたわねぇ」
「いつ帰ってくるかわかんなかったおばさんとか」
「あー……看護師さんかしらね。いたいた」
「あとは……ずーっと家でお絵描きみたいなことしてたおばさんとか」
「最近の人ね。イラストレーターって言ってたもの」
新参者の俺にはわからない話になってしまった。さっきまで俺の陰に隠れていたのが嘘のようだ。
「で、みゆなちゃんはその人たちがいる時はどうしてたの?」
「んっとね、怖かったから話しかけたりはしなかったけど、家に誰もいない時にちょっとだけ出てきて本とかテレビとか借りたりしてたかな」
「おいミュナ、それちゃんときっちり元に戻したのか……?」
「……えへ?」
舌を出して目を逸らすミュナに大家さんと二人顔を見合わせる。
「……えっと、この部屋があんまり長続きしないのって……」
「そう言えば、鍵増やしてって言われたことがあったわねえ。泥棒がいるかも、とか……」
大家さんにとっての二十年越しの謎の氷解に、二人で大きなため息をついたのだった。
「でもみゆなちゃん、受け答えとかしっかりしてるわよねえ。あたしが知ってるのは五歳のみゆちゃんとゆなちゃんだけだからびっくりしちゃった」
「言われたら確かに。見た目以上にしっかりしてますし、そもそも元が五歳児には見えないっすよね」
「もー!ミュナは二十年ここにいるんだから。お兄ちゃんよりおとななんだよ!」
「普通の人間はほっといても知能レベルが上がらねえんだわ」
考えてみれば確かに不思議だった。大元のみゆとゆなの成長に合わせて中身だけでも成長していったのだろうか。
「まあでも仲が良さそうで何よりだわぁ」
「男所帯の末っ子だったんで妹ができたみたいで新鮮っちゃ新鮮すよ」
「えへへー」
はにかむように笑うミュナのを見て大家さんは安心したようだった。
「じゃあ今は少なくとも困ったことは食費と……家にお友達を呼びにくいって感じかしら?」
「そっすね。まあやりくりはできてますし、ツレとはこっちから遊びに行けば良いんで」
「だったら良かったわぁ。あ、話変わるけれど、今日はこれから大学は行くのかしら?」
言われて時計を見る。今から間に合えば最後の講義にはぎりぎり滑り込めそうではあった。
「やー、休むって伝言してるんでもう休んじゃいますわ。今日はバイトもないですし」
「それじゃ、今日はおばちゃんが夕飯ご馳走するわよ。みゆなちゃんも一緒に」
「「えっ」」
いきなりの申し出にミュナと二人顔を合わせて呆けた顔をしてしまう。
「や、そんな、悪いすよ」
「いいのよ、若い子が気にしないの。どうせ旦那は今日町会の飲み会で居ないから大丈夫よぉ」
「あの、そうでなくて」
「うん、そうと決まれば準備しなきゃね。じゃ、また後で来るからね!」
俺たちの反論は大家さんの勢いの前には意味をなさなかった。荷物を置いてどたどたと階段を駆け下りる大家さんをぽかんと見送ってしまった。
「……えーっと」
「とりあえず、悪印象は持たれなかったみたいだなあ……」
ため息をつきつつ、大家さんが持ってきたジュース類を冷蔵庫にしまう。その間もミュナが何も言わないので少し気まずい空気が場を支配する。
「ま、まあミュナを追い出すとかそういう話にならなかっただけ良かったな」
沈黙に耐えかねて俺の方から切り出す。ミュナは返事代わりにすっと俺にしなだれかかって俺の手を取った。
「お、おい?」
「ね、お兄ちゃん。ミュナね、すっごい緊張してたんだよ、ほら」
ミュナに手を引かれるままに服越しに彼女の小さな胸に触れる。柔らかな感触の下からはどくどくと早い鼓動が手に伝わってきた。
「今までミュナとお兄ちゃんしかいなかったところに、ミュナが覚えてないことまで知ってるかもしれない人が来たんだよ。そりゃこうなるって」
「それもそうか」
ミュナの手が離れないので必然的に俺の掌にミュナの鼓動と柔らかい胸の感触が伝わり続け、俺の鼓動も早くなってくる。
「あの……ミュナ、そろそろ離してくれないか?」
「ダーメ。ミュナが落ち着くまで離しませーん。どうせすることないんだから良いでしょ?大学サボった悪い子お兄ちゃん」
「しょうがないだろ。誰だって借家の天井が落ちかけたらそっち優先するっつの。悪い子ってのは自販機コーナーで四六時中講義も受けずに三麻してるような連中のことだ」
「何それ」
何それと聞かれても俺にもわからない。先輩曰く入学した時から延々三麻に興じているとのことだ。ひょっとしたら妖怪の類なのかもしれない。
「えへへ、お兄ちゃんのおてておっきーね。すーりすーり」
ミュナの手に引かれて俺の手はミュナの胸の上を往復させられる。
「どう、お兄ちゃん、きもちいー?」
「……なあミュナ、落ち着くまでとか言ってるけどこれでほんとに落ち着けるのか?」
「聞こえませーん」
服越しのミュナの感触は徐々に温度が上がってきて、往復する手にほんの少し硬い感触が小さな抵抗となる。
「んん……っ……あんっ……」
「落ち着いてないだろ」
「だってえ……っ、心配だったんだもん……っ!」
ミュナの嬌声には少しばかりの嗚咽が混じっていた。
「いきなりミュナのことが見える人が来て……お兄ちゃんが連れてかれて……っ……」
「そうだよな、そりゃ不安だよな」
確かに言われてみればそうだった。ミュナに大家さんの記憶がほとんどないのであれば不安の種でしかなかっただろう。
「まあでも大丈夫なのはわかったろ、だからいい加減離して……」
「ダメでーす」
どさくさ紛れにミュナの胸を愛撫させられていた手を頭に移動させようとしたが、ミュナは鋭く察してぎゅっと手を抑え込んでくる。
「なんでお兄ちゃんそんな逃げたがるのかなー。ミュナ傷ついちゃうよー、しくしく」
「や、だっていつ大家さん戻ってくるかわからんだろ。するなら夜にしろ夜に」
言いながら昨日散々搾られてあわや遅刻となったのを思い出して墓穴を掘ったのではないかと思ってしまう。
「それはするとして……じゃあ、今は軽くイチャイチャしよ。触るのは服の上からだけ、それと……」
ミュナの胸の感触に気を取られた隙に頬に柔らかい湿った感触が触れる。
「キスもこんな感じで軽く……ね?」
「……それなら大丈夫……か?」
また易々とミュナの術中に嵌ったような気がしないではないものの、ミュナが本当に不安だったのはわかるので言われるがままにすることにした。
「ん……えへへー。きもちーよ、お兄ちゃん」
服越しにミュナのほんの少しある膨らみを優しく愛撫する。ミュナは軽い嬌声を上げながらも目を細めて俺に身体を擦りつける。
「ね、お兄ちゃんもキスしてぇ……」
「おう」
頬を紅潮させて俺を見上げるミュナを軽く抱き寄せて熱を帯びた頬に軽く口付けする。粘膜に触れてすらいないのに、頬の瑞々しい感触が僅かに快感をもたらし股間が熱くなる。
「どう、ミュナのほっぺきもちいー?」
「めっちゃぷにぷにすべすべだな」
「あは、なにそれー」
けらけらと笑うミュナの顎を引いて逆の頬にも口付けする。本当に柔らかく温かく、そして愛おしい。
「……ね、ぎゅってして?」
「……ん」
見透かしたようにせがんでくるミュナの身体を包み込むように抱擁する。ミュナの息遣いを間近に感じてパンツの中で欲望がむくむくと頭をもたげてきてしまう。
「えへへ、それは後でね?」
「うぁっ……」
ミュナが妖艶な笑みを浮かべてつっと俺の背中を指でなぞり、びくりと全身が跳ねる。
「ぎゅってしてたらお兄ちゃんには刺激が強すぎたかな。じゃ、ごろんってしよ」
言われるがままに畳に横になる。ミュナも俺の横に寝そべり、そっと俺の手を取った。
「とりあえず落ち着くまでごろごろー」
「お、おう」
ミュナの細い腕が俺の腕にするりと踊るように絡みつく。腕と腕がぴたりとくっつき、掌は所謂恋人繋ぎの形になる。
「どう?お兄ちゃん、落ち着いた?」
「んー……多少は」
暫く二人で無言で転がっていたところでミュナが声をかけてくる。抱き合っているよりは密着度が低い上に視界に広がっているのが天井だとは言えミュナの体温と感触は近いままで、息遣いまで聞こえてきている以上根本的な解決にはなっていなかった。
「えいえいー、つんつん」
「やめろ、刺激すんじゃねえ」
ミュナが余った片手で俺の胸をつんつんと刺激してきた。まださっきの刺激が蓄積している身としてはこれでは落ち着きようがない。
「あは、お兄ちゃんも悔しかったらやり返せばいーんだよ。ほーら、みゅなみゅなみゅなみゅな~」
「この、いい加減に……っ」
「きゃはははっ、お兄ちゃん、くすぐったーい」
少しでもミュナの気を逸らそうとこちらもミュナの腕やら肩やらをつついて反撃する。ミュナは身を捩ってけたけた笑いながら俺をつつき返す。
「ほら、いいから大人しくしてろ……!」
「やぁんっ!」
何も考えずにミュナをつつこうとした指が滑り、ミュナの胸をなぞってしまう。嬌声が上がりミュナがびくりと身体を震わせた。気まずい沈黙が部屋を包み込む。
「……え、えへへ。お兄ちゃんテクニシャンじゃーん……」
「……もうやめよう、な。大家さんいつ戻ってくるかわからんからな」
「はーい」
幸い、ミュナがイったのは軽く済んだようで部屋を脱臭する必要はなさそうだがこれ以上やるのは怖かった。
「ほら、もう良いだろ。離してくれ」
「やーなーのー。もう何もしないから離さないでー」
手を離して起き上がろうとするがミュナはそれだけはさせまいと抵抗してくる。やることが特にあるわけでもなく、仕方なく畳に再び寝転がった。
「えへ……お兄ちゃん、このまま手、離さないでね」
「わかったよ」
「あは……あったかぁい。だいすき……」
結局ミュナは甘えたかっただけなのだろうか。ミュナの小さく柔らかい手を握りなおすと安心したかのようにすうすうと寝息が聞こえだす。
「……俺も好きだぞ、ミュナ」
狸寝入りだったらまたミュナが調子に乗りそうなものだが、偽らざる本音を口にする。ミュナの寝息を聞いているうちに俺もうとうとと意識が飛び飛びになり───完全に寝落ちる直前に、インターホンの音が響き渡り、飛び起きることになった。
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