今回はエロが少ないです
「ぐえ……いってぇ……」
夜中にふと目覚めると酷く喉と頭が痛んでいた。朦朧とする頭で思い返せば朝から前兆はあった。喉に少し引っかかったような疼きがあり、バイトの最中も少しずつ痛みが強まってきていて咳も出ていた。そのまま帰り路で妙に暑くて上着の前を全開にして自転車を飛ばして帰って風呂でミュナに襲われ───最後までできなかった。
疲れていたからということにしてそのまま風呂を上がって寝たがあるいはミュナも俺の様子がおかしいと思ったから食い下がらずに解放してくれたのかもしれない。
「体温……計……」
怠さも酷く動くので手一杯だ。横で寝ているミュナを置いて布団を離れ一人暮らしを始める時に家族に持たされた救急箱を探して体温計を引っ張り出す。腋に挟んで待つことしばし。
“38.8℃”
明確に突き付けられた証拠に視界が歪み、俺はそのまま意識を手放した。
ちゃん───
おにいちゃん───
「お兄ちゃん!起きた!?」
「あ?ああ……?」
目を開けるとミュナが泣きそうな顔で俺を覗き込んでいた。頭と喉の痛みは更に酷くなってきていて返事をするだけで手一杯だった。
「おばーちゃん、お兄ちゃん起きたよ!」
「あら、じゃあ先生呼ぼうかね」
合鍵を使って大家さんが上がってきていた。身体を起こして挨拶しようとしたものの頭を向けるのが精一杯だった。
「みゆなちゃんがスマホで連絡くれてねえ、飛んできたのよ」
「そっか、ありがとな……」
「お兄ちゃん、呼んでも起きないし顔色すっごく悪かったからぁ……」
堰が切れたのかミュナが俺に縋りついてぼろぼろと涙を流す。しんどいながらもこっちも必死で腕を動かしてミュナの頭を撫でるもぎこちない動きになってしまっていてミュナの嗚咽が更に強くなってしまう。そんなところにチャイムの音が響いた。
「あら、先生来たわ。みゆなちゃん、ごめんね」
ミュナは目に涙を浮かべつつも素直にすっと消えた。それと入れ替わりに下の診療所のお爺ちゃん先生が大家さんに先導されて部屋に上がり込む。
「うーん、熱もそこまで高くないし呼吸音心音ともに異常はない、関節痛も見られないので風邪でしょうな。部屋を加湿して栄養取ってゆっくり寝るのがいちばん、消炎鎮痛剤と胃薬だけ処方しておくので食後に飲んでね。一人暮らしだとどうしようもないかも知れないがちゃんとしたものを食べなさいよ」
「はいはい、薬は代わりに私が取りに行きますよ、お世話様です」
薬を取りに大家さんと先生は連れ立って出ていき、部屋が一気に静かになった。
「お兄ちゃん、大丈夫……?」
扉を閉める音が聞こえてから少ししてすっとミュナが枕元に姿を現した。
「あー、頭と喉が痛くてだるい……、まあ、夜中よりも熱は下がってたから薬もあるし大丈夫だろ……」
「ごめんね、お兄ちゃん。ミュナのせいで」
「ミュナのせいじゃないさ、こんなもんどんだけ用心してもかかる時はかかるもんだ。ひょっとしたらバイト先で伝染されたのかもだし、気にしなくて良いぞ」
「でも……」
ミュナは拳をぎゅっと握りしめてぽろぽろと涙を零している。確かにミュナに搾られて免疫力が落ちたのはあるのかもしれないが、その表情を見ているととても口には出せない。
「気にしなくて良いけどその代わり動けない分あれこれ頼むと思うからそれだけよろしくな」
「わかった……じゃあ、何しよっか」
「んー、じゃあ水入れてきてくれ」
「はいはーい」
ぱたぱたとミュナは台所に駆けていきすぐにコップに水を入れてきた。喉がイガイガしていたのでありがたく喉の痛みに構わず飲み干した。
「次は、次は?」
「今は大丈夫……ってか大家さん戻ってこないな」
「そうだねー……」
俺も喉が痛いのであまりしゃべりたくはなく、会話が途切れてしまう。
「えっと、お兄ちゃん、何か、して欲しいこと……ある?」
「つってもなあ……ミュナに伝染っても困るし……」
ミュナが風邪をひくのかどうかはわからないので、滅多なことは言えなかった。風邪の原因の一端が自分にあると思い込んでいるミュナを突き放すのも憚られるが、もう少しゆっくりさせてほしくもあって板挟みだ。
「うーん……何か今の俺に食べれそうなものがないか冷蔵庫覗いてきてくれ」
「わかったー」
冷蔵庫の中身はだいたい把握しているので時間稼ぎだった。
「えーっと……お豆腐とー、海苔とー、野菜ジュースとー、白だしとー……」
「駄目そうだな……」
早々に調味料類がラインナップに並んできてろくに物がないのが露呈してしまうだけだった。
「冷凍庫なら唐揚げとチャーハンがあるけど」
「油もん食える気がしないわ……」
ため息をついたところで玄関の扉が開く音がした。
「よっこらせ、っと。ごめんねえ、薬以外も買ってきたから遅くなっちゃって」
「ミュナ、大家さん手伝ってきてくれ」
「はーい」
あきらかに物が満載された袋が擦れる音がして、慌ててミュナを遣いにやった。ミュナは階段を下りられないので移動できるぎりぎりのところまでだが。
「おばちゃんがおうどん作ったげようと思うけど、お腹、入りそうかしら?」
「それはありがたいんですけど……すんません、あの、お金出すんで。いくらですか?」
「良いから良いから。その辺は元気になってから考えなさいな」
「わーすごーい!一気に冷蔵庫がいっぱいだー!」
大家さんの口調は有無を言わせぬもので、押し切られてしまった。ミュナが冷蔵庫にかかりきりでこちらから気が逸れてくれたのはありがたかったが。
「お兄ちゃん、枕元にこれ置いといてって。あとこれ」
「おう、サンキュ」
スポーツドリンクのボトルと保冷剤が手渡された。一口飲むと甘さとほんのわずかな塩気が汗をかいた身体に沁み渡る。とりあえず保冷剤はタオルを巻いて首の下に挟むことにした。ひんやりとした感触が心地良く少しほっとする。
「みゆなちゃん、手伝ってちょうだいね」
「はーい、何でも言ってねー」
頼られるのが嬉しいのかミュナは大家さんの指示を聞いてあれやこれや動いている。出汁のいい香りが詰まった鼻越しにまで届いてきて刺激された腹が音を立てた。
「じゃあみゆなちゃん、あっちのお部屋に気を付けてこれを運んでね」
「わかったー」
ミュナがおっかなびっくりといった様子でお盆を運んできた。上のプラ椀からは湯気が上がっている。
「どう?起きられるかしら?」
「っと、待ってください……よっ」
だるさは残っていたが現金なもので飯となれば少し力が湧いてきた。ただの風邪だとわかったのもあるのかもしれない。
味噌が入っているようで茶色い出汁に麺の白、溶き卵の黄色とネギと白菜の緑が色合いが豊かで食欲をそそる。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
さっそく麺をいただく。幅広のモチモチした麺で、意外と短くすするというよりもつまむという感触だった。しっかりと味噌や出汁のうま味が感じられて沁みわたるようだ。白菜とネギはくったりとしていて歯ごたえには欠けるがその分消化に良いだろうし何より温かい汁がありがたかった。体調が悪く不安になっているところに寄り添ってくれるような感覚。
「それだけ食べられるなら心配なさそうね。おかわりが要るならみゆなちゃんに言ってね」
「うっす、ありがとうございます。このお椀は……?」
「餅つきの時の余りよ。まさかすぐ再利用することになるとはねぇ。食べ終わったらそっちで捨てといてちょうだいね」
「あ、感染対策っすか。周到っすね」
「年寄りは罹ると大変なのよ」
会話をしながらだと意外とするすると入っていってあっさり一杯完食してしまった。
「すみません、おかわりください。少な目で」
「はいはい、みゆなちゃん、取りに来てね」
「はーい」
ミュナはお盆を片手にとてとてと向かい、新しいプラ椀に入ったうどんと薬袋と水を持ってきてくれた。
「ん……いやこれうまいっす。味噌と出汁以外に何か入ってます?」
「鶏ガラスープの素を入れてるのよ、粉末の。鶏のスープも栄養たっぷりだからね。それ食べて薬飲んで寝ちゃいなさいな」
「うす……ご馳走様です」
腹にものが入ると少し余裕が出てきた。薬を飲んでぼーっとしていると頭痛やだるさよりも睡魔が優り始める。
「ほらほら、ちゃんと寝ときなさいな。後片付けはおばちゃんとみゆなちゃんでしておくから」
「うっす……ありがとう……ございます……」
身体は相変わらず熱かったが夜の不快な熱さよりも心地良さがあり、そのまますっと意識が落ちた。
「ありゃ、お兄ちゃん起きた?大丈夫?」
「んー、まだ頭と喉が痛いけど朝よりはマシだな。今何時だ?」
「三時ぐらい。お昼の」
枕元に置かれたスポーツドリンクを呷る。喉の痛みも確実に軽快しつつある。まあ薬で麻痺しているだけかもしれないが。ミュナはずっと枕元で俺のことを見ていたようだが一緒に漫画も山積みしていたので少しだけ気が楽になった。
「お兄ちゃん、何かおやつ食べる?」
「その前にバイト先に電話するわ。明日入るの誰かに代わってもらう」
バイト先に電話して謝罪と他の人の安否確認をしたが、幸い今のところ誰にも症状は出ていないようで、客から貰った可能性もあるのでもうそれ以上は考えなくて良いと言われて一安心だった。
「ゼリーとアイスモナカと桃の缶詰があるけどどれがいい?」
「んー、アイスにしようか」
「はーい」
まだ熱っぽかったので冷たいものが欲しかった。ミュナがアイスモナカとメモ用紙を手に駆け寄ってくる。
「はい、モナカ。こっちはおばーちゃんから」
「サンキュ」
とりあえず先に大家さんの書き付けを受け取る。びっしりと文字が書き込まれていて圧倒された。
『うちの加湿器を置いていきます。たまに水漏れすることがあるので気を付けて。薬は毎食後に飲むように。症状がなくなったら飲まなくても良いとのこと。夕飯はまた作りに来るつもりですが何かあるようなら電話をください。喉が痛いならのど飴を、咳が出るなら葛根湯の粉を買っているので使ってね。汗をかいたままだと冷えて体力が削られるので適宜着替えるように。微熱になったらシャワーを浴びるのもいいけれど、湯冷めには気を付けるように(これはうちがボロいからよね、ごめんなさい)』
「何から何まで世話になっちまってんなぁ」
ひとりごちながらアイスモナカの袋を開ける。布団に皮を零さないように気をつけながらブロック状になっているのを一口齧るとぱりっとした感触に次いでひんやりと冷たく甘い感触が口内に広がった。ミルクの風味と冷たさが火照った身体に心地良い。
「美味しい?」
「美味いぞ。ミュナも食べるか?分けやすい形だし俺丸々一個は無理だろうし」
「ううん、良いよ。お兄ちゃんは病人なんだし自分最優先で。……もう一個あるからもしお兄ちゃんが治って余ったら貰うね」
「……そうか」
結局半分食べた辺りで残りを冷凍庫に戻して夜にでも食べようということになった。普段はチョコが挟まれているほうが好きだが風邪ひきの時だとアイスだけの方が消化には良さそうだ。
「ミュナー、着替えるからタオル持ってきてくれ」
「はいはーい」
替えのパジャマはないのでやむなく部屋着のジャージを引っ張り出した。
「お兄ちゃん、背中拭くよ」
「お、助かる」
服を脱ぐと暖房の入った部屋でも流石にひやりとしてしまう。手早く前を拭いているところにミュナがもう一枚タオルを持ってきてくれたので甘えることにした。
「あは、お兄ちゃんの背中おっきーね」
「寒いから早くやってくれ」
「はーい」
前半分は布団を抱えるようにして暖を取り、ミュナに背中を預ける。自分で拭くのとは違って何やら少し気恥ずかしい。
「ミュナ、そろそろ終わったか?」
「えへへー」
むにゅり、と柔らかい素肌の感触が背中に広がる。本来なら温かいものだが今日は俺が熱を出しているので少しひんやりと感じる。
「おい、寒いからやめろって」
「うーん、興奮とかはしない?」
「心拍数は上がったけどそれだけだわ」
体調が悪いからかミュナの生肌を感じても下の方はさっぱり反応しなかった。
「これはユユシキ問題ですなー……早く元気になってもらわなきゃ」
「わかったら大人しく寝させてくれ……あ、のど飴持ってきて」
「はいはーい」
ミュナが持ってきた飴の袋はあまり見慣れない色をしていた。
「えへへー、いっぱいあるから一個貰うねー。口移しが良い?」
「また今度な」
「ちぇー」
不満半分愛嬌半分といった表情をしながら飴を口に入れるミュナを横目に俺も飴を個包装から取り出して口に含んで───
「ええー、何これ何これー!?」
「ぐ、ぐえっ」
口に広がった妙な味に困惑する。甘いような苦いような辛いような、それ単体だと覚えがある味ではあるが飴の味としては予想を大いに外していて脳が誤作動を起こしたような感覚。
「これ、何味だ……?」
「えーと、大根生姜のど飴……」
「た、確かに効きそうではあるが……」
ひと舐めごとに不協和音のような味が口の中に広がる。
「うう……減らない……」
「無理なら出してもいいんだぞ」
「それは駄目ー!」
こういうところは律儀なミュナは涙目で飴を舐め続けていた。静かになったせいか、飴を舐め終えた頃に眠気が襲ってきて俺は夕方まで寝落ちることとなり、大家さんの作るうどんの香りで目を覚ましたのだった。
「お腹の具合がよくなってきたようで一安心ね。油断せずしっかり治しなさいよ」
「うっす。ほんとに助かりました。俺とミュナだけだったら何もできなかったすから」
「これぐらいはいつでも頼ってちょうだいな」
俺の代わりにミュナが大家さんを階段まで見送る。夕飯は昼のうどんに更に豚コマを追加したものと生姜をたっぷりおろした冷ややっこだった。久々の動物性タンパク質に身体が喜んでいるようだ。
「お兄ちゃん、お風呂どうする?」
「熱はだいぶ下がったけど……うーん、やめとくか」
エアコンはあるものの寒い脱衣所を通ることを懸念して身体を拭くだけに留めることにした。あと、加湿器代わりに洗ったパジャマを部屋干ししておく。
「喉がまだ駄目だな、ミュナ、のど飴取ってくれ」
「はーい」
慣れると意外とこの大根と生姜の不協和音もアリだと思ってくる。ミュナは信じられないものを見るような顔つきでこっちを窺っているが。
「あんだけ寝たのにまだ寝れそうな気がするな。やっぱり消耗してるみたいだわ」
「早く治していっぱいしよーね♪」
「体力戻るまでは駄目です」
「むぇー」
わざとらしく頬を膨らませて抗議するミュナを尻目に布団を被るとミュナも俺を追いかけてするりと布団に潜りこんできた。
「まだお兄ちゃん熱いねー」
「だいぶマシになってきた気はするぞ。さっきはミュナの体温が冷たく感じたけど今はそうでもないし」
「こっちの方は元気に……ならないね」
「やめなさい」
ミュナも本気ではないようですぐに引き下がる。薬が効いてきたのかすぐに意識がとろんとなってミュナの体温を感じたまま眠りについたのだった。
「ん?あれ?」
次に目が覚めた時には身体がやけに軽かった。時計を見るといつも起きるのよりかなり早い午前五時前。妙に爽やかな目覚めだ。昨日ずっと寝すぎていたからか頭が少しぼうっとしているがそれ以外は頭痛も咳も喉の痛みも鼻詰まりも嘘のように消えてしまっていた。体温計を使ってみてもやっぱり平熱で、あまりにも早い回復に首を傾げるとともに違和感の正体に気づいた。
「ミュナ?」
夜明け前だったので起こすのも悪いと放置していたがミュナの布団に手を突っ込むとやけに熱い。
「おい、ミュナ!」
「ぁぅー」
布団を剥がしてミュナを引っ張り出すと驚くほどにその身体は熱かった。体温計を腋の下に挟んで熱を計ろうとしたがエラーになってしまう。だが、この熱に加えてぜいぜいという息遣いに真っ赤に紅潮した顔とどう見ても昨日までの俺のような風邪の症状であることは疑う余地もなかった。
「あ、おにーちゃん、おはよー……」
「ミュナ、俺の風邪が伝染ったのか?どこがしんどい?」
「喉と頭がー……」
声も鼻声で間違いなく昨夜までの俺の症状と一致する。
「とりあえず汗も酷いしこれ飲んどけ」
「ありがとー……あう、喉痛いー」
枕元に置きっぱなしにしていたペットボトルを渡すとミュナはゆっくりと飲み下す。喉が痛むからかその速度は早くない。
「まさかミュナに風邪が伝染るとは……」
「えへへー、昨日の夜中にー、お兄ちゃんがしんどそうだったからー……」
熱のせいか胡乱げになった口調でミュナが聞き捨てならないことを呟いた。
「ちょ、ミュナ、俺がしんどそうだったってなんでそれでミュナが……」
「あ、えー、えへへ?」
ミュナは悪戯を咎められたのを誤魔化す時と同じようにぺろりと舌を出した。ふと脳裏にいつぞやにミュナにマッサージされた時の光景が浮かんだ。あの時はレポートに疲れていたのがミュナのマッサージを受けたらすっかり元気になってレポートは捗ったのだがミュナはかなり深い眠りに落ちていたのだった。
「なあミュナ、お前俺のしんどいとかそういうのを引き受けたりしたのか?」
「バレちゃった。あんまりセーミツにはできないんだけどね」
一夜にして症状が軽快した理由が明るみになり衝撃で少し呆けてしまう。なぜそういったことができるかはさっぱりわからないがミュナに常識が通用しないというのは一年近く過ごしてきていてわかっていたつもりだった。だが俺の理解よりも更に非常識な能力をミュナは秘めていたのだ。
「ミュナ、とりあえず約束だ。こーゆーのもうこれで最後にしてくれ。俺が困る」
「えー、でもー、お兄ちゃんが動けないと困るでしょ?」
「ミュナがしんどいと俺も心がしんどいよ。それに、昨日処方された薬だけど。内部の炎症とかも抑えるからきっちり貰った分全部飲んでって言われてるよな。ミュナ、俺のしんどいの引き受けたって言ったけど内部の炎症も引き受けれてる?」
ミュナは辛そうにしながらもしばらく考え込んで首を振った。
「んー、ごめん、わかんない……」
「だろ。この薬、俺が飲むべきかミュナが飲むべきかわかんなくなっちゃうわけだ。とりあえず俺が貰うけど。それに昨日みたいに診察してもらうわけにもいかないしな」
「お兄ちゃん……メーワクだよね……ごめん……」
「迷惑とかじゃないから。そういうのはちゃんと相談すること。とりあえず今日はミュナが昨日してくれたように俺もできることは何でもするから言ってくれ」
今にも泣き出しそうなミュナを前にしてしんどいところに詰めるのは悪いとは思ったがこればかりははっきりさせておいた方が良いと思って言うべきことを言ってしまった。
「んー、アイス食べたいー……」
「わかった。すぐ持ってくる」
取り急ぎ昨日の俺の食べさしと新しいのと両方持っていくとミュナは食べさしの方を迷わず手に取った。
「えへへー、間接キスだねー。お兄ちゃんの味がする」
「アホなことやってないで溶ける前に食べなさい」
断面を見せつけるように舌でぺろりと舐めるミュナを窘める。結局ミュナは俺の食べさしだけでは足りずにもう一個の方も半分だけ食べて満足そうに眠ってしまった。だったら最初から新しい方を開ければ良かった気もするが、きっとミュナにとってはそうでもなかったのだろう。
それはそれとして俺も腹が減ったので何か食べることにして冷蔵庫の中身を確認する。缶詰の果物やゼリーなどの甘味が大量に詰め込まれていて甘いものには困らなさそうだった。それに紛れてうどん玉や昨日食べた豚コマの残りが入っていたので昨日と同じくうどんを食べることになりそうだった。問題は昨日と違って作るのが自分だということで。
「えーと……味噌を溶いて……鶏ガラスープは……味噌味あるしとりあえず書いてる分の半分でいいか」
「おにーちゃん?」
台所で手探りで調理をしている音で目を覚ましたのかミュナが声をかけてきた。
「あ、ごめん。起こしちゃったか」
「何してるのー?」
「俺の飯だよ。昨日とおんなじうどん作ってる」
野菜室にはネギと白菜も残っていたので同じように作れる……はずだったが味がどうにも同じように決まらなかった。野菜の切り方も乱雑で無惨なことになっている。
「ミュナも食べるか?」
「ちょっとだけ欲しいー」
ミュナの分のうどんは食べやすく短くカットして豚肉もキッチンバサミで可能な限り細かく刻む。手間ではあるができることはしてやりたい。
「ほい、お待たせ。熱いから気をつけてな」
「わーい」
這いずるように食卓まで寄ってきたミュナにうどんを入れた椀とスプーンを差し出す。
「……ん、あったかい」
「不味くはないんだけどな……うーん」
どうにも昨日大家さんに作ってもらったものと比べると見劣りしてしまう。
「大家さんにしっかりレシピ聞いて作り直した方が良いかな」
「お兄ちゃん、ミュナのわがまま聞いて?」
愚痴りながら汁を啜っているとミュナがお椀を置いて俺の方に向き直ってきた。
「わがまま?朝も言ったように俺にできることは何でも言ってくれていいぞ」
「おばーちゃんにはナイショにして、今日は二人でゆっくりしよ?」
「ん。わかった」
なんやかんやで大家さん相手には気を遣うのだろう。その気持ちはよくわかった。
「ねえ、デザートに桃缶食べたいな」
「おう、これ食べたら取ってくる」
ミュナに頼られたのが何やら嬉しくて一気にうどんをすすり上げる。昨日のミュナも同じような気持ちだったのだろうか。
「お兄ちゃん、どう?変な感じとかしない?」
「わからん」
朝食を終えてとりあえず処方薬を飲んだが俺にもミュナにも特に変化がない。完全に症状がないものの薬を飲むしかないというのは妙な気分ではあるが仕方ない。
「ミュナ、汗とかは大丈夫か?」
「ミュナはその辺すぐ消えちゃうから。ほら、ミュナのパジャマ嗅いでみてよ」
ついっと差し出された裾を軽く嗅いだが確かに全然汗のにおいはしなかった。
「じゃ、後は寝て治すしかないな。喉が渇いたらスポーツドリンク飲めよ。ここに置いとくから」
「ねえお兄ちゃん、ひょっとしたらお兄ちゃんの精液飲んだら治るかも。試しにちょっと出してみてよ」
「俺も病み上がりで体力削れてるから駄目です」
「ちぇー」
するすると布団の下から伸びてきた尻尾をぺしっと払うとミュナは口を尖らせた。
「じゃあせめて……尻尾でいいから握っといて」
「手を握っても良いんだぞ?」
「それだと寝にくいしお兄ちゃんも動けないでしょ、ほら」
再び寄ってきた尻尾を軽く手で握るとミュナは気持ちよさそうに目を細めた。
「えへへ、お兄ちゃんの体温を感じる……」
「寝れる時に寝ときな」
「うん……」
ミュナ本体とは違うのか尻尾はひんやりしていて曰く言い難い感触が手に広がる。左手で尻尾を弄びながら右手でスマホを弄ったり漫画を読んだりして時間を潰すことになった。
「すぅ……すぅ……」
「落ち着かねえな……」
漫画を五冊ほど読んだところで改めて時間を持て余してしまっているのを自覚してしまう。昨日のミュナがあれこれして欲しいことがないのを聞いてきた意味が少しわかってしまう。
「しっかし、ぷにぷにしてんな……」
漫画を読む手を止めてミュナの尻尾を両手でさする。幸いミュナが目を覚ます様子はなかった。思い返せばミュナの尻尾には不意打ち気味に搾られてばかりでこうしてまじまじと観察するのは初めてかもしれない。ミュナを起こさないようにあくまでこっそりと尻尾を弄ってみる。
「えへへぇ……」
「おわっ、ミュナ、起きて……」
「今日はぁ……どっちに挿入れたい……?」
ミュナを起こしたのかとどきりとしたが幸い寝言だったようで静かになってから尻尾弄りを再開する。
「ここはどうなって……?」
普段挿入させられる尖端はぴっちりと閉じており、どうなっているのかよくわからない。試しに指を近づけると───
ちゅるん!
「う……おっ!?」
つつこうとした指がいきなり呑み込まれてしまって声がでてしまった。
「すぅ……すぅ……」
当のミュナは相変わらず寝ているようで反射的なものだろう。指がぬめぬめとした粘膜に覆われくまなく舐めしゃぶられるような感触。
「と……放して……くれ……」
指を引き抜こうとすると反抗するかのように吸い付きが強まり指に内部の形状を余すところなく伝えてくる。繊毛のようなものが指に絡みつき逃亡を阻止しているようだ。
「一気には無理なら……ちょっとずつ……」
作戦を変更してそろりそろりと気づかれないように指を引こうと試みる。何かの漫画で読んだ密室でのパニックホラーものを思い出して緊迫する。あっちはもっとやばい状況だったわけだが。
「よし、良いぞ……」
ぬらぬらと粘液にてかる指が第二関節まで引き抜けてほっと胸を撫で下ろした。だが、まだ三分の一に過ぎない。更に慎重を期して尻尾内の繊毛を刺激しないようにゆっくりと指を引いていく。
「あとちょい……」
遂に第一関節まで引っ張りだせた。だがここで焦って一気に抜いては感づかれる。そのままペースを維持してじわじわと───
「けほっ、けほっけほっ!」
「おわっ」
眠っていたミュナが急に咳き込みその拍子に尻尾がきゅっと締まってしまった。指にぎっちりと繊毛が絡みつく。
「……お兄ちゃん、何してるの?」
「あ……その、なんだ」
咳き込んで目を覚ましたミュナは俺の醜態を呆れたような目で見遣った。
「なーんだ。そんなにシたかったんなら遠慮なくしちゃってよかったのに。ミュナも美味しいしお兄ちゃんも気持ちいいし」
「お互い治ってからな」
「そう?でもお兄ちゃんのコッチはそうは言ってないみたいだけど?」
俺の指を解放した尻尾がつんつんと俺の股間を刺激する。いつしか俺のモノはパンツの中で大きくいきり立ってしまっていた。
「あは、ジョーダンだよ。でも、元気になってくれたのは嬉しいな。だから……」
ちゅっと頬に柔らかく湿った感触。
「とりあえず、これだけ前渡しで貰っとくね♪」
ぺろり、と蠱惑的な舌なめずりをしてミュナは再び布団を被った。
薬の処方は一週間分だったがそれを飲みきるよりも先にミュナと俺の“快気祝い”をすることになってしまった。
ミュナのこの疲れや病気を引き受ける能力というのは彼女の出自から来るものです。
みゆとゆなの二人の思い出したくない記憶を押し付けられる形で生まれたミュナは所謂流し雛のように厄をもらい受けることが可能です。ただし本人にもなんとなくできる、程度の認識であってコントロールはできません。
この小説に求めるものは何ですか?
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いちゃいちゃ
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