雨が窓に打ち付ける音が響いている。
既に昇っている時間であろうに、太陽は厚い雲に遮られ、灰青の世界が窓の向こうに広がっていた。
そんな冷たいはずの空気の中、ふっ、と重ね合わせていた熱い息が混ざり合う。離れた事によって見えた湿り気を帯びた唇と潤んだ瞳がこちらを誘う。欲がちらつく視線が交わり、再びどちらからともなく唇を貪る。
生まれたままの姿で熱を分け合うと、起きてすぐに感じた肌寒さはもうわからない。蕩けるような柔らかな肢体を更に引き寄せ、より深く彼女を求める。
名残惜しくも口を離し、するりと滑らかな肌を撫で上げた。
「んんっっ」
「っ、……玲さん、今日なんか、」
は、と濡れた息を吐いて俺を見上げる玲さんは、どこか、いつもと違う気がした。
そもそも今日は、初めから玲さんはおかしかった。決定的に差異があるわけではない。ただ、ほんの少し、ズレのようなものがあった。たとえば、雨の日だからかアンニュイさを節々にのぞかせるところであったり。触れるだけでいつもと比べても過剰なほど反応し、どろどろに蕩けていく身体であったり。でもそんなのは、しばしばあることではあったから特段気に止めるようなことではない。今日はそういう日なんだろうなと思うだけだ。
それでも気になったのは、玲さんが、どこか、遠くを想うような眼差しを湛えていたからだ。
遠くを想うといっても、懐かしんでいるというよりかは、眩しさに目がくらんで、心がそこに捕らわれているような。
少なくとも、ここではないどこかを遠く想っている事がわかる、そんな眼差し。
なんか、って、
ふと、鼻に抜けるような甘い嬌声の合間に、静かなつぶやきが混ざる。その声に釣られて玲さんを見ると、俺を見る目は先程までとは違って、しっかりとここにいた。
なんかって……なん、ですか?
上気した頬とその声色に、少し、悪戯心が湧いた。
「こう、」
「ひゃッッ」
玲さんの数少ない弱点である背中をつぅー、となぞる。面白いほど跳ねた身体に少し笑って、肩口に顔を埋めて口を耳に寄せた。
「今日は、いつもより、敏感だなって」
「あっ」
玲さんは、なんでかわかる? と、随分意地の悪い声を綺麗な形をした耳に吹き込む。
ギュウウっと絞まったナカに持っていかれそうになるのを耐え、見た顔が真っ赤に熟れているのに満足感を覚える。
からかわないでください、と、辛うじてそうだとわかる文字列をバグった玲さんが吐き出す。耐えきれず喉で笑うと、潤んだ瞳でにらまれたので、親指の腹で落ちた雫を拭って手打ちにしてもらった。
「雨が……降ってたん、です」
玲さんはまた、あの遠くを想う眼差しで俺を透かして、ここではないどこかを見ながらつぶやいた。
数瞬して、ああ、さっきの話か、と気づいた。いつ? とは口に出さずとも伝わったようで、目をしばたたいて、俺を視界にとめる。
私が初めて、楽郎くんを見つけた日に。
溢れたような声だった。
玲さんはぱちりと瞬きを一つするとこちらに戻ってきたようで、今自分が言った事を反芻したのか動揺でまた一段と顔を赤く染める。だけど、それを気に止める余裕は、今の俺にはない。
「それは、」
何度か聞いていたから、知ってはいたけど。
そんな日なんかあったっけ、と初めて聞いた時には思ったような、そんな俺にとっては何気ない日々の一つ。それを大切に大切に彼女は仕舞い込んでいるのだと。
つまり、あの遠くを眺む視線の向こうにいるのは、俺で。そして、俺のせいで今日はいつもよりおかしいのだ、と玲さんは言っている訳で。
───雨はまだ、止みそうになかった。
視線の向こうにいる誰かじゃなくてこっちを見て欲しいだなんて心のどこかで思ってしまうも、その先にいたのは自分だったので