媚薬もの、同棲中です。
「先にお風呂失礼しますねっ!」
「あ、うん」
急いで離脱をはかってしまったが、バレてはいないだろうか。お風呂に入る準備もほどほどに、玲は脱衣室に逃げ込んだ。
身体中が熱い。心臓の音がうるさい。頭がドロドロに溶けてしまいそうで。
すでにびちゃびちゃになっていた下着を脱ぎ捨て、玲は浴室へ滑り込む。
(…………なんて、はしたない)
何もされていないにも関わらず、こんなに身体を火照らせ、下半身をうずかせてるなんて。
ただ二人で、楽郎の実家から届いたという和菓子を食べていた、だけ。少し指がぶつかったくらいで、そのようなものを連想させる触れ合いは一切していない。
それなのに、彼に見られるだけで体温が上がり、一挙一動に動揺し、少し触れただけで子宮が疼かせる。身体の熱をもてあまし、下着をも濡らすなんてそんな。
……常にそういう事がしたい、みたいじゃないか。
煩悩を祓うため、シャワーの温度を下げ頭から被る。
楽郎と恋人となり、同棲を始めて。玲は少しずつ少しずつ楽郎に慣れていき、今は近くにいるだけで心臓がうるさい事は変わらないものの、どもることも、軽いことに関しては過剰に反応してしまうことも減少傾向にはあった。未だ楽郎にからかわれるなどの許容範囲を越えた事が起こると、楽郎曰く『バグ』を起こすが、それはまた別だろう。
常に貞淑であろうとする玲は、普通に生活している中でいきなり子宮を疼かせる事なんか滅多になかった。まあ楽郎に求められれば即ぐずぐずになるし、そういう事がしたい、と考えていた時はそうなることもあるものの、今日は別にそんなこと欠片もなかったはずなのに。
冷水を浴びているにも関わらず、冷める事のない熱に玲は自己嫌悪を催し頬をベチベチと叩く。
「……玲さん、今いい?」
その音が耳に入った意味を理解するまでに、一拍。脳まで認識がたどり着いた瞬間、玲の思考が白く染まる。
「ひぇっ! え、ぁ、」
「玲さん?」
浴室の外から聞こえてくるのは、確かに楽郎の声。混乱で玲の思考はいまいち働いてなくて。だから、
「ふぇっ、は、はいっ……?」
肯定とも取れる言葉を、放ってしまった。
「……じゃあ失礼して」
「え、らくろくっ、なっっ⁉」
「玲さんがいいって言ったんじゃん」
「そなっ、い、いっ⁉」
扉を開ける音。それと共に入ってきた楽郎は、何も身に纏っていない。玲はもう訳がわからなかった。入ってきたことすら予想外なのに、玲よりがっしりとしたその身体がすべて玲の前にさらされている。
そうやって頭の中がパニックになっているから、その言葉の裏に潜んだ『ちゃんと言質は取ったから』という真意にも気づけない。
「うおっ、冷たっ」
楽郎は扉を閉じて当たり前のように玲の方へ来て、そこで初めて玲が浴びている水の温度に気づいたらしい。
「なんでシャワー冷たくしてるの? 身体冷やすよ?」
ほら、冷たい。と熱持つ手のひらで背をなぞられ、そこを中心としてぞわりと全身が総毛立つ。冷水を浴びた事でいくらかマシになっていた熱が暴れだし、ナカからドロリと液体がこぼれでた。
楽郎と玲は同棲している恋人同士だ。それ故、楽郎と共に入浴した経験は幾度もある。それでも今日は心の準備ができておらず、さらにいつもより頭がくらくらとしていて。どうにかなりそうで。少し触れられただけで快楽を拾った自分が恥ずかしく、だけど羞恥だけじゃない熱が身体を巡る。冷水を浴びていたはずなのに、すでに身体は彼と同じ温度だ。
未だ驚愕に固まる玲は、水で濡れた何一つ纏っていない身体を隠しもせず、楽郎を欲情で潤んだ目で見つめる事しかできない。
その濡れた髪から大きく柔い胸に雫が滴り落ち、赤く染まった肌を滑る。涙の溜まった瞳が揺れ、頬だけじゃなく身体中熟れている。吐かれた息は、どうしようもなく甘やかだった。玲は自分がどれだけ扇情的な姿なのかわかってない。その姿がどれだけ楽郎の欲を煽るのかも。
「あー、─────っ」
そんな玲を見て、眉を寄せた楽郎はぼそりと何かをつぶやき、なぜかシャワーに頭を突っ込んだ。
「へぁっ⁉ ら、楽郎君っっなんでシャワー浴びるんですか⁉ 風邪引きますよ⁉」
「いや、玲さんも浴びてたじゃん。風邪引くよ」
その行動で我に帰った玲は、髪から水を滴らせながら平然と返す楽郎に愕然とする。玲が浴びていたのは頭と身体の火照りを冷ますためであり、楽郎が冷水を浴びる必要なんか欠片もないはずだ。
「ほら、お湯浴びて」
(ああ、シャワーの温度を上げられてしまいました……)
シャワーヘッドを持った楽郎が玲を手招きする。そこで始めて楽郎をはっきりと見た玲は、ピシリと固まった。
「えゃっ、らくろく、それっ!」
「気づいてなかったんだ」
先ほどまで玲には楽郎をまともに見る余裕なんかなかったので気づかなかったが、楽郎の下半身のモノはすでに大きくなっていた。
楽郎が自らの濡れた髪をかき上げ、その瞳が玲を射ぬく。その刺すような視線に縫い止められ玲は動けなくなり、腹の奥にある熱が暴れ狂う。
玲がいっぱいいっぱいでわかっていなかっただけで、彼の目は笑っておらず、欲望に染まっている。
───そうだ、彼はこの浴室に入ってきてから、一回も笑っていない。
「ほら、玲さん」
こっち来て。と誘う声に、玲は逆らえない。……逆らわない。
導かれるままシャワーヘッドを握る楽郎の方へ一歩踏み出すと、腕を引っ張られ後ろから抱きすくめられる。頭から暖かな水をかけられ、肌の触れあう所からそれ以上の熱を持つ。腰にはっきりとした固さを感じて、玲はふるりと震えた。
玲に温水をかけ終わり、自分の胸の中に玲を閉じ込めたまま、楽郎はすっとシャワーヘッドを置いて水を止めた。
楽郎が玲の耳元に口を寄せる。感じる息のあまりの色気に、玲の胸が締め付けられる。
餓えた獣の前で自分から裸になんかなるから、なんて掠れた声で耳元へ囁かれ、それだけで奥が震えた。楽郎は自分の胸の中にいる玲の横っ腹から内股までするりと手を滑らせる。
「ひっ……ぁあっ!」
入り口を撫でられ、漏れ出た喘ぎ声は寝室より反響した。楽郎の指がぐちゅりと音をたてナカに入ってくる。
「玲さん、なんでこんなに濡れてるの?」
からかうような声色ではなくただの疑問として。少し驚いたようにシャワーのせいじゃないそれを指摘され、玲は羞恥で硬直する。そんな風に言われると、玲が悪い気がして。
「あ、締まった」
楽郎の喉奥からクツリと音が鳴る。もう入るとの判断か、すぐに指は三本まで増え、玲のナカはそれを容易く飲み込んだ。
「……ぁ、やぁッ、らくろ、くッ」
今日は身体中おかしいのに、楽郎の指が自分に触れているという事実が、彼から感じる自分を求める欲望が、玲の身体をさらにおかしくする。楽郎に包まれているのも、背中に感じる熱く、はっきりとした質量もよくなかった。指だけでこんなに身体がぐちゃぐちゃで、浅ましくも期待に高ぶっている。
「っ、ごめん、もう無理」
「ひぅうッッ」
自らの指が締め付けられる感触と玲の嬌声に頭を犯され、このくらい濡れているならもう大丈夫だろう、とぐるりと一度だけかき混ぜ、楽郎は玲のナカから指を抜く。それだけでも玲は足が崩れ落ちそうな快楽が走り、喪失感にナカが収縮する。はやく、はやくナカを埋めて欲しい。そんなはしたない願いを込め、玲は後ろの楽郎に目を向ける。
最初からそのつもりだったのか、楽郎は持ってきていたゴムの袋を開け中身を装備した。その間に玲は壁に手をつき、濡れそぼった入り口を楽郎の方へ向ける。薄い膜に包まれたその先が玲の入り口に当てられた。期待で身体が震える。吐く息が浅い。楽郎のモノが入りやすいように彼の方へ自分が腰をつき出したのを玲は自覚した。
「楽郎……君っ」
「っっ」
「っひゃぁああああああっっっっ!」
限界まで追いつめられた息が玲の耳に吹き込まれ、後ろから一気に楽郎のモノが入ってきた。快感で目の前が白む。
前戯なんてほとんどしてないにも関わらず、傷みはまったくなく、なんの抵抗も無しに最奥まで入りきった。求めていたもので満たされ、離さないとばかりに玲は楽郎のものを締めつける。
うなじに噛みつかれ、またキュウッとナカが締まった。性交を重ねる度にうなじを弄ばれ、少し触れられるだけで反応してしまうほど、玲はすっかりうなじが弱くなっていた。
熱い息が首筋にかかり、また身体を跳ねさせる。
「は、ごめん。今日はたぶん加減できない」
「ひゃんっっっ」
ごちゅ、と容赦なく子宮口を叩かれる。楽郎のそれはいつもより心なしか大きく熱い。いつもより余裕がない息づかいを耳元に感じ、玲のナカが収縮した。
「は、加減なんて、しなくてもいい、ですからっ」
謝って欲しくなんかなかった。余裕のなさすらいとおしかった。だから、
「楽郎君を全部、くださッッ……ぁああッ」
欲を孕んだ唸り声と共に繰り出された突きで頭にスパークが散る。
「~~くっそ、本当にっ」
「ぁッッ」
ぐり、と奥を抉られ、背中から頭まで衝撃が走った。水で濡れたお互いの身体が重なり合い、ポタポタと雫が落ちる。浴室に広がる熱気が頭を犯し、ひどく酩酊しているようで。痺れたような感覚にまた体温が上がる。
「玲さん、顔こっちっ」
余裕が一欠片すら消え失せたその声に従い顔を楽郎の方へ向け、玲は口を塞がれた。
「ぁ、ん~~っっ、~~~~~~っっ」
「ん……っっ……」
舌先を絡め、唾液が口の端から溢れ落ちる。噛みつくようなキス。先ほど和菓子を食べたせいかほのかに甘い。食べられてしまいそうなそれに、唇がじんじん痺れる。玲を強く求めてる事が確かにわかって、玲のお腹の奥がまた一段と熱くなった。楽郎が口の中を蹂躙し、玲はそれに応えようと必死で舌を伸ばす。
「、~~んッッ⁉」
じゅるりと舌先を吸われた瞬間、身体の芯に甘い痺れが走った。口を塞がれたまま、胸の先を触れるか触れないかほどの手つきで撫でられ、身体が跳ねる。一切触られていないにも関わらずすでに限界まで尖っていた先は、少しの刺激だけで痛いほど快楽を拾う。
ぷはっ、と音をたて口が離れる。唾液が伝い、重みでぷつりと途切れた。
「らくろ君ッ、それ、やっ」
キュっと尖りを摘ままれて腰が跳ねる。コリコリと先を指でこねられ、立っていられないほどの快感が襲ってくる。
「ひ、いつもとちがっ、なんでっっ」
快楽が、普段のそれよりずっと強い。身体が自分の支配下になく、制御することができない。足元から背中を通って脳まで、ビリビリとした感覚が走る。想像との差異に恐怖に近い感情を抱くも、声を上げると手つきはさらに激しくなり玲は追いたてられていく。ぞわりぞわりと、徐々に快楽の波が大きくなって、戻れなくなって、
ついに、
───弾けた。
「っやぁあああああああああッッ」
身体が殊更跳ねる。頭が白く染まる。背中に電撃が走り、足先に力が入る。
目の前のチカチカとした明滅が収まると、倦怠感が襲ってきた。ぐたりとした身体を抱え、肩で荒く息をしながら、いつもよりずっとはやく高みに昇ってしまった羞恥で玲は瞳が潤む。
そこに、
「ぁッッ、らくろ、くっっなんっっ」
パツン、と肌がぶつかる音。いつもだったら緩めてくれる輸送を、彼が止めてくれない。無言で最奥を断続的に叩かれ、暴力的なほど快楽が襲ってくる。
頭のどこかでふと、楽郎は、見境が無くなると無言になるのだ、と思い出した。
「いっ」
肩にいつもより強く歯が立てられ、痛みで咄嗟に顔を上げる。そして目に入ってきた光景に、視界が固定された。
楽郎と、その前にもう一人。濡れた髪の間からだらしなく緩めた顔をのぞかせ、恍惚とした表情を晒している女。一瞬誰かわからなくて、鏡に映った自分だということに遅れて気づく。
昔は技術の問題か風呂場の鏡は曇っていたらしいが、今の技術で曇りなど存在するはずもなく、はっきりと余すことなく目の前にあるものを映している。鏡に映る玲は後ろから楽郎に犯されながら、律動と共に身体を跳ねさせ、口を半開きにして瞳は快楽にとろけきっていた。彼が自分の肩口に顔を埋めている様が酷く淫猥で目に毒を流し込まれているようなのに、目線をそこからはがせない。
玲の反応を見てか、楽郎も肩から口を離しながらゆるりと顔を上げ、目が、合った。
鏡の向こうから見つめてくるその熱が。欲が。どうしようもなく切実なそれが。ひどく玲を求めている事をまざまざと見せつけてくる鋭い視線が、玲を絡めとり、頭を溶け落として。どうにもできなくて。
玲のナカがギュウウウウッと締まった。
浴室に肉と肉がぶつかり合う音が断続的に響く。
「あ……あん、ゃッ、ああッ、あッッ」
「はっ」
狂うほどの快楽で思考が塗りつぶされ、玲はもう喘ぐことしかできない。高ぶる熱に浮かされ、思考回路はドロドロに溶け落ちている。後ろから最奥を突かれる度に頭が白く染まり、頂から戻ってこれない。そんな玲に対し、楽郎は無言で容赦なく腰を打ち付け続ける。腰を掴まれ激しくなった輸送に、玲はもう手で身体を支える事すら難しい。
「くっ」
「ひゃあぁぁぁぁぁぁ‼」
グッと殊更深くまで突き刺され、ゴムの中で吐かれた感覚とともにまた玲はイった。頭で快楽が弾け、身体を反らす。
いつもより長い射精。玲は楽郎のモノが吐き出すものを、搾り取ろうと締め付ける。足が快楽でガクガクとして立つのもやっとで。
「……っっは…………ごめん、がっつきすぎた」
「ゃ……」
停滞の後、ズルリ、と吐き出しきった楽郎のモノが玲のナカから抜き去られた。喪失感にナカが収縮を繰り返し、愛液があふれでる。
聞こえた言葉の意味を理解できるほど、玲の頭はまだ働いていない。それでも、耳から入ってきた、まだそこにある欲望を耐えたような掠れ声に空虚なナカが反応して。
───それが、もう無理だった。
「らくろ、君……、もっと、欲し……っ」
いつもは簡単には言えない言葉が、するりと出てきた。後ろに立つ楽郎へ懇願の目を向ける。
まだ全然足りない。ベッドに行く時間すら我慢できそうになかった。楽郎を求めて奥が疼いている。今すぐ、楽郎が、欲しい。
「っっそういう、とこっ」
楽郎は喉で唸り、棚に手を伸ばす。乱暴な手つきで紛れていた袋を探り当て、口を使って中身を出した。一緒に風呂に入るときのために念のため、と置いておいたコンドーム。
その急いた様子で楽郎も自分の事を求めてる事がわかり、玲の子宮が熱くなる。
楽郎はすでに固くなっていた自分のモノへそれを装着し、一気に玲の最奥まで突っ込んだ。
「ぁああああああッッ‼」
衝撃で玲の頭がまた白む。激しく交わり合いながら、どちらからともなく口を合わせる。今ある欲望だけを頭に占め、二人はまた快楽に落ちた。
……
…………
………………
カーテンから透ける眩しさに玲は目を覚ます。
高い日差し、喉や節々が痛み気だるい身体、様々な液体で汚れたシーツ、点在する使用済みのゴム。
顔を周りに向け現状を認識したことで昨晩の記憶が一気に流れ込み、玲は勢いよく頭を抱え呻いた。
(あ、あんな恥ずかしい姿を……楽郎君に……)
昨晩は風呂場で二回戦に及んだ後、収まる気配のない熱を抱えながらベッドへ移動し、そのまま二人は眠りに落ちるまで獣のようにまぐわい続けた。何回したのかはもはや覚えていない。落ちているゴムの数を見るに、恐ろしい程の回数な気がするが、玲は見なかった事にした。白んだ空が朧気な記憶の中にあるのは、気のせいだと信じたい。
寝落ちする直前の事となるとほとんど記憶にないが、ストレートな好意だとか楽郎君がもっと欲しいだとか、いやそれよりもずっと酷い事を口走っていたように思われる。とりあえず頭を振って思い出すのを止めた。玲は、なにも思い出さなかった。あんなはしたない言葉を、それも一度だけではなく何度も何度も彼へ発したなんてそんな、
……ああ、理性が蒸発してるときの言葉ほど、恐ろしい物はない。
現実から逃避するため、とりあえず楽郎が起きて来る前に、と玲は昨日の跡を隠蔽してしまうことに決めた。動きたくないと訴えてくる身体に鞭を打ち、適当な服を羽織って部屋に落ちている物を拾い始める。
寝室を片付け終わり、ダイニングまできて、昨日風呂に入る前の状態で放置されている机に手をつける。
ふと和菓子の箱を持ち上げ、ひらりと落ちてきた紙を見て、玲は停止した。達筆に書かれたその筆跡は姉の物で、宛先は確かに玲の実家からだった。
(え? なんで……?)
この和菓子は、楽郎の実家から贈られてきたのだと、玲は思っていたのだが。
玲の一般的に優秀といえる頭が回転し、昨晩の記憶を再生する。
『そういえば実家から菓子かなんかが届いてたけど食べる?』
『え、実家からですか? はい、いただきます。準備しますね』
『そういえば(斎賀家の)実家から菓子かなんかが届いてたけど食べる?』
『え、(陽務家の)実家からですか? はい、いただきます。準備しますね』
玲は静かに天を仰いだ。知っている天井がそこにあった。
玲は、きっちり、かっちり、理解した。
つまりは、簡単な行き違いだ。そして昨日あれほどまでに性欲の箍が外れていた原因は、明らかにこの和菓子である。日本語はどこの、が抜けていても通じてしまうからいけない。斎賀の実家から来たと知っていたら玲はこんな油断して食べなかった。玲は仙が贈ってくるもののヤバさを身をもって知っていたのに。(具体的には夜の玩具や夜の下着や夜の、まあそういったあれそれだ)
『陽務家に、なにかお礼の品を返さないといけないですね』なんて事をのんきに考えてる場合ではなかった。少し確認すれば避けられた失態である。楽郎が『え? 食べるの?』みたいな顔してたのに気づいていたのに、それがなぜなのかは深く考えなかった。非常に不覚だ。
玲は勢いよく端末を操作し、目的の人物に電話をかける。
「仙姉さん!」
『どうしましたか、玲。挨拶もせずに』
声が掠れてますね。その分だと贈った和菓子は効果がありましたか? なんて言われてしまい、玲は暴力的な感情に支配されかける。今声が掠れているのは確かに昨日喘ぎすぎたせいではあるが、仙に言われる筋合いはないのである。
「この和菓子ってなにか入ってますよね?」
『はい、媚薬入りですよ。上流階級御用達の高品質な物です』
ですから後遺症などは心配しなくて大丈夫ですよ、と続いた仙の言葉に、玲の纏う空気の温度が下がる。確認するために聞いたのであって、そういう事が聞きたかった訳ではない。
「仙姉さん」
『なんでしょう』
「今後このような事はしないでください」
『なぜですか。良い刺激こそ男女の生活には必要な物ですよ』
「今後、このような事は、しないで、ください」
刻々と説教のような声が響きわたり、玲は『今後予告なしに媚薬の入った食べ物は贈らない』という要求を仙に飲ませる事に成功する。
これで仙に悪意がないのが、なおさら悪い。下世話が過ぎる。
毎回仙が末妹とその恋人が同棲している家になにかを送り付け、それに玲がキレる、というのはもはや日常茶飯時であった。玲も慣れてきて、仙の送ってきた物を対処し避ける事ができるようになってきたが、今回は油断していたと言わざるを得ない。毎回毎回やめて欲しいと要求するのにも関わらず、仙はあの手この手で色々送ってくるのだから始末に負えない。……実は再度使っている物もなくはないのだが、過激がすぎるものは必要ないし、情事を報告するような義務はないので言っていない。
「あー、玲さん。おはよ」
「え、ぁ、はい! お、おはようございます、楽郎……君」
通話を切ったタイミングで声がしたので顔を上げ、楽郎が視界に入った瞬間、玲は昨日の事がフラッシュバックしてぼふんっと赤くなる。とりあえず謝らなければ、と先ほどまで仙と話をしていた為正座のまま、玲は勢いよく頭を下げた。
「すっ、すみませんっ、昨日の和菓子なのですが、びや……あのっ仙姉さんがっっまた」
「玲さん顔あげて」
彼女に土下座させる趣味はないから。俺の名誉のためにも、と言われたのでとりあえず顔を上げる。
「話してるの聞いてたから。……うん。油断してて食べるの止めなかった俺にも否はあるし、玲さんがそんなに思い詰めなくてもいいよ」
さすがに薬が仕込まれてるとか予想できないし、と玲の目の前に座った楽郎が困ったような顔をして言う。彼の頬は、ほんのり赤い。それに気づいた玲の頬がまたぼふりと色づいた。
「ひゃ、ひゃい、いつもすみません……」
「……俺も昨日は非常に申し訳なかったと言いますか……身体とか大丈夫、……じゃなさそうだね」
「え、」
身体の節々が痛む事がわかるような動きはしてなかったのに、なんで、と玲が疑問の声を上げると、楽郎がその赤い頬を指先で掻いた。
「いや、声が、」
「っあ、ぅ、」
「……うん、ごめん、」
声が掠れてる、という指摘にまた玲の頬が赤く熟れた。玲は明後日の方向へ目をさ迷わせ、同じく楽郎も玲の染まった頬を見て瞳を惑わせる。
媚薬を盛られたからなんて理由があろうとも、昨晩獣のように盛って、本能を剥き出しにして、恥も外聞もなく求めあった事実は変わりなく。……互いの顔なんて、見れそうにもなかった。
※本文を書いた当初に書いた後書き
大体仙姉さんのせい!という楽玲同人誌が欲しすぎて暴れてた時に書き始めたものです。タイトルは「甘い蜜にはご注意を!」の漢字を抜き出しました。油断禁物、甘味に注意、風呂場での甘い蜜。そんな感じの話です。