「うふふふふふふ」
寝起きの翠夢の様子を見て赤き双眸を持つ少女は笑う。
「面白い子ね。目覚めの一言がそうきー!だなんて。貴女が好きな人の名前?」
顎に手をあて嘲笑しながら銀羽は言う。
物凄く美人なのにこんな薔薇のように刺々しい言葉を放つなんて‥‥初対面の翠夢は面食らう。
「ち、違うです。好きに変わりは無いですが、異性としてではなく家族として愛しているのです。からかわないで下さい。それより貴方達はさっきあいつから私を‥‥‥!」
翠夢の記憶が徐々に甦る。
あの死刑囚にあれ以上蹴られるのを二人は止めてくれた。
その後自分は気を失った。
「勘違いしないで。別に貴女を助けるつもりはなくってよ。勾玉の非所有者になった貴女を攻撃しても何の意味もないこととプラスしてあの死刑囚の注意をこちらに向ける為に挑発しただけ」
「貴方達も勾玉所有者なんですね‥‥。何れにせよ助かったのは事実です。ありがとうございます」
「ふん‥‥」
謝辞を伝える翠夢にまるで結果的に助かっただけよ。と言わんばかりに銀羽は鼻を鳴らした。
「じゃあここは貴方達3人の何方かの家ですか?」
「『俺達』の家だ。自己紹介が遅れたな。俺の名前は黒結龍雅」
「私の名前は黒結銀羽。何の因果かこの愚兄の双子の妹よ」
「お前は口の利き方を知らんようだな。この愚妹が」
「あら〜。怖いお兄様ったら」
「これこれ。客人の前で兄妹喧嘩は辞めんかお前ら」
怒りに染まる視線と侮蔑する視線が相見えるのを金皇は笑いながら止める。
3人のやり取りを見て「双子‥‥ですか」と小さく翠夢は溢した。
「ドタバタしてすまぬな。俺は雷爆金皇。こいつらの従兄弟だ」
「そうですか‥‥。龍雅君に銀羽さんに金皇君。そしてここは龍雅君と銀羽ちゃんの家なんですね」
状況も把握でき先程よりだいぶ落ちついてきた。
あいつとの戦いに負けて気を失ったところをこの人達に助けられたって感じですか‥‥。
自身が作り出した
勾玉所有者として初めての戦いだったが、その実体は自分が考えていたよりも遥かに最悪な戦いになった。
無尽蔵に呼び出されるモンスターの大群‥‥ヤツカダキを潰したと思えばディアブロスが現れ、バフバロやティガレックスが突進を繰り出しラージャンやバゼルギウス、果てはイビルジョー迄もが連携して攻撃して来るのだ。
完全にクルペッコだと思い甘く見過ぎていた。
オマケにアクラ・ヴァシムちゃんの勾玉も両方失ってしまって‥‥あんな悪夢もう懲り懲りです。
「私の名前は石井翠夢。勾玉も失い名実共に何の変哲もないただの高校3年生です」
「へぇ。私達と同じ学年なのね。ところで翠夢さん。貴女が持っていたのは尾晶蠍アクラ・ヴァシムの勾玉ね」
「それは!」
銀羽は薄く紫色に輝いた勾玉を2つ手に取り翠夢に見せた。
案の定翠夢は激しく反応した。
「私に返して!」と強く祈願するとでも思ったが‥‥‥。
「銀羽さんがあの死刑囚に勝ってその子を入手したんですね」
翠夢は直ぐ様落ち着きを取り戻した。
「あら意外‥‥。激しく悔しがるとばかり思ってたのに」
「いいえ。勝負に負けた上に一度勾玉まで奪われた私にその子を『所有』する資格はありません。結局皇帝の玉座に着けるのは強者のみ――――。
『私は戦いに敗れたのです』
数秒沈黙が続くが龍雅が打ち破る。
「潔いと言ってしまえば聞こえはいいが、お前はもう戦えないのだぞ石井。そんなに簡単に諦められるのか?」
余計なことを!と言ったような目で銀羽が睨みつけて来るが彼は無視する。
「起こってしまった『結果』に抗っても仕方がないですよ。悔しいのは事実です。アクラ・ヴァシムちゃんとはもう味方として会えないのも‥‥‥‥」
翠夢の両頬を雫が流れる。
「ごめんなさい‥‥‥アクラ・ヴァシムちゃん‥‥」
顔を手で覆いながら彼女は静かに泣いた。
「ふん。これでも勾玉所有者だった人間?呆れた。勝負と言うのは殆どが勝つ者と負ける者に2分されるのよ。引き分けなんて稀、人生に置いてもね」
「そんなの分かって‥‥」
「分かっていないわ!だから貴女は今泣いてるんじゃない。戦いも人生も貴女が思ってる以上に険しく残酷よ。生半可な覚悟でこの先戦えるとでも思ってるのおバカさん。あ、まぁもう勾玉がない貴女には関係ない話しね」
「‥‥せーです」
銀羽に好き勝手言われた翠夢は俯きながら何か呟く。
「聞こえないわよ。もっと大きい声で言いなさい」
スゥーッと大咆哮前の黒轟竜のように息を吸い込んだ。
「うるせぇですよ!。この厭味ったらしい高慢ちきな勝気女!。偶々強い勾玉のモンスターに巡り会えたからって調子に乗りやがって!」
「あら意外と言うじゃない」
激高した翠夢の罵声を食らっても銀羽は怯えも吃驚もしない。
龍雅や金皇も同様だった。
その様子にあろう事か罵声を発した翠夢が一番驚いた。
同じ18年と言う
だからこそ自分より苦境の経験が少ない翠夢に銀羽は臆しない。
「くっ‥‥!。何でそんな平然としてられるのですか?」
「ひとえに経験の差よ。良いわ。貴女にまたチャンスをあげる」
ポイッと尾晶蠍の纏身と召喚の勾玉をベッドに投げ捨てた。
「な、何の真似‥‥?」
「口先だけでは無く真の最強を目指したいならその勾玉を取りなさい‥‥‥‥貴女に託されたモンスターを」
「‥‥言われなくても!」
アクラ・ヴァシムがまた自分の元へ戻って来た。
「ヴァシムちゃん‥‥」
ギュウと勾玉を抱き締める。
そして申し訳無さそうに銀羽を見た。
「あの‥‥ありがとうございます。それと高慢ちきとか色々言ってごめんなさい」
「ふん。敵となる者に配慮してどうするの?。今はあんたとやりあう気はないけど今度は精々勾玉を盗られるなんて醜態は起こさないようにしなさい」
銀羽は腕を組みながら部屋を出ていった。
「すまん石井。愚妹が変な事を抜かしてたが気にしないでくれ」
龍雅の言葉に翠夢は「いえいえ」と首を振る。
「大丈夫です。逆に勇気を貰えましたから。『素敵』な妹さんですね龍雅さん。それと翠夢で結構ですよ」
笑顔で彼女は答えた。
しかし銀羽の奴が素直に翠夢に勾玉を返すとは驚きだ。
あいつの事だから見せびらかすだけ見せびらかして仕舞に自分の物にするところをまざまざと見せつけると思ったが。
「ところで‥‥さっきから翠夢は『そうき』と言う人物を気にしてるようだが、聞けば金皇が人通りの少ない場所へ移動させてた時から必死にその人物の名を読んでたらしい。家族と言っていたが何者なんだ?」
「私が全てを掛けて救いたい弟です。私が『皇帝の玉座』を目指すのもあの子の為なのです。助けて頂いたお礼にお話しします私の双子の弟のことを」
悲しげな表情をしながら翠夢は語り出した‥‥。