大気不安定過ぎる定期
「その日の昼休み偶然。蒼王と出会った私は彼から楽しい話をいっぱい聞かされたのです。今日の体育祭の練習で頑張った事やクラスの皆に褒められたこと等……嬉しそうに私に話してくれました」
…
……
………
…………
「あ、翠夢」
「蒼王。随分上機嫌ですね。何かいいことでもあったのですか?」
「まぁね。今日の体育で体育祭の授業頑張ったら皆から褒められたんだ」
はにかみ顔を少し赤めながら蒼王は言う。
くぅー!。全くこの子の笑顔は小さい頃から可愛いですぅ!。
これまでの人生で挫けかけた時何度蒼王の笑顔に助けられたか数えられそうない。
「あの…翠夢?」
「やっぱり蒼王は私の自慢の弟です!その話きっとお母さんやお父さんも喜びますよ!」
「う、うん。そうだね……」
明らかに何かを気にし引き攣ったような顔をする蒼王だが愛しの弟が活躍したことで頭がいっぱいだった翠夢は気にせず「続きは家でゆっくりと聞くとするですぅ」と行ってしまった。
「なんか話の途中で急に鼻血出してたけど言いづらくて言えなかったなぁ……」
クラスに戻る前に翠夢が気付いてくれるのを願い蒼王もクラスに戻った。
…………
「わぁ…今日も最高の帰宅日和だ」
学校の玄関前に生えた植物がほんのりとした自然の匂いを醸し出している。
天気も快晴で太陽が照りつけるが8月の時みたいな殺人的な灼熱さは無くじんわりと蒼王を温めるだけだ。
高校に入学し文化部とは名ばかりの帰宅部に入った蒼王は早い時間に帰れることが大好きだ。
偶に友達とカラオケやゲームセンターに行ったりすることもあるが、彼は一人の時が一番落ち着けるので好きだった。
帰ったら程よく勉強してゆっくり寝る。
これだけでモチベーションを維持できる。
だが最近彼のこのルーティンを壊そうとする者が現れた。
「今日も帰宅部の特権で早帰り?」
後ろから聞こえた可愛いらしい声が蒼王の歩みを止めた。
少し頭を掻きながら振り返る。
「桜花ちゃん」
「ハーイ。1年2組のヒーローさん」
女子や男子問わず人気者の伊里愛桜花。
最近下校の時間良く彼女と出くわす。
少し茶色掛かったショートヘアーと整った顔は1年2組の男子問わず、学校中の男子達を魅了させている。
しかし蒼王は桜花に恋愛的な感情を抱いた事はなくあくまでも友達の一人として見ていた。
それに友達付き合いは大切だと思うが、下校の時まで話し掛けられるのは正直鬱陶しい。
しかしいらぬ言葉や態度でわざわざ仲を険悪にもしてはいられないので言葉にはしないが。
それに一人で帰るよりも二人の方が賑やかやのは確かだ。
校門を通過し駄弁りながら帰路につく。
「ヒーローは照れ臭いな」
「じゃあ影の仕事人さん?」
クスっと笑う。
「江戸時代で活躍してそうだね」
「ちょんまげのそー君もきっと格好いいよ」
「ぁははは、和服を着て髪を結った君もね」
「無ー理。私は妹や姉貴みたいにお淑やかじゃないから」
自嘲しながら桜花は言う。
「そんな事はないと思うけど、玲里ちゃんや琉奈ちゃんと違った良さを君は持っている」
「そう言ってくれると私も少しは気が楽……。姉貴となんてここ最近喧嘩しかしてないからなぁ」
「喧嘩かぁ……」
僕も似たような事を小さい頃したっけ。
あれは確か自分と翠夢が幼稚園の年長になった時だ。
「おかあさん!そうきをなんとかしてください!あねであるわたしのいうことをまったくきかんのです!」
「あらぁ…翠ちゃんどうしたの?蒼君もお姉ちゃんの言うこと聞いてないの?」
「だっておなかすいてないから…おやつすいむにあげようとしたら『オトコはくわないとおおきくならないからむりやりにでもたべやがれです!』っていわれて」
「とうぜんです。くわんとおおきくならないですよ!」
「でもぼく、おなかすいてないし……」
「いいからくえですぅ!」
……あの後無理矢理食べさせられてお腹壊しかけたっけな。
後で翠夢が「ごめんなさいですぅ!」って何回も謝って来て……ふふふ今じゃ笑い話しだ。
「あー。そー君なに笑ってるの!」
「ごめんちょっと思い出し笑い。僕も弟だから桜花ちゃんの気持ちが分からなくもないよ」
「本当にぃ?」
「本当さ」
会話に華を咲かせる二人は後ろから不審な黒塗りの車が近付いているのに気づかなかった。
「兄貴奴等中々いい顔ですぜ」
「当然だ。この俺が前から目を付けていたのだから……傷が無いものを傷付ける時が人生に於いて一番楽しい」
兄貴と呼ばれた男は笑いながら煙草を燻らせる。
「どう言う風におねんねさせるので?」
「コイツで体当たりして気を刈り取るのもいいが人が多いし逝っちまったら困る。奴等のところまで車をギリギリ近づかせ窓を開けてこいつをお見舞いしてやる」
市販の殺虫剤のスプレーを男は取り出した。
中身まで殺虫成分のものか怪しいが。
「顔に吹きかけりゃ激痛で動けなくなり僅か一分で眠りにつく……この俺が楽しむ為に作った自信作よ。まぁ、やってくれや」
「ヘイ」
……ゆっくりと車は近付いてるが、蒼王と桜花は話に夢中で全く気付かない。
「あの小娘も坊主もどっちも楽しめそうだぜ……」