日本某所に黒輝家が保有する、荒野で岩壁が聳え立った峡谷がある。
その厳しき環境下で黒輝龍雅は修行に励んでいた。
「……ハァッ!」
右腕に力を溜めて拳を前に放ち、衝撃波と同時に
見る見るうちに龍雅の背丈の20倍はある岩肌は崩れ落ち……砂煙が晴れる頃には目の前に荒野が広がっていた。
結晶の汎用性に加え、蒼炎に、形態変化……。
使いこなせれば無類の強さを誇りそうだ。
驕りや自信過剰では無く、素直にそう事実として考えることが出来た。
パチパチ、と拍手が鳴る。
鳴らした相手は金皇だ。
「流石我が従兄弟。まだ勾玉を手にしてから一日程しか経過してないのにもう自分の手足のように使いこなしているな」
「いや、まだ手足のようにとはいかん。がだいぶ把握は出来た。あの
「そうか。俺も早く実戦経験を積みたいものだ」
「フッ。嫌と言う程積むことになるだろう。『皇帝の玉座』を目指す奴はいっぱいいる」
その玉座を手に出来るのはただ一人。
楽な道中では無いのは明白。
場合によっては死ぬ様な……否、死にかける事もあるだろう。
だが、龍雅は臆さない。
険しい道の先にある頂天を目指す為に。
「結局、限界を作ってるのは自分自身だ。勝手に自分で壁を設ける程こと馬鹿げたことはない」
「龍雅。確かお前は完璧って言葉が嫌いだったな?」
「そう言えば以前会った時にお前とそんな話をしたことがあったな」
顔を下に向けフッ、と龍雅は笑う。
「俺は今でも真意が判りかねるのだが何故だ?完璧こそいい状態はないだろう?」
完璧……完全無欠な状態。
自身のコンディションが最高潮な状態。
何の欠点もない状態である。
そんな素晴らしい状態を何故龍雅は嫌うのか?。
寧ろ頂天を目指す龍雅に相応しい言葉だとすら思えるのに。
「完璧なんて言葉そこで限界を決めてる最たる例だ。それ以上は自分は先に進めないと自白してると同義だ」
「ふむ…面白い見方だ」
腕を組むと興味深そうに金皇は地面見つめた。
「故に俺は完璧と言う言葉が嫌いなのだ。限界を超えてこそ人間の真価がある」
「お前の考えにある程度は共感出来た。あくまである程度はな」
「それでいい。全部共感出来るイエスマンなんかじゃとっくに世界は滅びる」
「お前の妹は?」
「あいつが完璧に満足するような女だと思うか?」
「それもそうだな。何せお前の妹なのだから」
顔を見合わせ互いに笑う。
すると何処からともなく銀羽が現れた。
「はぁ〜…全く失礼しちゃうわ。愚兄に加えて愚従兄弟迄私の話をしてうんざりする」
彼女も近場で同じく修行していたが普通の人間なら聞こえる距離ではない。
勾玉を宿した影響で一般的な感覚が上昇してる銀羽は過敏になった聴力で二人の会話を聞き取りミ・ルの俊足形態で駆け付けたのだろう。
「日も暮れてきた。そろそろ帰るか。翠夢も首を長くして待ってるだろう」
「うむ。昨日に続き黒輝家の晩飯が楽しみだ」
「食い意地が張ってるわねぇ〜」
「何を言う。昔から腹が減っては戦は出来ないと言うだろうが」
「さっきあの子からあんな悲惨な話を聞いたのに呑気なもんね」
彼女の台詞に場の雰囲気がガラリと変わった。
荒野を吹き荒れる風はこんなにも冷たかっただろうか。
「翠夢の弟とその同級生が経験した『コト』は最悪だったな」
銀羽の件があった後、「寝たまま話すのも失礼なので外を見ても良いですか?」と翠夢を連れ出したのが、彼女の弟に起きた惨劇を知る機会となった。
……
………
…………
……………
「うわぁ…。こんな内装の家初めて見るですー。まるで西洋のお城みたい…」
まるで恋憧れた異性でも見るような目で翠夢はあたりを見回した。
「そう?。別に何も感じないけど。ま、産まれた時からこれが当たり前だからかも知れないわね」
「違いないな」
「うぅ……この人達と私は基本的な価値観が違う気がしてならんですぅ……」
「ハッハッハ!。気にするな。お前は斬新な経験が出来てると思えばいい」
「金皇君…全くフォローになってないです…」
「それで翠夢さん。話の続きだけど貴女は勾玉を使い何がしたいの?弟がどうたらって言っていたけれど」
ふと、銀羽に質問を振られ一瞬戸惑いながらも彼女は話した。
「えっと……皇帝の玉座に着くのは当然ですがその過程でどうしてもやらなきゃならないことがあります」
「それが弟のことなのだろう?」と龍雅が尋ねる。
さっきまでときめいた顔をしていた翠夢の顔つきが様変わりしていた。
「私の弟を……弄んだ奴等に死すら許さない恐怖と苦痛を与えることです。心を壊してしまったあの子の為にも」
悲壮に涙を浮かべながらも表情は完全に憎悪に支配されていた。
3人は悍ましい話を聞かされる………。