「やぁ。初めまして」
その人物は3人が容姿を確認出来る距離迄近づくと改めて頭を下げた。
停電によって周囲で発生している闇とほぼ同化したような黒衣を纏い
「不躾な客を迎えるのはこれで二度目ね」
彼女の声音には若干の苛立ちが見られた。
警戒心が籠もった赤い双眸は闇から現れた少年を睨みつけた。
年は大体自分達と同じぐらいだろうか。
「あぁ、ルーツが失礼掛けたようで。馬鹿な姉の行いの非礼を詫びるよ」
「何ですって?」「何だとっ…?」
ズレなく双子が息ぴったりに少年が発っした驚愕の言葉に同様の反応を示す様からシンクロナイズドスイミングの選手を連想した金皇は咄嗟に口に手を当て笑いを堪える。
……笑いのエネルギーを何処かに早く置かなければ。
ルーツと聞いて思い浮かべるのは、2日前に人化した姿で白いドレスを纏い自分達に『プリマ・ツァーリゲーム』の存在を知らせ『皇帝の玉座』を目指す為にモンスターの勾玉を渡した『祖なる者』……『祖龍ミラルーツ』だ。
そしてこの少年は今ルーツを自分の姉だと言った。
「ほう」
漠然とする双子を余所に従兄弟は好奇心旺盛に少年に話しかけていく。
まるで街に買い物に行った時に遠目で仲の良い友達でも見つけたような気軽さだ。
「祖龍が姉とは驚いた。となれば分かった事実は2つ。まず1つはお前が弟だと言うこと。2つ目に……お前も禁忌のモンスターの一体だと言うことだ」
台詞の途中で金皇も攻撃的な眼つきになっていた。
……古龍でも最上位に位置する禁忌の名を冠するものと対峙してるとなればこの反応は特段おかしくはないだろう。
だがおかしい。勾玉には全てのモンスターの情報がDNAの如く込められており、体内に宿し勾玉所有者になればその溢れ出る情報から一目見ただけでどのモンスターか分かる。
それは人化した祖龍でさえ例外ではない。
だのにこの少年からは何も感じないのだ。
コイツが嘘をつきただの人間って可能性もあるが……ただの人間が黒輝家のセキュリティを破れるとも思えん。
それにさっきの台詞だ………。
『ちょっとだけこの世界の定理を弄くって世界を変えさせて貰ったよ』
あの発言がどうにも俺には嘘をついてるようには見えない。
何故勾玉所有者の察知能力でモンスターを特定出来ないんだ?。
「いいね君達の態度や聡明さからは血縁が感じられて、僕の兄弟を思い出すよ」
天井を見上げて懐かしんででもいるのだろうか。
「お前は確実にモンスターなのに察知出来ない。世の定理を弄った等と豪語する奴だ。どんな手を使った?」
「遮断してるのだ。ソイツ自身が」
「なに…?」
両腕に金色に煌めく雷光を纏わせてる金皇に龍雅は諭すように告げた。
金皇、お前の行動は俺達から見れば果敢だが……ソイツから見ればまるで檻の中のモルモットを見てるに過ぎない筈だ。
頑丈な檻の中ではモルモットも獅子も同じだ。
何故ならソイツ自身が難攻不落な檻なのだから。
金皇には大変申し訳無いが現在の状況を悲壮感なく考えるのはかなり困難だ。
龍雅も……銀羽も金皇が考察した結果に行き着いていたのだ。
そして龍雅は更にその先にいっていた。
「干渉してるな。勾玉所有者の察知能力に?」
パチパチパチ、と静寂の中拍手が響いた。
「お見事。よくそこまで非力な人間が考えられたものだ。僕はルーツみたいにおいそれと名前を明かしたくないのでね。まだまだ正体は明かさせないでもらうよ。フフフフフ」
後ろを振り返り少年はまた闇の奥へと戻っていく。
通路の床の軋む音がいつもよりも不気味に思えた。
「待ちなさいよ。世界の定理を弄くったとか抜かしていたけれど具体的に何をしたの?」
銀羽の問に振り返りもせず立ち止まったまま少年は返答する。
「それを教えたらつまらないでしょ?。僕も君達も楽しみが減ってしまう。楽しみがある方がきっと人生も輝くものとなるよ?」
「ふん。楽しめるのはアンタだけでしょう?反吐が出るわ」
銀羽は支配されるのが嫌いだった。
自分が風紀を作りその中で人々が秩序正しく生活するのは好きで実際に今通ってる高校でもそうしてるが、これからはこの男が作り変えた世界で生きろと言うのだ。
どうせクズみたいな世界に決まってるわ。
「あ、そうそう言い忘れてた」
少年はふと気付いたように今度は自らの意志で歩みを止め3人に告げた。
闇に紛れ少年の姿は殆ど見えない。
「実はもう一人お客さんがいてね、少々やんちゃな子だから気を付けた方がいいかも。じゃあね忠告はしたよ……」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
言い終えると同時に翠夢の悲鳴が黒輝家に響いた。
気付いた時には誰に言われるでもなく3人は走り出していた。