稲光を見るもんじゃねぇな……(雷恐怖症)
「全く人生に刺激を求めてたけど……勾玉使いになって早々こんなにトラブルにあうなんてね」
「ふん。明日からこれ以上のトラブルがいっぱいありそうだがな」
「ハァ……。勘弁してほしいんだけど」
軽口を交えながら、黒狐竜の瞬足形態で銀羽と龍雅は一足先に翠夢の元へ向かっていた。
赤子の頃からこの家で育ち壁や物の配置を把握してる二人だからこそ超速で動けるが他の者が二人と同じく超速で動いたら壁にぶつかるのがオチだ。
真っ暗闇の自宅を蒼炎を照らしながら移動する過程で二人は1つ気付いたことがあった。
父親、母親、使用人含め………この家に居るであろう人間達の気配を一切感じられないのだ。
分かるのは察知能力による翠夢の気配だけ……恐らくそこに闇に姿を消した黒衣の少年が告げたもう一人の『招かれざる客』がいるのだろうが……。
「お父様、お母様……世話人達がいないのもあいつの仕業なのかしらね」
「この状況ではそう考えるのが一番妥当だろうな」
「お母様達を何処へ……?」
銀羽の声音に不安と悲壮が混じってるのをヒシヒシと感じた。
他の普通の年代の女子だったら泣いてるかも知れんな。と龍雅は考える。
「……分からん。だが、今は為すべきことをやるしかない」
「……お兄様ならそう言うと思った。そろそろ着くわね。襲われた眠り姫を助けなきゃ」
考えることはいっぱいあるが今やるべきことは翠夢を救うことだ。
もう翠夢の部屋の前で2人は一旦立ち止まる。
馬鹿正直にドアなんか開けたら恰好の的だ。
最早日常は非日常に置き換わっている。
「お兄様どうやってお邪魔して?」
「こうする」
ドアの正面に立った龍雅は右手に揺らめく蒼炎と結晶を纏いドアを粉砕した。
暗くて中の様子は完全には見えないが徐々に黒狐竜の蒼き炎が全貌を顕にさせる。
「龍雅君……!、銀羽ちゃん……!」
歓喜を帯びた声で翠夢は二人の名前を呼んだ。
「やぁ。この屋敷の住人かな」
蒼王の意識が翠夢から2人に移動した。
黒狐竜の蒼き炎が照らす中、龍雅と銀羽は蒼王と対峙する………。
「勾玉のモンスターはリオレウス亜種か」
「って言うか何その格好?。あなた男なのにスカートやガーター穿いて……」
男が女装してる事に銀羽は激しく嫌悪したが、普通の男の女装よりも遥かに彼は似合っていた。
頭に青いカチューシャをつけ、口紅を染め、黒いドレスを身に纏う……声も変声期が来なかったのか来ても尚変わらないのか女子と比べても謙遜ない。
元々美形なのか…化粧して更に端麗さを増したのか。
まぁ、私には到底及ばないけどね………龍雅お兄様にも。
「客人に随分と手厳しい歓迎感謝するよ。この姿の方が僕が僕でいられる気がしてね。元から他者の共感を得ようとなんて考えてないから好きに罵倒していいよ」
彼の言葉は真っ直ぐで裏も表もない。
その代わり何かに取り憑かれたような屈託のない笑みを浮かべていたが。
「気持ち悪い……背筋が凍るわ。何が客人よ。寝込みの翠夢を襲った卑怯者の変態のクセに」
間髪入れず罵声を浴びせる銀羽に対して、龍雅はじっくりと翠夢と蒼王の顔を見比べていた。
これはもしかすれば……こいつらは……。
「卑怯者?僕が?心外だよ。卑怯者は僕の事など構わず青春を謳歌していた翠夢だ。結局僕の思いは一方的で相互補完は出来なかった」
目を閉じながら蒼王はゆっくりと拳を握りしめた。
「あらぁ、随分と重症ね。この子の彼氏だったのぉ?」
「銀羽…違うんです。彼は……」
「石井蒼王。翠夢の実の弟か」
「嘘でしょ?この変態が?」
「御名答。どうして分かったの?」
「顔立ちが似ている。目元なんか特にそっくりだ」
言いながら龍雅はかの死刑囚を思い出していた。
「言われて見れば……」
銀羽も交互に2人の顔を見比べる。
「君みたいな聡明で強そうな子に出会えて良かった。嬉しいよ……色んな意味で」
「その意味をあまり考えたくないが褒め言葉と取っておこう」
「………ここは穢れが多い。2人っきりで話し会おう。僕と蒼レウスの世界で」
『ヴワァァァァァァァァァァァァ!』
リオレウス亜種の咆哮と共に世界が塗り替えられていく……。