「「お世話になりました」」
寒く暗い黒輝家の門の前で龍雅、銀羽、金皇の3人に翠夢と蒼王は頭を下げた。
「本当に大丈夫なの?泊まって行かなくて」
銀羽は不安そうに尋ねる。
「はい。充分休めましたし何より‥‥」
横に並ぶ蒼王の左手を翠夢はギュッと握った。
「大切な人を取り戻せました」
姉のその一言に照れ臭そうに蒼王は顔を下に向けた。
小声で「ありがとう」と呟きながら‥‥。
「良かったな。勾玉とお前達姉弟の絆が実った結果だ」
従兄弟もたまにはデリカシーに掛けない発言も出来るのだと、龍雅と銀羽は笑う。
「ありがとう金皇君、正直離れたらあなた方と敵になってしまうのが大変心苦しいです‥‥皇帝の玉座を目指す者として‥‥」
「何言ってるの」
気不味そうな顔をする翠夢の両肩を銀羽が叩く。
「敵じゃなくてライバルって言いなさい。同じ高みを目指すね」
「銀羽‥‥」
呆然とする翠夢に続けて語る。
「何れ貴女とも戦うかも知れないわ。でもそれは今すぐじゃない‥‥‥
「うふふ。待って来れるんですか。随分と優しいですね」
「あらぁ。召喚の勾玉がなきゃ私とフェアにならないでしょ?。私が楽しむ為よ」
笑いながら銀羽は告げる。
けどその笑顔には罵倒や嫌味等の邪気はなく、無邪気な子供が浮かべるような笑いだった。
そして翠夢はこの言葉が銀羽なりの気遣いだとすぐ気づいた。
「ありがとうございます銀羽」
「ちょっとそんな調子じゃ私は倒せないわよ」
「‥‥そうですね。銀羽」
「なに?」
急に真摯な口調になった翠夢に不思議に思いながら聞き返した。
真面目な顔して‥‥私に何か伝えたいのかしら?。
「敵ではなく……一人の『友達』として貴女に会いに行っても良いですか?」
そうか。
この子はそれを伝えったかったのね。
………全く面白い子ね。
「私と離れるのが寂しいのぉ?」
少しふざけた様子で銀羽は言ったが、翠夢は「はい」とゆっくり首を縦に振った。
頬に………涙を流しながら。
「戦わなくちゃ皇帝になれない宿命だとしても貴女と言う人間と敵対するのは心苦しいです。龍雅君や金皇君とも」
「……けどそれが私達の
「分かっています!」
耐えきれず翠夢は大声で泣き出す。
「言葉では嫌と言う程分かっています!……でも心じゃとても理解出来そうにありません………」
「翠夢泣かないで……。別に今すぐ龍雅君達と対峙するわけじゃないんだよ。まだ先の話さ……」
「何れは対峙しなくちゃならないことに変わりはないですぅ……。時間の問題です。私に耐える勇気はありません………」
「翠夢……」
大粒の涙がポロポロと地面に落ちる。
翠夢の優しさは彼女の持ち味とも言えるが……同時にまたそれが弱点となり得る事を彼女含め場に居た全員が実感した。
ふぅ、と息を吐き龍雅が石井姉弟へと近づく。
「翠夢。お前の他者へ憂慮する気持ちには敬服せざるを得ない。だが血肉を散らす戦いに於いてその優しさは自分を傷つける刃になりかねん」
暫しの沈黙の後に銀羽が口を開いた。
「…龍雅の言う通りよ。その優しさは必ずしもプラスに動くわけではないの。皆が皆善人で恩を返してくれるわけじゃない。私達の短い人生の中でも何度も味わった筈よ」
「‥‥‥そうですね」
皆が善人なわけじゃない‥‥。
愛する
パソコンやスマホを通じ様々な悪意を言葉でぶつけられたあの時を思い出す。
根拠のない書き込みや蒼王は愚か家族まで馬鹿にされた書き込みに歯軋りし涙を流したものだ。
警察も動かない事が翠夢の落胆と梅根をより一層増させた。
だけど私は‥‥‥それでも‥‥‥‥
信じるべき物を信じ、信じるべき道を歩みたいです。
でも人に裏切られたら、人に傷つけられたら‥‥。生きるのを思わず諦めたくなりそうな悪意をぶつけられたら‥‥。
マイナスな思考が濁流のように次々と浮かぶ。
少し前の私だったらこんなこと考えてたら心が砕けていたかも知れませんね。
――――――でも私の覚悟は決まりました。
例えどんな苦難や困難が大きな壁として立ちはだかっても何が何でも前に進んでやるです。
‥‥‥この命が力尽きるまで、恐怖をやる気に変え、無限の勇気を持って。
「分かりました龍雅君。じゃあ戦い以外であなた達に会いに来るときは「友達として遊びに来ました」と言えばいいですか?」
笑みを浮かべ首を傾げながら翠夢は龍雅に問う。
「フッ。そうきたか。それなら構わん。大切な客人を出迎えないわけにはいかんからな」
「考えたものね翠夢」
「貴女達と会えなくなるなんて寂しいですからね。たまにお茶飲みや世間話にでも弟連れて行ってやるですよ」
「くれぐれも客人として来た時は寝首をかかないでよ?」
「勿論ですよ。っていうかそんなことしたくても出来ません」
「ハハハハッ!勾玉使い同士が戦わず友情を深める素晴らしいではないか!」
パチパチと金皇は拍手で祝った。
「フン、だからと言って戦う時は躊躇しないでよ」
「勿論です銀羽‥‥‥また会いましょう!」
「えぇ」
「じゃあね。龍雅君も金皇君も」
「あぁ」 「またな」
蒼王が召喚の勾玉でリオレウス亜種を呼び出し2人は蒼レウスの上に乗った。
「翠夢。くれぐれも『異変』に注意してね。私の家だけじゃなく貴女の家でも起きてる可能性が高いわ」
「はい。気を付けます。3人もお気をつけて」
「勿論よ」
「それじゃ失礼するよ」
鳴き声をあげ羽ばたくとリオレウス亜種は真夜中の空を悠々と飛行する。
いつもは遠い星が今日は少し近くに感じることが出来た。
「あはは姉弟してすっかりお世話になっちゃったね」
「クスッ。本当ですね」
黒輝家の灯りがどんどん遠のいて行く‥‥それだけではなく町の灯りも。
空だけではなく地上にも星があるみたいだ。
「‥‥‥‥本当にあんな事がなければロマンチックな光景ですのに、やっぱり繋がりませんか蒼王?」
「うん‥‥‥。父さんも母さんも電話に出ない……存在を消されたんだ………」
『あの
衝撃的なワードは暫しの沈黙をうんだ。
「ミラボレアス……伝説の黒龍ですか……。私達勾玉使いですら全貌が掴めないほどの強大な力を持ってるに違いありません」
「事実彼の力を纏い君に話し掛けた時、君は僕のリオレウス亜種の力を感知出来なかったよね?」
「……はい。そうです」
「彼はもうモンスターに収まりきる存在じゃない。暫定的にモンスターになってるだけで実際は神の領域に片脚突っ込んで、いや………もうその神の領域にいるのかもしれない」
「このゲームを始めたのもあの人達ですものね。そんな存在を人と形容していいかは疑問ですが……」
「あぁ。全くその通りだね。何れにしても戦いは避けられないさ……世界を元に戻すためにも」
「………そのようですね」
満天の星空とは対照的に蒼王と翠夢の心持ちは不安が立ち込める。
だが進むしかないのだ。
翠夢が覚悟を決めたように。
どんな運命が待とうと……決して私は諦めません。
「恐怖をやる気に変える?……面白い子だ。あの子の方が蒼王よりも強い闇を生み出せるかも」
眩い灯りすら透さない黒衣を纏った少年は一人笑っていた。