「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥‥」
パティシエの服に身を包んだ少女は暗い夜道を息を切らしながら走っていた。
その白い服のところどころに赤い染みを作りながら。
「つぅ‥‥‥!」
冷たさが傷口に突き刺さり激痛を伴う。
頭がクラクラし意識を失い掛けるが激痛がそれを許さない。
「逃しませんよ‥‥‥姫華ぁ!うふふふふふふふ!」
引き裂けそうな程口角を上げた凶刃の持ち主はすぐそこまで迫っている‥‥心に狂気を宿し。
ことは4時間前に遡る‥‥‥‥‥。
「姫華ちゃんこれ3番テーブルにお願い!」
「はい店長」
彼女が住む町で一番人気のある店で小さい頃は祖母と一緒に足を運んだものだ。
高校1年生の時から働き、要領がいい彼女は直ぐに仕事を覚え店長や同年代の仲間からは羨望の眼差しで見られていた。
彼女の職人魂を動かすのは飽くなきスイーツへの探究心。
初めて祖母と一緒に食べたムースの味が未だに忘れられない。
幼心に彼女は決意していた。
いつか絶対あのスイーツショップで働きあのムースを超えるようなスイーツを作ろう。と。
それから10数年、勉学で優秀な成績を収めながら彼女はスイーツの勉強も同時進行でこなしスイーツショップでバイトすると言う夢が叶った。
あとの夢はもうひとつあるのだが‥‥‥こちらは中々難航していた。
しかし彼女が自作のスイーツをショップに持ち出しそれを店長や古参メンバーが舌鼓を打ってショップに採用され売上は姫華が入ってから格段にあがった。
店にも貢献し、店長や店員等との信頼関係も築け彼女がこの店で働いて得る物はとても大きかった。
が。高校卒業後は進学の為暫く離れなければならない。
自分も悲しかったし、店の仲間達も大変悲しがっていた。
「姫華、本当に東京に行っちゃうの?」
客に品物を届け、厨房に戻るとバイト仲間の
彼女とは同年代だが高校は違う。
「えぇ。スイーツを作るのも大事だけど勉強もそれに負けないぐらい大切だから」
「姫華がいないと寂しいなー。私高校卒業したらここで働くつもりだし仲良い友達がいないと心細い‥‥‥皆そう思ってるよ」
「大丈夫よ。4年経てばまた戻る。だからそれまで貴女がこのお店を皆と守って」
姫華の台詞に壊瑠の顔が明るくなる。
「うん!絶対だよ!約束ね」
「えぇ約束よ。少し貴女はおっちょこちょいなところがあるから気をつけてね」
「もう!氷華ったらいい話してるのに酷い!」
「事実じゃない」
互いにふざけ合いながら戯れる二人の視界にある少年の姿が目に入った。
「美味しいスイーツだ。あー。インスピレーションが体を駆け巡る!」
赤い髪に、眼帯をハメた少年が称賛の声を上げながらスイーツを貪っていた。
ウチのスイーツを美味しく食べてくれるのは構わないが少々声が高すぎる。
「何かちょっと変わってるお客さんがいるね」
「えぇ。そのようね」
ひっそりと二人は声を漏らす。
このまま大きな声を出されたら他の客に迷惑だ。
「私注意してくるわ」
「あ、うん。気をつけてね」
少年の近くまで寄るとあちらも気づいたのか、氷華を見てにっこりと笑った。
前まで行くと礼儀正しく頭を下げ少年に注意した。
「お客様。他のお客様のご迷惑になりますのであまり大きな声でお話しするのは控えてください」
「あぁ‥‥これはすいません可憐な店員さん。あまりの美味しさに興奮してしまいました。静かに食べます。すみません」
ホッ、と内心胸を撫で下ろした。
話が分かってくれる人間で良かった。
「はい、宜しくお願い致します」
何故か厨房に戻る際に悪寒を感じた。
スイーツも美しいが彼女もまた美しい‥‥アイスダストのような冷たさを感じるがその瞳の奥には熱き輝きを感じる‥‥。
他の客の迷惑にならないようにしましょう‥‥言葉だけではなく行動で‥‥。
少年の目が紅く煌めいた。
寒かったり熱かったり自律神経が崩れそうだわ