「グッ‥‥!」
「ウゥ‥‥‥!」
上がる無数の悲鳴に厨房に戻ろうとした姫華の足取りが止まる。
同時に倒れる音と皿が落ちる音が鳴り響く。
何が起きたのかと、背後を振り返ると‥‥‥地獄絵図が広がっていた。
店にいた客全員が吐血し全員死んでいたのだ。
倒れて死ぬ者、座ったまま死ぬ者、テーブルに突っ伏して死ぬ者と死に姿はそれぞれ違ったが首に複数の黒い棘が突き刺さっていた。
「な‥‥‥‥」
あまりの悍ましさに姫華は言葉を失う。
「キャーーーーーーーーーーーーー!」
対する壊瑠は悲鳴を上げ頭を抱えた。
彼女の悲鳴がきっかけとなったと言わんばかりに他の店員達も驚きの声を上げ皆逃げ戸惑う。
「こっちだ急げ!」と店長が身を屈めながら非常口から店員達を逃す。
残っているのは目の前の惨劇に呆然としてる姫華と恐怖で体が竦んでる壊瑠だけだ。
「やだぁ‥‥‥‥怖いよ‥‥‥‥!」
店長として‥‥‥‥店員の命は俺が守らなければ!
「姫華ちゃん!壊瑠ちゃん!早く逃げよう!」
「は、はい!」
店長の声に壊瑠はようやく動くことが出来た。
そのまま立ち尽くす姫華に「姫華私達も逃げなきゃ!」と手を掴み引っ張る。
姫華も我に帰り、「えぇ‥‥」と抑揚のない返事をして壊瑠と共に逃げた。
「さぁ二人とも先に!俺は生存者がいるかどうか確認してから行く!」
「はい!」「はい」
危機的状況でも壊瑠と姫華の態度は対照的だ。
恐怖に耐えきれず壊瑠は涙を流すが、恐怖を感じながらも姫華は普段通りの様子で淡々と非常口を目指す。
決して彼女の心から惨劇の記憶が消えたわけではないが恐怖よりも何故あの殺戮が巻き起こったのかと言う好奇心に考えが切り変わりつつあった。
「壊瑠‥‥‥。一先ず身の安全が確保出来る場所まで逃げましょう」
「分かった‥‥、店長大丈夫かなぁ‥‥」
「私達が戻ってどうにも出来るもんじゃないわ。安全な場所へ行き落ち着いて警察に通報しましょう‥‥」
「うん‥‥。姫華は凄いねこんな状況でも冷静でいられて」
「そんなことない、貴女に手を握られるまで状況が飲み込めなくなって呆然としてたもの。私が助かってるのは貴女のお陰でもあるのよ壊瑠」
「私のお陰‥‥‥‥」
信じられないと言った様子で壊瑠は口にした。
私なんかが姫華を救った?
「そうよ助かったわ。ありがとう壊瑠」
「うぅ‥‥‥‥」
彼女はまた目に涙を浮かべた。
先程の悲劇にではない‥‥仲間からの「ありがとう」の言葉にである。
「早く安全な場所まで行こう!店長の為にも!」
「ふふっ‥‥やっといつもの調子に戻ったみたいね。そっちの方が私が知ってる壊瑠らしいわ」
「姫華のお陰だよ」
悲劇を目の当たりにした彼女達だったが顔には笑みが浮かんでいた。
今出来るべき事を成す、その思いが彼女らの行動源となった。
店長‥‥‥どうか無事でいて下さい!。
‥‥
‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
何が起こったのだ‥‥‥。
店長は最初夢を見たのかと思った。
殺戮の現場と化したスイーツショップで一人の少年は優雅に茶を嗜みスイーツを美味しく貪っていたのだ。
店長が危ないから早く逃げなさいと促したところ―――――。
『無粋な人ですね。私のスイーツタイムを邪魔しないでください』
と言う言葉と同時に少年の姿は一瞬で消え店長の視界が暗転し、気づけば10m以上も吹き飛ばされていたのである。
影すら留めない程の速さで最初は思わず夢と勘違いしてしまったが。
「グァ‥‥‥ウゥ!」
腹部が異様に痛い。
触ると腹の上に何か鋭い『黒い』物質が刺さっていた。
引き抜こうと手で思いっきり掴み更に店長は悲鳴をあげることとなる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」
反対に掴んだ手の指が全て切り落ちたのだ。
「馬鹿な男だ。人間如きが迅竜の尾刃を掴むとは‥‥‥最も無知なあなたにこんなこと言ってもしょうがないですがね」
「お前だったんだな‥‥」
「ん?」
「お前が他の客を殺したんだ。その尾刃とやらで首を狙ってな‥‥絶対許さん!店を‥‥皆の憩いの場を血に染めやがって!」
「あー、そう言うのいりませんよ」
「俺の宝を奪いやがって」と言う前に喋れなくなった。
怒りに染まった店長の頭を少年の腕から生えた刃が容易に切り裂く。
歯茎をおっ広げ梅根の涙を流した店長の顔が地面にぼとりと落ちる。
「全く美しくない。それに比べ先程私を注意したあの店員は凄く美しかった!」
思いっきり顔を踏みつけると店長の頭は粉々に砕け散った。
「無知は罪だ。醜い者もまた罪‥‥‥与えられし
店長の死体を後に少年は店を出た。
一人でやるより複数でやった方が効率も上がると言うもの、探し仲間にしましょうあの店員さんを‥‥‥‥‥拒むなら強制的に従わせるまでのこと。
一瞬目に赤い光が灯った後少年は誰からも見えない不可視の状態になった。