「うわぁ!風が気持ちいい!」
「こらこら、窓から顔を出したら危ないわよ」
「は〜い」
14年前‥‥‥幼少時の望月迅は母親と一緒に車に乗っていた。
夕飯の買い物を終え自宅へと帰るところだ。
「迅。空を見てどうしたの?」
助手席に乗る迅が惹き付けられるように上空を眺めているのが気になった母親は訪ねた。
「空が凄く澄んでて綺麗なんだ。鳥が羨ましいよお母さん。だって鳥はあの空を僕よりも近い所で味わえるんだもん」
「うふふ。そうねぇ」
無邪気な笑みを浮かべながら迅は母親に懸命に話す。
子供ながらに空に人間が触れる事が出来ないと思いながらも無意識に手を延ばしていた。
‥‥‥空目掛けて。
いつか僕はあの空を把握し、自分で表現したいな‥‥絵として。
‥‥‥この件以降、迅は自分が興味を持った物を強く絵に表現させたくなっていった。
有機物、無機物、現実、非現実を問わずに‥‥例え架空の存在だとしても自分の絵を描く手でそれに現実的な意味合いを引き出したかった。
そんな彼が勾玉の力に魅せられないわけがなかった。
ありがとう御座います。ミラルーツ‥‥‥。
貴女のおかげで私はショーを楽しめている。
「感謝してもしきれません祖なる龍よ‥‥‥」
壊瑠は冷酷な矢尻となり親友を手に掛けようと襲い‥‥姫華はそれから逃げる。
広く見ればありきたりな『悲劇』の1つでしかありませんが他者から聞くのと実際に現場で立ち会いその悲劇を見るのとでは全く意味合いが異なって来ます。
明らかに後者の方が私の心を揺さぶる。
百聞は一見に如かずとは言ったものです。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「ハァ、ハァハァハァ‥‥‥!」
人生でこんなに必死で走ったのは中学の時の(参加強制だった)町内マラソン大会の時以来だろうか、あの時はペースが遅くなっても何のペナルティーもなかったが‥‥‥今は違う。
自分の身が危ういのだ、少しでもペースが落ちれば危険が自分に迫る。
この状況を打破するには‥‥!
疲れる頭の中で必死に思考を巡らすがいい考えは思いつかない。
恐らく‥‥あの男の性格からして今すぐ私を殺す気はないわ。
怪我や傷を負わせる確率は物凄く高いけれど。
問題は、私で迅に操られた壊瑠に対抗できるかどうかね‥‥。
今の彼女は恐怖を感じない
身体能力で言えば絶対的に姫華の方が上だが、恐怖を感じないと言うのは大きなアドバンテージだ。
あらゆる行動が出来る。
すぐ後ろで重い破砕音が鳴り響いた。
振り向くと壊瑠が重いレンガを投げつけ今度は2つ目のレンガを投げようとしているところだ。
姫華を追う速度を維持しながら。
ちょっと‥‥待って‥‥。
一連の彼女の行動に姫華の頭の中に恐ろしい予測がされる。
あの子まさかリミッターが外れてる?。
リミッター‥‥‥人間には意図せずとも脳が身体が壊れないように制限を掛けているが、自分が危機に瀕した時このリミッターが外れ普段よりも強い力を出す事が可能となる。
現在正しく姫華もその状態だが(行動が走るのみに限定されているのもあり)それでも解除されてる幅は小さい。
リミッターを外しすぎるのが怖いと言う感情が枷になってるのもあるだろう。
しかし壊瑠は恐怖を感じない。
姫華のように危機に瀕してるわけでもないが、あの速度の維持と重たいレンガを石ころを投げる様な感覚で飛ばしてくるのは壊瑠の年齢と性別を加味すればリミッターが解除してなくてはとても出来ないことだ。
自分に与えられた目的を果たす為に恐怖を感じれないから意図的に外してると言うの?
‥‥‥効率をあげる為に。
「じゅり、あぁ‥‥待ってぇ。迅君に言われた通りいっぱい‥‥あ・そ・ぼ?」
感情のこもってない口を動かしながらくぐもった声で壊瑠は負い続ける。
「それじゃ子供も逃げるわよ壊瑠!」
2人の追逃劇はまだ終わりそうにない
段々年明けた感がなくなって来る今日この頃