「はぁ‥‥‥‥はぁ‥‥‥はぁ‥‥はぁっ!」
白い吐息と流れ出る血の僅かな温もりだけがまだ姫華が生きてる事を教えてくれた。
だんだん痛みと寒さの感覚がなくなっていく‥‥。
意識が朦朧とし足もおぼつく。
「どうしたのですか?。貴女から啖呵を切って於いてもう追い掛けっこは終わりですか?」
立ち止まった姫華のすぐ後ろで迅は囁く。
振り返ると邪気がこもった笑みを浮かべていた。
「ふ、興醒めも良いところだ。まぁここで貴女が死んでも私的には万々歳ですがね」
「だったら‥‥殺せばいいじゃない‥‥‥」
ナルガクルガの尾棘が貫通して血が止まらない右腕を押さえながら姫華は弱く零す。
強気で言い返したがったが朦朧とする意識がそれを拒んだ。
想像を絶する痛みを幾度となく与えられ姫華がいくら生の終わりを望んだところでこの男は中々終わらせてくれなかった。
勘と言うより確信に近い。
生きてもがき苦しむ姫華の姿を出来るだけこの男は見たいのだと。
それを見るのに固執してる。
文字通りこの男が死を簡単に与える事が出来るのは相対する姫華がヒシヒシと感じていた。
‥‥‥‥でも中々死を与えない。姫華をいたぶって楽しみ、自身の歪んだ芸術的価値観を確立させたいが為に。
「‥‥っあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然心臓が焼けるような痛みを覚えた。
破けそうな勢いで服の上から心臓のある部分をギュウと掴んだ。
「心臓発作。どうです?若く健康体な貴女にはまず味わえない痛みだ」
近付き姫華の傷口から滲み出る血を舐めながら
「いい刺激でしょう?」
と口を赤く染め笑いながら迅は漏らす。
次に迅が握った手を開く動作をすると嘘のように心臓の焼けるような痛みはなくなった。
「くはっ‥‥‥!」
思わず膝をつき、ぼやける視界で不規則な呼吸を繰り返す。
目からは自然に涙が流れ、口からは血を吐き出した。
「あぁ‥‥‥素晴らしい‥‥‥」
迅は両手を頬に添える。
より傷付いた姫華の姿に更に興奮してるようだった。
「これぞ芸術!正しく真の美!汚れて価値を落とすどころか、更に美しさを増すとは!」
ふざけるな。と心の中で怒った。
この男が今日何人殺した。
自分の歪んだ価値観を求める為に。
あれ?。
以前、迅は一人で喋り勝手に喜んでるようだがその声が急に聞こえなくなった。
同時に姫華は悟る。
‥‥‥目も殆ど見えなく聴力もなくなったみたいね。痛みも何も感じないし、どうやら今度こそ私は死ぬみたいね。
「わー。面白い事やってるぅ!僕も混ぜてよー!」
「はぁ?あなた‥‥誰です?」
現れた乱入者に死にかけ感覚が喪失しつつある姫華は気づかない。
迅は嫌悪を顕にしながら声を出した人物の方を向いた。
何だこの子供は‥‥‥頭に花飾りを付けて女が着るようなドレスを着ているが匂いからしてこいつは男‥‥‥。
そこまで分析すると勾玉所有者の察知能力が働いた。
この男が持ってる勾玉は『黒き禍』とも称される黒狼鳥イャンガルルガ。
戦う為だけに生きてるようなモンスターだ。
「ふふふ。そうですか貴方も勾玉使い。初めて会いましたよ。私は望月 迅と言います。以後お見知りおき」
腕を曲げ丁寧に迅は頭を下げた。
「ぷっ、あははははははははははははは!」
黒狼鳥の勾玉使いは突然笑い始めた。
「何かおかしな事でも‥‥‥」
「ぁはははは!おかしいよ!‥‥‥だってさぁ。少し前から見てたんだけどお前自分より弱い人間狩ってイキってるだけなんだもん。しかも芸術だとか意味不な理論翳して!そんな『雑魚狩り』しか出来ない真正の雑魚笑わないほうが無理だよ!あははははは!」
黒狼鳥の少年は余程迅が滑稽に見えたのか、地面をバンバンと叩きながら笑っていた。
あぁ‥‥こんな感覚初めてだ。
小学校低学年の時に給食に苦手なメニューが出てきてもこんな不快感は味わったことがない。
私を雑魚に喩えるのみならず私の美的センスを否定するとは‥‥‥‥!
この男は私がこの手で‥‥‥
「殺す!」
『アォォォォォォォーン!』
刃翼を構え、飛び掛かり攻撃の体制に入った瞬間、耳を劈く鳴き声に迅は横たわった。
‥‥ダウンさせられたのだ。
「ほーら弱い」
「ぐっ!上手く‥‥‥ナルガクルガの弱点を突きましたね‥‥‥」
立ち上がり瞬時に距離を取る。
「勝つために手段をいちいち選んでられないよ〜。楽しく狩ってあげるから安心して殺られてね!」
ちらりと黒狼鳥の勾玉使いの少年は、横たわる姫華を見つめた。
あーあ、こんな傷だらけになっちゃってでもこいつがあればこの子も大丈夫か。
姫華の心臓に真っ白な勾玉を近づけさせ吸収させていった。
この勾玉は少年が勝って殺した勾玉使いから奪ったものだ。
「これでこの子は生きて、あそこで
「私の物になんてことを!」
「はぁ?こんな可愛い子お前なんかじゃ手に余って終わりさ。僕が遊んであげた方がこの子の為にもなる」
こんな可愛い子見たことない。
あの時パパと襲った桜花や蒼王よりもずっと可愛い。
「いいでしょう絶対お前を殺し姫華を取り戻します‥‥お前名前は?」
「遊さ!
「ふっ、美しさの欠片もない名前だ。その減らず口ごと切り裂かれ私の芸術の一部になることを光栄に思うがいい黒音!」
「きつい冗談だね。お前の芸術になるなんて考えただけで寒気がするよ。お前の全てを破壊してやる。『黒狼鳥の幻影』!」
周囲の景色が変わっていき遊の背中から禍々しい尖った棘を持つ紫色の翼が生えた。