‥‥‥‥‥‥惨忍に傷つけられ血が纏わり付いた服を着て横たわる姫華。
本来なら迅の残酷な猛攻によって死を待つだけだったが、突如現れた黒音 遊に勾玉を渡された事によりその運命は回避された。
しかし、まだ回復しきっていない彼女の身体を脳は以前危篤な状態と認識し、朦朧とする姫華の頭には小さな頃の記憶を思い浮かべていた。
‥‥‥‥‥‥‥
「美味しいかい、姫華?」
「うん!」
年老いてるのをまるで感じさせないように女性はハキハキと喋る。
「ここのスイーツは本当に美味しくてね。おばあちゃんも週5で通うぐらい好きなのよ」
祖母の愛くるしい笑みは幼い姫華の心まで暖かい気持ちにしてくれた。
昭和2年に名家に産まれた淑子は18の時に日本の終戦に直面した。
戦後、今まであった価値観をかなぐり捨て勉学に励み大学卒業後は家の跡取りとして父の会社を継いでその先見の明で多方面の分野で拡大、成功し財を築き上げてきた。
だがそれを決して祖母は武勇伝のように話すことも無ければ口にすることもなかった。
「姫華のお婆ちゃんは凄いのよ」とたまに母から聞かせられる程度で、小さいと云うのもありよくわからなかった。
ただ姫華は祖母の事が大好きだった、物心ついた時から祖母と一緒に色んな所を回り子供ながらに嬉しい気持や悲しい気持ち等様々な感情を覚えていった。
「じゃあそろそろお暇しようか姫華」
「はい!お婆ちゃん!」
真っ直ぐと手を上げ姫華は祖母に付き添いながらスイーツショップをあとにした。
‥‥‥‥当然人々が行き交う外に出ると思ったが見知らぬ場所に二人は立っていた。
雪に覆われた白銀の平地と、切り立った岩壁が聳え立ち。
3頭のマンモスみたいな動物が歩いていた。
「何処なの!?ここは‥‥っ!」
思わず戸惑いの声を上げたが異変はそれだけでは終わらない。
気付くと姫華の身体は祖母の背を越しスイーツショップでバイトしてる時の制服を着ていた。
待って‥‥‥確か私は‥‥‥。
頭を抑え大切な何かを思い出そうとする姫華の肩に祖母は優しく手を置いた。
「こんなに大きく可憐な子になってたんだねぇ」
「お婆ちゃん‥‥‥‥。これは私の夢‥‥‥‥?それとも想像?」
その声音は震えていた。
幼少期の時に大好きだった祖母は姫華が中学三年生の時に他界してしまった。
死因は老衰だった。
その頃には姫華もあまり感情を表さない性格になっていたが、祖母が死んだ時は声こそあげなかったが大粒の涙を流した。
祖母との邂逅に半信半疑ながらも姫華はまた涙を浮かべる。
今日の私泣いてばかりね‥‥。
「私にも分からないわ。こういうのを奇跡って言うのかしらね」
「‥‥‥‥亡くなった事はお婆ちゃんは覚えているの?」
「勿論よ」
何処か寂しげに祖母は頷いた。
それじゃあ自分は黄泉の世界にでも来たのだろうか?。
薄っすらと記憶が甦ってきたのだ。
望月 迅に客を殺され、大切な仲間達を殺され‥‥‥‥壊瑠も目前で殺されたあと、姫華は散々甚振られて中々死ぬ事が出来なかったがついに死を迎えたらしい。
「死んだ後の世界ってあったのね」
「あら?ここは死後の世界ではないわ。死者である私と話してるから姫華は勘違いしてるのかも知れないけど。本来なら私は全く何もない無の空間を小さな魂の姿で彷徨っていたの」
「本当?」
「えぇ。気付いたら貴女と良く行ったスイーツショップにいてねぇ。お婆ちゃん吃驚しちゃったわ」
「じゃあお婆ちゃんはスイーツショップの時点でおかしいって気づいてたってこと?」
「まぁね。だけど久々に小さい貴女を見たら出来るだけ長く姫華と居たいと思ってねぇ。神様の悪戯だとしてもすぐ終わらせたくなくて‥‥おかげでこんなに大きくなった姫華も見れたし」
まだ元気だった頃の祖母の手が姫華の頭を撫でる。
「うぅ‥‥‥‥」
懐かしい感覚に耐えきれなくなり姫華は声に出して大泣きした。
気にせず祖母は背中を擦りながら姫華に話す。
「ごめんね。貴女の花嫁姿をこの目に焼き付けるまで生きていたかったんだけど。寂しい思いをさせちゃったね」
「‥‥‥謝らないでお婆ちゃん。誰だって生きてれば死は避けられないよ。寂しかったけどそれ以上に自分の人生を力強く生きたかったからお婆ちゃんの死を私は糧にした」
姫華は笑顔を浮かべる。
「いつかお婆ちゃんみたいに凄い人になりたいなって思い描いて今まで頑張って来たの。それはこれからも変わらないわ」
「立派な子に育って。お婆ちゃん嬉しいわ」
久々に祖母に抱き締められた。
今度は自分の方が背丈があり祖母は下から抱き締める格好だがそんなの関係ない。
この人が姫華が敬愛する祖母に変わりはないのだから。
懐かしいなぁ‥‥‥お婆ちゃんの感覚‥‥‥‥‥。
例え自分が最悪な状態に置かれていても安心する。
暖かさに身を預け姫華は眠りについた。
「あらあら。昔から抱っこしたら眠ってしまうのは健在のようね」
淑子は地面に座ると、姫華を自分の膝の上に寝かせて上げた。
訪れた運命の悪戯を最後まで楽しむ為に。