「はぁ‥‥‥‥。人生ってのは悲しいもんだね」
病室の窓から暗く染まった外を見て老人は弱々しく呟いた。
しわくちゃのこの手と顔に皺がなかった頃自分の家族の為に尽くしてきたつもりだったが40年も前に妻と息子に家を出ていかれて仕事だけが生き甲斐‥‥否、生き甲斐にするしかなかった。
―――あいつ結婚して子供産んだのかな。孫の顔ぐらい一目見てから死にたかったがよ。叶いそうにねぇや。
「ゴホッゴホッ!」
「うるさいなぁ‥‥‥もうちょっと抑えて咳こんでくれんか?玄次さんや」
「咳ぐらいでガタガタ言うな大吉」
「それもそうじゃな。あんたの咳は毎日煩いからな」
「ヘヘ。何を言う大吉。俺がこうしてオメェさんと文句言えんのもあと少しだよ。分かんだ俺は‥‥もぅ長くねぇ」
「明日は槍でも降んのか?。あんたともあろう者がそんなに弱気とはな」
大吉がそう言うと暫しの沈黙が訪れた。
「なぁ‥‥」と先に口を開いたのは玄次だ。
「俺にゃ、ガキも嫁も居たんだがよ。いつの間にか俺を置いて家を出てっちまったんだ‥‥まだ俺が30前半の時だ」
「何度かその話は聞いとるが、死ぬ前にそのカミさんと息子さんに会いてぇってのかい?」
「‥‥まぁ。そんなところよ。叶わねぇ願いだろうがな」
寂しく窓に目を向ける。
その日まで当たり前のように甘受していた生活が‥‥妻の置き手紙と共に容易く崩壊した。
【ごめんなさい。やはり貴方みたいな裏社会を生きる人とは一緒に生活出来ません。利太にも悪影響ですし貴方の敵対者がもしも私達の家に銃や刃物を持って乗り込んで来たらと考えると……凄く怖いんです。けれども貴方との日々がかけがえのない素晴らしい記憶だったのもまた事実です………。本当にごめんなさい玄次さん……。
零子より】
ところどころに水滴がついたその手紙を握り締めて玄次は自分一人だけとなった家で泣いた…。
「はぁ…。全く悲しいもんだぜ。なぁ大吉。オメェさん以外に気にされねぇで俺は死ぬなんてよ」
「確かにアンタの人生悲しいな。だが孤独死なんてそう珍しい話じゃない」
「……誰だテメェは?」
今まで話していた大吉の姿は消え水色の服に身を包んだ少年がベッドに寝ていた。
そのまま少年は立ち上がる。
「マーレ。この世界と違う世界の住人さ。暇潰しに余命幾許もない老人の話を聞くのは中々面白かったよ」
「フッ……。大吉なんて存在せず最初からオメェさんと話してたってわけかい」
「そう言うことだ。話が早くて助かる。そんなアンタに届けたい物があるんだ」
マーレは自分の手の上に紫色の勾玉を乗せ玄次の前に差し出す。
「なんだそのハイカラなもんは……?。今の
「ガキの遊び道具……か、まぁ間違ってはいないなゲーム参加者の割合は子供のが多いいし」
「勘弁してくれねぇか。生まれてこの方ゲームなんて遊戯に勤しんだ事はねぇんだ、あんのは隠れんぼやメンコやカルタよ。況してやガキが多いだと?爺の俺は浮くだけだ」
「尤ももうすぐくたばるから無理だが」と玄次は付け加えた。
「諦めるのはまだ早いぞ玄次。この勾玉は生命の神秘そのもの。この世とはまた別の世界の生物の力が凝縮され尋常ではない生命力を有する」
「そりゃまたでっけぇ話だ。けぇんな。ホラ話信じる程俺はボケてねぇぞ」
「ホラ等ではない」
抑揚なく言うとマーレは紫色の勾玉を浮かせ……玄次の心臓の部分から勾玉を彼の体へいれた。
「お、オメェ!。何しやがんだ!?」
「言うより実際にやって見せた方が早いだろ?」
勾玉が完全に入った瞬間、玄次の頭の中に大きなカメレオンのような生物の動く風景が飛び込んできた。
しかし初めて見る異形の生物の姿を彼は勾玉から与えられた情報で瞬時に理解する。
『霞龍オオナズチ』
不可視の神仙とも呼ばれる古龍種で、滅多に人前に姿は現さないという。
毒を吐き、擬態化して風景に溶け込む能力はさながら現実世界のカメレオンのようだ。
ギョロギョロと目を動かし、獣人種のメラルーのにゃんにゃん棒をベロで取り上げたところで光景は終わった。
「ははははっ……!。80年生きててこんなの初めて見たぞ。長生きするもんだな」
呆気にとられる玄次だがもう1つ自分の『異変』に気づいた。
「若返ってるだと……!?」
それも自分が一番運動神経が高い頃と思われる時だ…年端にして18ぐらいだろうか。
「それが勾玉の為す力だ。さて玄次、お前を縛る老いや病魔は消え去った。霞龍オオナズチと共に『プリマ・ツァーリゲーム』を制し究極の
霞龍の召喚の勾玉を乗せながら再度、マーレは手を差し出した。
「あたりめぇよ。こんな面白い遊び断ったら損だぜ」
笑いながら今度は確実に勾玉を自分の手で掴みとる玄次。
「第二の人生の始まりだぜ」
生まれ変わった様な清々しさが彼を包む。