※この作品はR-18です。

ちょっとした思いつき(R指定)   作:歩輪気

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パラレルワールドのお話です。

オリキャラ、オリジナル設定、キャラ崩壊あります。

エロは中盤です。

話し方とか設定とか、元の小説のキャラと違和感や矛盾があったらすみません。
舞台としては小説のちょっと後です。


ちょっとした思いつき(R指定)その14

 

「……き、緊張……しますね」

「……ああ、はい」

 

 その日、怪獣娘シーボーズこと滑川シイナは、恋人である淳茂が暮らす一軒家に遊びに来ていた。今はその2階にある彼の部屋にて、布団の上で下着姿になり、両腕で露になった胸部を隠しながらぺたんこ座りの姿勢で顔を真っ赤にして俯いていた。淳茂とは向かい合う形で座っているうえに、彼もパンツ1枚の正座姿である。足元横には極薄とだけ書かれた1枚の仏の手紙が置かれている。

 

「あの、私も……こういうのは本っ当に初めてなので……手加減、してください」

「……いえ、こちらこそ」

 

 額縁に飾られた白いボロ布を纏った骸の絵画が2人を睨むなか、シイナがそう言うと、淳茂は目線を逸らしながら頷く。机に置かれた白金の懐炉はその一部始終を見守るように、室内の暗い光を少しだけ跳ね返していた。

 

 2人が何故裸なのか、それは以前シイナが彼と一緒に鎌倉のとある墓地を散歩していた時まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 彼女、滑川シイナは亡霊怪獣シーボーズの魂を宿して生まれた怪獣娘であり、大怪獣ファイトのファイターでもある。

 そして彼、淳茂はシイナの恋人であり、彼女と同い年の学生である。

 

 2人の出会いは、シイナが淳茂にとある甘味処の場所を尋ねたことが最初であった。何でも、そこは食べログにもネットにも載っていない知る人ぞ知る甘味処らしく、噂を聞いた海外出身のファイター仲間が1度でいいから食べてみたいとシイナに相談したのだとか。

 そして偶然にも道を聞かれ、場所を知っていた彼が案内したのだが、どうやら途中で道に迷ってしまったようで、数十分掛けてやっとの思いでたどり着いたのだ。

 

『すみません、案内するつもりが遠回りになってしまって』

『い、いえ……』

『はーい、お待たせしましたー。お土産用の餡子と栗とずんだのセットです』

『ありがとうございます』

『で、こちらがあんこ大福4つですねー。ごゆっくりー』

 

 店員の女性は袋に詰めた箱とあんこ大福の乗った皿2つを渡すと、ニコッと笑って店の中へ戻って行った。

 この甘味処は、大通りから少し離れた小道の途中にひっそりと佇む小さな店であり、知らぬ観光客ならその存在に気づかず通り過ぎてしまうほど存在感が薄い。いや、寧ろ意図的に姿を消していると言っていいだろう。

 

『……大福というのは腹持ちが良いとされているそうです』

『そうなんですか?』

『ええそうです。死んだ祖父も、朝に大福1つで昼まで腹が持つ、といつも云っていましたから。といっても1つで一食分になるとは僕は思いませんが、現にこうして食べると美味いもので、食って腹が膨れるのは確かです』

『はぁ……?』

 

 赤い布が敷かれた床机に並んで座るなか、淳茂は大福について豆知識を語り、シイナは首を傾げながらその話を聴く。初対面な上にいきなりそんなこと話されれば困惑するのも無理はない。

 

 グゥ〜……

 

『あ……』

『いい鳴き声だ。ほら、遠慮せずに食べてください』

『でも』

『案内すると言ったのに迷子に付き合わせてしまったせめてもの礼です。受け取ってください』

『じゃ、じゃあ……』

 

 シイナは両手で淳茂から皿を受け取り、白くて丸々と太った大福を右手で掴んで1口齧る。中のこしあんと厚い皮は噛めば噛むほど甘みを出しており、口の中でふわっとしたのちに溶けていく。

 

『どうでしょう?』

『……お、美味しい。こんなに美味しい大福初めてです』

『そうでしょう。ここの大福は知る人ぞ知る甘味ですから。僕も週に1回は必ず行くものです』

『……週1で行くのに迷ったんですか?』

『いやー、道を覚えるのは得意な方なのですが、ここだけは存在感と言いますか、気配が無さすぎてどうしても見つけられないのです』

『そうですか』

『ええ、しかし可笑しいんですよ。ここの気配が分からないのは僕と父と祖父だけで、バイト先の方々含め我々以外の人は見つけてしまうのです。おかげでここの店主からは方向音痴ならぬ3代目大福音痴之助と、これまた捻りのないつまらぬあだ名で呼ばれています。3世代揃って迷子になる始末ですよ』

『……ふふ』

 

 淳茂の言葉に、シイナは思わず笑った。そんなシイナを、彼は笑顔で見つめた。

 

『あ、すみません……』

『何を言いますか、笑うことはいいことですよ。人間は笑顔の時が1番気分がいいのです。そこに甘味が加われば天下無敵です』

 

 淳茂は大福を天に向けて掲げながら語る。笑いながら甘味を食らうのは最上の幸福、そんな可笑しな謎理論を大福を食べながら楽しそうに話す彼の横姿に、シイナは自然と見蕩れていた。

 

『…………』

『どうしました?』

『あ、いえ……なんでもないです』

 

 シイナは慌てて目を逸らす。

 

『そうだ、良かったらこれから一緒に甘味処を周りませんか?』

『え、甘味処?』

『はい。ここいらには観光サイトやらマップに乗っていないような美味い甘味を扱う店が仰山あるんです。あ、ご安心を。ここ以外の店の場所はちゃんと覚えています』

『でも……』

『ここで逢えたのも何かのご縁というものです。お金は僕が出しますので。それに祖父から『初めて知り合った人には菓子を奢ってもてなせ』と小さい頃から言われてきましたから。これくらいさせてください』

 

 淳茂の言葉にシイナは少し困惑する。別に今から急ぎの用事があるわけではないが、流石に出会ったばかりの人に案内をしてもらったうえに、さらに何かを奢ってもらうのは引け目を感じる。

 かと云って、奢るとまで言ってくれた相手の提案を断るのもそれはそれで悪いと感じた。それにシイナ自身、長い迷子活動で胃の中は空っぽになってしまっており、大福の1つや2つでは動力源にすらならない。ましてやシイナは怪獣娘でファイターである、その食欲は怪獣の如く底が深い。

 

『……分かりました、お願いします』

『ホントですか?ありがとうございます』

 

 シイナが答えると、淳茂は嬉しそうに笑って礼を言う。

 

『ささ、どんどん食べてください』

『は、はい』

 

 シイナは勧められるがままにもう片方の手に大福を持ち、両手のそれを交互にかぶりつく。

 

『(綺麗な人だ。菊の花が似合うに違いない)』

 

 そんなシイナの横姿に、淳茂は見蕩れていたのだが、その事を彼女が気がつくことは無かった。

 

『……あ、そういえばまだ名を名乗っていませんでした。僕の名前は淳茂(あつしげ)といいます。皆からは淳(あつ)を音読みにして淳(じゅん)と呼ばれています。茂の方を呼ぶ方もいますが、僕は淳の方が慣れているのでこちらでお願いします』

『んぐ……し、シイナです』

『シイナさんですか、粃。骸のように透き通ったいい名前だ』

『む、むくろ?』

『おっと、すみません。今のは忘れてください』

 

 その後、シイナは淳茂と共に秘密の甘味処を食べ歩いた。

 

 ……と、これが2人の馴れ初めであり、互いの恋を芽吹かせる要因になった一時である。それから2人は友人として時間を見つけては待ち合わせをし、知る人ぞ知る甘味処で菓子を楽しみ、時折電車で先祖の眠る墓地まで足を運んでは、そこで先祖に手を合わせて自然を堪能した。その積み重ねの結果、2人は恋仲になり、一層仲を深めた。と言っても、互いに頬を染め合うような愛の告白をしたとかそういうのはなく、自然な流れで交際に発展したのだ。

 また、恋仲と言ってもお洒落を決めてデートに出かけたり、常に一緒にイチャイチャするような関係ではなく、神社でのんびり過ごしたり、そこで持参した紙芝居を披露したり、時々公園で子どもたちにサッカーを教えたり、彼女のランニングに付き合ったり、寺の住職から話を聞いたりと、比較的プラトニックな関係であった。

 

 あと、たまに夕方頃に関内の木に藁でできた人形が突き刺されているのを目撃しては、2人で声を上げた。

 

『はー、今の時代でもあの方法をやる人がいるんですね』

『感心してる場合じゃないです!早く逃げましょう!』

 

 さて、2人についてはここまで語れば十分と思われるので、話を本筋に戻そう。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

「相変わらず涼しいですねー、ここ」

「風向きや立地の関係で風が通りやすいものですから。これなら眠るご先祖さま達も夏の暑さに悩む必要もありませんな」

「そうですね」

 

 淳茂の言葉にシイナは笑みを返す。

 ここは鎌倉市内にあるとある広い墓地。その道中で、シイナと淳茂は涼しい格好でいつもの墓地散歩をしていた。本日の気温は30℃と、夏直前にしてはやけに暑い陽射し日和である。しかしこの墓地は造られた場所の関係でいつも風が通っており、また、生い茂る木々達によって沢山の日影があるため、他の場所に比べるとかなり涼しいのだ。

 

「そう言えばこの前渡したお土産の串団子、あれどうでした?」

「はい、コーチもファイター仲間の皆も喜んで食べてくれました」

「それは良かった」

 

 お土産の串団子とは、以前シイナが大怪獣ファイトへ出場するために南太平洋にあるジョンスン島へ旅立つ際に、淳茂が関係者への手土産として渡した、一部のマニアが集う団子屋の串団子(こしあん)のことである。彼は月一のペースで、シイナがジョンスン島へ旅立つ時に皆への手土産として秘密の甘味処のお菓子を渡しているのだ。理由は彼いわく『沢山動く人には甘いものをあげるといいから』とのこと。持ち込み等に関しては事前に申請を終えているので安心していただきたい。

 

「あそこの餡子は口の中に入れた瞬間甘さが広がる絶品物ですから、格闘家の皆の口にも合うと思ってました」

「はい。でも美味しすぎてヒロミさんが1人で2箱食べちゃって……」

「おや、それは大した健啖家ですね」

 

 シイナの話では、付き添いで来ていたコーチの知り合いのとある女性が、串団子を覆うこし餡の味の虜になってしまったそうで、皆に用意した分の2割を1人で完食してしまったらしいのだ。

 

「しかし2箱完食するとは……今度その方に是非あの団子屋を紹介したいものです」

「でも、あそこのことがみんなに知れ渡るかも知れませんよ?」

「うーん、それはそれで困りますなー。あそこの店は商売目的でやっているわけではありませんから」

 

 淳茂は少し苦笑いを浮かべながら頭をかく。

 

「しかし怪獣娘でないのにあれを2箱かー……寝太りにはならないよう気をつけて欲しいですね」

「……ふ」

「ん?どうしました?」

「いえ……ちょっと、あの時のこと思い出しちゃって」

 

 シイナは弾む笑みを零す。

 あの時のこととは、シイナが淳茂と付き合い始めて数ヶ月が経った日のこと、シイナが彼に自分が怪獣娘であることを告げた日のことである。シイナ自身、怪獣娘として生きることを決めているとはいえ、果たして彼が怪獣娘について理解のある人か、怖くて聞き出せていなかった。が、これからの事を考えれば話しておかなければならないと考え、勇気を振り絞って告白したのだ。

 その結果、返ってきた答えは……

 

『黒眚坊主とは妖怪の一種か何かで?』

『……はい?』

 

 というものだった。どうやら、彼は理解以前に怪獣娘という言葉自体どう言ったものか知らなかったようだ。勿論、シーボーズという言葉も知らなかった。まだまだアマチュアとはいえ、大怪獣ファイトの選手でも知らない者はいないシーボーズの名も、彼の頭にはこれっぽっちも残っていなかったようだ。

 

「あの時はビックリしました。まさか怪獣娘すら知らなかったなんて、オマケに妖怪扱いされて」

「いやぁ、怪獣については触れる機会が多いのですが、何せ怪獣娘の方は全く興味がわかなかったもので……しかし、シーというのでてっきり獣の類かと思いましたが、まさか海坊主だったとは」

「もう、少しは私の身にもなってください」

「面目無い」

 

 淳茂は前を見ながら苦い顔を浮かべる。彼は興味が無いことはとことん記憶から排除してしまう性格だったために、怪獣娘のことなどすっかり頭の中から消えていたらしい。

 

「でも、怖くなかったんですか?」

「怖いも何も、怪獣がいるのですから、怪獣娘のような存在がいても不思議ではないでしょう。何を怖がるというのです」

「……そういうことをサラッと言えるの、淳さんのいい所ですね」

「ん?」

「い、いいえ、何も」

 

 淳茂が聞き返すが、シイナは笑顔でそっぽを向いて誤魔化す。

 彼は怪獣娘のことを全く知らなかったが、シイナにとっては却ってプラスに働いたようで、彼は怪獣娘がどう言ったものかをスンナリと理解し、シイナとも以前と変わらない付き合いを続けていた。

 

 

 

 その後も、2人は他愛もない日常談を交わしながら、あっちへこっちへと墓地の中を歩く。

 

「ここを出たら近くの古本屋に入りましょう。あそこの店主の怪談はいつ聞いても面白いので」

「……そうですね」

 

 しばらく経ってから、淳茂はシイナに提案を持ちかける。普段の彼女ならここでも嬉しそうに受け答えをするのだが、今の彼女は先程と違い、どこか深刻そうな表情をとっていた。

 

「どうしました?急に元気がなくなって。体調が優れないとか」

「いえ、違うんです……あの、淳さん」

「ん?」

「本当にこうやって散歩してていいんですか?」

「何か変なことでも?」

「……クラブの大会、近いんですよね?」

「……バレていましたか」

「おばさんから電話があったんです。淳さんが試合前なのに敵前逃亡してるって」

「敵前逃亡とは……うちの母親は相変わらず言い方が悪い」

 

 墓地の隅にある木影の辺りで立ち止まると、淳茂は疲れたようなため息を吐く。

 

 実は、淳茂は来週に所属している紙芝居クラブの大事な大会があるのだ。一体どんなことを行うクラブなのかは、ここでは省略させて頂く。しかしそのプレッシャーは強いようで、彼はその準備から少しだけ逃げるように、シイナとデートをしていた。

 

「既に準備は整っているのですが、果たして実力を出せるのか、皆に話の魅力が伝わるのか、どうも不安が頭の中を駆け巡るのです」

「やっぱり不安ですよね、試合とかって。分かります、わたしもそうですから」

 

 シイナは笑みを浮かべると、彼に共感するような言葉を漏らす。シイナもガールズサッカーチームや大怪獣ファイトの経験で、試合前のプレッシャーがどういうものかは理解していた。

 

「でもこのままじゃダメですよ。ちゃんと克服しないと」

「そうですなー」

 

 シイナはこのままではいけないと言い放ち、彼もその考えに頷いた。

 その後、2人は木影の下で、どうやれば不安を克服して試合に挑めるのか、数十分間頭の中をぐるぐる回しながら考えた。

 

「うーん……ここはやはり何か目標を立てるべきか」

「じゃあ、ご褒美はどうですか?」

「自分への褒美ですか。しかし自分で自分への褒美というのは……」

「いえ、その……私から淳さんへ何かご褒美をあげる……と言う意味で」

「シイさんがですか?」

「はい」

「しかしシイさんにしてもらうようなことは特に……」

「じゃあ、もし大会で勝ったら何でも一つだけ言うことを聞きます。これならどうですか?」

「なんでもですか?」

「はい、なんでも……き、キスでもいい……ですよ」

 

 シイナはモジモジとしながら話す。彼とは一定の距離感でお付き合いをしていたが、もうそろそろキスの1つや2つもやってみたいと考えていたのだ。

 

「はー……なんでも……」

 

 そんなことを顔を赤くしながら考えるシイナの気持ちなど知らんかのように、淳茂は頭上の緑葉をボーッと見ながら腕を組んで考え込む。そして暫く経った後、ハッと何かを思いついたかのように手を叩く。

 

「それじゃあ僕と同衾してもらえますか?」

「同衾?はい、分かりました……は、ど、同衾って……え!?」

 

 彼の口から放たれた言葉に、シイナは一瞬呆気に取られ、すぐさま泡を食う。

 そう、驚いたことに、彼はシイナとの同衾……すなわち、同じ布団で寝て、色事をしたいと言い出したのだ。いつもの彼からは想像もできないような爆弾発言に、流石のシイナも顔を真っ赤にしながら焦った。

 

「で、でも……いくらなんでもそれは……」

「何を言いますか、なんでもと言ったのはそっちでしょう。それに今の時代、自らの乳を見せることを餌に男子部員のやる気を上げる球技部の顧問もいるのです。何のおかしいこともありません」

「そ、それはフィクションの話です!ていうか乳って…………もう」

 

 シイナは怒ったようにそっぽを向く。淳茂が声をかけるが、彼女は一向に振り向こうとしない。そんな状況が数十秒続いた。

 

「(……流石にからかいすぎたかな)」

 

 淳茂は心の中で頭を搔く。

 そういったことに慣れていないシイナの反応が面白くてつい下品なことを言ってしまったが、流石に一女性である彼女にはキツすぎたようだ。

 

「……すみません、さっきのはただの冗「いいですよ」そうですか……はい?」

「だ、だから……大会で勝ったら……そういうこと…………しても、いいよ?」

「……はい」

 

 風が通り過ぎて葉を揺らす中、顔を真っ赤にしながらゆっくり振り向き、やや押し気味に答えたシイナの言葉に、彼はただ一言、はい、と答えた。

 

 

 

 それからというもの、淳茂は色んな意味で大会に向けて只管練習を続けた。何故か関係の無い本屋でのアルバイトにも精を出した。

 

 

 

 一方シイナは……

 

『しいちゃん』

『……はんへふはへふはん?』モグモグッ

『せめてカツ丼とスルメは別々に食べた方がいいんじゃないかな』

『ゴクンッ……ダメですか?』

『試合前日のスルメは縁起が悪いらしいよ』

『いえ、これは私のじゃないんで』

『?』

 

 カツ丼とスルメ、鰹節をまぶしたお茶漬け(山盛りのご飯)、柿とバナナのミックスフルーツなど、ゲンを担ぎたいのか担ぎたくないのかよく分からない組み合わせのものを試合前に食べていた、その光景に彼女の友人は首を傾げていたとか。

 

 

 

 …………そして結果だが、結論から云うと、彼は無事に大会に勝った。しかもシイナとの約束の影響か、歴代のクラブ会員の中でも最高の記録を残す結果となったのだ。なんというか、どうも思春期の男児というのはこういうことに単純なようだ。

 

『……エッチ』

『どないしたんシーボーズちゃん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 で、それから約数週間が経ち、冒頭に戻る。今日は優勝の約束である同衾を彼の家で行おうとしているところなのだ。彼の家族は行事でいないため、今日は夜までたっぷりと遊べる。と云っても、2人ともこのような桃色ごとを行うのは初めてなので、果たして時間を有意義に活用できるかは定かなではない。

 

「……と、とりあえず、まずは何から?」

「あ、私から……私から行きます」

「はぁ……」

 

 四方位に置かれた棚に詰められた古本が2人を背後から圧迫する中、シーボーズは膝歩きで1尺ほど彼の元まで近づく。

 

「そ、それじゃあ……キス、します」

「は、はい」

「あ、目は瞑ってください」

「はい、分かりました」

 

 シイナは膝を少し伸ばす。

 

「……ん」

 

 そして彼の両肩に手を乗せて、そのまま目を瞑って顔を近づけ、彼の唇に自分の唇を重ね、接吻を交わす。シイナのややぼさっとした長髪が彼の顔にかかり、菊の花の良い香りで包み込む。

 

 …………クッ

 

「んん!」

 

 途中で彼はシイナの後頭部に手を添えると、そのまま自分の顔に少しだけ強く押し付ける。お互いの舌先を口内で暴れさせ、甘みのある唾液を絡め合う。

 

「ぷはぁ……」

 

 シイナが口を離すと、2人の舌先で唾液が糸を引いた。

 

「……ファーストキス……とっても甘い」

 

 瞳を潤ませながら、シイナはポーっとした顔で答えた。

 

「……さっき飲んだ甘酒のせいかと」

「……ふいんき、ぶち壊しです」

「すみません」

 

 折角いい感じの雰囲気だというのに、真面目に甘酒の話で返され、出鼻を挫かれたシイナは出かけた涙を引っ込め、再び胸元を両腕で隠す。

 

「それじゃあ、今度はどうします?」

「あ、では六九というのはどうでしょうか?」

「六九?なんですかそれ?」

「はい、以前祖父の残した艶本を拝借したのですが、そこに載っていたのです。こう、女性が相手の顔に自らの股をつけて、それで互いの性器を舐め合うというものです。太陰太極図みたいな形で」

「……六九ってあれですか」

 

 淳茂の言う六九とは、性行為のプレイの一つであるシックスナインのことであった。

 

「どうでしょう?」

「……流石にお、おちんちんを咥えるのはまだ……私もあそこを舐められるのは……」

「そうですか……分かりました」

 

 シイナの答えに、淳茂は少し残念そうに俯く。しばらくして彼は顔を上げ、真剣な表情でシイナに、

 

「……では、乳舐めはどうでしょうか?」

 

 と謂った。

 

「ち、乳な……」

 

 当然といえば当然か、シイナはその一言に顔を赤くし、目を回しそうになる。乳舐めという直球な言葉もそうだが、それを真面目な顔で発言する彼のおかしさに脳が追いつけないでいた。

 

「乳舐めもダメでしょうか……」

「……や、やります。折角約束したんですから。今日は淳さんの言いなりになります」

「い、言いなりというのは少し人聞きが悪い気もしますが……分かりました」

 

 淳茂はパンツ1枚の裸姿で姿勢を整え、間近にあるシイナの顔をじっと見つめる。その気迫から彼の覚悟を感じ取ったのか、シイナは胸元を覆っている腕を退かし、その胸を彼に露にした。

 大き過ぎず、小さ過ぎない、程よい大きさ持ちつつ、整った山の形を保つ彼女の2つの胸部。その先端には、薄桃色の乳首が小さく突起していた。

 

「……」

「あの……じっと見られるのは、恥ずかしいです」

「あ、す、すみません……では、いきます」

「は、はい……お願いします」

 

 シイナはギュッと目を瞑り、震えながら身構える。彼も背中を丸めてを前のめりになり、彼女の胸に顔を近づけ、

 

 ……チュッ

 

「んん……」

 

 その桃を一吸いする。生まれてこの方乳首など吸われたこともなかったシイナは、胸の先から伝わる刺激に声を漏らし、身体を跳ねさせる。

 

「ん、んん……んっ♥」

 

 一吸い、また一吸いと乳首を頬張る彼の乳吸いはぎこちないものであったが、そのこそばゆさは、シイナの未熟な性感を刺激するには充分であったようで、彼女は吸われる度に堪えた甘い声を漏らしていた。

 

 チュッ、チュウッ……レロッ

 

「はぁっ……あっ♥」

 

 ある程度吸ったところで、彼は舌先を使い、彼女の乳頭の付け根辺りを撫でるように舐める。乳輪のつぶつぶとしたモノが唾液で滑りけを帯びた彼の舌で舐め上げられ、その感覚にシイナは声を抑えることが出来ず、口を開いて嬌声を上げる。

 

「あっ……んっ♥」

 

 暫くすると、乳首責めだけでは満たされなくなったのか、シイナの右手は無意識のうちに股間へと伸ばされ、下着越しに陰核を指先でクリクリと弄り始める。1度も剥いたことの無い陰核を指で押す度に、股から突き上げられるような痛覚が身体を駆け巡り、それをシイナは涙と肛門を閉めることによってグッと耐える。

 

 クチュッ

 

 また暫くすると、シイナの下着に水気のある、粘りついたものが染み込んでいた。これは所謂肉の水、ならぬ愛液というものであり、これが出たということは、彼女のまんこが彼の茎を受け入れる準備が整ったということである。

 

「……も、もうそろそろいいんじゃないでしょうか?」

「は、はぃ……」

 

 彼は吸っていたシイナの乳頭から口を離し、恐る恐る彼女に言う。シイナはシイナで未知の快感を続けざまに流されたせいか、ぽーっとしながら弱々しく答えた。

 

「で、では……早速これを」

 

 そう言うと、淳茂ら膝立ちで立ち上がり、纏っている下着を下ろし、勃起した陰茎をシイナの目の前で露にした。

 

「あ、おちんちん……え……きゃあぁぁぁぁ!な、なんでいきなり下ろすんですか!」

 

 そのそそり立つ亀の頭を持った太い茎に、シイナは数秒間見つめ、すぐさま意識を戻し、乙女の叫びを上げた。

 

「あ、いや、もうそろそろ頃合かと思いまして」

「だ、だからって下ろさなくても……わぁ」

 

 シイナは顔を逸らしつつも、勃起する淳茂の陰茎にチラチラと目を奪われる。彼女自身も、男性の陰部をこの目で見ることなど早々なく、今までだと、幼少期に風呂場で見た父の生い茂る一物か、男子の着替える教室に間違えて入室してしまった際に見た象の群れぐらいである。こんな太いものが自分の体の中に入る、そう思うだけでも、シイナは恐怖とトキメキに心を震わせた。

 

「つ、次は……どうするんですか?」

「はい、艶本の内容が正しければ……これをつけるみたいです」

 

 淳茂は足元に置いておいた小さな袋をシイナに見せる。この極薄と書かれた仏の手紙、もとい極薄のコンドームは、淳茂がクラブ仲間から密かに貰ったものである。

 

「…………」

「あ、もしあれでしたら、僕はあっちを向きます。僕も見られながらやると上手く出来ないと思うので」

「あ、はい」

 

 シイナが答えると、淳茂は身体を真反対に向け、コンドームの袋を開封する。ゴム特有の鼻をツンとさせる匂いに淳茂は顔を顰めつつ、潤滑剤に塗れたそれの輪を伸ばし、陰茎へと装着させる。彼自身もコンドームを見るのも使うのも初めてなためか、上手く亀に輪を被せることができない。

 そしてようやく出来たかと思えば、興奮が冷めたせいか、茎はすっかりやわやわになってしまった。

 

「あー、これは……」

「つけにくいですか?」

「いえ、大丈夫です。これくらいは自分で」

「……つけますよ?」

「いや、そんな、シイさんの手を煩わせるようなことでは」

「今日は、2人の初めてなので……そういうことも、やっていいと思います」

「……じゃ、じゃあ、お願いします」

 

 淳茂は背中で返答すると身体をシイナに向き直し、彼女の目の前に亀にコンドームを被らせた萎れた茎を見せる。彼女もまたコンドームの匂いに顔を顰め、彼の股から生えた異様なものに視線を奪われる。

 

「……えっと、これはどうすれば」

「まずは勃起させます。それからゴムが破れないように輪を根元の方に」

 

 淳茂が説明する中、シイナは彼の陰部をじっと見つめていた。

 

「(これが男の人の……ちょっとグロい)」

 

 父のイチモツ、そして教室にいた子象の群れ、あやふやに覚えていたそれらとは違い、今目の前では、男の象徴たる陰茎がゴムを被っている。母もこうやって父のモノを握ったのかと考えながら、シイナは両手を伸ばし、萎れる茎をぎゅうっと締める。

 手の平よりも熱い彼のブツを、シイナは生暖かい息を吐きながら、手で上下にゆっくりと擦る。すると少しの凹凸がある海綿体に血液が回りその熱を増して、再び彼の茎を太く立ち上がらせた。その隙にシイナはゴムを根元まで下げ、コンドームを装着させる。

 淳茂は淳茂で、彼女にこのようなことまでさせてしまったことに罪悪感を感じながら、コンドーム装着の行く末を見ていた。

 

「……出来ました」

「ありがとうございます……えっと、この先は」

「……じゃあ、淳さんからでお願いします」

「……分かりました」

 

 互いに頷くと、シイナと淳茂は唯一纏っていたパンツを脱ぎ捨てる。シイナは股を少し開きながら敷布団に仰向けになるように寝そべり、その上に彼が彼女の身体を重ねるように覆い被さる。

 

「……こ、こうやって一緒に寝るのは、初めてですね」

「え、ええ……まさか自分でもこういうことをやる日が来るとは……」

 

 性行為以前に、一緒に寝たことすらなかった2人は、この前段階の時点で既に緊張し、心臓の鼓動を高鳴させた。

 

「い、いきます」

「……はい」

「あ、痛かったら何時でも言ってください」

 

 シイナを気遣いながら、淳茂は彼女の股の割れ目に亀を擦り付ける。勃起して硬くなった亀は縦の唇を謎り、時折陰核をつついた。

 

 ピチュッ…………ズプ……ププ……

 

「んク……うぐ……うぅ」

 

 そしてある程度位置を決めると、淳茂は膣穴に亀頭をあてがい、少しずつ中へと押し込んでいく。シイナの膣穴は亀頭の大きさに比べて小さいもので、亀をゴルフボールとするなら、彼女の膣穴はビー玉より一回り小さいくらいの直径しかない。そこへ太くて長いものを挿入されるのだから、その異物感とこじ開けられる痛みは想像を絶するものだろう。現に今、彼女は目を瞑り、口を閉じ、声を必死に抑えながら耐えてはいるが、両目尻からは既に大粒の涙が流れている。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「い、だ……じ……です」

 

 心配する淳茂に、シイナは無理やり作った笑顔で答えようとするが、彼女の表情はどう見ても痛みに耐える苦笑いにしか見えなかった。

 

「先が全て入りました。頑張ってください」

「は、はい……うっ」

 

 苦しそうに答えるシイナに気を遣いつつ、淳茂は陰茎を彼女の中へと押し込んでいく。控えめなスタイルとはいえ彼女も大怪獣ファイトの一ファイターであり、肉の付くその身体の内側の筋肉は鍛えられている。が、今回はそのことが災いしたのか、彼女の膣内は一般的な思春期の少女に比べて締まりきっていた。そのため、この締めた肉道を太い茎がこじ開けようと捻りこまれる際に伝わる痛みは、先の亀を挿入された痛みを遥かに凌駕する。

 

「あ……だ……も……」

「もう少しです。もう少しで全部入るので、辛抱して下さい」

 

 今にも意識が飛びそうになるシイナに声掛けをしながら、淳茂は彼女の中へ陰茎の挿入を続ける。

 

 ズププッ……ずぶっ

 

「や……やっと入りました」

「や、やっと……」

 

 そしてついに、淳茂はシイナの膣に自らの陰茎を根元まで挿入することに成功する。度重なる戦を繰り広げて来た影響か、彼女の処女膜と呼べる膜は既に破れており、膣口周辺からの出血は見られなかった。しかし、処女膜などというのは所詮定義のない神秘めいたものであり、破れていおうが破れていまいが、痛いものは痛いのだ。

 

「(温かい……これが、淳さんの)」

 

 シイナはこじ開けられた痛みに顔を引き攣らせつつ、根元まで挿入された彼の陰茎の異物感と熱を膣全体で感じ取った。

 

「う、動きます……初めは怪我の恐れもあるらしいので、ゆっくりやります」

 

 淳茂が語りかけるなか、シイナは潤む細目で彼を見ながら頷く。今の彼女には痛みに叫ぶか黙って耐えるかの2択しかない。

 

 ぬっ……ずぶっずぶっ

 

 淳茂は一旦腰を引き、ゆっくりと前後に動かしていく。すりこぎ棒のように硬い彼の陰茎は、シイナのキツく締まりきった膣内を拡げようと奥へ奥へと突き進む。

 

「う……ん、んぅ……くぅ」

 

 狭い肉壁がミチミチという小さな音を立てながらこじ開けられ、中で粘液がコンドームの潤滑剤と擦れ合い、一際卑猥な水音を鳴らす。じゅぷっじゅぷっという水音の中に、時折鳥の胸肉を手で引き裂く際に聞こえる裂音が混じり、その痛々しさを辺りに伝える。

 

 ずちゅっ……ずぷっ……ずぷっ

 

「んん……いぅ」

 

 すりこぎ棒の先に着いた亀頭が卑猥な音を奏でながら膣の奥を何度も捻り開けてつつくなか、淳茂はそのエグい音にシイナを心配しつつ、陰茎を絞め潰されるような感覚に密かに快感を覚えた。

 一方シイナはと云うと、今までファイターとして活躍する中で味わった痛みとは比べ物にならない激痛に慣れずにいた。まるで内部で風船を膨らませ、そのまま股を裂くような勢いの痛みである。

 しかも淳茂はシイナのためにとゆっくりと腰を動かしているが、シイナにとっては閉ざされた穴をゆっくりと、じっくりと抉られているのと同じである。彼女にとっては寧ろ逆効果だった。

 

「し、シイさん、どうですか?」

「だい……ん、じょうぶ、です」

 

 途中、淳茂は陰茎を突き刺したまま腰の動きを止めて、真下にあるシイナの顔を見つめながら彼女に話しかける。

 が、未だに彼女は裂けられるような痛みと膣全体を内側から圧をかけられる異物感に呻き声を漏らしていた。しかし先程と違い返事ができているうえに、表情もどこか緩んできたのを見ると、徐々に彼のものを受け入れ始めたことが判る。

 

 ずぶっ……ぢゅぷっぢゅぽっ

 

 淳茂は再び腰を動かす。

 腰を引くと陰茎にピッタリと吸い付いた薄いコンドームに、肉壁をこじ開けた時に流れ出た少量の赤い血液と彼女の快感によって分泌された透明な愛液が付着していた。中の潤いが満たされ始めた証拠である。

 

「うっ……あ、ん……あぁ♥」

 

 暫く動かしていると、滑りが良くなり始めたのか、彼の茎とシイナの膣が擦れ合う音が水音と裂音の混じり物から、泡を立てるようななめらかな水音へと変化していた。

 またシイナも涙を流してはいるが、彼女の声は呻き声から性的刺激を感じる際に出す嬌声へと変わっていた。どうやら、彼女の締まりきった膣道が固い陰茎の形を記憶したため、ようやく彼のものを受け入れることができたようだ。

 

「あっ、あっ、あぁっ♥」

「シイさん、い、痛みは治まりましたか?」

「あん、は、はぃ……もう痛くはない、です……んん♥」

 

 痛みから解放され、中を掻き乱されることに性的快感を覚え始めたシイナは、喘ぎを漏らしながら淳茂に言葉を返す。

 

「あっ、あの……ん♥淳さん」

「は、はい?」

「……太もも……太ももを掴みながら、やって欲しいです……」

「ふ、太もも?……あ」

 

 淳茂は突然のシイナからの要望に一瞬固まり、すぐさま艶本で読んだものを思い出し、彼女の要求がどういうことかを理解する。

 

 ぬっ……ずむっ

 

「はぁっ♥」

 

 とりあえず淳茂は一旦身体を起こし、両手で彼女の両足の太ももを掴むと、再度陰茎を肉内へと突き刺した。体位的にさっきよりも茎が奥深くまで刺さっており、偶然にも彼の亀はシイナの腹部側の膣壁にある性感帯を擦り、彼女に高い姫声を上げさせた。

 

「だ、大丈夫……ですか?」

「だ、大丈夫……このままやってください」

「では……」

 

 淳茂は少々困惑しつつ、再び腰を揺らす。

 

 じゅぶっ……じゅぼっじゅぶっ

 

 彼の硬いすりこぎ棒は、ギチギチとした状態から解された膣内の肉を擦る。腰を手前に引いて襞を削り取るかと思えば、奥へ押し込み亀を彼女に突き刺す。流れは先と同じではあるが、その動きは滑らかで、水気を帯びた卑猥な音が高く響く。

 

「あっ、ん……」

 

 淳茂はシイナの引き締まった太腿を掴みつつ、一定のリズムを刻みながら彼女の尻に腰を打ちつける。彼も行為自体が初めてなので、腰を打つ強さも性感帯の刺激も手探り状態で行っている。そのせいか、シイナの身体には、いい所を突きそうで突かない、擽ったい感覚が流れている。

 

「あっ、……も、もっろ……く」

「はい?」

「もっろつよくやってください!」

「は、はい!」

 

 先程の痛みと今の擽ったさに脳内を掻き乱され、やや呂律が回らないなか、シイナは淳茂に叱咤に近い必死の要求をする。このこそばゆさ、最早彼女には耐え難いものになっていた。

 淳茂はいつもの彼女からは出ない叱咤に驚き、言われるがままに腰振りを強くする。

 

「あぁっ、あっ、あっ(さっきよりもちゃんと突いて……気持ちいい♥)」

「(これは……腰に来る……)」

 

 陰茎は先よりも激しく、強く膣を擦りあげ、シイナが感じるいい所を乱雑ながらも亀が突き上げる。ようやくやってきた快感に、シイナは身体を揺らし、両手で敷布団のシーツを掴みながら喘ぎ声を上げる。

 一方、淳茂は茎が無数の襞で撫でられる刺激に快感を得て入るものの、それ以上に慣れない腰振りで腰骨と腰周りの筋肉が悲鳴を上げかけていた。幾ら本屋で腰を鍛えられているとはいえ、それとこれとは別問題のようだ。

 

「あっ、あっ、あぁ♥」

「(まずい、しかしここでやめては……)」

 

 シイナが喘ぎ声を鳴らす中、淳茂は腰の痛みを耐えるために彼女の太腿を離し、そのまま両手を彼女の腰横辺りに置いて身体を支えながら腰振りを続ける。いくら大福音痴とはいえ彼も思春期を迎えた1人の男である。そう簡単に彼女に弱々しい所など見せたくないのだ。

 

 ずぽっ、ずぼっ、じゅぼっ

 

 水気のたった卑猥な音が響く途中、顔を横に向けたシイナは、視線の先に自分の膝下程の高さの鏡が置かれていることに気がつく。ふちの色からして、おそらく代々受け継いできたものか、骨董品店で購入したかと思われるその鏡には、彼氏と身体を交わらせながら涙を流す淫らな自分が写っていた。自分からは想像もできない自分自身の姿に、シイナは困惑しながらも、新たな何かを掴んだような笑みを心の中で浮かべた。

 

「し、シイさん……もうそろそろ」

「い、イクん……ですね?」

 

 シイナが問いかけると、淳茂は頷く。その頷きにシイナが了承の意味で頷き返すと、彼は限界の限り腰振りを速める。

 

「で、でる……!」

「はい、中に……」

 

 茎が一段と硬まり、吐精の準備を整えると、淳茂はシイナの尻肉に腰を大きく打ち付ける。

 

 パンっ!

 

「んんっ!!!…………♥」

 

 そして淳茂が大きな叩音を1つ鳴らし、彼女の奥に陰茎を突き刺した状態で腰振りを止めると、亀頭の先からやや白濁とした精液が外へと吐かれる。その一撃と突然襲う精液の熱さに、シイナは声を抑え、シーツを握りしめながら絶頂を迎える。

 

「(これが、淳さんの……)」

 

 シイナはびゅるびゅるという音を膣内で立てながら吐き出される精液の熱さをゴム越しに感じ取ると、身体の力を抜き、好きな彼のものを受け止めた。目には見えないが、先端は確実に膨らんでいた。

 

 数秒後、淳茂は精液を出し終えると、そのまま後ろに倒れるように彼女から一物を引き抜く。

 

「……はぁぁぁ…………」

 

 疲れを吐きながら、淳茂はやや赤く染まったコンドームの先端に溜まった自分の精液を見つめる。吐精を終えた後のすりこぎ棒は、彼女の膣内を貫いたとは思えないぐらい見事にへなれていた。

 次にシイナに目線を向けると、彼女は虚ろな目をしながら、膣穴から少量の愛液を垂れ流していた。

 

「シイさん……大丈夫ですか?」

 

 淳茂は話しかけるが、シイナは黙りしたまま答えなかった。

 おそらく彼女自身も初めての行為で疲れきっているのだろう、興奮の冷めた淳茂は冷静にそうと考えると、仰向けに倒れ、痛めた腰を伸ばす。彼自身も2回目を行う気力も腰の体力も残っていないため、今日はこれで終いになるだろうと考えた。

 

「……足りない……もっと……もっとください」

 

 ふと、シイナの声が聞こえたかと思うと、股下に何かが乗っかったような重みを感じ取る。

 

「……し、シイさん?」

 

 視線を股に向けると、そこには這い蹲るように手足を動かし、淳茂の身体に覆い被さろうとするシイナの姿があった。

 シイナは今、更なる刺激を求めて性器を疼かせていた。淳茂は彼女を気遣い、できるだけ痛くないよう腰をゆっくりと動かしていたが、それが却って大人しい彼女の性欲に悶々としたものを残してしまったようだ。彼女の解放された性欲はまだまだ満たされていなかったのだ。

 

「淳さん……これで終わるだなんて、言いませんよね?」

 

 笑みを浮かべながら迫り来るシイナの顔面に、淳茂は人生で初めて得体の知れない狂気を感じ取った。普段の大人しい彼女からは想像もできないこのオーラと眼力、まるで発情のツボを押された妖獣のようである。

 

「も、もう今日はこれで終いにしましょう。僕もこれ以上は立たないと思うので。シイさんも疲れているでしょう」

「……じゃあ、立たせればいいんですね」

 

 人の話を聞いていないような返答をすると、シイナは顔を引っ込め、頭がちょうど淳茂の股間辺りに来るように移動すると、

 

「はむっ」

「あっ!?」

 

 大口を開き、彼のへなへなになった陰茎を根元ごとかぶりつく。かぶりつくと言っても歯を立てているわけではなく、唇と口内で彼のへなった陰茎を包む。

 

「ん……ふっ」

「し、シイさん、そんなものを口にしたら体に毒……う」

 

 淳茂はやめるよう訴えるが、それを無視するようにシイナは頬張った陰部全体を吸いつくようにしゃぶりつく。

 彼の陰部は今、シイナの愛液と血液、そしてコンドームの潤滑液などで不味いという一言では云い表せない程のエグい臭いと味を持っている。本来ならこのようなものは口にした瞬間に吐き気で咳き込むはずなのだが、性欲に飢えた今のシイナにとっては、珍味にしか感じられなかった。

 

 ぢゅうっ、ぢゅぅ……じゅぶっ

 

 シイナは吐精したばかりで敏感になっている淳茂の陰部を容赦なくしゃぶり続ける。

 暫くすると、淳茂は興奮を取り戻したのか、陰茎を再び勃起させ始める。自分の口内で亀頭のついた茎が膨張する刺激を感じながら、シイナは徐々にしゃぶりつきからフェラチオの姿勢へと切り替える。

 

 じゅぼ……じゅぼっじゅぼっ

 

「ふっ、んふ♥ふっ♥」

 

 シイナは頭を上下に動かし、細い息を漏らしながら、頬をすぼめて口の中に彼の陰茎を出し入れさせる。1度膣内を掻き回したコンドームにはヌルヌルとした多量の愛液が付着しており、それが彼女のフェラチオをスムーズにさせていた。奥へ頬張る度にゴムの先端に溜まった精液が喉奥に押し付けられ、その熱をゴム越しに感じ取る。

 淳茂は手で彼女の頭を抑え、フェラチオを辞めさせようとするが、腰を痛めているせいか上手く力が入らず、また触る度にシイナが悪戯で亀の首裏を舐めるため、ただ彼女の頭を撫でているだけになってしまった。

 

「チュウ……ん、これでいいんですよね?」

 

 シイナは一吸い終えてから陰茎から口を離す。へなっていた淳茂の一物は見事に復活を遂げ、口内洗浄されたゴムがはち切れんばかりにその身を膨張させていた。

 

「続き、やりましょう?」

「い、あの、本当に腰が……」

 

 体力の限界を訴える淳茂、しかしその声はシイナの耳には届かない。シイナは手で自らの長髪をすきながら、膝立ちで彼の亀の口に膣穴が当たるように体制を切り替える。

 

 ……じゅぶっ!

 

「んんっ♥」

「あっ……」

 

 そしてシイナは腰を一気に降ろし、膣内に陰茎を挿入させる。先程と違い初回の痛みは既になく、陰茎が肉を掘りあげ、中へ突き進む刺激は彼女にとって快感へと変わっていた。

 

「はぁ、あっ、あ……すごく、いい♥」

 

 シイナはロケットに跨る要領で彼の身体にのしかかりながら、身体の中に収まる陰茎の熱を感じ取る。

 そして彼の腹部に手を置き、体を支えながら膝を使って腰を上下に揺らす。膣奥まで亀を届かせるために陰茎の根元まで腰を深く下ろす、その度に、彼女の尻肉が波を打つ肉音を鳴らし、程よい大きさの乳房が揺れる。

 

「あんっ……どうです淳さん……んっ♥気持ちいいですかぁ?♥」

「た、大変……良い香りで……」

 

 シイナは腰を振りながら前屈みになり、見下ろす形で淳茂に淫らな笑顔で微笑みかける。瞳からは快感から湧いた大量の涙が溢れ出ており、1粒1粒が頬を伝っては彼の顔に降り掛かる。

 淳茂はシイナの涙と茎を絞る肉襞を味わいながら、顔にかかった彼女のふんわりとした長髪から香るお香のような匂いに意識を朦朧とさせる。

 

「あっ、あ……んあ゛♥」

 

 淳茂の腰の痛みはピークに達し、とうとう動くことすら出来なくなる。そんな彼のことなどお構い無しに、シイナは激しく腰を揺らし、茎を根元からもぎ取るかのように彼の一物をほぐれた肉で虐め倒す。最早彼に抵抗する力も気力も湧かず、声を洩らす彼女の淫笑を呆然と眺めながら、ただ一方的に身体を喰われるしかなかった。

 

「シイさん、これ以上激しいとゴムが破れ……」

 

 淳茂は残った気力でシイナに忠告をする。しかし、それに対してシイナは甲高い喘ぎ声を上げるだけで、激しい腰振りが止まることはない。寧ろそれでも構わないとでも応えているかのように、シイナは恍惚感に満ちた表情で腰を振り続ける。その勢いは激しいもので、彼女が1回、2回と上下に身体を動かす度に、ギシギシという床が軋む音が響き、四方の古本が敷き詰められた本棚が微かに揺れる。かなりの重量がある棚が全て揺れるというのは、それだけ彼女は暴れるように跳ねているということなのだ。

 

「はぁ、はぁ、あっ、んあぁっ♥」

 

 まるで獣にでも取り憑かれたかのような喘ぎ声を上げながら、シイナは無我夢中で尻を打ち付け、陰茎を虐める。当然とは思うが、このような強い打ち付けは、ピークを達した淳茂の腰骨にとっては追い討ち地獄そのものである。ならシイナの腰も同様に痛めていると思われるが、彼女は格闘家であり、日々身体を鍛えている。そんな彼女の腰は1回や2回程度の色事ではそう簡単には砕けないのだ。

 

「シイさん……で……」

「はいぃ、んっ、私も、イきます」

 

 2度目の絶頂を迎えようと、シイナの膣内で暴れる茎と亀はその身を膨らませ、内側から圧をかける。圧によって肉壁は潰され、その刺激にシイナは狂うように身をよがらせながら腰振りを速める。

 

 じゅぶっ!じゅぶっ!……じゅぶんっ!

 

 数回うちつけた後、シイナは最後の一振と言わんばかりに尻肉を打ち付け、亀の頭を膣奥へと突き刺す。

 

「うっ……!」

「あぁぁぁぁ!……♥」

 

 そして淳茂とシイナは互いに絶頂を迎える。淳茂は再び膣内で精液を吐精させ、シイナはその熱と性感帯を潰される快感に乳房を揺らし、意識を飛ばす。

 コンドームによって直接は出されていないが、先の分も加えて亀頭の先は丸々と膨らみ、今も精液を吐き出し続けている。

 

「……へへっ」

 

 ゴム越しとはいえ、自分の中を白濁に染ようとビクビクと脈を打ちながら精液を吐き出す彼の陰部を、シイナは畝る肉襞から感じ取る。そして熱の篭った息を吐きながら淫らに笑うと、屍のように力を抜き、淳茂の身体に倒れ込み、胸を押し付ける。シイナのふわふわと跳ねる長髪が彼の顔を覆い、全体に汗とお香が混じった独特の匂いで包む。

 

「……お疲れ、さまです」

「……はい」

 

 そんな状況で、淳茂は右腕をシイナの背に回して軽く抱きしめ、労いの言葉をかけながら彼女の背を優しく叩く。それに甘えるように、冷静さを取り戻したシイナも彼の体に身を任せる。実を言うとこうやって抱きしめるのも2人にとっては初めてのことであり、お互いに内心少し恥ずかしいと感じていた。2人は疲れきった体を重ねながら、そのまま瞳を閉じた。こうして2人の初めての同衾は、シイナが一方的に精を抜き取る形で終えた。

 

「(……もう1回やりたい)」

 

 しかしシイナのタガが外れてしまった性欲は未だ収まっていなかった。さっきも言ったが、シイナは格闘家であり、身体を鍛えているため、その持久力は並大抵のものではない。つまり、あともう数回しなければ、彼女を満たすことはできないのだ。

 だが、これ以上は彼の体が持たないことは目に見えているので、陰部を疼かせながらもシイナは耐えていた。

 

「……あの、淳さん」

「はい?」

「エッチって、不思議ですね」

「……ええ、まあ」

「またしたいですね」

「はあ、そう……ですね。たまになら……うん」

「……じゃあ前借りということで……もう少しやってもいいですか?」

「はい……はい?」

 

 その後、自分の性欲に耐えられなかったシイナは何度も身体を揺らし、彼の精気が空になるまで吸い取った。

 淳茂は獣のように自らを貪ろうとするシイナの姿に諦めを感じ、大人しく彼女を受け入れ、ゴムが擦り切れる寸前まで喰われたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

「はぁ、私、なんであんな……うわぁ……」

「まあまあ、もう過ぎたことですから」

「でも、いくらなんでもあんなこと……本当にごめんなさい」

「いえ、元々僕から誘ったんですから、そんなに謝らないでください」

 

 涼しい風が吹くある日の正午、シイナと淳茂は、いつものように先祖の眠る墓地……から離れた場所にある甘味処の扉横に用意された床机に腰掛けていた。

 今日も2人は鎌倉を歩き、いつものように甘味処に立ち寄り、知る人ぞ知る甘い和菓子を口にしていた。そんな中、シイナは会話の中で、数週間前の初めて致した時のことを思い出し、理性を飛ばした獣のように彼を貪ったことを反省していた。淳茂自身はあまり気にしていないのだが、シイナは顔から火を噴くほど恥ずかしかったようだ。

 

「とりあえず、これでも食べて元気出してください」

 

 淳茂は先程注文して出された芋饅頭をシイナに差し出すが、シイナは首を横に振るだけだった。

 

「そんなに落ち込まないでください。僕は……シイさんとあのような行為ができて嬉しかったです」

 

 うーうーと唸るように手で顔を覆うシイナに、淳茂は彼女の背中に優しく触れながら励ます。励ましの言葉になっているかと云われればそうでもないような気もするが、これでも彼なりに考えたうえでの言葉だ。

 

「それに、あんなシイさんの一面も、僕は嫌いではありません」

 

 彼の一言にシイナは唸りをやめる。

 しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻したシイナは少しずつ顔を上げ、頬を少し赤くしながら、淳茂と顔を合わせて一緒に微笑し、芋饅頭を受け取った。

 この芋饅頭は、店主の故郷のとある地方で家庭料理として親しまれている芋の饅頭を生地で包んだものであり、その味はこの世のどの芋饅頭では到底及ばない絶品物だと、同じ芋饅頭を扱う他店から噂されているという。彼が彼女と初めてここに訪れた際に説明した裏話である。

 芋饅頭を食べ終えると、2人はともに注文した抹茶を飲んで一息つく。

 

「しかし、初めてであれとは……僕もまだまだ未熟なようです」

「……そういえば淳さん、白目剥いてませんでした?」

「それはまぁ、あれです。あの世を見ていたんです。でもこれはこれで貴重な体験になりました。シイさんにもお見せしたかったです」

「え、遠慮します……」

 

 行為中、シイナに何度も搾り取られた淳茂は、途中で気絶しては謎の暗闇に放り込まれていた。なんでも、そこには砂の地面が広がり、目の前で三途の川のような道をおどろおどろしいモノが列を生して進んでいたという。その光景はまさに彼が幼い頃から愛読していた書物に出てくるあの世そのものだったらしい。それが本物のあの世なのか、それとも彼の妄想なのか、それは不明である。しかし本人にとっては書物の中だけでしか知りえなかったあの世をこの目で見れたので、どちらにしても、それはそれで貴重な体験になったようだ。

 

「シイさんの方こそ、身体を痛めて試合に支障は出ませんでしたか?」

「いえ、全然。寧ろ前より軽くなった気がします。あと選手のみんなからは前より大人の女性になったって言われました」

「それは良かった」

 

 淳茂が精を取られて痩せこけた一方で、艶を出したシイナは初体験を終えたことにより、大人の女性へと近づいていた。その効果は早々に現れたらしく、仲間の殆どの怪獣娘達からは、彼女の持つ少し大人びたオーラを感じ取っていたようだ。

 

「まあ、初事は恋人がお互いの仲を深めるための行為と言いますし、恥ずかしがることはないのでしょう」

「……それ、官能小説の受け売りですよね?」

 

 シイナの言葉に淳茂は一瞬固まり、すぐさま顔だけを彼女に向けた。

 

「机に置いてあったので……あ、読んでませんよ?何となくそうなのかなーって思っただけで……」

 

 シイナが少しだけ恥ずかしそうに言うと、淳茂は失態を冒したと思い、苦笑を浮かべる。その官能小説は、彼が古本屋でお目当ての書物を漁るついでに購入したものなのだが、どうやら彼女には見られたくなかったようだ。

 

「いやぁ、艶本だけでは足りないと思い、買ってはみたのですが……まぐわいの描写でどうしても頭を抱えてしまうのです」

「そうなんですか?」

「はい……どの描写も、所謂アブノーマルというやつでして、電球のように太いものを後ろの穴に……どうやら適当に選んだことが仇になったようです」

「あ、アブノーマル……ですか」

「ええ……なので本番で全く活かすことはできませんでした」

 

 淳茂の言葉を聞いた瞬間、何故かシイナは冷や汗をかき、臀部に力を入れて穴を絞めた。勿論、彼にはそのようなことをやるつもりは一切ない。だが、このような話を聞けば誰でも穴を絞めてしまうだろう。そもそもその様なものを適当に選んで当てること自体、運が良いのか悪いのか分からないが。

 

「シイさん?」

「……あ、はい……私もそういうのはチョット」

 

 やけに力んでいるのを不思議に思った淳茂が声をかけると、シイナはハッと我に返り、小声で何かを呟き、誤魔化すように抹茶を啜る。

 

「……しかしまあ、暫くああいったことは控えた方がいいかもしれませんね」

「そうですね、私も淳さんとは……その、まだああいうのは、早い気がしました。今日みたいに一緒にゆっくり出来れば、私はそれで……いいかなって」

「僕も同じです」

「……でも」

「ん?」

「……たまにでいいので、一緒の布団で寝ませんか?あとキスも……あ、なんでもないです」

 

 気恥しそうに顔を逸らして芋饅頭を頬張るシイナを見ながら、淳茂は笑う。

 今までは不純のない関係を保っていたが、前回の同衾で身体を重ね合い、汗を流し合い、お互いに一線を越えた。そしてそんな行為を経たからこそ、自分達にはそういったことはまだ早いことを実感し、今まで通りの緩緩とした時間を過ごしたいと考えた。ただ、全く何もしないわけではなく、同じ布団で共にしたい、キスをしたいという進展を見せた。石橋を叩いて渡るように慎重に進んでいく2人の恋模様からすれば、これは大きな進歩である。

 

「ゴクンッ……やっぱりキスもいいですか?」

「もちろん」

 

 2人は互いの顔を見ながら、今度は恥ずかしがることなく笑いあった。そんな2人を、甘味処の店員は微笑ましそうに店内から眺めていた。

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 芋饅頭を食べ終えた2人は店を後にし、いつものように先祖の眠る墓地を目指して歩いていた。墓地までの道筋はやや複雑で、数回道を曲がる必要があるという、何とも面倒な場所に位置している。

 しかし、何回も、何十回、様々な道筋で通っている2人にとっては、そんなものは普段と変わらぬ呑気な道のりなのだ。

 

「風……涼しい」

「もう9月ですからねぇ」

 

 2人が同衾の約束をしてから約1ヶ月、気がつけば、夏の暑さは通り風が吹いたかのようにあっという間に過ぎ去り、変わりに初秋の涼しい風が吹いていた。

 

「これならご先祖さま達も暑さにバテることはないでしょう」

「でも、今度は寒くて凍えそう」

「うーむ……では今度余り物のカイロでもお供えしましょうか」

「そんなのでいいんですか?」

「僕の祖父は、寒い日には常にカイロを懐に入れていたので、多分大丈夫でしょう……いや、でも他のご先祖さまが怒るかも知れません」

 

 淳茂は真剣に考えるふりをしつつ、惚けた表情で目の前を見ながら呟いた。

 彼の祖父は生前、寒気を感じるとすぐさまカイロを買い込み、冬の酷寒に備えていたという。しかし、買いだめした大量のカイロを祖父一人が冬の間に使い切れるわけがなく、毎年必ず余っていたようで、冬があけると祖父は淳茂に余り物のカイロを押し付けていた。そのカイロは今も彼の部屋の押し入れで大量の資料とともに眠っているらしい。そんなものを渡されては、彼の祖父は怒りはしないだろうが、共に眠る先代達はたまったものではないだろう。

 

「この際ですから、例の大福でも持っていきましょうか」

 

 淳茂の言葉にシイナは軽い返事をする。

 

 ふと、淳茂は辺りに視線を巡らせる。シイナと付き合う前からいつも歩いている道ではあるが、夏と秋では町を包む空気が違うらしい。

 夏になればアスファルトが熱を帯びて足裏を焼き、熱気とともに外へ出た者を焦がそうと襲いかかる。しかし秋になれば、涼しい風が道と道を吹き抜け、辺りを冷気で包む。その冷気の影響か、通りかかる者は周りの風景をどことなく古い空気を感じ、ノスタルジーな気持ちになるのだ。

 

「……この時期になると、何だか懐かしさを感じます」

「……うん」

「そういえば、シイさんと付き合ってもうすぐ1年になりますか」

「確か……年末でしたっけ」

「ええ、人がわんさかいる中でシイさんが僕に道を尋ねたんですよ」

 

 2人は出会ったあの日のことを思い返す。偶然の出会いから始まった二人の関係は、友人から次第に恋仲へと発展した。これだけ聞けば、何のおかしいことのない単なる男女の恋物語のように思われる。しかし、趣味も、産まれた環境も、歩んできた人生も異なる2人がこうして出会い、今も同じ道を歩いているというのは、彼らからすれば奇妙なものを感じ取れるのかもしれない。

 

「あの頃と比べて、体力がついた気がしますな」

「私は……甘いものの食べ過ぎでお腹周りがちょっと……」

「はは、すみません」

「……でも、何だか、そんなに嫌じゃないんです」

「あー、それは幸せ太りというやつでしょう。ふくよかになった分、思い出に包まれていると思えばいいのです」

「また変なこと言って、もう」

 

 淳茂は空に目を向けながら笑うと、シイナは穏やかな笑顔を浮かべながら声を漏らす。

 上空では、雲が魚の鱗のように列を成しながら泳いでおり、隙間から青い海を覗かせていた。幸い太陽は一部成長した蛇のような長さとうねりを持った魚によって隠されているため、日差しは直射していない。

 

「……この空……宇宙のどこかに、怪獣墓場があるんでしょうなぁ」

 

 空を見つめながら、淳茂は宇宙の何処かにあるという怪獣墓場の名を口にする。怪獣墓場とは、その名の通り死んだ怪獣達が眠る宇宙の墓地地帯である。そして、シイナの前世とも呼ぶべき怪獣、シーボーズの故郷のような場所でもある。

 

「きっと、向こうでは楽しいことが沢山待っているかもしれませんね」

「そうですね」

「いつの日か、この体でその墓場に出向きたいものです」

「……私も、淳さんと2人で行ってみたいです」

 

 淳茂の言葉にシイナは答える。2人ならば、寂しさに泣きじゃくることもないだろう。

 

「その時は土産に甘味を沢山持っていきましょう。あとは……怪獣に関する紙芝居も持っていきましょうか。ちょうど宇宙に帰りたい泣き虫怪獣の紙芝居がありますから」

「はい……ふふ」

「ははっ」

 

 淳茂とシイナはお互いに笑い合う。

 どんな怪獣であろうと、甘いものを差し出し、紙芝居を披露して楽しませる。そんな無邪気でありえないように思える彼の意見も、シイナにとってはいつか叶えられる夢のように感じた。

 

 

 

「……あ」

 

 ふと、シイナは数十歩先の道の脇でひっそりと立つ電信柱に視線をやる。淳茂も目を向けると、そこには1人の少年が蹲り、泣きじゃくっていた。

 淳茂とシイナは顔を見合わせて首を傾げる。そしてすぐに視線を戻し、とりあえず少年のもとへ近づく。

 

「どうしました?」

 

 淳茂とシイナは少年の目の前でしゃがんで話しかけると、少年はゆっくりと顔を上げる。容姿からして、恐らく小学生に上がっているか否かの境目であることが見て分かる。

 

「……迷子に、なっちゃった」

「迷子?」

 

 少年は泣きながらも少しずつ口を開いていく。少年が言うには、この付近にある墓地を目指していたとのこと。しかし少々特殊な道筋のため、案の定迷子になってしまい、腹を空かして泣いてしまったようである。その墓地というのは、淳茂とシイナが普段通っている先祖の眠る例の墓地と同じであった。

 

「そこなら我々も目指していたところです。今から一緒に行きましょう」

「いいの?」

「大丈夫ですよ、一緒に行きましょう」

「……うん」

 

 少年はシイナから差し出された手を握ると、ゆっくりと立ち上がり、2人に挟まれる形で歩き始める。

 

「お、そうだ」

 

 淳茂は何かを思いついたかのように左手の平を右手で打つと、鞄から先程の甘味処で購入した芋饅頭を取り出し、少年に差し出す。紙に包まれた茶色の生地が隙間からその身を覗かせる。

 

「お腹が空いては人は何もできません。お食べなさい」

「……うん」

 

 少年は芋饅頭を受け取ると、小さな口を大きく開き、一口でそれを頬張る。すると少年の顔は見る見るうちに表情を緩める。

 

「美味いでしょう?」

「うん!懐かしい!」

「そうでしょう」

 

 饅頭の甘さに笑顔をこぼす少年に、淳茂は優しい笑みを浮かべた。

 

 

 

 ───────

 

 

 

「……と、こうして屍達は首を求めて這い出でたはいいものの、結局首は見つけられず、諦めて居酒屋で自らの手足を差し出して食したのでした、めでたしめでたし」

「うん、面白ーい!」

「お、面白いですか?」

 

 時はほんの少し流れ、墓場までの短い道のりの中、淳茂は時間潰しにと少年にちょっとした怖い話を語っていた。と云っても、彼の家にある漫画の話を一部抜粋して自分なりにオリジナリティを加えて作った簡単なものであった。

 そんな話を淳茂は嬉しそうに語り、少年は楽しそうに笑いながら聞き入った。そしてそんな怖い話を子どものようにはしゃぎながら楽しむ2人を見ながら、シイナは怖がりつつ、それを誤魔化すように苦笑いを浮かべた。

 

「でも首がないから食べられないよ?どうやって食べたの?」

「簡単な話です。女将さんに喉元を切ってもらったんですよ。それで朝までどんちゃん騒ぎです」

「へー」

 

 淳茂の説明に少年は軽い返事をする。

 

「ねえねえ、もしかしてそれって……」

 

 少年は顔を近づけるようハンドサインを送り、淳茂はそれに従うように腰を低くする。そして少年は、シイナに聞こえない大きさの声で淳茂に耳打ちで何かをボソボソと話す。

 

「はぁ〜、よく知ってますね。ぼっちゃんの年齢でこの漫画を知っている人は早々いませんよ」

「ぼく、昔っから漫画とか好きなんだ。特に怖いものとか、そういうの大好きだよ」

「奇遇ですねぇ、僕もそうなんですよ」

「え、え?」

 

 何故か漫画の話題で盛り上がる淳茂と少年。そんな彼らがどの漫画の話題で盛り上がっているのか分からないシイナは、ただ声を出して首を傾げていた。少なくとも、少年も淳茂に似たような趣味を持っているということは理解した。

 

「今度シイさんにも見せますから」

「あ、はい(?)」

 

 よく分からないまま、シイナは言葉を返した。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、つきましたよ」

「うん、ありがとう!」

 

 暫くして、3人は目的地である広い墓地に到着した。真夏は木々の日陰と墓地内を流れる風によって涼しさが保たれているが、冬はそれらが仇となり、極寒に近い寒さをたたき出すことがあるという。

 

「……ヘクチュ」

「大丈夫ですか?」

「いえ、ちょっと寒くて……あ、淳さん、 ティッシュ持ってますか?」

「はい」

 

 淳茂がポケットティッシュを差し出すと、シイナはそれを受けとり、取り出し口からティッシュを1枚取って、彼に背を向けて向けてチーンと軽く鼻をかむ。淳茂は鼻をかむシイナの顔を見ようとこっそり覗こうとするが、空気を感じたのか、彼女が振り向くと同時に首を引っ込め、そっぽを向いて誤魔化した。

 

「ねえねえ、お兄ちゃんのご先祖さまのお墓はどこ?」

「ああ、あそこですよ」

 

 そんな茶番に呆れた少年が淳茂に質問をすると、淳茂は出入口からやや離れた場所にある墓石に指を刺す。3人はまるで吸い寄せられるかのようにその墓石まで歩き始める。吸い寄せると云っても、不思議な力がどうこうは関係ない。

 

 そして、3人は淳茂の先祖達が眠る五輪塔の墓石の前で立ち止まる。

 

「へー、五輪塔なんだ」

「ええそうです。先代の方々が眠っています」

 

 そう言うと、淳茂とシイナは横並びで墓石の前にしゃがみこみ、目を閉じて、両手の平を合わせて合掌する。2人はここへ立ち寄る度に、いつもこうして先祖達の眠る墓に手を合わせているのだ。

 

「(今日も寄らせていただきました……毎日のように通ってすみません。今度菓子をお供えしますので)」

 

 淳茂は心の中で先祖達に挨拶の言葉をかける。

 

「あそこの大福また食べたいなぁ、でも迷っちゃうから、今度持ってきてよ。あと寒いからカイロもお願いね」

「(はい、分かりました……)……え?」

 

 少年が何かを呟いたかと思い、淳茂とシイナは後ろを振り向く。しかし、そこには先程までいた少年の姿はなかった。まるで初めからいなかったかのように、その場には枯葉が風に流されながら地面を走っている。

 

「あれ、あの子……?」

「どこに……」

 

 当然このような状況に混乱しないわけがなく、2人は立ち上がり、辺りをキョロキョロと見回す。先程までその場に確実にいたというのに、いつの間にか影も形もなく、音も立てずに消えているのだから、驚くのも無理はない。

 

「大福……カイロ……ははっ」

 

 淳茂は先程少年が言った大福という単語について顎に指を当てながら考える。そして、すぐさまその意味を理解し、突然笑いだす。自分と話しが合いかつ大福を求めて迷い、カイロを要求する者など、彼の知っている人物の中で1人しかいない。

 

「ど、どうしたんですか?」

「いや、実は……」

 

 一方、突然笑いだした淳茂にシイナは少々不安と疑問が交じった声色で恐る恐る尋ね、彼はそれに応えるように耳打ちでシイナにヒソヒソと話す。その応えを聞いたシイナはやや顔を青くしつつ、何処か納得のいったように数回頷いた。

 

「でも、本当にそんなことが」

「いえ、間違いありません。あんなことを言う人物は僕は1人しか知りません……しかし、死んでもなお食物を要求してくるとは……あの人もとんだ甘党の健啖家だ。いや、もしくは腹を空かせた貉が化けていた可能性もありますかね」

 

 顎に指を当てて何やら楽しそうに言葉を漏らす淳茂に、シイナは青い顔に血の気を戻し、まるで無邪気に話す子どもを優しく見つめるように微笑む。

 

「……多分、あなたのそういうところに……私は……」

「狸か狐か……蜚蠊かな」

 

 シイナが何か呟いたが、それに淳茂が気づくことはなかった。

 

 グゥ〜

 

「あっ」

 

 と、空気を読んだかのように、シイナの腹の虫が鳴き声をあげる。その音に気づいた淳茂が顔を向け、シイナと顔を合わせた。

 

「いい鳴き声だ」

「……うん」

 

 悪気のない素直な気持ちを吐いた淳茂に、シイナは少し恥ずかしそうに答えた。

 

「……さて、ここいらを歩いたらどこかで昼飯でも食べましょうか」

「はい」

「シイさんは何か食べたいものはありますか?」

「うーん……じゃあ、カレーライスで」

「カレーライスですか。では散歩がてら少し遠くの喫茶店にでも行きましょうか。友人の話ではそこのカレーライスはなかなかのお味だそうで、ハヤシライスに至っては絶品だと言っていました」

 

 淳茂とシイナは、先祖が眠る五輪塔の前で、お互いに笑顔でそんな話をする。

 この2人、片ややや内気な怪獣娘の少女、片や前向きで変わり者なただの青年という、普通は考えられない……とまでは言いきれないが、お互いに全く異なる十数年を送ってきた。しかし今の2人は、他人から観れば数年間も共に過ごしてきたかのように、その背を並べていた。

 

 

 

 

「メルさん、何やってんの?」

「いやなに、赤飯でも作ろうと思ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




話のネタが思い浮かばない……
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