白く甘やかな花泥棒 作:つまるところ全部ホモでは…?
翌日もまた訓練が始まった。
少年はグレンに対して目立った反応を示さない。ただ隊長として、いつも通りに厳しい訓練を課すのみ。
──3日、がまんして?
浴場での甘い囁きを思い出し、グレンは首を振った。
今は訓練中だ。彼は若く制欲もあったが、そのくらいの分別はつく。
訓練内容は変わらない。
障害物を避け、掻い潜り、誰よりも早く先へと進む。
ルートは決まっている。先頭を走る者を追跡しなければならない。市街での追跡戦を意識したものだ。そのため瓦礫や角材などの障害物とぶつかることはしょっちゅうであり、生傷が絶えない。
「さあ進路変更! 広場を駆け抜けて! 後方、ちょっと遅いですよ!」
見上げれば、屋根の上には少年が立っている。
水を弾く艶めいた素材のホットパンツ。そこからすらりと伸びる白い足が朝日に照らされ、眩しい。
「……!」
グレンはその時、少年がこちらを見て、得意げに微笑んだのがわかった。
彼は思わず目線を伏せ、広場へと駆け出してゆく。
固い生地のズボンの中で、膨らみかけた男根が甘く痛んだ。
3日の我慢。グレンはそれについて、あまり深刻には考えていなかった。
もとよりグレンは性欲の発散というものをあまりしない。娼館に通うのも付き合いが主であったし、自慰なども思い返せば数ヶ月していない気もする。
いわゆる性欲が薄い男。硬い男なのだと、グレンはそう自身を判じていたのだ。
「ふふっ」
しかしその夜。
大して広くもない廊下で偶然、少年とすれ違ったその時。
彼から漂ってきた髪の香りを嗅いだその瞬間、グレンの男根は甘く疼いた。
それを見ていたのか、感じていたのか。少年はすれ違いざまにグレンを見て笑った。
普段、訓練中には見せない小悪魔な笑み。以前、グレンに跨り腰を振っていた時と、同じ……。
「……くそっ」
どうしても脳裏から離れない。
忘れようとしてもあの時の快感はすぐに蘇る。甘い疼きはその日の夜、ずっと続いていた。
まだ、たったの1日だというのに。
少年の部隊は訓練だけでなく、非常時には出動することもある。
演習場の立地がかなり街からは遠いために機会も少なかったが、街道沿い付近に魔獣が現れた際には声がかかることもあった。
朝。少年は今、十数名ほどの部隊の前で書類を読み、頷いている。
押印は国のものだ。それが自分たちに向けての命令であることは疑いようもない。
「近くの街道に、駆竜の群れが現れたそうです。ひとり旅をしていた若者が食い殺されたとか。かわいそうに……ええ、なので、ボク達の部隊にも街道警備の役目が回ってきました」
少年は意外と言うべきか、人の生死については正しい倫理観を備えていた。
誰かが死ねば悲しむし、傷付けば心配もする。優しく礼儀正しい、極めて真っ当な感性の持ち主である。
「すぐに出発しますよ。訓練は帰ってからです」
ただ色狂いの人格破綻者ではない。正義感があり、義務感も備えている。
グレンは少年のそんな性格については、素直な好意を抱いている。
しばらくして部隊は演習場を抜け、自然の濃い山道へと入った。
通り道はある程度整備されているが、道幅はたった一人分。部隊は一列に間延びし、元々限りなく少なかった口数は減る。
彼らの部隊は無駄口を叩かない。あるのは時折伝えられる報告のみ。作戦中に無駄な雑談は許されなかった。
寡黙な雰囲気のまま山道を抜け、隊列を整え直して街道警備が始まる。
区間はそう長いものでもないが、駆け抜けるわけにもいかない遅い行軍だ。警備というだけあって周囲への警戒も欠かせない。
街道沿いに注意を向ける男達の横顔を見ると、その整った顔立ちの羅列に、グレンは少年の趣味を感じた。
誰もが美形。少年の選出基準はまさに顔にあると思う。しかしここにいる誰もが相応の実力を備えていることはグレンにもわかる。厳しい訓練だが、彼らは誰一人根を上げないし、遅れない。他の所属の人間がこの部隊について「いいとこ取り」と揶揄するのも間違っていないだろう。
「! 三時の茂み、警戒!」
少年の声に、緩んでいた体が緊張する。
中距離用の短い杖を構え、全員が臨戦態勢を整える。
街道奥の茂みから、人間の子供程度の体高の小さな、しかし紛れもない竜たちが、群れを成して現れる。
「逃さないよう、群れを街道に誘い込んで仕留めます。……後退開始!」
普通の人間であれば一対一でも苦戦するであろう魔獣たち。
しかしここにいるのは少年率いる優秀な魔道部隊だ。
作戦は完璧に。彼らは矜持を胸に、あえて手負いのようなたどたどしい足取りを見せ付けながら、竜の群れを誘い出していった。
姿を全て露出させた後は、圧倒的な戦いが待っていた。
森への逃げ道は氷壁に塞がれ、街道沿いに逃げようとした個体は氷の蔦に絡め取られ、喉を切られて絶命している。
あとは逃げ場をなくした竜たちへの一方的な遠距離攻撃の嵐だ。
飛び道具を持たずブレスも吐けない成体前の竜たちに為すすべはなかった。
「ポールさん、怪我は?」
「ええ……大事はありません。氷壁を破られそうになったところ、腕で押し返そうとして……痛めただけです。問題はありません」
それでも完勝とはいかない。弱ったふりをして最後までギリギリ群れを引きつけていた隊員の一人は、腕に軽い怪我を負っていた。
彼は氷壁を生成しつつ複雑な戦いを余儀なくされていたので、怪我は彼のミスとは言い難い。
「そうですか……演習場に戻ったら念のために診ておきましょう。皆さん、報告の後すぐに帰投します。いいですね?」
グレンを含め、男たちの声が力強く揃った。
軽い怪我人こそ出たが、それでも日々の訓練と比べれば休憩にも近い作戦であった。
その日は報告のために少年の不在期間が長かったが、帰還後は通常通りに訓練が行われた。
術による拘束、討伐、捕縛。今日の竜退治を復習するような訓練だ。国の人々の力になる実感も得られたので、単調に感じつつあった訓練にも熱が入る。その日、グレンは日が暮れるまで少年の痴情を想像することもなかった。
元々が堅物である。グレンは心地よい疲労感の中、ここ数日の葛藤が遠くなるのを感じた。
少年に。男に欲情するなど、ただの倒錯だ。男だけの集団にいるからおかしくなっているのだ。本来の自分はこうなのだ。
彼はその日人一倍長く演習場で身体を動かし、少しずつ雑念が消えてゆくのを実感しては、微笑んだ。
そうだ、気の迷い。自分があの隊長相手に抱いていた感情は、ただの倒錯だ。
日が落ちて暗くなってから、グレンは自主的な訓練をやめた。
簡単に水を浴び、着替え、食事を済ませ、寝るだけ。疲労が眠気になりつつある中、グレンは自室に戻ろうと暗い廊下を歩く。
「──ぁっ──ゃんっ──」
遠くで、黄色い嬌声が聞こえた気がした。
確かめる必要などなかったが、グレンは自然と声に惹かれるように歩いてゆく。
「んっ、やぁんっ❤︎ だめ、そこばっかりいじめるのっ、だめぇっ❤︎」
「はっはっ……! 隊長、隊長っ!」
長い廊下の突き当たり。ドアの隙間から漏れる暖かな光と嚙み殺しきれない二人の声。
グレンはその中に誰がいて、何が行われているかを知りつつも、隙間から覗き込んだ。
「イきそっ、なんですかぁっ? んっ、はぁっ❤︎ ボクのお尻の中、ぴくぴくして、あっ❤︎」
そこにはあられもない姿の少年と、今日の作戦で怪我をしたポールがいた。
獣のように尻を突き出した少年を、背後から乱暴に突く後背位。
腰が打たれるたびに少年の大きな尻は小さく震え、どちらのとも知れない汗が爆ぜる。
だらしない顔をした少年の口からはよだれが垂れ、床に小さな水たまりを作っている。そして彼の勃起した男根の先からも、透明なよだれが一筋。
グレンの目の前で行われているのは、倒錯だ。男が男の尻穴にペニスを突っ込み快楽を得る、異様な行為だ。
しかし、だというのに。二人の蕩けきった表情に、偽りなどなく。
「いいよっ、出して❤︎ ボクのお尻にポールさんの子種流し込んでっ❤︎」
少年の淫靡な姿を前に、グレンは自分の竿が岩のように硬くなるのを抑えられなかった。
「あっ、ああああっ……!」
「きゃふっ……ぅううううんッ❤︎」
二人の腰が震える。少年の綺麗な背が反り、背筋に溜まっていた汗が流れ落ちる。
「くそっ、なんで……なんで……!」
グレンは部屋の前から逃げ出し、自分の寝床で必死に眠気を待つ。
早く眠らなければならない。忘れなければ。
それでも彼の脳裏から、先ほどの痴態が、後ろから突かれる少年の姿が離れない。
グレンの強張った男根は、数時間経つまで勝手に静まることはなかった。