恋の駆け引き after OPENING【大人編】 作:しおり@活字は飲み物
頭の上からビリっと言う音が聞こえてなんだろう? と思ったところまでは覚えているけど、それからは天地がひっくり返ったみたいに、訳が分からなくなった。
現実を認識できた時には、私は八一の下に組み敷かれていた。手加減のない深いキスと胸を強く掴まれた衝撃に、無意識に身を捩るとすぐ手は離れて、下の方へ降りていって。
あっという間にショーツを引き抜かれた。慌てて太ももをぴったり合わせようとするけど、それより強い力で足の間に体をねじ込まれてしまった。
八一の体がどんどん下の方に降りていって、太ももを掴まれて無理やり開かされて、なぜか、八一の頭が足の間に……
物心ついてから、誰にも触られたことなんかない場所を、まさか八一の舌で愛撫されるなんて…
こ、こんなこと、みんなしてるの??
恥ずかしすぎて、直視できなくて、両手で顔を覆っていることしかできない。
それなのに、か、体が勝手に反応してる…胸の頂きを触られた時と同じ、それよりもっと直接的な快感が容赦なく『わたし』を作り替えていく…
体は私の意思に反した反応ばかりするし、頭の中は真っ白になって何も考えられないし、今自分がどんな感情を抱いているのかさえ分からない。体も頭も心もとろけ始めていることだけがぼんやりと分かるだけ…
今までの自分が溶けていった先に、何が残るのか、それとも残らないのか、分からないのが怖い…
回らない頭は、現実から逃げるように脈絡のない昔の出来事を再生した。
結構前に美容室でランダムに配られる雑誌で「彼ともっと仲良くなる特集♫」みたいなのを流し読みしたことを思い出した。カタカナ三文字のよく分からない単語が並んでたけど、それのどれかなんだろうか。その時は八一が、彼氏になるなんて現実的に考えてなかったから読み飛ばしちゃったけど、ちゃんと読んでおけばよかった。
今、自分の身に何が起きているのかが分からない。これから何が起こるのかも分からなくて、すごく…怖い。
「や、やいち! ま、待って!」
さっきは、あんなに静止してもやめてくれなかったのに、私の本気が分かったのか、八一がピタリと動きを止めて、こっちを見てくれた。
「どうしたの?」
「こ、こわい…」
「何が、怖いの?」
心配そうに言われて、でも何が怖いのかはっきり分からなくて、とりあえず今の気持ちに一番近い言葉を紡いでみる。
「わかんない…とけて、なくなりそう…」
やいちは、安心したように微笑んだ。
「大丈夫、とろとろに、なって…」
八一の汗ばんだ首筋から、一滴、私の肌に汗が滴り落ちた。
両手で口を押さえて、必死で声を押し殺すけど、快感を感じる度に体がビクッと反応してしまうのは止められない。そしてそれは、八一にお見通しなんだと思う。だって…だって、どんどん気持ちいいところばっかり狙ってくるようになってきているんだもの…
唇の動きが止まったから、少しだけど、呼吸を整えて体の力を抜くことができた。どうしたのか気になって、目を開けて様子を伺うと脚の間から、八一が私の方に左手を伸ばしてきた。
「銀子ちゃん…手を」
手を繋いでくれるんだと思って、素直に自分の右手を差し出した。
「左手も」
両手? と思ったけど、両手を八一の方に伸ばすと、八一は両手首を一纏めに掴むと満足したように元の体勢に戻ってしまった。
そしてまた開始される愛撫。
「ひゃっ! あっ、あっ。なんで!?」
両手が使えないから口を押さえられない。自分でもびっくりするくらい甲高い声が漏れてしまう。
「だって、ちゃんと声、聞きたいから」
「んんっ!! ヤダ! 恥ずかしい!」
胸を触られてた時より、もっと恥ずかしいのに声なんて聞かせられないから、一生懸命振りほどこうとした。
「ちょっと、暴れない! 手首痛めたら将棋弱くなっちゃうでしょ!?」
「だったら離して〜!!」
結局、抵抗したら手は離してもらえたけど、愛撫はやめてもらえなかった。
何度も攻め立てられて、何度も鳴かされて、体も頭も心もとろとろにされて。時間も場所も分からなくなって。八一のことしか、二人のことしか分からなくなった。
八一の体が私から離れたことに気づいて、久しぶりに目を開けると、八一が起き上がって、少し乱暴に手の甲で口元を拭うのが見えた。
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俺はいい感じに仕上がった銀子ちゃんに、触れるだけの優しいキスをしながら、寄せに入る前の長考に入っていた。
俺の馬鹿野郎!! なんで銀子ちゃんがシャワー行ってる時に準備しとかないんだよ! これから寄せに入ろうって時に詰めろに必要な
そういや、中学ん時の彼女持ちの
そう言えば、残りが入った箱をあの引き出しに入れてきたけど、隠し場所はあそこでよかったんだろうか。
万が一にも……あ、あ、あ、あいに見つかったら………
『ししょー? これは何に使う道具ですか? 誰と使ったんですか? そもそもなんでこれを買ったんですか?』とかなんとか言われて、確実に拷問されて吐かされた挙句、減ってた個数分殺されるぞ!?
アレの使用用途をJSが知ってる事がそもそも問題だけど、最近の子はマセてるし、あの女将に英才教育を受けているあいならおかしくもなんともない…あいが帰ってくる前に対策を考えないと!!
そんなことより、今はアレをどうやって取りに行くかだ。何も言わずに急に離れて取ってくる? トイレに行ってくるふりしたついでに持ってくるか!?
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八一は私をとろとろにした後、覆いかぶさるように抱きしめて、触れるだけの優しいキスを繰り返してくれている。
私は何だかとても幸せを感じて、普段なら言えない素直な気持ちを言いたくなった。
それは昔、『好き』なのに『嫌い』といってしまったあの日のこと。
「やいち、あのね?」
「うん?」
「………すき」
「うん」
「八一なんて、だいすき」
「?」
「昔からずっとすき、ずっとずっとだいすき」
「……」
「将棋バカなところが好き。将棋が強くて、将棋のことばっか考えてるところが好き。将棋のことを考えてる時の八一の顔が一番好き……」
「……泥臭いところは?」
「っ!! ………好き」
「すぐ熱くなるところは?」
「……好き」
「どれだけ苦しくなっても絶対に心が折れないところは?」
「好き…」
「鈍感で優柔不断で誰にでも優しくて…フラフラしてるところ…だっけ?」
「そこはほんとに大っ嫌いって言ったでしょ」
「そうでした」
「…覚えてたの?」
「忘れられる訳ないじゃん。人生最大の失恋した瞬間だよ?」
「しつれん?」
「ずっと好きな子にラブホに連れ込まれて、頭突きされて、やけを起こして押し倒して来たのを
「あれは、八一が好きでもないやつとそういうことするなって言うから…」
「それでも、あんなに嫌い嫌いって連呼しなくてもいいのに。結構、傷ついたんだよ?」
「………ごめん…」
「………俺こそ意地張ってごめん…C級1組に全勝で上がれたら、嫌われてるから好きとか告白は無理でも、銀子ちゃんの名前だけでも呼べるようにしようと思ってたのに…負けちゃってさ……」
「……だから、帰り待っててって言ってたの? 最高のチャンスを逃したって…すごい泣いてたし。かわいかったけど」
「ぐっ……」
「……あの頃、お互いもっと素直になれてたら、もっと前からデートとかできたのかな?」
「どうなんだろう。案外うまくいかなかったかもしれないね。現状に満足しちゃってさ。銀子ちゃんが
うん…やいちもそう思ってくれるなら、そうかも。私たちらしいね。
「ねえ」
「うん」
「あの星空の夜にね、私が待ったをかけなかったら、なんて言って告白してくれるつもりだったの?」
「封じ手を開封した時に言ったじゃん」
「通しで聞いてないもん」
「今更改めて言うなんて、恥ずかしいよ」
「むぅ……おねがい…」
「しょうがないなぁ」
「!」
「……空銀子さん。俺はずっと、あなたのことがーーーー」
私が素直に昔ついた嘘を謝れたご褒美に、やいちはこの世界で私にだけ聞こえるように、耳元であの夜の告白の続きをしてくれた。
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全部布団のせいだ。そうに違いない。そういうことにしておこう。
俺は今、コトを終えてトイレに引きこもっている。有り体に言えば、シタはしたんだけど、最後まで致せなかった。
あの夜の告白の続きをして、銀子ちゃんに正直に断りを入れてアレを取りに行き、もう一度抱き合ってキスをするところから再開した。
お互い初めてだから手探りでゆっくり時間をかけて交わったつもりだ。
俺の指で少しずつ慣していったけど、さっきとろとろにしておいたからか、思ったより抵抗なく入った。
銀子ちゃんも初めての感覚に戸惑ってるみたいだったけど、そこまで痛がる様子は見られなかった。
「くっぅ……」
初めて潜り込んだそこは、キツくて、温かくて、キツいのにとろけるように柔らかく俺を受け入れてくれた。
こ、これは、ヤバい…挿れただけでも、気持ち良すぎて意識が飛ぶ…
思わず、さっきまでみたいに衝動的に攻め立てたい気持ちを必死で抑えて、腰を進めていった。
想定外だったのは、ある地点から銀子ちゃんがすごく痛がって、少しも先へ進めなくなったこと。指で慣らすのが足りなかったんだろうか。十分濡れてたと思うんだけど。
お互い何とか先に進もうとがんばってはみたけど、銀子ちゃんの体が無意識に逃げて、ずるずる上にずり上がっていってしまい、最終的には二人とも布団から完全にはみ出してしまった。
結局、冷たくて硬いフローリングに銀子ちゃんを組み敷くことになった。でも、このまま中途半端に辛い状態を続けるより、無理やりにでも一気に最後まで挿れてしまった方がいいのではと思って、上体を起こして銀子ちゃんの足に触れた瞬間。
気が付いてしまった。
銀子ちゃんの体が小刻みに震えてることに。
少し前まで快感を堪える為に塞いでいた口は、今は痛みを堪えて俺に気づかせない様にする為に塞がれていて。
誰もが羨む美しい顔は、俺に気づかれない様に必死で手で隠していたけれど、明らかに苦痛で歪んでいた。
欲情が頓死した。
ムスコも途端にやる気を失った。
姉弟子からは星の数ほど暴力を振るわれてきたけど、一度だって反撃したことなんてない。それなのに、一番好きな子を一番大事にしたい時に痛めつけてるなんて、死にたくなる。
これ以上続けるなんて無理だ。無理すぎる。
俺は冷水を一気に浴びせられたみたいに固まってしまった。自己嫌悪で目の前が真っ暗になった。
それでも同時に桂香さんの教えが頭をよぎった。
『泣いてる女の子がいたら慰めること』
今の銀子ちゃんは泣いたら俺に気づかれると思って、泣くことすらできてない。
今俺にできることは自己嫌悪に陥ることじゃなくて、優しいこの子にこれ以上痛い思いをさせないことと、次の時に向けてなるべく恐怖心を減らしてあげることだけだ。
俺は細心の注意を払ってゆっくり彼女に覆いかぶさって、俺が出せる中で一番優しい声で銀子ちゃんの耳元に囁きかけた。
「銀子ちゃん」
「?」
「今日はこれでおしまい」
「お、しまい?」
「うん、がんばってくれて、ありがとう」
「……やいちは気持ちよく、なれた?」
「今も十分気持ちいいよ」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと。今は痛くない?」
「うん」
「じゃあ、もう少しこのままでいようか…」
もし俺が経験者だったら、もっとうまくやれたか無理にでも最後まで致していただろう。でも今の俺は幸か不幸かこの先の快感をまだ知らない。
だから、中途半端でも繋がっている彼女の膣内の熱さと肌の柔らかさと熱い吐息を感じているだけでも、今はこれで十分だと思えた。
そして、繋がったままキスをしたり、顔や髪の毛を撫でたりしていたら銀子ちゃんも段々と落ち着いて、笑みを浮かべられるようになってきた。
子猫が甘えるように俺の手に頬をすり寄せる銀子ちゃんがあまりにもかわいくて、現金なムスコが復活してきそうになったから、名残惜しそうな銀子ちゃんを振り切り、トイレに一時避難してきて、今に至る訳だ。
何にしてもあのペラペラの布団がいけない。
だって、全然クッション的な役割を果たしてないどころか、シーツがツルツル滑って逆に体勢を維持するのが難しくて全然集中出来なかった。銀子ちゃんも背中や腰が痛そうだったし。
どちらにしろあの布団は廃棄だ。トイレに行く時、横を通り過ぎながら見たら、俺が無意識に掴んで変な方向に引っ張ったせいか、シーツの一部は裂けちゃってるし。
あとは、点々と赤黒いシミまで付いてるし…あれだ、噂に聞く破瓜の血ってやつだ。あれだけ血が出てたらそりゃ痛かっただろう。
ベッドだ。
この部屋に今必要なのは落ち着いて身を横たえられるベッド!!
俺は一応持ち込んでいたスマホで検索を開始した。
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痛かった。とりあえず猛烈に痛かった。小さい頃から病弱だったから、熱いとか苦しいとか胸が痛いとかは日常茶飯事で他の人より痛みに耐性はあると思うんだけど、体の奥がこんなに痛くなるのは想定外だった。
それもこれも多分私が、八一が『恥ずかしいからこっち見ないでね』って言ってたのにこっそり見ちゃって、怖くて緊張しちゃったせい…
一応、今日のデートが決まってからネットの『初エッチの注意点☆』みたいなのを読んでみたら、痛かったり血が出たりするのは人それぞれだけど、緊張したり怖がったりすると余計に痛くなるって書いてあったし…
だって、気になっちゃったんだもん。ホラー映画とか怖いの分かってるのに見ちゃうじゃない? 鶴の恩返しだって見ちゃダメって言われたのに見ちゃうし…
それで………
しゅ、しゅ、シューマイ先生!!
あ、あ、アレがソレなんですか!?
あ、あんなのを体の中に指すなんてムリムリムリ!
ほんとに、は、入るの??
き、き、気持ちよくなるの??
み、みんな、いつもしょ、しょんなことしてりゅの!?
せんせい…こ、これは確かに強烈な努力が必要です。アレに耐えられれば本当に将棋も強くなれそうなくらい…
ものすごく怖くなっちゃったけど、今まで八一に散々気持ちよくしてもらって、私からしたのなんてディープキスとかを少しだけで…
『約束破って見ちゃったら、怖くなってできない』なんて言えない〜〜!
それに何より私自身が早く八一と一つになりたかった。
八一の初めてになって、八一に私の初めてになって欲しかった。だから、怖くても痛くてもがんばったんだけど…
必死で隠したつもりなんだけど、多分途中でバレたんだと思う。急におしまいって言い出したり、笑顔に違和感があったから。あいつは優しいから、私が痛がってるのに、自分だけ気持ちよくなんてなれなかったんだと思う。
すごくすごく申し訳ないけど、今日はもう無理だから、優しい嘘に騙されておこう。次の機会に今日の分まで気持ちよくなってもらえるように、がんばるから。
そう言えば、シューマイ先生、上とか下とか言ってたけど、何のことなんだろう? 今度調べてみよう…
それにしても、やいち、なんで急にトイレに行っちゃったのかな…?
トイレから戻ってきた八一は唐突にこう切り出した。
「メジャーある?」
「え?? ないけど」
「120センチ…これくらいか」
八一が壁の近くに立って両手を広げて何やら思案している。
「何してるの?」
「ベッド買うから。セミダブルのやつ」
「は?」
「研究会する時だって、何時間もフローリングの上に直にあぐらかいて誰かさんを抱っこしてるの、キツいんだよね。ベッドの上で壁にもたれる方が楽だろうし。それに…」
「それに何よ」
「今日はともかく、その布団もう使えないでしょ? 使えたとしても、もう御免です。」
「うぅ……」
八一がトイレに行っている間に私もシャワーを浴びてきたんだけど、体を動かすのも痛いし、まだちょっとだけど血が出てる。
よろよろしながら部屋に戻って改めて布団を見てみたら、シーツは裂けてるし、血のシミが布団の本体まで染み込んじゃっていて中々悲惨なことになっていた。
元々安物だし新しいのを買おうと思っていたから、染み抜きはしなかった。体中違和感だらけでそんなことやってられないし。
でも今日はここで寝るしかないから、もう一度がんばってバスルームに戻って、バスタオルを持ってきてカバーしていたところだった。
「でも、なんでセミダブルなのよ? ど、どうせ買うならダブルでも……」
「セミダブルで十分でしょ? ダブルじゃワンルームに置くには幅取りすぎだろうし、どうせひっついて寝るんだから。俺を抱き枕にして」
「!? ………ば、ばかっ♡」
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本日の対局は千日手で指し直し。
指し直し局は次の帝位戦で俺が勝てば翌晩開催されるけど、負ければ彼女と二人きりなのに指一本触れさせてもらえず生殺し状態での研究会…になるらしい…第一局の時とは別の理由で『勝つしかない』だ。まぁ、本質的には同じなんだけど。
千日手なんて、俺が先手みたいなものだから実質的には負けたようなもの。勝負師としては敗北は悔しいけど、今度はもっと上手くやるし、もう一度最初から始められると思えば気にもならない。
二人にとって、念願の初対局なのだから。
すれ違いばかりだった5〜7巻を振り返る二人を書きたくてこのシリーズを始めました。
二人とも意地っ張りなので、ピロートークでしか話してくれそうにないのでR指定で書きました。7巻の引用は推論ですが、私はそうではないかと思ってます。
中途半端ではありますが、初心な二人の『初めて』はこんな感じかな〜と。
ちゃんと『指し直し局』も書いてありますので、更新をお待ち下さい。
『恋の駆け引き after OPENING』《7》告白に続きます。
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