※この作品はR-18です。

恋の駆け引き after OPENING【大人編】   作:しおり@活字は飲み物

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《12》指し直し局 in 高級旅館【そのニ】

 銀子ちゃんはもしかしたらワイシャツも脱がせてくれたかもしれないけど、もうそれを大人しく待っている余裕なんてなくなってしまった。一瞬でも離したくないけど、深い口づけをしてから唇を離した。

 

「ふぅ……」

「はぁ、はぁ…」

 

 強く抱きしめていた銀子ちゃんの体から少し離れる。

 自分でワイシャツの上のボタンを数個だけ外して、アンダーシャツと一緒に頭から脱ぎ捨てた。

 脱いだシャツを放り捨てて上半身は裸になったから、次は俺の手番。

 銀子ちゃんの服をどうやって脱がそうか…と視線を送ったら、真っ赤になった銀子ちゃんが微妙に体を引いている。

 体が離れたせいで冷静になって怖気付(おじけづ)いたのか?

 

「なに?」

「や、八一…あの、しゃ、シャワー浴びなきゃ…」

「ああ…打ち上げの前に入ったし、今日はいいよ」

「よ、よくない! 一応私だって研究部屋出る前にシャワーくらいはしてきたけど、電車に乗ってきたし、私汗臭いかもしれないし…」

「別に臭くないよ? それに、どうせすぐ汗かくんだし」

「!? で、でも!」

「じゃあ、後で一緒に入ろ? 悪いけど今入られたら、脱衣所で襲っちゃう自信がある」

「お、おそっ!?」

「身支度したかったんなら、始める前に言ってよ。自分で俺の服脱がせといて、いまさら逃げる気?」

「!? に、逃げてなんてないもん!」

「ならいいよね? ほら、バンザイして?」

「こ、子供扱いするな!」

「子供扱いしてたら、こんな所に呼び出して、こんなことしませんよ。ほら…」

「はぅぅ…」

 

上に着ていた服た観念したように手を伸ばして、俺が服を脱がしやすいようにしてくれた。

 頭と両腕を通過させた服を放り出すより前に、間髪入れず逃げ腰の銀子ちゃんをグッと抱き寄せて、唇を重ね直した。

 今更、逃がしてあげることなんてできない。

 上着を脱がした時にちょっとの間だけ見えた。今日は白か…うん、清楚なのになぜかエロい。後でよく見よう…

 

 

 キスを繰り返しながら、肌触りのいい髪を撫でていたら、チクリと掌に何かが刺さった。

 ああ、雪の結晶の髪飾りか…

 薄目を開けて改めて近くでよく見ると、所々メッキが剥げている。

 そりゃあ、そうだろう。

 だって、これは銀子ちゃんが初めて女王になった日、ホテルの売店で見つけたブローチで、中学生のこづかいでも買えるくらいの安物だ。これをあげてからもう4年以上経つ。彼女は桂香さんからもらった黒いカチューシャにこのブローチを付けてずっと身につけてくれていた。

 

 他人と深く付き合わず、将棋だけに打ち込んできた彼女が、例外的にずっと示し続けてきた『家族の絆』の証だ。

 そして、俺にとっては『銀子ちゃん』の名前を失い、それでも『姉弟』の絆にしがみつく為に贈ったものでもある。

 これをずっと肌身離さず着けていてもらえたことが、どれだけ俺にとっての救いであり、銀子ちゃんの名前を取り戻すことを忘れずに将棋に打ち込む原動力になったのかは、誰にも分からないだろう。

 まぁ、異名(いみょう)と相まって予想以上に世間からトレードマーク扱いされて、見る度に立場の違いを見せつけられるのが辛くて、別の物を贈ったり、インタビューで憎まれ口を叩いたこともあったけど…

 

 でも、いまからするコトは『家族』や『姉弟』だったら絶対しないコトだから、これを着けていられると、なぜだか味が悪い気がする…

 俺は重ねていた唇を離して、代わりにおでこ同士をくっつけて、髪の毛を撫でながら彼女に囁きかけた。

 

「姉弟子」

「はぁ……なに?」

「これ、雪の結晶の髪飾り…ずっと着けててくれて、ありがとうございました」

「え? 急に、なに言い出すのよ?」

「でも、俺と二人きりの時はもう『姉弟子』でも『浪速の白雪姫』でもないから。着けなくていいよ、銀子ちゃん」

「っ…!?」

 

 俺は銀子ちゃんの頭からカチューシャと一緒に、俺が昔『銀子ちゃん』の名前を失った時に贈った 決別(けつべつ )の証を剥(は)ぎ取った。

 服と違って床に投げ出すなんて罰当たりなことは出来ないから、とりあえず部屋の隅に寄せられている机か何かに置かなければ、と少し遠くを見渡していたら、なぜか既視感を覚えて、はっと気がついた。

 

「あっ」

「……?」

 

 あっぶねェ〜〜!

 またやらかすところだったよ!!

 

 前回の敗着は、明らかに遠くに置き忘れたアレ(ゴム)を取りに行ったせいで流れが止まってしまったからだと分析し、今後はいつ何時でも機会があれば取り出せるようにと財布の普段使っていないポケットに忍ばせておいたのに、今度もまた部屋の入口に放り出した鞄の中である。

 部屋に入ってすぐに理性がぶっ飛んだせいで、危うく前回の二の舞になるところだった。

 

「ちょっと、待ってて」

 

 名残惜しいけど、抱きしめていた銀子ちゃんの体を離して、入口付近に置き去りにしていた鞄の元へ戻る。

 足の裏の感触で薄々気づいてはいたけれど、俺達が立っていたのは部屋の真ん中に敷かれた布団の上で。一応二組敷かれてはいるものの、ぴったりくっつけられているし、布団と布団境目寄りに、枕が二個並べられているところに中居さんの意図を感じる……

 

 鞄を開けて、とりあえずカチューシャを中に入れて、財布の中からアレを取り出す。

 さて、仕切り直すか…と、振り返って銀子ちゃんを少し遠くから眺めたら、あたふたしながら屈んで足元に散らばった二人の服の中から俺のワイシャツを手に取っていた。

 下着一枚なのが恥ずかしかったとか、そういう理由なんだろうけど……

 えーっと、余計に、エッチな眺めになってることに、銀子ちゃんは気づいているのだろうか……

 

「あっ……」

 

 俺に見られていることに気がついた銀子ちゃんは、見つかったことに驚いたのか、俺のワイシャツで胸元を隠しながら布団の上にぺたんと座り込んでしまった。

 今見ている光景が、この前彼女が三段リーグで連敗して 自暴自棄(じぼうじき)になっていた時の構図と重なって、あの時と同じ、この部屋で二人きりなんだと思い至ってしまった。

 

 改めて見つめた『銀子ちゃん』はいつの間にか美しい女性に成長していたけど、青みがかった灰色の瞳は初めて会った時と変わらず、透き通っていて幻想的だった。

 

 

*****************

 

 

 キスを繰り返していたら、八一が急に雪の結晶の髪飾りの話をし出して、カチューシャごと外されてしまった。

 女王になった時に八一からプレゼントしてもらったものだからずっと大事にしてきたけど、いい加減他の物を着けてくれって別のアクセサリーを渡されたり、インタビューでは嫌がらせだとか言ったりしてきたから、半分意地になって着け続けてたけど…

 そういう割には、私の前でこの髪飾りのことに言及(げんきゅう)することなんてほとんどなかったのに。

 そういえば、八一にとっては『姉弟子』って呼び始めた時に渡した物だから、『姉弟』を思わせる物で味が悪いのかな?

 こっ、これから『姉弟』じゃしないコト、はっ、始めるわけだし!?

 

 そんなことを考えていたら、八一が辺りを見渡して何かに気づいたようにハッとしたのが分かった。

 

「あっ」

「……?」

「ちょっと、待ってて」

 

 なんだろう。

 私のカチューシャを持った八一は部屋の出口の方に向かって行って、放り出してあった鞄を何やらごそごそと漁っている。

 久しぶりの抱擁とキスの余韻(よいん)でぼーっとしていたけれど、はたと冷静になってみるとこの状況はかなり恥ずかしい。

 上半身はブラ一枚なのに、下半身はスカートにストッキングとしっかり着ている。こんなカッコ、戻ってくる時に遠くから眺められたら恥ずかし過ぎる!

 何か隠せる物…

 足元にある布団で隠す!?

 ダメダメダメ!

 

 ただでさえ、さっき無意識にジャケットのボタンやネクタイを外したら、なんか『始めた』とか『自分で俺の服脱がせといて』とか言われちゃったし、布団なんか被ってたら、さらにわたしから誘ってるみたいに思われちゃう!!

 

 慌てて足元に落ちてた服を拾ってみたら、自分の服じゃなくて八一のワイシャツだった。

 あれ?

 私の服、どこ?

 そんな感じでわたわたしてたら、いつの間にか八一が振り返ってこっちを凝視(ぎょうし)していた。

 

「あっ……」

 

 慌てて手に持っていた八一のワイシャツで胸元隠したけど、バランスをくずして、うっかりその場に座りこんでしまった。

 八一はなぜか眩しそうな顔をしていて、でもなんでそんな顔をしているのかがよく分からなくて。

 そんなことを考えていたら、あっという間に帰ってきた八一に、胸元を隠していたワイシャツはさっさと取り上げられて、そのまま押し倒されてしまった。

 

 

 この前と違ってふかふかの布団に沈んで、八一のキスに応えながらも、私は今日の『勝負手』が上手く決まるかどうかが気になっていた。

 

 この前我慢させちゃったお詫びも兼ねて、八一に喜んでもらおうと思って、わざわざ、その…『勝負下着』を買いに行ったんだから!

 しかも予約制でサイズを測って、試着後の使用感とか見てくれて、着け方までちゃんと教えてくれるところに初めて行ってみた。

 フィッティングって言うらしいけど、手袋をした女性とは言え、試着室の中に二人で入って、あんな風に他人にテキパキとブラの中に手を突っ込まれて胸を触られるとは思ってなかったから、最初はビックリした。その…脇とか背中とかをグイグイ押して、入るモノ全部をブラのカップの中に詰め込む感じ?

 でも、見立ててもらった商品は、今まで通販で適当に選んでたのよりずっと苦しくなくてつけ心地もよかったし、カタチも綺麗に出てる気がする。何より、盛れてる。

 まぁ、桂香さんのとかに比べれば『谷間』とは言いづらいけど……

 

 せっかく準備してきたんだから気づいて欲しいけど、恥ずかしくて自分からは言い出せないし…

 そう思っていたら、口付けを止めた八一が体を離して真上から私を見下ろしていた。

 

「ん??」

「な、何よ…」

「……谷間…的なものがある…ように見える…」

「わ、悪い!? 私だって、それなりの下着着ければ、たっ、谷間…的なものくらいできるんだから!」

「……パッドで量増(かさま)ししてるとか?

「し、失礼ね! そ、そりゃあ、ちょっとは入ってるけど、ちゃんとしたブラなら標準装備なんだからね!」

「はぁ〜〜唯一の弱点を克服しちゃって、これ以上完璧になって、俺を悩殺してどうする気なの…」

 

 八一は私の胸元に顔を埋めながら、熱い吐息と共によく分からない恨み言を呟(つぶや)いた。

 そのまま肩紐を下ろされ、カップの部分をグッと外側に押しやられて、露わになった膨らみに唇を押し当てられる。

 

「ちょ、ちょっと! 無理に引っ張ったら型崩れちゃうじゃない! 買ったばっかりなのに!」

「……買ったばっかりなの?」

「ひゃっ!」

「俺の為に?」

「わ、悪い!?」

「悪くないです。清楚なのにエロくて最高です」

「エ、エロ!?」

 

 褒められた割にはあっさりブラのホックを外されて、手の届かないところに追いやられた。

 それで、いつの間にか、イチャイチャが始まっちゃったから、勝負手がうまく決まったのかは、よく分からないけど…

 その…前の時より、たくさん…触られた気は、する……




雪の結晶の髪飾りの件は、個人的考察(妄想)も入っていまして、
九巻の研究部屋のイラスト以外は、八一が銀子ちゃんを女の子として意識しているシーンのイラストでは髪飾りをつけていないんです。ゴスロリもハワイも桜ノ宮もつけてないし、11巻の濡れ鼠姉弟子イラストも外れて床に落ちてます。
そこからの仮説というか発想の飛躍を作中に込めてみました。

それから、これは解釈が分かれることかもしれないんですが、3巻のカラーイラスト見る感じだとBくらいある気がするんですね。Bくらいあるならば谷間は作れるそうなので、今回銀子ちゃんには頑張ってもらいました。(ゲーム特典のお着替え姉弟子タペストリー見て、ちょっと自信なくなったんですが…でもゲームの設定上、まだ中学生だし…)

次回、11/17 0:00投稿予定です。
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