【千年戦争アイギス】アンナさんとモーティマが色々あってイチャイチャする話 作:のぶた
※過去作は特に関係ありません。
アイギスの話の導入から描きたかったので、エロパートまでは遥か先。
本当に遥か先(3話くらい先)なので、ご容赦頂ければ。
──かつて物質界の支配を目論む魔物たちと、物質界に住まう人々の間で大規模な戦争があったと言う。長きに渡り続いた『千年戦争』と呼ばれるその戦い。戦いの末、女神の助力を得た英雄の力により、魔物たちは封印され人々は平和を取り戻した。
そう言い伝えられた戦争から幾星霜。最早そのような伝説は御伽話だろうと多くが思えるほどに、長い長い時が過ぎ去った。
世界を救った英雄が統治したとされる王国は大きな発展を遂げ、その子孫により繁栄を謳歌している。城下町は活気に溢れ、行きかう人々もみな笑顔が絶えない。この先もこのような日々が続いていくのだろう。誰もがそう思っていた。
……不意に、大きな鐘の音が街中に響いた。
王国に生まれ、歳を取り、その生涯を終えるまで。ほとんどの者が聞くこともなかった、街全体に届くようにと作られた大鐘の音。
他国に侵攻することもなければ、他国から侵攻されることもない。この平和な王国で使われた事など、数百年に一度の大災害程度で、数えるのに片手の指数本で足りるだろう。そんな王城高くに備えられた鐘の音が、街全体にけたたましく鳴り響く。
何事かと王国の住民は城の方へと目を見やる。そんな城内では、息も絶え絶えになりながら、全力で王のもとへと奔る一人の兵士がいた。
兵士は目的である王との謁見の間へと辿り着くと、そのまま転がり込む様に部屋の中に入る。足がもつれその場に倒れこむと、礼儀も忘れ部屋へと飛び行った者に、室内にいた衛兵が槍を構えた。しかし兵士はそれどころではなく、一刻も早く王に伝えねばならないことがあった。
「お、王っ! は、早く……早くお逃げくださいっ!」
開口一番、大声で警告を叫ぶ兵士。その焦りように、周囲にどよめきが走った。
「貴様、ここをどこだを弁えている! 無礼を慎め!」
衛兵の一人が槍を強く構えるが、玉座に座していた初老の王が、手振りでその衛兵の動きを制する。兵士の焦りように、ただ事ではない気配を感じ、話を促す。
「し、失礼しました! 封書がこちらに御座いますが、子細を書き記す時間はなく、形だけのものとなります……ですが、まずはどうか御身を隠せる所に移動を! 事を伝えるべく私は早馬で駆けてきましたが、奴等の中には、空を駆ける者もおります故!」
差し出された封書には、内容の重要度を示す特殊な封蝋、その中でも軍の最上層のみが持つ非常に力をもつ蝋が押されている。城の大鐘を鳴らしたのも、この封書によるものだろう。
伝令を伝える兵士の焦りを受け王が玉座がら立ち上がると、室内の上層にあったガラスが割れ、同時に黒い鳥のような姿をした影が、謁見の間へと飛び込んできた。
「な、なんだアレはッ!?」
飛び込んできた者の姿に、誰かがそう声をあげる。
鳥のように大きな羽根に、人の手足を生やした姿。肌はゴツゴツと、まるで岩のような質感を感じさせる。その姿はまるで、英雄達の伝説に記されていた、かつて人々と争っていたと言われる異形のモノたちと酷似している。
異形のものは、羽根を羽ばたかせ室内をグルリと飛び回りながら、眼下にいるものたちを見下ろす。室内にいたのは槍を構えた兵士が十数人に、彼らが守る城の君主、それと戦う力を持たぬ給仕や政務を取り仕切るわずかな関係者。不運なことに、王国の精鋭達は、郊外で多発している獣被害の対応のため、王の指示により城を出払ってしまってる。
……平和の代償とでも呼ぶべきだろうか。城を脅かす程の危機などそうそう起きる事はない。それよりも一刻も早く民たちの問題を解決したい……民の事を第一に考える王の思いからではあったが、それゆえ城内に残るのは、戦闘経験の浅い兵と、王宮に仕える戦闘とは無縁の者たちばかりだった。
異形は自身を脅かすものがいないと察したのか、ニタニタとした笑みを浮かべると、羽ばたきをやめ部屋の中央へと着地する。
「そんな、もうこんな所にまで……王、どうかお逃げくださいっ!」
周囲がその異形の姿に困惑する中、唯一状況を理解していた伝令を伝えに来た兵士が、剣を抜き異形へと立ち向かう。距離を詰め勢いよく剣を振り下ろす……が、剣は岩のような肌に弾かれ、その肌にわずかな傷を残した程度で、根本からバキリと音を立て砕け折れてしまった。
「なっ……っ!?」
兵士の表情が驚きに曇る。そんな表情を見て満足したのか、異形の者はその顔をニヤニヤと笑うように歪め、腕を大きく振り上げ……そのまま勢いよく横へと薙ぎ払った。
──ザシュッ
と肉を切り裂く音。ふと見ると、勇敢にも立ち向かった兵士の首から上が、まるで初めから何もなかったかのようにキレイに失われていた。あまりにも一瞬の出来事で、周囲はただそれを茫然と見ることしかできなかった。
……少しして、首と別れた胴体から行先の失った血液が勢いよく溢れだす。ぶしゃーっという音が聞こえるように、鮮血によるシャワーが周囲一面を真っ赤に染め上げる。
「……い、いやぁーーーーーっ!!」
給仕の一人が大きく叫ぶと同時に回りがハっと我に返る。
「王を、王を守れ!」
衛兵達が異形へと向かい槍を突き立てるが、そのドレも有効打にはなりえない。岩のような肌を持つ相手に槍を突き立てる訓練など、積んだことなどなかった。
「戦えない者はこちらへ! 早く!」
一人の兵は戦えぬ者たちを避難させるべく、部屋の扉を開け外へと出る。給仕達は横を通り急いで部屋の外へと通り抜けていくのを見やり……そこで気付く。城から見渡す城下街のあちらこちらから、火の手が上がっている事に。室内を襲っている異形と同じと思しき影が、街の空を幾つも舞っていることに。そして……
「なんだ、アレは……」
城から見下ろす街の更に先。街の外から王国へと向かってくる黒い大群。その正体が何かは判らなかったが、とにかく嫌な気配を纏っている事はハッキリと分かった。冷たい汗が背筋を通る感覚……その光景に目を奪われ、どれほど時間がたったのか。自分の傍を横切り部屋から出ていった少女の姿でふと我に返った。銀色をした長髪をたなびかせ、息を切らして駆けていく後ろが姿を見送ると。
(今の娘で最後だろうか……)
ふと、先ほどまで室内から響いていた戦闘の音がピタリと止んでいる事に気づく。刃が弾かれる音も、仲間の立ち向かう勇ましい雄叫びも聞こえてはこない。
(倒したんだよな……)
心の中でそう呟きながら、ゆっくりと兵は背後を振り向く。
きっとそこには、異形のものの亡骸が横たわっている筈だ。
敵を打ち倒し、歓喜に溢れる仲間たちの姿がある筈なのだと。
ゆっくり、ゆっくりと振り向く……振り向いて、室内を見渡し。
(あ、あぁ……あぁぁ……っ)
振り向いた兵の顔がクシャリと歪む。
男の視線の先にある部屋の様子は、ほんの少し前までの様相とは全く異なっていた。
床や壁、更には壺や銅像など部屋の全てが赤く染め上げられている。
鎧を纏った四肢や、首から先のない胴体、胴体と分離した足などが一面に散らばっている。
つい先ほどまで仲間であった肉塊が沈む、血の湖。
そんな湖の中央に異形が立ちすくみ……掲げるように伸ばした腕の先には。
(……そ……んな…………)
腹を貫かれ苦悶の表情を浮かべたままピクリとも動かない、豪華な装いをした初老の男性。絶命し、変わり果てた王の姿がそこにはあった。
兵の足から力が抜け、ガクリと膝から地面に崩れ落ちると、ビチャリと水音がした。血だまりが室外へと溢れだし、崩れ落ちた兵士の足元まで満たしていた。血から伝わる生温かな感覚は、更に絶望を染め上げていく。そんな男を見て満足したのか、異形はニヤニヤと口元を歪め……そして
「ギャッ!ギャッ!ギャッ!」
耳を塞ぎたくなるような不快な鳴き声をあげる。
更にそれにつられる様に、街中を舞う異形たちもあわせて「ギャッ!ギャッ!」鳴き声をあげ始める。
──……人々を嘲笑うかのような鳴き声が、城内……そして街へと響き渡った。