【千年戦争アイギス】アンナさんとモーティマが色々あってイチャイチャする話 作:のぶた
──……あたりに轟音が響き渡る度、足元が揺れ、振動が頭へと突き抜ける。
「王子、あちらへ急いでください! ここは我々が死守しますので! さぁ、早くっ!」
兵士に連れられるまま、示された方向へと向かう。当りを見渡せば、ほんの数刻前まで美しく真白に太陽を反射していた城壁は見る影もなく黒く焦げ付き、振動が鳴り響く度にガラガラと音をたてて崩れ落ちていく。
鼻をつく、木々の燃える臭い。肉の焼ける臭い。
背後から耳をつんざくような悲鳴が響いたかと思えば、不意にピタリと止む。数刻前まで話していた者達の命が途切れた事を、その音を便りに知る。
ギャッギャと笑うような声を上げながら、倒れたものに棍棒を打ち付ける醜く小さな悪鬼。肉がなく骨だけでありながら動く亡者たち。異形の者達が我が物顔で、城の中を闊歩していた。
そんな異様な光景の中を、茫然と身体を引きずるように歩く。
(…………)
魔物が復活したという報せを受けたのはつい先ほどだ。……だというのに、これほどまでに早く王城まで魔物たちが押し寄せてくるとは思いもよらなかった。
城下の様子や、父や、家族は無事だろうか……不安は尽きないが、まずはこの窮地を脱する事が先決だ。なんとしてでも自分は生きる必要がある……そうでなければ、自分を守ろうと命を賭し、魔物たちへと向かっていった者達に申し訳がたたない。
だが……一体どこへ行けば……目的もなくただ歩く事に身体は疲弊し、心がすり減っていく何度も足が止まりそうになるが、前へ、前へと足を進める……そうして。
「…………王子っ!」
背後から聞こえた声に振り向く。
一人の女性が、こちらへ駆けてきているのが見えた。白銀色をした腰まである長髪が、走るたびに大きく揺れている。その銀髪を見ていると、不意に子供の頃の記憶が蘇る……子供の頃は何度か遊んだ事がある、王城で出会った少女の記憶。ある程度の年齢になってからは、会う機会のなかった、少女の事を……。
思わず感傷に浸ってしまいそうになったが、またどこかでなった爆音で、ふと我に返る。気付けば彼女はすぐ目の前へと辿り着いていた。よく見ると、女性というにはまだ少し幼さを残す顔立ちをしている。10代の後半と言ったところだろうか。ぜぇぜぇと乱れた息を整えながら、真っすぐとした視線をこちらへと向けると……。
「はぁ、はぁ……良かった、ご無事だったのですね……」
シャツは所々すすけ、白く美しい肌にも擦り傷のようなものが見える。そんな自身の状況にかまう事なく、真っ先に俺の安否を確認しようと見つめるルビーのような真紅の瞳。
(…………)
こんな状況だというのに思わず見惚れてしまいそうになる。思い出の少女も真紅の瞳をしていたのを思い出し、目の前の彼女と重なって見えたが……。
「……大きな怪我などはされてないようですね……ご無事で本当に良かった……」
俺が無事な事を確認すると、安堵したように大きめの溜息をつく。その所作振る舞いはあまりにも丁寧で礼儀正しく、気品と育ちの良さを感じさせ、思い出の少女とは少しブレる。思い出にある少女は快活で元気にあふれ、少女らしい少女だった記憶があった。
「……あの、どうかされましたか、王子?」
ルビーのような瞳に真っすぐこちらを見つめられ、思わずドキリと胸が跳ねる。……いかん、こんな状況だというのに、俺はなにを惚けているんだ。
(……ふるふる)
思わず『なんでもない』という意図を込めて首を横に振ってしまう……人には無口とよくいわれるが、なんてことはない。咄嗟の時に声が出ないだけのただの口下手なだけだ。
「そうですか、なんでもないなら良かったのですが……。」
ホっと胸をなでおろす目の前の少女。よかった、通じたようだ。
「……ですが、ここで長居するわけにも行きません。……王から言伝を預かっています。王子を連れ、森を抜け神殿へ向かえと……」
そういう彼女の瞳にはうっすらと涙が浮かび、真剣な表情でこちらを見つめてくる。王……つまり父上からの言伝……となれば彼女は王国の関係者なのだろうか? ……いや、それよりも父上は一体どうなって……疑問が顔に出ていたのだろう。
「申し訳ありません……王は既に……残された王族の血は、王子を残すのみになっています。……英雄の血をここで絶やしてはなりません」
悲痛な表情を浮かべた彼女。だがすぐに、強く信念を秘めた赤い瞳が、こちらを真っすぐに見つめてくる。
「……私はアンナ。まだ日は浅かったものの、政務官として王にお仕えしておりました……王が亡くなられた今、貴方に仕える政務官として、この身を捧げさせて頂きたく思います」
そういうと、やんわりとだが表情を崩し、こちらに微笑みを向けてくれる彼女。俺を安心させるためなのだろう。その笑顔を見ると、満身創痍だった身体に力が漲っていくのを感じた。鉛のように重かった脚が、再び歩くための力を取り戻す。
「神殿へは私がご案内します。王子、こちらへ」
そういって差し伸べられた彼女の手の平に自分の手を伸ばし、ゆっくりと握る。繋いだ掌から伝わる熱が、心地いい温かさが伝わってくる。
「神殿は森を抜けた先にあります。周囲には最近山賊が現れると聞いています……くれぐれもご注意を」
彼女のその言葉に、コクリと頷き返す。そして再び歩き始めようとしたところで、背後から新たな爆音が鳴り響く。王城からは新たな火の手が上がっていた。まだ取り残された人々もいるのだろう。王城からは、逃げ惑う人々の叫び声が聴こえてくる。
父がいなくなった今、この地を守るのは自分の使命……だというのに、自分はただ逃げる事しかできない。その現実に胸が締め付けられる程に痛い……心の中に決意が浮かぶ。
俺を守るために失われた命に報いる為に。無造作に命を奪われた者達の無念を晴らすためにも……俺はまたこの城に戻ってくる事を誓う。必ず世界に平和を取り戻してみせる……彼女とならそれが出来ると、自分の内から力がこみ上げてくるのが判る……アンナの顔を真っすぐに見やる。
「王子? あの、どうかされましたか……?」
きょとんとした顔を浮かべるアンナ。だが真っすぐ目が合った事が恥ずかしかったのか、少し頬がピンク色に染まり、目を逸らす素振りを見せる。そんな可愛らしい仕草に今すぐこの想いを伝えたいとも思ったが、来るべき時まではこの想いは秘めておこう……俺はふるふると首を横に振り。何でもない事を伝える。
「そうですか……それでは参りましょう」
これから先どうなるのかは判らないが……それでも、アンナが隣にいてくれるのであれば、きっとなんとかなりそうだ。握った手に力を込めると、彼女も強く握り返す。そこに確かな絆を感じ、俺たちは歩き始めた。
「行きましょう王子。女神アイギス様を祀る神殿へ!」