【千年戦争アイギス】アンナさんとモーティマが色々あってイチャイチャする話 作:のぶた
どの視点が一番良いのかを悩みに悩む。
──……あの日から……私がモーティマさんに純潔を捧げた日から……気付けば一週間程が経過していた。あれから私は、毎日のように彼に身体を弄ばれ……
……るような事はなく。
「おうテメェら、この山を超えりゃもうすぐ街だッ! 美味い飯に良い女が俺らを待ってんぞ、キバりやがれッ!!」
「「「ウェーイッ!!」」」
太陽の光が降り注ぐ切り開かれた山道。その中央で斧を頭上に掲げて声を張り上げる巨漢の男性は、山賊の大将モーティマさん。彼の激にあわせ、負けじと声を張り上げる山賊の皆さんや、その中には王国の兵士の方々も何人か交じり、出立の前に気合を入れている。野営の撤去が終わり、今日の分の歩を進めんと今から進軍を開始する所だ。
女神アイギス様より掲示を受けた地を目指し、私達は今山道を進んでいる。森から森へ、山から山への険しい旅路ではあるが、皆さんの表情にあまり疲れはない。疲れを見せないモーティマさんの力強い号令が、皆に活力を与えているのかもしれない……なんてことを、なんとなく思う。
はじめは戸惑っていた山賊の方々との共同戦線は、思いの外上手く行き、今では奇妙な連帯感も覚え始めている。誰とでも遠慮することなく話す彼の人柄が、そうさせるのかもしれない。
ゾロゾロと進軍を始めた皆さんの後ろを、私も置いて行かれまいと歩き出すと。
「山賊と協力関係にあると聞き最初は驚きましたが……いやはや、思いの外慣れてしまうものですね」
声のしたほうを見れば、先日合流したばかりのケイティさんが隣を歩いていた。王国が健在の時は戦術教官とし、兵の指南を務めていた事もある。そんな彼女と合流できたことは何とも心強いことです。
「ふふ、確かに……普通は驚きますよね」
それはそうだ。王国の軍と山賊が手を組むだなんて、王国の歴史を紐解いても前例がない事では……いえ、今よりずっと昔、千年戦争の戦いが行われていた頃は、種族や立場の垣根を超え、様々な者が手を取り合い戦っていたと聞いた事もありますが。そう滅多にある事ではないと思います。
「ですが、彼らのおかげで随分と助かりました。お恥ずかしい話ですが、私達だけでは山を越す術も知らず、山賊の皆さんの力がなければ今頃はどうなっていたか分りません……城を取り戻した暁には、しっかりとお礼をしないといけませんね」
「えぇ……しかし、油断はなりませんよ。相手は山賊、いつその本性をむき出しに襲い掛かってくるかも分りませんので……特にアンナさん程のうら若き乙女を、あの野獣のような男が放っておくとは思えません」
そういってケイティさんは、メガネをクイっとかけなおし先を行くモーティマさんを鋭い目で見る。モーティマさんはそれに気付いた様子もなく、前方で山賊の方や兵士の方とガハハと談笑しなが歩いていた。
「もし何かあれば、すぐさま呼んでください。その時は……」
そういってチャキリと鞘から剣を少しだけだし、刃を見せるケイティさん。
「え、えぇ、ありがとうございます……ただ、できれば穏便にすませて頂ければ……(既にその……とは、とても言えませんね)」
そんな彼女に少し歯切れ悪く返してしまう。
「それは時と場合によりけりでしょうか……と、すみません。私は今後の予定について少し話をしてまいります。アンナさん、もしお疲れでしたら荷馬車をお使いください。それでは」
「……ありがとうございます。はい、是非頼らせて頂きますね」
そういうと、彼女は兵士の方の元へと去っていってしまった。ふと前方を行くモーティマさんを見やる。
(何かあれば、ですか……)
彼に襲われてから……というのは少し違う。王子を守ってくれるという約束の元、私の身体を好きにしても良いと差し出したのは私自身だ。その結果モーティマさんに抱かれた日から……あっという間に一週間がたとうとしていた。
あれ以来、彼に身体を求められた事はない。
(当然、そういう事をしたいなどと思ってはいませんが……)
あの日から数日の間は、いつ呼ばれるのかと気が気ではない毎日を過ごしていた……が、結局ただの取り越し苦労と言うべきか。モーティマさんに呼び掛けられることはあれど、ちゃんと飯食ってるかだの、手下の連中に何かされてないかだの、そんな日常的な会話程度。彼の態度に、気付けばすっかり毒気も抜かれてしまった気分だ。こう何もければないで、何とも言えない肩透かし感も覚えてしまう。
(……もしかして、私にそれほど魅力がなかったという事でしょうか?)
王国に仕える身として身なりには気を遣っているし、胸だってほどほどには大きく、女性としての魅力はそれなりにあるつもりだった……けれども。
(……思えばこの一週間、王子からもお声を頂いた事はありませんね)
旅の最中、王子が仲間になった女性の皆さんと……夜中に度々そういった事をしている事は知っている。
……というよりも、私がそうすべきだと王子に言ったのだから。
王族の方々が英雄王の時代から脈々と受け継いできたと言われる能力『カリスマ』。王族の人間と共に戦う者は、その『カリスマ』と呼ばれる能力の影響を受け、その者がもつ本来以上の力を発揮すると言われている。その力は王子と親しくなればなるほどに強くなるとも言われており、贈り物などで仲間の皆さんと親睦を深める事を進言したのはほかならぬ私自身だ。
王子は仲間になった様々な女性としっかり仲を深めているようで、それ自体は複雑ではあるが喜ばしい事でもある……けれど。
(もしかしたら私にもお声がかかるかもしれない……などとは、夢を見すぎだったでしょうか)
仲間になる女性はどなたも魅力的で、加えて知性や武芸に秀でた方ばかり。私より年下に見えるソーマさんだって、まだ少女のような外見とは裏腹に弓の腕などは確かなものだ。
(そんな方々と違い、私に出来る事と言えば少しの荷物の整理と食事の用意程度)
はっきり言って、役にたってる自信など全くない。先ほどのケイティさんも、私に無理をさせまいと気を遣ってくれたのは判っている。
(これほど魅力的な人ばかりの中、私が選ばれるなど思い上がりも甚だしかったですね……)
自分の無力さにため息が出てしまう。そもそも食事の用意にしたって……前方を行くモーティマさんの背中をジっと見ていると
「……ん?」
そんな視線に気づいたようで、こちらを振り返ったモーティマさんと目が合う。話をしていた方々に別れを告げたようで、ゆっくりと歩幅を緩め、私の隣に並んでくる。
「何見てんだ?」
頭二つ程高い位置から威圧的な声……とは言えもう随分慣れたもので、特に怖さも感じることはない。見上げるのも大変なので、特にそちらのほうは向かずに前を向いたまま会話を続ける事にする。
「いえ、別に大した事ではないのですが……改めて意外だったなと」
「あぁん、何がだよ」
「そんな見た目をしているのに、モーティマさんがまさか料理が出来るなんて思ってもいなかったもので」
「そんな見た目って、あのなぁ……でもま、確かによく言われるな」
そういってガハハと笑う。
「こちとらガキの頃から山育ちだかんな。そこらへんに生えてるもんや獲った獲物を美味く食えねーかってあーだこーだやってる内に、気付けばな。俺様の手にかかりゃ、その辺に生えてる野草だろうがそこいらの店顔負けの料理にしてやらぁ!」
そういってまたガハハと笑う。モーティマさんの料理の腕は確かなもので、初めて見たときは何かの間違いではと何度も目を疑ったものだ。野菜の切り方ひとつにしても、星型に、兎型に、ハート型にといかんなく女子力を発揮してくる。
「意外といやアンタの方もだろ。自分から料理をするなんて言い出しやがったから、てっきり結構出来るのかと思ったのによ」
「うっ……し、仕方ないじゃありませんか。普段自分で料理をすることなんて、滅多にありませんでしたし」
これでも女性の端くれだ。父や母に料理を振る舞った記憶くらいはある。料理くらいなら自分でも役にたてるのでは……と志願したものの『あぶなっかしい!』と包丁を取り上げられて以来、彼の隣で配給を手伝う程度の仕事しかさせて貰えてはいない。思えば最後に料理をしたのは幾つの頃だったか……。
(確かに私が作るよりもモーティマさんが作る方が美味しいのは間違いないですが……なんとも複雑です)
この熊のような男に女性として負けているのは、少し……いや、かなりくやしさを感じてしまう。しかし、こうなると。
(戦いでは役にたてず……料理ですらモーティマさんに敗け……そのうえモーティマさん……はどうでも良いですが、王子に求められることもないとなれば……)
悪い癖だとは思うが、思考が悪い方向へ悪い方向へと突き進んでいき。
「私には、女性としての魅力すらないのでしょうか……」
頭の中だけのつもりが、思わず言葉を口に出してしまっていた。
「あぁ?」
その言葉にモーティマさんが反応する。
「何言ってんだおめぇ」
(……ッ!)
しまった。なんとかごまかさないと、
「いえ、その……1週間前のあの日から、特に呼ばれる事もなかったので……あの……その……あまり良いものではなかったのかな、などと……え……あッ!?」
……墓穴がどんどん広がっていっている気がする。
「今のはその、ち、違います! 言葉のアヤと言いますか、なんといいますか……」
「あぁー……そうだな……今晩あたり、久々にヤるか」
「……? …………ッ!?」
その言葉に一瞬意味が分からず、けれどすぐに意味が分かり顔が一気に熱くなるのがわかる。誰かに聞かれていないかと左右を見渡すが、周囲に人はおらず、此方を気にした様子はない。良かった、誰にも聞こえてはいないようだ……と、そうではなく
(な……何を言い出すんですかいきなりッ!!)
小声で彼に怒鳴りつける。
「お、おう、わりぃ……てか、話を切り出したのはアンタだろ」
「そ、それは……ッ!」
言葉に詰まる。モーティマさんは頭をボリボリと掻きながら。
「まぁアレから一週間もたちゃ平気だろ」
「……平気というのは?」
一体何の話だろうか。
「いや、アレからしばらくアンタ、顔色が良くなかったからよ」
……当然の事だ。約束とは言え、出会ったばかりの好きでもない男性に抱かれ……それも初めてを奪われ、またいつ声がかかるかもわからない状況で心が休まる時などある筈もない。
「てっきりアノ日ってやつなのかと思ってしばらく様子見てたんだが」
「違います!」
ハッキリと否定する。まさかそれが理由で、この一週間特に何もしてこなかったという事なのだろうか……。
「がはは! そんだけ元気があんなら大丈夫そうだな」
「ッ!」
私自身が切り出した話のせいで、どうやらすっかりその気になってしまったようで……そうなれば此方に拒否権などはない。
「そんじゃ今日はよろしく頼むぜ」
「……ッ!」
そう上機嫌に言うと、モーティマさんが私の肩を軽く叩き、去っていこうとする……自分で掘った墓穴に、すっかり自分で埋まってしまった事に後悔していると。
「あぁそうだ、あとアレだ」
不意に足を止めたかと思うとモーティマさんがこちらを振り返る。
「女としてのどうたらだっけか。んなこたないと思うぜ。ぼちぼちコッチも我慢の限界だったしな……へへへ、今晩が楽しみだぜ」
まさか……彼なりに気を遣ってくれているのだろうか……けれど、あまり嬉しくはない。そのフォローとも判らない言葉にどう返すか悩んでいると。
「それに、アンタのデケーソレは最高に良い物だったしな。今でも感触が忘れ」
──ズゴンッ
なんてことを言い出すものだから、気付けば言い終わる前にグーで顔面に行ってしまっていた。思いの外良い所に入ったようで、すっかり気を失ったモーティマさんが、先ほどの会話の記憶を失ってくれる事を切に願うばかりだった。