ようこそ俺だけレベルの概念がある世界へ 作:Monburan
「……お前は、魔法使いを信じるか?」
唐突にして意味不明な俺の問いに、櫛田は珍しく困惑した表情を浮かべる。そして少し考えた後、確認するように問いかけた。
「魔法使いって、魔法を使う方の魔法使いであってるよね?」
「そうだ。魔法が使える、本物の魔法使いの話だ」
「なら、私はいないと思うな。けどいたら素敵だなとは思うよ! えっと、話が終わりなら私もう帰るね?」
俺と話すのが余程嫌なのか、櫛田は確認するように後退りし少しずつ距離を離していく。だがそうはいかん。このまま帰られては、俺は魔法使いを信じるただの痛いヤツだ。
「待て、櫛田」
「……なに?」
「俺は魔法使いだ」
「そうなんだ、すごいね」
笑顔なのに感情のこもっていない声。だが、これが普通の反応だろう。印象の良くない男がいきなり校舎裏に呼びだして来るから仕方なく来てみれば、存在もしない魔法使いの話をされ、挙げ句の果てにそいつが魔法使いだとカミングアウトされる。今すぐ帰りたい気持ちも頷ける。
「信じられないのは当然だ。だから、今から証拠を見せる」
無言でなにも答えず、櫛田は少し冷たくなった目を俺に向ける。そんな櫛田の態度はお構い無しに、俺は魔法使いの証明を始める。
『櫛田に鑑定を付与する』
激しい動悸と頭痛に耐えるべく、精神を強く保つ。そしてすぐ、その時は訪れた。今にも膝を抱えたくなるような苦しさに、俺は精神という心のステータスで対抗する。そして少しずつ回復してきた体に鞭を打ち、俺は強い言葉で櫛田に伝える。
「櫛田に魔法を付与した。俺を見ながら、鑑定と心の中で叫んでくれ」
櫛田は俺の声に答えなかった。おそらく、答える前に心の中で叫んだのだろう。きっと今のあいつには、俺の名前がゲームのように映し出されているはずだ。そして考える。これは何の手品なのか、それとも本当に魔法なんてものが存在するのかを……
「そろそろ、答えを聞かせてほしい」
俺の問いかけに、櫛田は少し体を硬直させ得体の知れない者を警戒するように聞き返した。
「……答えって、なんの?」
「お前は、魔法使いを信じるか?」
振り出しに戻るとはこういうことを言うのだろう。いや、やはりそれは違うかもしれない……。確かに話は振り出しに戻った。だが、仮定は違う。魔法を使う前と、使った後。言葉こそ同じ質問だが、もうこの質問は櫛田にとって同じ質問ではない。
「……これが、魔法なの?」
「俺の名前が表示されていればそれが魔法だ。正確にはスキルというのだが、同じようなものだと考えてくれ」
「……そっか。ちょっとびっくりしたけど、魔法……スキル? が存在してるかもしれないっていうのはわかったかな」
「櫛田に付与したのは鑑定というスキルになる。相手の名前を見ることができる簡単なスキルだ。もちろん、他にも攻撃的な魔法や個人の能力。いわゆるステータスを上げることも俺にはできる」
「……そうなんだ」
櫛田は納得したような納得してないような、今まで培った自分の価値観と現実に体験した事実の狭間で思案を巡らしていた。そして、浮かび上がる疑問を俺にぶつけてくる。
「どうして、私に魔法の事を教えたのかな? これってすごいことだよね?」
「櫛田がDクラスで最も優秀だと思ったからだ」
「……えっと、嬉しいけど。それは、なんで?」
「まだ入学して数日だ。特に俺は出席もほとんどしていない。そんな俺が、Dクラスで最も優秀だから櫛田を選んだと言っても信憑性はないだろうな」
核心をついているからこそ答えにくい。俺の独り言のような言葉に、櫛田はYESともNOとも返さず沈黙を解答に選んだ。それを見て、俺は言葉を続ける。
「だが、人を見る目はある方なんだ。少し見たら大体わかる。これも、魔法使いの力とでも思ってくれればいい。Dクラスには平田を始め、櫛田に軽井沢など中心人物がいる。勉強だけならば幸村や王も負けていないだろう。素行こそ悪いが運動ならば須藤も得意みたいだな。そして、文武両道で言えば堀北もいる」
一瞬、ほんの一瞬。堀北という言葉に櫛田の体が反応する。もちろん、魔法使いの力ではない。これは原作知識の力。だが魔法の力ということにした方が今後都合がいい。
「……クラスのことを知ってるのはわかった。理由はまだはっきりしてないけど、私を選んでくれたのもわかった。じゃぁ私は、何のために選ばれたのかな?」
「理解が早くて助かる。先ほど魔法は攻撃的な魔法やステータスを向上させるものもあると説明したが、これも自由に好きなだけ取得できるという訳じゃない」
「……そういうことかっ。取得するために私の協力が欲しいってことかな?」
「そうだ。そしてその対価に、俺は櫛田に力を付与する。櫛田にとって悪い話ではないはずだ」
「もし、断ればどうなるの?」
「どうにもならない。櫛田に報復などもしないし、今まで通りの関係に戻るだけだ。残念だが、別の優秀な誰かに協力を頼みに行くことになる」
「私が、この話を言いふらしたりすると思わないの?」
「思わんさ。言っただろ? お前は優秀な女なんだ。魔法使いがいるなんてお伽噺話は誰も信用しない。入学早々、虚言癖のある女だと揶揄されるような真似をお前はせんだろ?」
「うんっ、一応聞いてみただけ。けど、すぐに答えは出せない。協力内容を、先に教えてほしいな」
一連の流れが掴めた事で、櫛田からの質問が増えてきた。興味がないなら既に帰っているだろう。質問が出るということは、興味があるということに他ならない。だからこそ俺は伝える。能力を得るために必要なことを……
「SEXだ」
「……え?」
「能力を取得するには、SEXをしてレベルを上げる必要がある」
「ごめん、やっぱり帰るね……」
「待てい! 何も櫛田にSEXさせろとは言わん。他の女とSEXするためのお膳立てを頼みたいんだ」
「お膳立てって、具体的には?」
「簡単なことだ。男である俺よりも女の櫛田ほうが自然に行える事もある。紹介などもその一つだ」
「紹介かっ。まぁ、そのくらいなら……」
とりあえず協力関係は結べそうだな。櫛田とSEXできんのは残念だが、今はレベル上げが先決。櫛田は原作でも社交性の鬼だった。必ずや、大きな働きをしてくれるはずだ。
「では、話も落ち着いたところで移動しよう。ずっと立ちっぱなしというのも疲れるだろ?」
そして次の日の放課後。俺と櫛田は、Aクラスの神室をターゲットに定め、動き出したのだ───
「ねぇ、この木の枝って持つ必要あるの?」
「お約束というやつだ。持っていれば成功率があがる。魔法使いの力だ」
「ふ~ん。逆に目立つと思うけど……」
もちろん、そんな力はない。
次の日の放課後。俺たちは草むらの中で両手に木の枝を持ちながら、前方のコンビニを監視していた。
昨日、移動した俺たちはいくつかのルールを決めて解散した。まずレベルや経験値の存在を櫛田に伝え、俺のレベルが1つ上がる毎に櫛田の働きに応じ何かしらの力を付与すると約束した。Sポイントについての詳細は話していないので、レベルが上がれば出来ることが増える程度の理解に収まっているはずだ。ちなみに催眠についてはバレた……。嘘をついて今後バレた時のほうが怖いので素直に白状すると、貸し一つ言うことで許してもらえた。櫛田の初めてというブランドがどれだけの貸しになるのか、今は考えないことにしよう……
そして本日の放課後。神室をターゲットに定めた俺たちは、コンビニで万引きするところを捕まえるためにこうして先回りし、草むらに潜んでいるのだ。
「昨日も聞いたけど、ホントにこのコンビニであってるのっ?」
「ああ、間違いない。魔法使いの力だ」
もちろんそんな力はない。だが神室真澄は万引きの常習犯。息をするように万引きを行う。そしてそれはスリルの為。神室真澄とはそういう女だ。数日前にこのコンビニに出入りしていた事は確認が取れている。あとは来るのを待つのみ……
「あっ、神室さん来たよっ」
「ようやくお出ましか。では作戦決行だ。万が一坂柳が現れた時には対処してくれ」
「わかった。頑張って!」
俺は櫛田と別れコンビニへと向かう。バレないように神室の死角から携帯で動画を撮影し、万引きの瞬間を今か今かと待つ。だが、俺は最初から脅す為に証拠を撮るのではない。あくまでもこれは最終手段だ。
あの日、先輩と過ごした時から俺のSEXに対する観念が少し変わった。今までは誰でも良かった。好きでなくとも、どんな女でも、穴があればいいというレベルだった。だがそれは違った。温もりが、愛しさが、好きという感情がSEXを気持ちよくさせるスパイスになることを知った。そしてそれがなければ、終わったあとにはただの喪失感しか残らなかった……
『優先順位は相思相愛。それがダメならレイプ』
俺は神室を撮影し続けながら改めて自分に言い聞かせる。そしてその直後、神室は鞄の中にアルコールの缶を入れた……
『ありがとうございました』
会計も済ませずに自動ドアを抜けて、コンビニから神室が立ち去る。少しの間隔を開けて俺がその背中を追う。そしてコンビニから100メートル程離れた頃、俺は神室に声をかけた。
「なあ、ちょっといいか?」
神室が足を止めて振り返る。急に後ろから声をかけられ、少し不機嫌そうに神室は答えた。
「何か用?」
ムスッとした表情。だが、それを可愛いと感じさせる何かが神室にはあった。それは容姿のせいか、スタイルのせいか、はたまた原作キャラ補正なのか俺にはわからなかったが、少なくもとも神室という女を俺はどこか好ましく感じていた。
「急に声をかけて悪かったな。別に大した用じゃない。実は入学したばかりで知り合いがいなくてな。一緒に寮へ帰ってくれる友達を募集してるところだ」
「そう。悪いけど急いでるから」
すぐに足早で歩きだす神室。取り付く暇もないとはこういう事なのだろう。俺はやむ終えず少し大きめの声で神室に尋ねる。
「さっきはコンビニで何をしていたんだ?」
「何をって?」
神室が再度足を止めて俺に振り返る。無視することも出来ただろう。だが万引きを見られていた時のリスクを天秤にかけて、神室は対話を選択した。
「見たところ何も買っていないようだが?」
「別にいいでしょ。欲しいものがないことだってある」
話を切り上げた神室は寮へ向け『いい加減にしろ』と、まるで体で表すように不機嫌な一歩を踏み出す。だがそんな神室の一歩を、俺の言葉は許さなかった。
「万引きしただろ?」
俺の声が神室の耳に届く。再三に渡る帰宅の妨害に加え、万引きについても言及する俺に対し、神室は挑戦的な発言で対抗した。
「私が盗んだって証拠でもあるわけ?」
「ああ、動画に撮ってある。お前が万引きした事を証明するには十分過ぎる動画だ」
「あっそ……」
俺は撮影した動画を神室に見せつける。どれだけ手際が良かろうと、今まで一度も捕まったことのないプロであろうと、一度バレてしまえばそんな事は全て無意味。見つかった事実は取り消せない。それを悟ったからこそ、神室は俺の言葉を待たずして口を開いた。
「好きにして」
神室が鞄の中に手をいれ、アルコールの缶を取り出す。万引きももちろんだが、通常20歳に満たない人間には買うことが許されない物。俺は神室の行為をただただ眺めていた。そんな俺の視線に痺れを切らした神室が、我慢できずに声を上げる。
「さっさと連絡しなさいよ」
通報しろ、と神室は言う。たが、俺の求める答えはそんな言葉ではない。だからこそ、俺は閉ざしていた口を静かに開いた。
「何か、勘違いしているようだな」
「……勘違い?」
意味がわからない。そう言いたげな顔。呼び止められて万引きについて言及される。普通ならば注意されるか、あるいは学校に連絡される。そんな対応が一般的だろう。
「俺はお前を注意する気もなければ、学校に連絡する気もない」
「……じゃあ、何の用?」
「言っただろ。友達を、募集してるところなんだ」
僕と契約して魔法少女になってよ!!
フレンドって大切ですよね。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
まだ続き読んでもいいかなって少しでも思って頂けたら、お気に入りに追加してくれたら嬉しいです。
これからもよろしくお願いいたします!