※この作品はR-18です。

幻影戦記~水と風の小夜曲~   作:ロバート・こうじ

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前半はアインクラッド編 31話 恋物語りは一喜一憂するの続きです。

一から三はユナ視点

四はオリ主中心の視点

でお送りします。


1話 歌姫の不安

――今でも奇妙な夢の中を歩いていると錯覚する。

 

 想い人は背中に手を回し、情熱的に深く、深く唇を重ねた。頭骨に収まりきらないほどの猛烈な多好感は熱情に変わって打ちのめされる。彼の體にまだ存在していることが不思議で、うっすらと目を開けると彼の透明な瞳と目が合う。

 もう、胸の内を抑えなくてもいい。彼の愛情を受けられる、たった一人のライブなのだ。向き合っている時には幼さを感じるも、裏側に潜んでいた大人の包容力と熱い接吻の色を知る合間、私の心は奪われたから。

 

一

 

 二日目の深夜に目覚めた時に、私はなるべく普段通りに、いつも通りを演じていた。

ユズルとの同居生活に必要な道具を買いにリズと良く訪れた第二十二主街区≪コラルの村≫は見たことも、経験したことの無い涼しげな景色。日に反射する家具の数々。どれもなんだか眩しかった。

 白と青色の模様が特徴的のフードを着たユナは、これからの共同生活に必要な家具を巡り歩いていた。隣を歩いているユズルはインテリアをアンティークに統一させようと錆付きを選ぶ。ユナはそれに抵抗して木製の家具を選び、何度も話し合いをした。ときどき、使いやすそうな家具が見つかると言葉を交わす。

 

「これはどうかな…暗証番号の付いた本棚か…おぉう、レプリカに淫れた本もあるな――これは、青年用の家具か?開発者のセンスを疑うな――」

「これならいいかもしれないわ...えぇと――外気と内気の熱量に合わせて厚みの変わるカーテン、これを使えば外の明かりを調整できる――あ――ちょっとダメね。調べてみたら、裏から相手の姿を覗ける家具みたいね――流石に、買えないかな…」

 

 そうこうする間に、昼食の時間を過ぎていた。もうほとんどのレストランは満席で食事のできる場所はない。ユズルは隣を外れた後に、数分もかからずに戻ってくれば大きなバスケットを片手に引っ掛けていた。香ばしい小麦の匂いに、少し脂身を感じる肉の香りは空腹を刺激し、昼食は待ち遠しい時間に思わせた。

 

二

 

 コラルの村から外れた森林は小鳥のさえずる声と葉の揺らぐ音に揺れている。日除け用のフードから見上げる空は真っ青で広すぎて疲れてしまいそうだ。緑園に潜むカフェテリア――そよ風の吹くテラスで手作りのサンドイッチを食べていた。そして、視線を変えればミルクを混ぜないままのコーヒーを飲むユズルの――その唇を意識せずにはいられない。

 ユナは滾々と込み上げてくる想念を断ち切る様にユズルと話し合う。ふと『恋愛』に対する価値観の違いに思考をふけていれば、彼はある悲恋と言われている『ロミオとジュリエットの恋物語』の一場面を例にした。

 

 私も、唄の作詞や作曲の参考資料に物語の伝承を知っていた。今日この日に、その物語を昼食で語り合うとは思わなかった。それに二人の恋愛を痛いほど共感してしまったから。

 私が、まだユズルに惚れていると自覚していなかった時だ。彼に会いたい気持ちに惹かれて身体が言うことを聞かず『思い出の場所』で待ち続けた。カファに来たキリトとサチの仲良くする姿に、一瞬でもあんな風に恋人と話したらと思えば、胸焦がれる熱さは痛みに変わって苦しめられた。これが恋であれば、愛とはなんだろう。

 

「もう一つ聞いていいかな」

「どんどん聞いていいよ」

「『純粋な恋愛』って言う――」

 

 私自身は認めたくなかった。今でこそ『アインクラッドの歌姫』や『アインクラッドの希望』と呼ばれてはいる。私自身はそんなに大それた人物ではない。大切な人や好きな人に唄を聞いてほしい¨歌人¨であり、他人を利用できるものは利用する打算的な女にすぎない。

 だが、自分の歌のモチベーションに対する方向性について何度も苦悩する一方で、私は引き離されるまで自分の想いを支えてくれたユズルの優しさと勇気に何度も惹かれてしまい、そんな彼を最後には愛したいとさえ思っていた。

 

 身を焼き滅ぼすほど燃え上がっていた恋の先は奇跡的に想い人の両想いとなれた。でも、もしかしたら、ただ『ロミオとジュリエット』の様に一時の恋に酔っているだけかもしれない。彼を「従順な男の子」として好きなのか「ユズル」として好きなのか。

 

「なら、純粋な恋から愛に変わるには、どう線引きすればいいのかな」

 

私は誰でもなく『プレイヤー名:ユズル』という人間に恋をして、現実世界でも彼を愛したい。質問にユズルは『信頼感』を積み重ねていく必要を話した。恋に周りが見えなくなるのはよくある出来事であり、現に告白する時は周りに人がいてもお構いなしだった。

 ユズルと実際に話し合えた期間は一か月も過ごしていない。まだ彼のことを詳しくは知らない。私は、まだ独りよがりの恋をし、愛を疑っているから焦っているのかもしれない。

 

もう、シリカちゃんの様に交際していたとすれ違いを起こしたくなかった。

 

 気持ちの整理を付けた私は、カフェオレを口に含み、乾いた喉を潤した。まだ心のどこかで彼の心と離れている予感に手は震えてしまい、一滴の雫は口先から漏れていた――

 

三

 

 ユズルの繋がれた唇からは卑猥な水音と共に水滴は床に落ち、飛沫はその周囲に霧のように消えるが受けを気にせず、攻めに接吻をねだり、もう離れないようにユズルの肩を押さえ付ける。

 

「少しだけ待って……」

 

 言われるままに、ユズルは両手を伸ばして離れていく。今のユナは、ユズルと離れれば蓄えた熱を抱かれ合い、熱情のまま求め、強要してみたいとさえ感じた。彼の中には軽い加虐の思考があり、それを受け入れたい被虐の思考がある。だんだんと醒めていく頭とは反面、體は浮遊するほどの熱を帯びていた。

 

「待って。倫理コードを外すから」

「このままでいいよ…」

「だめだよ、もっと酔わせたいから」

 

 ユズルはメニュー画面を操作して隠れていた倫理コード解除設定を押し、ユナは操作を見様見真似で解除する。奥の部屋にある一人では広すぎて二人では狭いと感じたシングルベッドに横たわった。そのベッドの上で、彼と抱き合えば、丁度良いと感じた。

 

 唇を繋いだまま、彼の指先は肩から胸部を触り、開かれた掌全体で、優しく愛撫する。長い拘束から解放されて、私は心地よい快楽の中を漂っていた。そう決めていたと話していなくとも、お互いにキスをするたびに、メニュー画面の服を一枚ずつ剥がしていく。

 薄着の肌着ごしからユズルは右手で上体を包み、一方の手でうっすらと浮かぶ薄色の突起物を撫でていく。彼の指が動くたびに肌着のしわはが横へ縦へと模様を作り、汗で透けた素肌から地図のように思えてきた。触れられた部分から目的地を探りよせ、胸から腰のあたりまで彼の唇は触れ、布越しから別の体温に、顔を歪めて息を殺す。

 

 優しく秘めやかに触れられれば触れられるほど、私の感覚は研ぎ澄まされ、敏感になっていく。吸い付くキスに掌の愛撫が繰り返され、その指が胴回りまで達した時、ついに耐え切れずに「ああっ……」と唇から洩らし、上体をくねらせた。

 

 焦らされ続けた女の體はすでに火だるまのように燃えている。円い肩もふっくらとした胸部も山皺より肌着越しから素肌をさらし、さらに秘花を潤していた。

 

 彼の細筋に触れれば、程よい肉付きはさらに引き締まり、緊張しているのが分かる。しっとりと汗ばむ素肌は、窓から漏れた昼光色の淡い青色により十分になまめかしくて、胸が苦しくなった。迫り上がる吐息を押し殺して全身で彼の體を密着させると、腕を伝う膨張した筋肉や細い腰回りはとても荒く、彼の隙だらけの荒さの一つ一つが逆に、細部までの熱情を同調しているような感触を覚えた。

 

 口腔を熱く柔らかく湿った舌が絡み、質の良い絹糸のような長髪が顔を撫でられると自分の鼓動はより高まり、覚えのないほど高く打って全身を響かせた。快楽を持て余すようにそむけ、言葉にならない言葉で答え、男の動きに合わせるように下着を脱がせていく。

 

――私は強く抱かれることを望んでいた。

 

 息を弾ませ、ともに全裸になるのを待ちかねていたように二人の肉茎と秘花は擦れ、胸を合わせて二つの體を密着させる。もはや、肌と肌のあいだには歌姫のしがらみはもちろん、青色の明かりも夜風も、部屋の空気さえ介入させない。骨がくいこむほどに強く抱きしめ、甘い接吻をする。

 ともに酔っていたせいか快楽の頂きにのぼり詰めるのは早く、ほどなくユナは果て、ユズルはそれを確かめて覆いかぶさった。

 

四

 

つい少し前、蛇のセックスと化した二人の肉体は、貪り合った形のまま静寂に包まれ、互いの下肢と下肢を軽く絡めたまま横たわっている。

 酔いに燃えた名残を止め、なお火照っているユナの體を、ユズルは余熱を全身で感じながら幸福感に酔いしれていた。

 

激しく燃え、心をせめぎ合い、満ちて果てていく過程に言葉では言い表せない不安も體と體で語り合った。二人は、せめぎ合っていた不安を忘れたように穏やかな気怠さに横たわっている。ユズルは仰向けになり、ユナは軽く横向きに、頭をユズルの肩口に乗せている。その姿勢のまま、ユズルは思い出したように言う。

 

「きいても、いいかな」

「なあに?」

 

性事のあとのせいか、浮ついた声になっている。

 

「どうしてぼくの、けっこんを受け入れたの?」

「手紙をもらってからかな。まえからすきだったけど…もういつから好きなのかおぼえてないな」

 

 ユナは甘え声で素っ気なく答える。ユズルはますます分からなかった。自分の死を止めるであったとしても、そのために集団のいる前で想いを告げるという行為は、彼女にとっても捨て身の選択であったはずだ。

 歌姫、アインクラッドの希望、血盟騎士団の誇り、そして安寧への道――その全てを傷つけてユナはユズルと生きる道を選んだのである。考えを遮る様にユナは言葉を割り込む。

 

「今日はいろいろ引きずり回して、ごめんなさい」

「いや、おかげで違う世界を見れて楽しかったよ」

 

 今後の生活とともに、ユナは同棲についても、前向きに検討してくれた。ベッドをはじめ、家具やカーテン、さらには食器まで、慎重に見て買い揃えた様子から言うまでもない。肝心のハウスの建設までは彼女に苦労をかけることにもなる。

しばらく宿屋を借りる方法もあるが、良くも悪くも有名人の二人が同じ宿を出入りするのは世間的に印象がいいものではない。あと、頻繁に宿を借りても毎回違う部屋では落ち着かないし、体力は回復しても精神的な疲労は蓄積するばかりだ。

 

 ユズルは明日から家のことを話すと、ユナは即座に頷いた。しばらくは忙しくなる。立地に関してはアルゴに相談し、建設は早めに行おう。空いた昼間には、ユナとプライベートな時間を取るようにしたい。とりとめもなく想いをめぐらしていると、ユナの熱っぽい瞳に見つめられる。勇気と安心感を胸中に沸かせる視線は、心を優しく包み、穏やかにさせた。

 

「どうかしたの?」

「うぅん。ただあなたに逢えてよかった…そう思っただけ…」

 

 ユナはそれだけいうとユズルを抱き寄せ、優しくもこびりついた雄の残香に埋もれながら眠りについた。

 

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