A sign of defeat エロティカルファンタジー世界にて、俺は生きる 作:くっろいの
魔蟲系の中でも野生種は希少な部類に入る魔物。
一部の街で飼いならされている個体もいるが、養殖と野生では糸の質が大きく変わると言われている。
全体的に動きが鈍く、吐き出す糸は強力な粘着質と強靭さを兼ね備えているが吐き出すまでの動作も遅く、餌を捕まえることも出来ずそのまま餓死したり他の魔物に襲われ喰われることも多いという。
野生種の糸は高値で取引されるためもし見つけた場合生け捕りを狙うのがいいだろう。
万が一糸に捕らえられてしまった場合、繭にされてエナジードレインを受けてしまう。と言っても元々生命力が異様に高いわけでもないので殺される心配はほぼなく、満足するまで吸い切ったらそのまま放置してどこかに行ってしまう。その場合確実に他の魔物の餌食にされてしまうだろうから注意すべし。と言っても捕まるのは相当な間抜けだけだろうが。
なお野生種がエナジードレインをするために吐く糸には糸としての質や魔術的な価値が他の糸よりも格段に高いとされているが、如何せん希少なのであまり信憑がない。
「…………………………」
「はぁい、これが糸のお金ですよぉ♪」
ドジャリ、と音を立ててテーブルに置かれた袋。
そしてそれを持ってきたニヤニヤ顔のセクスゥムさん。
もうお分かりだろう、俺は俺を包んでいた繭を作る糸を売ったのだ。この人に。
「……どうも」
「まさかまさかぁ、あれが手に入るだなんて思っていませんでしたねぇ♪ あれは魔力伝導率が非常に高く強靭でぇ、それでいて美しいんですよぉ♪」
「……そうですか」
ずーっと変わらないニヤニヤ顔のまま俺に待っている間読んでおくといいとセクスゥムさんが手渡してきたのは数巻ある魔物図鑑のうちの一巻。
ご丁寧に栞を挟んであるのでそこを開いたら書いてあった内容がこれだ。絶対に揶揄っているだろ、絶対……!
「くすくすくす♪ こういう本もあるので読んでおいたほうがいいですよぉ、という私の親切心なのにぃ♪」
「だったらその笑顔を止めてください!」
確かに役に立つ情報だ。いい本だ。でも根幹にあるのは俺を揶揄うためだろうこれ!!
「依頼の達成報告はしてきたんですかぁ?」
「もうしてきましたよ……袋を渡して確認してもらったら、このメモと報酬を貰って終わりです」
そう言って俺がセクスゥムさんに見せた一枚のメモ。依頼を達成すると受付の人から渡されたメモだ。
サリアさんが俺が依頼を達成したら渡すように言っていたらしい。
『依頼達成おめでとう。これで大体の流れは分かっただろう。あとは自分で生活し、自分で金を稼ぐがいい。
もしどうしても無理だ、と思ったときは私のもとにこい。ペットにしてたっぷりと可愛がってやる。
間違ってもセクスゥムの所にはいかないほうがいいぞ? 私なんぞあいつと比べればゴブリンとドラゴンだ。
ギルドマスター サリア・アルタリス』
「…………へーぇ……まあ、その通りですねぇ♪」
「え、否定しないんですか!?」
「くすくすくす、私がロクデモナイ人間というのは私がよぉく知っていますからぁ♪」
自覚済みかよ……!
「さぁてぇ? ハルカさんはこれからどうする予定ですかぁ?」
「え? どうするって……」
どうする……どうしよう? いや、まずはお金を稼がないと。
ギルドの宿舎は家賃を払うか月に規定回数クエストをこなすことを条件で住むことが出来る。
正直こんな世界だ、出来れば家賃で済ませたいしお金は稼いでおかないと。
「ふぅむぅ……? そのお渡しした袋に入っているの、銀貨と思っているようですがぁ、金貨ですよぉ?」
「うえっ!?」
慌てて袋を開いて覗いてみると、その中には黄金の輝きが大量に……!?
「あれそんなに高いんですか……!?」
「本に書いてある通り、希少ですからねぇ。口止め料は実験に一度付き合っていただくとして、助けた手間賃も抜いてこの金貨ですよぉ」
「………………な、なる、ほど……?」
い、いきなり臨時収入だ……初クエストで思わぬ臨時収入……。
「理由は情けないですけどねぇ♪」
「うぐ……!」
初クエストで普通はやられないような敵にいいようにされて助けられた結果がこのお金……ぐ、ぐぬぬぬぬ……!
……あれ? というか……。
「今更ですけどあの繭は俺のものって流れになっていたけどいいんですか?」
「おぉ、思考が落ち着いてきたみたいですねぇ? さっきまで流されてばかりでしたがぁ♪」
「う、うるさいです。それで、本当に良いんですか? 助けてくれたのはセクスゥムさんなのに、売った金は俺のものになって……」
テーブルの向かいに座るセクスゥムさんは天板の上にどぷんとその超乳を乗せて笑っている。
いつもと変わらないニヤニヤとした妖しい笑みだったが、その中に少し……優しさがあるようにも見えた。
「新人さんへのプレゼントですよぉ、言わせないでくださいな恥ずかしぃー♪」
「セクスゥムさん……」
意地悪というかタチが悪いというか、結構やばい人と思っていたけど優しいところもあ―――
「あとはぁ、いきなりお金が入って浮かれて散財してぇ、借金をするなり過程はすっ飛ばしてもあってもいいですが最終的に私に頼るぅ……なんてことになってくれたらうれしいなぁとは思ってますよぉ♪」
「台無しだよ!!」
この人俺を借金奴隷にするつもりだったのかよ! いや、多分半分本気で半分揶揄っているんだろう……。
本当に浮かれたのなら本気で奴隷にするつもりだったし、浮かれたりしなかったらただ揶揄うだけ……そういうことだろう。
「その様子だときちんとお金を使うタイプのようなのですぐにネタばらししましたぁ♪」
「そーですか……まあその気がないならいいですけど……」
くそ、本当に油断ならない人だ……。
うーん、しかしどうしようか……。お金は稼いでしまった、このまま半分くらいになるまでは町の中でゆっくりしてもいいかな……? セクスゥムさんの実験に一回は付き合わないといけないけど、外の魔物に捕まるよりはましだろう、多分。多分……。
「実験に関してはぁ、私の屋敷に来ていただければすぐにできるので気が向いたら来てくださいねぇ?」
「え、期限とかはないんですか?」
「まあ、私の気が向いたら……ですかねぇ♪」
これはまずい、速攻でいかないと覚悟を決める前に突然拉致されて実験台にされたりとかするかもしれない!?
「み、三日後、三日後に行きます!!」
「ほほぉ……三日、三日ですかぁ……わかりましたぁ、ではお待ちしておりますねぇ? はぁい、これが私の屋敷への地図ですよぉ♪」
セクスゥムさんのマントの隙間からするりと現れテーブルの上に滑り落ちる一枚の紙。
そこには富裕層が住む通りにあるらしいセクスゥムさんの屋敷の場所が載っていた。
「……キヒヒヒヒッ♪ たぁっぷり、準備をして待っていますからねぇ……♪」
「ひぃ……!?」
い、今、今なんかいつもと違う笑い方をした……!?
「ではではぁ、私はここで失礼しますよぉ。くすくすくす、早速準備に入らないとねぇ……♪」
そういうと、マントを軽くたなびかせ爆乳を揺らしてギルドを出るセクスゥムさん。
興奮したり酔っぱらって気付いていない人達をするするとすり抜け、気付いている少しゲッという表情の人達に微笑みかけてからドアを潜り抜けていった……。
「……………………思わず言っちゃったけど……うぅぅぅ、嫌な予感しかしないぃぃぃ……」
ここまでです